風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF 399)

  • 早川書房
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感想 : 56
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150103996

感想・レビュー・書評

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  • 世界観や設定以上に、思索や詩情が印象的な短編集でした。というより、世界観や設定についていけなかっただけ、とも言えるけれども……。

    短編集全体としてみると、正直読みにくかった。先に書いたように世界観がつかみにくかったり、設定がよく分からないまま読み進めたものもいくつかあって、ル・グウィンは短編向きの作家ではないのかな、と最初は思いました。

    ただそんな短編を読み進めていくうちに、なんだか深遠で厳かな気持ちになってくるような気がします。思索的な文章や物語の世界観が、分からないなりに伝わってくるからこそ沸いてくる不思議な感覚ともいうべきか。

    以前読んだ同著者の『所有せざる人々』もなかなかに難しい内容だった記憶はあるけど、それでも読んでいくうちに惹きこまれていくものがあったのですが、この『天の十二方位』は短編集全体で一つのル・グウィンという作家自体の世界観を表しているようにも思います。一つ一つの短編は独立しているけど、どこか共通している詩情があって、短編を読み終えるごとにそれが染みわたっていくような、そんな感覚です。

    分からないなりに印象的だった短編の話。
    「セムリの首飾り」は童話のようなファンタジー。小人のような宇宙人を見つけた科学者たち。その小人たちがやってきた目的は?
    西洋の昔話のような冒険譚と言葉や設定の数々、メルヘンチックな話でありながらも、時の流れの無情さなどを感じさせる。

    「四月は巴里」冴えない学者の元に突然、別の時代の錬金術師が現れて……
    突飛な展開の多いファンタジー作品ですが、時代やそして種族を超えた絆であったり、温かさが印象的な短編。

    「名前の掟」は魔法使いが出てくる、ザ・ファンタジーといった内容で面白かったのだけど、明るいファンタジーではなくどこか重々しさが漂っていてそれも印象的だった。

    「九つのいのち」クローン技術を扱った短編。これも話は難しかったけど、ずっと生活を共にしていたクローンがいなくなっていく中で、残されたクローンが何を思ったか。哲学的なことも考えさせられる思索的な短編。

    「地底の星」
    迫害された天文学者は、追手から逃れ鉱山で働くことになるが……
    天文学者が鉱山労働者たちに天のことを語るシーンであったり、また天の星の美しさに魅せられていた天文学者が、天とは正反対の地底の銀の鉱脈の美しさに想いを馳せ、そこに星空と同じような美しさを見出していく様子が印象的だった。『天空の城ラピュタ』でパズーとシータが地下に逃げて、そこで飛行石の明かりに包まれるシーンがなんとなく思い浮かぶ。

    「相対性」は樫の木が語り手。車に乗っていると車窓の風景が近づき、そして離れていくけれど、その感覚をユニークに、そしてどこか、重々しく神々しく描いた短編。切り口が面白かった。

    「視野」は宇宙から帰ってきた後、光に過敏に反応するようになってしまった宇宙飛行士の話。これも解釈が色々と難しいけれど、人智を超えたものの神々しさと、そして怖さが印象に残りました。

    「オメラスから歩み去る人々」は別のアンソロジーで既読でしたが、改めて読んでも考えさせられる。理想の都市オメラスで暮らす人々。しかしその都市にはある秘密があり……

    初めて読んだときは、少数の犠牲と、多数の幸せ。少数の犠牲を割り切れない人たちの行動が印象的でしたが、改めて読んでみると語り口が絶妙で、この語り口ゆえ、読者にもある問いがなされていることが感じられました。誰かの犠牲や苦しみなくして、繁栄や幸福があり得ると思うか? と。

    合う、合わないのある短編集だと思うし、面白い、興奮するといった価値基準で測れない短編集でもあった気がします。自分にもこの短編集が合ったのかどうかもよく分からないけど、それでも「面白くない」「わけわからない」と一概に切り捨てられない、どこか魅力的な短編集でした。

  • 文化人類学的SFの泰斗、ル・グィンの短編集。初期の作品をほぼ発表順に収録しており、作家本人に寄る解説もそれぞれに添えられていて、ある意味贅沢な短編集です。

    これ、鴨は10代の頃に旧版を読んでおりまして、ファンタジー系の「解放の呪文」「名前の掟」はいまでも覚えております。子供の頃は「ファンタジーなのに暗い話だなぁ」と感じた記憶が残っております。底の浅い子供時代だったなぁヽ( ´ー`)ノ
    この歳になって改めて読んで、短編としての評価は難しい作品が多いな、と思います。といっても読む価値がないかと言うと全然そんなことはなく、要はル・グィン作品の「分厚さ」を理解できるようになったこの歳にして、短編だけでは世界観が完結しないのがル・グィンなんだなー、と肌感覚でわかった、ということかと。

    直球のファンタジーや、SFの名を借りた寓話も多数納められていますが、意外とエッジィでパンチの効いたSFもあって、鴨的には新鮮でした。「九つのいのち」「帝国よりも大きくゆるやかに」あたりは、ティプトリー作品と並べて読書会の課題に出したいぐらい。
    どの作品も、「誰でもすぐわかる明快な結末」はありません。読者なりに努力して消化しないと読み切れない物語ばかりです。そういう意味で、万人にお勧めできる本ではありませんが、ある程度こなれたSF者には肩幅を広げるためにもぜひ挑戦していただきたいですね。

  •  うーん……
     読むのにとても時間がかかってしまった。
     ひとつひとつの象徴的意味を考えるのに時間がかかったし、何よりも、感情よりも論理に支配された構造になっていて、読むことの純粋な愉しみが、私には味わいづらかったかな。
     多分、色んなことに対する考えをぐっと深めたいときには、適した本なんだと思う。

  • ファンタジー、サイコミス(というのか?)風味のものなどさまざま。どれもSF味がちょうどよくて、作品の世界にすぐ入り込めた。普遍的な問いをSF仕立てにしたようなものが多い。人間と人工知能の違いとは何かを考えるとき、「九つのいのち」ほど適切な小説はないんじゃないかと思う。「視野」はまさに我々の視野の不思議さ、視野という枠がある故に不可能であるものの見方について。ハムレットの下りははっとさせられた。

  • 「オメラスから歩み去る人々」は読んだことがあったのですが、某ドラマで取り上げられたせいか短編集が復刊になったので、この機会にと読んでみました。
    ルグインは「ゲド戦記」など長編の方が有名なんだそうですが、短編も独特の世界観があります。SFではありますが、神話的というかファンタジーというべきか、はたまた思考実験的な要素もあって、哲学的な雰囲もあります。
    ちょっと読みにくい感じもありますが、何か心に残るものがあって、不思議な読後感です。

  • 『ピュウ』のエピグラフが気になり著者の執筆に込めたきっかけを掴みたくて本書を手にとった。
    『風の十二方位』は短編集で真っ先に"オメラスから歩み去る人々"を読んだ。確かに『ピュウ』の感覚が漂うのは分かるけれど、肝心の"オメラスから歩み去る人々"を捉えきれず最初から読みつつ『ピュウ』への私の解釈は狭いと反省した。

  • さすがにこれは読んでる
    (2023/12/30)

  • 合う合わないの差が激しい短編集だった、マスターズは大好きでした

  • 冬の王……!!

    読み始め、ど、どういう状況……?とまったく理解できずうんうん言いながら読み進め、圧倒的な、
    ラストで
    喉がグッてなる そしてまた最初へ戻る

    死角のない完璧な物語って、存在するのだと ウギャー!闇の左手同軸

  • 一見まとまりがなく、物語としても完結していないようにも見える短編もあるが、風のようにあちこちを流れながらも、確実に思考が深められていくのがわかる。
    作者のヒッピー的ともいえるユートピア感や、理性・科学への信頼、孤高の精神へのあこがれなど次第に明らかとなり、最後の短編、そして数々の長編へとつながっているのが感じられる。まとめられて俯瞰してみることで名だたる長編の間にあるともいえる作品であり、ただの後日談や付随的なものではなく、それぞれに意味が見えてくる特殊な短編集と感じた。

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著者プロフィール

アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)
1929年10月21日-2018年1月22日
ル=グウィン、ル=グインとも表記される。1929年、アメリカのカリフォルニア州バークレー生まれ。1958年頃から著作活動を始め、1962年短編「四月は巴里」で作家としてデビュー。1969年の長編『闇の左手』でヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。1974年『所有せざる人々』でもヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。通算で、ヒューゴー賞は5度、ネビュラ賞は6度受賞している。またローカス賞も19回受賞。ほか、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ニューベリー・オナー・ブック賞、全米図書賞児童文学部門、Lewis Carroll Shelf Awardフェニックス賞・オナー賞、世界幻想文学大賞なども受賞。
代表作『ゲド戦記』シリーズは、スタジオジブリによって日本で映画化された。
(2018年5月10日最終更新)

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