- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150504076
作品紹介・あらすじ
世界屈指のデザイン会社IDEOがイノベーションの秘訣を公開した名著。深澤直人氏推薦
感想・レビュー・書評
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アップルコンピュータのマウスや、2000年前後にヒットしたPDA端末・パームⅤを手がけたデザインコンサルタント会社IDEOの社長兼CEOの著者によるデザイン思考を紹介する本。デザインとデザイン思考はちょっと違います。以下、引用を中心に本書の解説・感想を書いていきます。
「デザイン」とは、たとえば自動車のフォルムや内装などがどうなっているかというようなものですが、「デザイン思考」になると範囲は広がり、その自動車の購買者はどういった用途でその自動車の使用を楽しむかというようなことを考えます。乗り心地の快適性、購入時やサポート時の体験、その自動車と共にある生活などを考えてデザインしていく。
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「私たちがデザインしようとしているのは、名詞ではなく、動詞なのだ。(p172)(たとえば、電話[モノ]をデザインするのではなく、電話をかけること[経験]をデザインする)」
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この視野と想像力なのです。モノのデザインの範囲だと職人的で、動詞としてデザインするのは活動家的ともいえそうです。平面的な思考と立体的な思考、っていう感じだってします。これが、デザインとデザイン思考の違いなのでした。
人間中心に考えていくのがデザイン思考だとあります。これはデザイン思考のキーポイントで、ぶんぶん首を振るみたいにして頷きました。世の中では、社会という枠組みに人間をはめこんでしまう考え方の多い事ったらないですから。まあ、社会も大切だし人間も大切だし、極端に偏らないことだと思ってはいますが、人間中心の視点からの行動ってまだまだ少ないです。
たとえば病気ひとつとってみても、患者を診て治す「医学」と、患者がどうしてそのような病気になったのかの個人的要因や社会的要因を探っていく「疫学」があります。「疫学」は、現象学的アプローチの範囲内に入るようなものなのかもしれません。そして、そのような視点と、デザイン思考の視点って近しいように感じられました。デザイン思考と「疫学」をクロスすると、疫学でみた社会的要因をまず見ていくと、たとえば生活習慣病の原因として近所の24時間営業のお店で食べ物を買うことができる、それも高カロリーの食べ物を、というものがあるとします。だから、疫学的見地から、売っている食べ物の質を改めるだとか、24時間営業を考え直してみるだとかがでてくると思うのですが、デザイン思考だと、食べたくなることは仕方がないことなので、そこで生活習慣病にならないような行動をとるようなデザインを考えていきます。食べたら嫌な気持ちになるようなデザインを考えたり、我慢すると大きなメリットを得られるデザインを考えたりというようなことでしょうか。こういったところからも、デザイン思考って幅が広くなおかつ実際的で、できるだけ人間を枠にはめ込まないようにする考え方であると言えるでしょう。
さて、そのようなデザイン思考のヒントやインスピレーションはどこから得るのでしょう。
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インスピレーションには常に偶然の要素が含まれるが、一八五四年にルイ・パストゥールが有名な講演の中で述べたように、「偶然は心構えのある者にしか微笑まない」のだ。(p83)
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→これはよく、アンテナを張っていなさい、なんて言われ方をすることと近しいと思います。また、極端な少数者の訴えに目を向けることが、人間中心に考えるデザイン思考の大きなヒントになることが多いそう。このような少数者って、大多数が幸福になるようにとする功利主義では切り捨てられてしまう部分ですが、逆にそこにこそ大きな利益(人間中心思考においての利益です)が潜んでいるという視点からの知見はとても興味深かったです。
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アイデアの良し悪しは、アイデアの発案者に基づいて判断してはならない。(p97)
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→まず人を見て、その人になんらかのオーソリティ的なものがくっついていると、無批判にその人からのアイデアを受け入れがちっていう人とか集団のムードとかありますよね。これは、ダメ、ダメ。ダメですよ、ということ。さらに、こういう文言もありました。
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一見すると説明不能な人びとの行動が、厄介で複雑で矛盾した世界に対処するための人それぞれの戦略であるということだ。(p67)
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→説明できないことは無駄だったり無益だったりすることだ、と短絡的に考える人ってけっこういるので、違うよ、教えたくなります。「それはどうしてなの?」とこちらに訊いてきて、それに対してなかなか言葉が見つからずうまく説明できないと、相手から「だったらこうしましょう」と単純に干渉してくるお節介焼きがいるものです(とはいえ、人助けしようという気持ちは十分にわかってはいます)。たとえば役所なんかに相談した時もそうだけど、説明しがたいところを簡単に更地のようにされて向こうの意見を建設されたりする。そうじゃなくて、元々のその地形に意味がある。その意味を解読するのはとても難しいのだけど、無かったことにするとそれまでのバランスを著しく崩すことになる。本人もよく分かっておらず、外部からも気づかない大切な仕組みや重要な要素が含まれている。外部が関わるとロクなことにならないケースは、簡単に説明の効かないものへの無理解にあるんですよねえ。
大量生産からサービスや経験へと進化してきた昨今の市場状況。それは、供給側が権力を持っていて消費者側がそれに従うという昔からのスタイルから、消費者側も権力を徐々に持つようになっていき供給側が少しずつ権力を手放す、という方向へ時代が動いてきたとの見立てができるものです。そのような時代に入ったからこそ、デザイン思考が本格的に役に立っていく。主流の座に足を踏み入れているわけでした。
前述のように、デザイン思考は人間中心に考えます。だからこそ、環境問題や社会問題の解決への取り組みにも相性が良いといいます。個人的には、障がい者や介護の問題に対しても、このデザイン思考を適用して考えていくといいよなあと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
わからん。まじでわからん。今までいくつかデザイン思考の文献読んだけど、けっきょく、デザイン思考が何なのか、ほかと何が違うのかさっぱり理解できない。
正直、そりゃそうだろ、という要素ばかりなんだよな。そんな当たり前のことのなにがすごいのか。僕が当たり前と思っていることが実は画期的なことなのか、それとも当たり前でないなにかを僕が見過ごしているだけなのか。
あるいは、その当たり前な要素の組み合わせや繋がりの体系がすごいのか?とも思うのだけど、とても体系化されてるようにもみえない。とかならわかるのだけど、そこもいまひとつよくわからない。
(本書に限れば、言ってることがページによって違って一貫してないことも、わからなさに拍車をかけている。洞察→観察の順序だって言ったかと思えば、別のページでは観察から洞察を得る、とか書いてるし。どっちなのよ。双方向ならそれでいいけどさ、だったらそう書いてよ、と)
結局、実践してみないとわからん、ということなのかね。 -
ややっ、これは面白かった。もう一回読む!人間に聞いて共感して問題や製品開発を行う。誰でもが思いつきそうで思いつかないすごく真っ当なことが書いてあって、まさにアハ体験だった。今関わっている仕事にも、趣味で学んでいることにも通じることが沢山あって、後半は興奮しながら読んだ。
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●デザインファームIDEOの社長であるティムブラウンの著書。アップルのマウス等を開発。
●デザイン思考では、誰もが持ってはいるものの、従来の問題解決方法では軽視されてきた能力を利用する。人間中心であると言うだけでなく、人間の本質様と言える。直感で判断する能力。パターンを見分ける能力。機能性だけでなく感情的な価値を持つアイデアを生み出す能力。単語や記号以外の媒体で自分自身を発信する能力。それを重視するのがデザイン思考だ。
●「技術的実現性」現在またはそう遠くない将来、技術的に実現できるかどうか「経済的実現性」持続可能なビジネスモデルの1部になるかどうか「有用性」人々にとって合理的で役立つかどうか。有能な人はこれを全て解決しようとするだろうが、デザイン思考家はこの3つのバランスを取ろうとする。
●「今日はプロトタイプと考えよう。さぁ、何を変える?」
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タイトル*デザイン思考が世界を変える
著者*ティム・ブラウン
出版社*早川書房 -
翻訳が読みにくかった
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デザイン思考は、これまでのモノづくりの中でも、見た目や機能ではなく、使う人を中心に考えてその利用用途を掘り下げてアプローチをしていくスタイルの事で、これを本書では、「技術中心ではなく人間中心の世界観」と言っている。ごく初期から「着想」、「発案」、「実現」を行い、これを繰り返す活動であり、この考え方で、シマノのコーティング・バイクやP&Gのミスター・クリーン・マジック・リーチ(激落ちくん)のようなモノだけではなく、バンク・オブ・アメリカの口座サービスやメイヨー・クリニックの患者と医療提供者のサービス改善などのサービス、アフリカにおける水の問題への適用など、社会を変える活動まで幅広い適用の事例の数々がストーリーとして描かれている。
このデザイン思考のコツは、「技術的実現性」、「経済的実現性」、「有用性」のバランスを如何に取っていくかにあると本書では言っている。例としては、ゲーム機で熾烈な高度なグラフィックス競争において、任天堂のWiiが、グラフィックスを落としても価格を下げ、ジェスチャー操作の導入によって、より没入型の体験を生み出したストーリー等が紹介されている。
また、”架空の顧客が経験するサービスの段階を最初から最後まで図式化する、カスタマージャーニー”というアプローチも当たり前と言われればそうなのかもしれないが、実際に現地に出て、体験することで、高速列車のサービスを提供する企業で、列車の旅の経験の大半は列車とは関係のないところにあるという事を発見し、改善を行ったというようなエピソード等も描かれている。
本書を書いたのは、デザイン・ファームのIDEOのCEOのティム・ブラウン。IDEO自体は、アップルのマウスや、パームの他、日用品、玩具、コンピューター等を手がけているらしい。
この本を手に取ったのは、IT業界においてデザイン思考の取り組みが行われ始めたので、なぜ、そのような方向性が出てきたのかを知りたかったからだが、そういう点では、デザイン思考、カスタマージャーニー、プロトタイプ開発、着想、発案、実現の繰り返し等、ITシステム開発の初期段階での適用に対する相性は良さそうと感じた。IT業界に関係のある人、業務システムに何かしら関わり合いのある人には、数多くの事例から、知見を取り出して活用ができるのではないかと思う。
IBMが数年前のヴィジョンとして、スマーターシティーというものを言っていて、日本の日立などもアプローチをしていたが、本書の後半の社会の問題に取り組むところなどは、どちらが先かは別として、同じ方向だったのだなとリンクできた。 -
2023/12/27-2024/04/08
通勤や昼休みなどにゆっくり読み進めていたので時間を要した。
学生時代に買った本で、買ってから一度読んだことがあるはずなのだが、年齢や体験を重ねたことでよりクリアに事例やポイントを受け取ることができたと思っている。
(つまり、また年数を置いて読んだ方が良さそう)
p68-l13
私たちは、「共感」を通じて、洞察の橋渡しをしたいと考えている。他者の目を通じて世界を観察し、他者の経験を通じて世界を理解し、他者の感情を通じて世界を感じとる努力を行っている。
この部分を読んだ時、身が引き締まるような感覚があった。つい、物事を進める時、手法や目先のことにとらわれて「自分たちにとって都合がよいこと」にしまうことが多い。
しかし、デザイン思考を取り入れるということは、何気ない人々の普通の生活の中にある「共感」や「なぜ?」に目を向け、人々にとってより良い体験や価値を生み出すことにつながるはずだ。
ここを忘れて頭でっかちにならず、無邪気に物事を見つめ、よりよいデザインを作り出していきたい。