滅びの風 (ハヤカワ文庫 JA ク 3-9)

著者 :
  • 早川書房
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150303877

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  • 「私たちは、もう滅びているの」
    栗本薫の生死観。「滅び」の詰まった短編集。個の死と、人間の滅亡。時の流れと、地球のまたたき。あっという間に終わるのではなく、気づけばじわじわと、AIDSや戦争やその他の一つ一つは小さくても複雑な何かで、人類はゆっくりと「滅び」に向かって進み続けている。短編を読みその感覚の中に浸ると、今の生活が諦念を持って静かでもあり愛しくもあるように感じられます。
    「巨象の道」と、赤ん坊のミイラを見た体験が著者が一番表現したかったものかなぁ。これはアレ(エイズ)で死に向かうまだ元気な若い夫婦の話だったけど、モチーフが当時話題になったばかりのエイズなだけで、2人の会話、本当の人生、人間の終焉、その辺はいつの時代にも通じる気がします。若干同じ話をくどくど聞かされてる気もするけど、その分染み透ってくる。


    「それは、広大な草原を、たった一頭でのろのろとよこぎり、誰も知らぬ谷あいの死の場所をめざして、たゆみなく歩み去ってゆく、老いて死を待つばかりの巨象の、目のまえのもったもたしかな運命と不条理に対して、「生」に残されたさいごの尊厳と勇気そのものの象徴のようなすがただった。」
    「でもとにかく、私たちは、そういうことをすべて、バラバラに、一つ一つの孤立した症候群としてしかとらえることができなかったんだわ。本当はそれは、ただ、「現代」という時代に、固有の滅びの相だというのにしかすぎなかったのに」

  • 1993年


    約30年前に発行された本だけど、
    妙に今の時代にあてはまる…不思議な本


    栗本薫の描く末期的な世界観の短編集

    表題の滅びの風が1番好きかな


    新型コロナの猛威に振り回されている現代に
    妙に心をうつ

  • 内容
    朝、自分のベットで目をさましたとき、リーはその日がなぜ他の一日と違っているのか、理解できなかった。しかし、今日が特別な日であることは確かだった―魅力的な妻と愛しい息子を持つ男。その申し分のない生活にも、いつのまにか滅びの風がやってくるのだった―表題作を含む5篇を収録した連作短篇集。

  • 高校生の時に何度も図書館で読んで、数年前に古本屋で買った。どの終末感も好き。

  • 「滅びの風」
    「滅びの風Ⅱ」
    「巨象の道」
    「コギト」
    「反歌」

    全編終末もの。
    作者の人類観が現れている。
    他の短編集でもけっこう終末ものがあると思うが、栗本さんって終末ものが好きだったのかな。
    アイディア自体に目新しさはないけれど、思考を丁寧に重ねていくことで作家性みたいなのを出している。
    ズレた人間がよく栗本作品には登場しているようだが、そのズレ方は自分には素直なズレ、ひねくれ方に映る。理解不能ではないズレ。

  • 「滅び」についての栗本薫さんの考えが様々な登場人物を通して語られた短編集。
    滅びとは、世紀末、地球の終わり、この世界の最後-人類の滅亡について。
    エイズがその原因として挙げられているのに時代を感じました。
    どの作品も1980年代に発表されたものです。
    私が普段から密かに、一日だけでいいからこうなればいいのに・・・と思っている願望がそのまま描かれたお話があって、頭の中をのぞかれたような気になりました。

    『私たちは「人」を過大評価しすぎています。原発を行い、公害物質で地球を汚したのと、原発反対をすれば滅びはさけられると思いこむのとは、同じ自己過信と傲慢のあらわれと私には思えます。トキの人工交配をするのと同じようにそれはまちがっています。すべての存在は終りへ向かうエントロピーそのものです。滅びをとどめようと思うことは正しくない。アメリカバイソンが人の乱獲によってほろびたならば、それをざんげするよりは、ホモ・サピエンスもしずかに公害と自らの巨大化しすぎた文明によってほろびてゆけばよいのです。』

    この本を読んで、やはり栗本薫さんはとんでもない才女で、時代を先読みする感覚のあった人だと思いました。

  • 栗本薫がどこから来て,どこへ行こうとしていたかが分かる本。

    p114「ナイロビの郊外」
    エジプトが鍵であることが分かる。
    「ピラミッド・ミステリーを語る―ハイテクで知るピラミッド5,000年の謎 (レクチュア・ブックス)」を読んでおいてよかった。共著者の 吉村作治 が、自由な発想で妄想するように煽っている。

    p131 「アガサクリスティ」
    が出てくる。アガサクリスティはエジプトものなども執筆。

    「地震」「チェルノブイリ」など滅びへの道を不安に思う栗本薫の心情は理解できた。その反動が「グインサーガ」に現れているという予測が付くようになった。

    本書は、栗本薫を理解する鍵がいっぱい転がっている。

    図書館で借りてきた本に書き込みがあった。
    実現を現実と逆転させるような記述。
    p176
    「ありうべからざるくらいにもすばらしい創造と、私の手の生み出すあまりにも悲惨な実現とのギャップの間で,発狂寸前になるからだ。」
    どう考えても実現でよく、現実だと合わない。
    誰が誤植だと思ったのだろう。

  •  とてもいいムードで、味わい深いいい作品。

  • 短編集。栗本さんの書かれるSF(でいいのかな?)小説が好きでした。滅び=死を見つめる姿がいい。

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著者プロフィール

東京都生まれ。早大卒。江戸川乱歩賞、吉川英治文学新人賞受賞。中島梓の筆名で群像新人賞受賞。『魔界水滸伝』『グイン・サーガ』等著書多数。ミュージカルの脚本・演出等、各方面でも活躍。

「2019年 『キャバレー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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