書架の探偵 (ハヤカワ文庫 SF ウ 6-10)

  • 早川書房
3.22
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本棚登録 : 197
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150122706

作品紹介・あらすじ

推理作家のクローンとして図書館の書架に住む男スミス。謎を携えた令嬢が彼のもとを訪れて……。巨匠の遺作となったSFミステリ

感想・レビュー・書評

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  • タイトルからして
    「司書 兼 探偵なのかな?」とか
    「急に体が小さくなって、たまたまそばの本棚にあった本の作者の名前をつけて探偵をする小学生かな?」とか
    色々と想像してましたが、あらすじを
    読んで驚く。

    SF作品である。

    主人公は書架に収められた「蔵書」
    ならぬ「蔵者」
    生前(?)は推理作家だった男のリクローン

    ある女性に10日間借りられて
    彼女の殺された兄と
    父親から残された"謎の本"についての事件を追うことになる。

    死んだ作家のリクローン(蔵者)として生きることの微妙な制約など(純正の人間達からは下に見られている)を挟みつつ、そんなに悩んでる感じも出さず、事件の捜査が進んでいく

    登場は人物の会話は、ホームズや
    ポアロ(アガサ・クリスティ)を読んでるかの様に、古風な口調、なのに世界は未来
    昔の人が想像したSFのような世界観、でもオンデマンド印刷や制約はありながらも
    本はまだなんとか残ってる。

    蔵者となったモノ達の生活は、見ているとなんだか孤独そうで…やっぱり「本」は読み手がいないと意味がないように「蔵者達」も貸し出されない限りフワフワとした状態、借りられず期間が経過して焼却(本当の死)を待つだけ…
    本は大切に扱おう…

    ・見た目はおっさん、頭脳はおっさんだけどクローン
    ・古めかしい言い回し、なのにバリバリSF
    幾重にも要素が玉ねぎのように層を作る
    不思議さが楽しい。

    でも口調のせいか、主人公も依頼人も落ち着き払っているような…
    何か重要なことを隠してる?忘れてる?ような印象をもってしまい
    焦りを感じないのが、良いことなのか最初のあたりは読んでて不安になった。だけども読むにつれてSFっぽい、大きな展開が飛び出してくる。

    作者のジーン・ウルフ氏は、この作品が遺作になったとのこと。続編も考えていたらしい。巻末の解説が、作中の作者の遊び心を解説してくれていてこれまた面白い。

    「遺作」として読むとさらに不思議。亡くなってしまった作家の代わりに生きながらえている物語を読み、その中には、自分自身がクローンになって生き続けている推理作家の書いた手記としての小説を読むことになる。

    リクローンはモノを書くことが
    禁止されてるらしいですが、
    ジーン・ウルフさん、面白かったんで
    クローンになって続編書きません?
    (本人はクローンとして、続編に出演する気
    満々だったらしい)

  • 中々面白い発想だな、と思いました。
    近年のAIの進化を考えると、わざわざヒトガタを作ったり、有機生命体にしなくてもAIに作家の思考パターンを落とし込めればもっとラクに出来そうかな。そうしたら図書館で蔵書、でなくてもクラウドでいつでも作家先生と語らうことが出来る。うん、面白い。でもこの本の趣旨とはずれてしまうけれども。

    時々スゴイ考え方するな~と思う所はありましたが、確かに主人公はヒトではないですからね。ある意味面白い主人公とその思考パターンだなって思いました。

  •  蔵者って、どんな感じなのだろう?蔵者が探偵という発想がおもしろく、読んでゆくうちに、本の背骨が最後に残る を思い出した。

  • 古風なスミスの語り口で、バリバリのSF。訳もよいのでしょうねとても読みやすかった。トンデモなアレもありますが、わたしは気にしないし、おもしろいなあで読み切れました。この終わり方もいいなー。

  • 図書館は蔵書ではなく作家の脳をスキャンした複生体(リクローン)を収蔵している。推理作家E・A・スミスのリクローンであるスミスのもとに令嬢コレットがやってきて彼女の父と兄の謎について調査するためにスミスを借り出す。その死にはスミスの著書がなんらかの鍵となっていると思われるからだが・・・という感じのSFミステリ。

    設定はなかなかに興味深かったんですが、どうも自分にはあわなかったようで。なんか妙に読みづらさ?を感じました。スミスがその時点で何を成し遂げようとしていて何が障壁になっているのか?みたいな目的がいまいちよくわからない。スミス氏は性格的に非常に淡々としているために緊迫感みたいなものも感じにくかったし。
    面白かったら続編があるようなので読んでみようかと思ってましたが、とりあえずスルーかな・・・

  • 読み始めは意味が分からなかったけど、だんだんと引き込まれていく。ハードボイルドなラストだった。

  • SFミステリー。未来の図書館事情がユニークです。
    図書館に所蔵されている主人公の視点や感覚が面白く反面その他の事柄(仲間になるカップルやヒロインの内面を含め)の掘り下げが面白そうなのに少なくてもったいない!このカップル達の話も知りたいなぁと思わせる魅力ある設定です。
    この本はジーン・ウルフの遺作になるそうで、次回作の行動もあったとのこと。残念です。

  • 21世紀のミステリー作家 E.A.スミスの〈複生体〉[読み:リクローン]である「私」は、蔵書ならぬ〈蔵者〉として図書館に所有される存在。ある日、「私」はコレットという若い女性に十日間の契約で借り出された。コレットは亡くしたばかりの父が遺した金庫を開けたところ、そこにはE.A.スミスの著書『火星の殺人』だけが入っていたのだと語り、投資家だった父の遺産に関する秘密がこの本に隠されているはずだという。さっそく調査をはじめた二人だったが、何者かによってコレットが拐われてしまった。彼女の行方を追ううち、「私」は思いもよらない真実を知ってしまう。


    原題はBorrowed Man。まずこの「図書館で蔵書のように所有されるために生み出された作家のクローン」=〈蔵者〉、という設定が面白い。二一世紀半ばに記憶の移植という技術が発達してから活躍した作家が対象になっているので、史実上の作家は出てこないが、人々に記憶されている外見年齢で生まれ、記憶を植えつけられ、また著作を通じたパブリックイメージに従って行動するよう設計されてもいるらしい彼らは、利用者に借り出されてやっと図書館の外の世界を見ることができる。それも、脳に植えつけられた記憶(E.A.スミスのオリジナルが生きていた時代の記憶)からは百三十年以上経過した未来の世界をいきなり浴びるのだ。蔵者は「純正の人間」とははっきり区別されており、図書館から不要と看做されれば焼却処分、作家のクローンなのに執筆活動は禁止である。つまり、蔵者の一人称で書かれたこの小説は、その禁を破って書かれたということになる。
    だが、やっぱり本書で一番の驚きはコレットの父コンラッドが隠していた、屋敷のとあるドアの秘密。とにかく急に小説のジャンルが変わって度肝を抜かれたし笑っちゃう。ドアを開ける鍵となるのがSFミステリー小説、というのも憎い。コンラッドは死亡疑惑が出るほど長々頑張んなくても、あのドアの先に行く体験をアミューズメント化すればもっと楽に稼げたのでは?とか思うけど、堅実な人だったんでしょうね。
    上記のような中盤のびっくり展開のせいで、てっきり序盤のミステリー要素はグチャッとして終わるのかな?と思いきや、最後にはちゃんと推理と解答編があり、謎解きへの期待も裏切らない。これがウルフなりの様式美なのか、さらにまだ気づいてない〈騙り〉の仕掛けがあるのかは、一回読んだだけではわからないな〜(「私」の叙述は普通に怪しいが…)。
    キャラクターではあっけらかんとしたファム・ファタル、コレットが面白い。ひとつひとつの嘘は行き当たりばったりに思えるのに、最終的に人を自分の思い通りに動かしている。めちゃくちゃ運のいいわがまま女なのか、めちゃくちゃ演技の上手い策略家なのか。倫理観が欠如してて罪悪感もないんだけど、探偵役の「私」も蔵者であるがゆえに、そもそも社会的に人権を認められてなくて要らなくなったら合法的に焼却される身分だから、「殺人って倫理とは関係なくて、合法か違法かの区別があるだけなんじゃないの?」みたいな雰囲気。クローン設定によって倫理が宙ぶらりんになっているのは大変わたし好み。
    ウルフは去年亡くなったけど、執筆中だった本書の続編は今年出版される予定らしい。ちゃんと完結してるのかな?続編も翻訳が出るのを楽しみに待ちます。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50194749

  • SFミステリーというのが基本なんだと思うけど、ハードボイルドやファンタジーの要素もあり飽きさせない。それにしても著者84歳での作品とは驚き。

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著者プロフィール

1931年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。兵役に従事後、ヒューストン大学の機械工学科を卒業。1972年から「Plant Engineering」誌の編集に携わり、1984年にフルタイムの作家業に専心するまで勤務。1965年、短篇「The Dead Man」でデビュー。以後、「デス博士の島その他の物語」(1970)「アメリカの七夜」(1978)などの傑作中短篇を次々と発表、70年代最重要・最高のSF作家として活躍する。その華麗な文体、完璧に構築され尽くした物語構成は定評がある。80年代に入り〈新しい太陽の書〉シリーズ(全5部作)を発表、80年代において最も重要なSFファンタジイと賞される。現在まで20冊を越える長篇・10冊以上の短篇集を刊行している。

「2015年 『ウィザードⅡ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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