伊藤典夫翻訳SF傑作選 最初の接触 (ハヤカワ文庫SF)

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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150122300

作品紹介・あらすじ

SF評論家の第一人者高橋良平が、黄金時代の1950年代を中心に、ラインスター、ウィンダムなど宇宙テーマの幻の名品7篇を厳選!

感想・レビュー・書評

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  • またまたSFの名作が復刻!


     ベテランのSF翻訳家・伊藤典夫さんが訳した大量の名作SFの中から、とびきりの傑作を集めたアンソロジーの第二弾。第一弾の『ボロゴーヴはミムジイ』と同じく、今読んでも面白い作品がそろっています。今回はそんな中でも、宇宙SFを集めています。

     最初に僕の思い出話を少し。
    『BISビブリオバトル部2 幽霊なんか怖くない』(創元SF文庫)のあとがきで書いたように、高校時代の僕はHという友人と幸運な出会いを経験し、(『ビブリオバトル部』の空のように)大量のSFを借りることができました。SFマガジンのバックナンバーもです。
     だから昔のSFにすごく詳しい。特に短編集に載ってない作品、SFMバックナンバーにしか載ってない作品にね。だからこの本に紹介された作品もほとんど読んでいる。だから自信を持ってみなさんにおすすめできます。
     昔のSFと聞いてバカにしないでください。どれも当時のSF作家たちの才気がほとばしっています! クラシックでも今読んでも面白いんです。

     最初はマレイ・ラインスターの名作「最初の接触」。おうし座のかに星雲を探査に向かった宇宙船が、遠く離れた別の星系から着た異星人と出会い、互いに相手の意図を疑って疑心暗鬼になる話。
     題名から分かるように「ファースト・コンタクトもの」の先駆けと言える作品です。書かれたのは一九四五年、なんと第二次大戦中!
     でもよく考えられてるんですよ。異星人に遭遇した場合の手続きとかも、いろいろ細かいところまで。あと、第二次大戦中に書かれた話なのに、意外と好戦的じゃないんです。ラストはちょっとほのぼのします。

     次はジョン・ウインダム「生存者」。火星に向かう宇宙船内で事故が発生。死の危険にさらされた一四人の男性と一人の女性。唯一の女性である身重のアリスは、おなかの子を守るために戦い抜く!
     以前、『BISビブリオバトル部 幽霊なんか怖くない』で紹介した「強い者だけ生き残る」の別訳。翻訳に難があった『時間の種』と違い、伊藤典夫氏の訳だから、ストレートに物語に没入できます。空が「私が個人的に、いちばん怖いと思っているSF」と読んだ理由が、あなたにも分かると思います。これは怖い。

     ジェイムズ・ブリッシュ「コモン・タイム」は、人類として初めて超光速宇宙船に乗りこんだ男が体験する奇妙な怪現象。
     ブリッシュは日本では『宇宙大作戦』(『スター・トレック』)のノベライズで有名な人ですが、オリジナル作品では結構、この「コモン・タイム」のような奇想SFを書いてます。
     なお、僕の「夢幻潜航艇」という短編は、この小説をヒントにしています。どこがどうヒントかはお読みになれば分かります。

     フィリップ・ホセ・ファーマー「キャプテンの娘」は、一種の医療SF。月基地で起きた男の怪死事件に、宇宙船のキャプテンの娘が絡んでるという話。

     ジェイムズ・ホワイト「宇宙病院」は、全銀河系のあらゆる知的生物が集まる巨大病院の話。ある日、この病院に持ち込まれた患者は、ブロントザウルスそっくりの巨大生物だった!

     デーモン・ナイト「楽園への切符」は、宇宙に散らばった“ゲート”の話。遠い昔に太古種族によって作られた、いわば“どこでもドア”で、異なる空間をつないでいるのですが、いったいどこにつながってるのか分からない。どこに到着するのかも不明。調べるためには、誰かが“ゲート”を通るしかない……。
     フレデリック・ポールの『ゲイトウェイ』にも似てますが、これ、いろいろと応用が利くアイデアですよ。現代のラノベ作家もじゃんじゃん真似して書いて欲しい。

     最後はポール・アンダースンの「救いの手」。僕、この作品が大好きなんですよ!
     星間戦争で疲弊した二つの星系、クンダロアとスコンタール。ソル(太陽系)連邦は二つの星に対して援助の手を差し伸べるのですが、スコンタールの代表として派遣されたスコルローガンはわざと無礼な態度を取って地球人を怒らせ、援助を拒否します。
     高校時代の僕が感動したのは、読んでいて「これ、日本のことじゃん!」と気がついたからなんです。書かれたのは一九五〇年、つまり昭和二五年。もしかしたらアンダースンは、終戦直後の日本からクンダロアをイメージしたんじゃないでしょうか? そう考えると今の日本は……。
     SFから未来の地球について考えるのもいいですけど、今の日本について考えるのもいいかもしれません。あと、関係ないけど、「スコンタールのスコルローガン」というネーミングは、高校時代、かっこよさにしびれましたね。

     さて、次の巻はいよいよ「騒音レベル」か、「マホメットを殺した男たち」か、「コンピューターは語らない」あたりでは? 伊藤さんの訳した名作はたくさん残ってるはずなんで、まだまだ楽しみです。

  • クラシックなSFは和むなあ。

  • 伊藤典夫氏が訳したSF作品を収録した短編集残る第2弾。どれも私が生まれる前に発表されている作品なのだが、今読んでも面白く、古臭さをまったく感じない。作品を目利きした伊藤氏の感性に驚く。特に面白かったのは、表題作の「最初の接触」と「生存者」。「最初の接触」は地球人と同じ思考をする異星人に出会ったらどうなるかを描いた作品。「生存者」は宇宙で遭難した人が生存者になるためにやったことを描くスリラー。

  • 2019年5月ハヤカワSF文庫刊。宇宙ものアンソロジー。マレイ・ラインスター:最初の接触(原著1945/翻訳64*以下同様)、ジョン・ウインダム:生存者(1952/64)、ジェイムズ・ブリッシュ:コモン・タイム(1953/64)、フィリップ・ホセ・ファーマー:キャプテンの娘(1953/68)、ジェイムズ・ホワイト:宇宙病院(1958/65)、デーモン・ナイト:楽園への切符(1952/65)、ポール・アンダースン:救いの手(1950/67)、の7つの短編アンソロジー。古色が感じられる話が多かった。コモン・タイム、キャプテンの娘、宇宙病院、救いの手は書籍初収録とかで、貴重。

  • 表題作を読んだ。なかなか面白かった。宇宙船を交換する意味は、相手の機体の性能を知っていれば、追跡されにくいということなのだろうが、両方とも星間宇宙船だから、去ったと見せかけて、追尾することも可能ではないかと思う。ファースト・コンタクトで長期的な影響を考えて、相手を攻撃しなければならない葛藤は理解できるが、もう少しやり方があるのではないかと思う。

  • 同レベルの文明を持つ異星人同士がファーストコンタクトする際の恐れと葛藤を描いた表題作。
    紛争はいつも想像と恐怖が発端なのでしょう。が、利害と理解をもって打開策を提示した本作を読み終えたとき、自然と目頭が熱くなりました。疲れてるのかな。

    伊藤典夫翻訳の傑作SF小説七篇を収録した本書はシリーズ第二弾。第一弾は時間と空間がテーマのようでしたが、本書は宇宙がテーマ。
    表題作の他には「コモン・タイム」と「宇宙病院」あたりが好み。前者は特に前半部分が印象的。後半はだいぶ毛色が異なるので、前半部分をもう少し広げた作品が読みたいなと。後者はなんというか自由奔放な空想ぶりがワクワクしてくる作品。現実の延長線上で描かれる宇宙SFもいいのですが、こーゆうまったく空想な箱庭を用意してそこでワイワイさせる宇宙SFも好き。

  • 「最初の接触」すなわちファーストコンタクトものを集めたアンソロジー。様々なタイプの小説が入っている。ファーマーの『キャプテンの娘』目当てで読んで、実際に面白かったのだけれど、最後に入っているポール・アンダーソンの『救いの手』がすごかった。厳密なファーストコンタクトではなく、異星との交流がテーマなのだけれど、現在の世界の状況にも通じるものがあり、考えさせられるものだった。

  • あまり古さを感じさせない。
    最初の接触も面白かったが救いの手は考えさせられる作品だな。

  • 表題作が一番考えさせられたかな。いずれの短編も面白かったです。

  • 2019年7月3日読了。伊藤典夫氏翻訳による表題作含む7篇のSF短編アンソロジー。ハードSF調で読みづらいものもあったが、特に「生存者」「救いの手」などは藤子Fにも通じる文明批評・価値観の転換の視点があり、切れ味も鋭く実に読み応えがあった。全体的にクラシックSFの趣も強いが(コンピュータへの入力をパンチカードで行っていたり)それはそれで味があり楽しい。集めた短編たちは「最初の接触」のテーマに沿っているかな、と思ったがそういうわけでもないらしい…。ちょっとしたアイデアをSFガジェットで膨らまして味付けし、こちらの常識に切りつけて挑戦してくる、短編SFはこれだからたまらない。

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