赤の女王 性とヒトの進化 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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制作 : 長谷川眞理子 
  • 早川書房 (2014年10月24日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150504182

赤の女王 性とヒトの進化 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 『やわらかな遺伝子』などの著作でも有名な進化生物関連のサイエンスライターのマッド・リドレーの代表作。しばらく絶版になっていたが、再版され、Kindle版も出たため手に取った。内容も古くなく、なぜ絶版となり入手できない状態になっていたのかわからない。

    タイトルにある「赤の女王」とは、『不思議の国のアリス』で、”この国では同じ場所にとどまるためには全力で走り続けなければならない”、と言った赤の女王のエピソードから取られた学説を意味する(リドレーが初めて用いたわけではない)。いわく、進化とは、遺伝子間の絶え間ない生き残りを賭けた競争の結果であるという洞察を示している。生物は、寄生者との戦いのために遺伝子的多様性を持つことが必要で、その多様性を保つための効果的な方法が有性生殖と言われている。この観点において、有性生殖には、そのデメリット(相手を見つけないと繁殖できない、など)をしのぐメリットがあるのだ。寄生者は、どんどんとその攻撃手法を変えて成功したものだけを生き残らせる。薬に対して常に耐性ができる病原菌が現れるという事実がそのことを証明している。「性」というものは、遺伝子が変わり続けるために、進化の歴史上必然的に生まれたものだ。変わらないものは、生き残ることができないのだ。

    さらに、性は、寄生者との競争のために導入されたが、競争原理は同種の異性間でさえ適用されている、と続ける。リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』以来認識されている通り、自然淘汰は、種でも個体でもなく、遺伝子において働くのだ。

    「性」の目的は繁殖にあり、その繁殖を司る「性」が淘汰圧を受けていることは当然だ。ヒトを含む生物の特性のほとんどすべてが繁殖成功度を高めることににつながっていることを認めることから始めるべきなのだ。知性や言語能力もその例外ではなく、同性内での競争や異性間の駆け引きを通して、他者を出し抜くいて子孫を紡ぐのに有利であったからこそ人類において爆発的に発達したと言える。
    本書では、さらにヒトにおける性差や美醜の基準についても踏み込んで論じている。特に一夫一妻制/一夫多妻制における両性の戦略の違いについて詳細に論じられている。そのような議論の中では、著者も意識をしているように、時に両性平等のポリティカルコレクトネスに抵触しそうになる。この点についての著者の態度は次のフレーズに集約される。

    「男性と女性は異なる肉体をもっている。この相違は進化による直接の所産である。女性の肉体は、子どもを産み育てるという必要性や食物となる植物を採集するという必要性に合うように進化した。男性の肉体は、階層的社会のなかで台頭し、女性をめぐって争うという必要性や、家庭に肉を供給するという必要性に合うように進化した。
    男性と女性は異なる心をもっている。この相違は進化による直接の所産である。女性の心は、子どもを産み育てるという必要性や食物となる植物を採集するという必要性に合うように進化した。男性の心は、階層的社会のなかで台頭し、女性をめぐって争うという必要性や、家庭に肉を供給するという必要性に合うように進化した。
    最初の文章は平凡だが、二番目の文章は挑発的である。男性と女性が進化的に異なる心をもつという主張は、あらゆる社会学者や品行方正な人々に忌み嫌われる。しかし私は、二つの理由からこの主張は正しいと信じている。第一に非の打ちどころのない論理である。...第二に、動かしがたい証拠がある。」

    「差異」と「差別」は違う。科学的姿勢とは、その二つを明確に区別をすることだと言える。もちろん、「差別」はほとんど常に「科学」の姿をまとって現れる。そのことに対して正当な警戒心を抱くことが、現代における科学的姿勢というべきだろう。ふと、この本が長らく絶版になっていたことを思い出す。しかし本書は、「差別」に利用される危険性をはらみながらも、ライターとしてそのような姿勢を持って書かれていることは確実だ。

    著者は、本書について、「「人間の本性」という特性を探求していくものであり、「人間の本性がいかにして進化してきたいかを理解することなくして、人間の本性の把握はありえない」という論旨に沿って進められる」とはじめに述べる。第一章のタイトルも「人間の本性」だ。そして、最後にて、その「人間の本性」を理解するという目標に対して、「そのゴールに到達することは決してないだろう。そして、そのほうがおそらくよいのだ。それでも「なぜか?」と絶えず問い続けているかぎり、我々には崇高な目標があるのである」という言葉で結ぶ。
    「人間の本性」などというから、まるで凡庸な結びであるように感じる。しかし、もはや進化生物学の援用なくして、ヒトについての本質的な理解はできない、というのが共通理解となったということが重要だと思う。

  • 面白い箇所もあるけど、全部は読めない。

  • 原著の発売が1993年と多少古い本ではあるが、今でも
    読み応えのある名著だと思う。

    有性生殖による多様性の確保は突然変異によって刻々
    変化する寄生者(ウィルスなど)に対抗するためのもので
    あり、我々人間は進化の結果として今この時点にいる
    わけではなく、今も、そしてこれからもずっと生存競争
    を続け変化していく存在だという「赤の女王」説は大変
    刺激的であった。MRSAの話を思い出したな。

    ただ性の進化論を読んだ後では人間はもともと乱婚で
    あったという視点が欠けているという感じがどうしても
    してしまう。まぁ簡単に結論が出る話でもないのだが。

  • 性淘汰にフォーカスし、それによってもたらされた人類の進化の変遷について書かれた本です。

    進化というのは個体ではなく種についての話なんですが、性淘汰にフォーカスしてるだけあって、個体レベルでもすごく興味深い。性はウイルスなどの外敵のための保険なんだそうです。
    最近恋愛工学ってのが流行ってますけど、これ読んだ方がいいんじゃないかな…笑

    ただ、なんでもかんでも性淘汰、セックスして子孫残して、に帰ってきてしまうのはやはり違和感があります。
    訳者も最後にちょっと懐疑的な意見を言ってますが。
    間違ってはいないけど、性差別を促進しかねない意見もあるのでしょう。
    「自然だからといって正しいことではないのだ。」これが全てかもなあ。

  • 性差に関する話でもこれは説得力というより想像力を楽しむ本に見えた。面白かった。

  • 「人間の本性 Human Nature」を探求することを目指した書。それは、人間の「性の進化」を問うことにつながるという。つまり、人間の進化は「性的」なものがテーマとなっているからという。
    進化過程においての雄と雌の出現により自然淘汰が起こり、特に性淘汰の場における雄と雌の存在の意味などを解きあかしてくれる。

  • 日本経済新聞社


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    赤の女王 性とヒトの進化 男女の性の戦略を探る
    2014/11/12付日本経済新聞 夕刊

     恋愛や性行為に積極的でない男性のことを「草食系男子」と呼ぶが、なぜ男性だけが色恋や性にガツガツすべきなのか。女性側にそのような要素はないのか? そもそも、なぜ性別があり、セックスがあるのか?


     性別を持たず、分裂によって仲間を増やしたり、メスの単為生殖で子をつくる生きものもいる。だが、われわれは、あえて性別をつくり、セックスによって子孫を残すというシステムを選んだ。より多く、より環境に適応した子孫を残すために。


     「男性の性行動は、卵子に受精させるチャンスをあの手この手を用いて最大限にするようにデザインされているのだ。しかし女性も、自分の望む条件でしか受胎しないように洗練されたテクニックを進化させた。とりわけ、思慮深いオルガスムによって、二人の男性のうちどちらの子どもを妊娠するかを実質的に決定できるのである」


     『鏡の国のアリス』の赤の女王が言うように、男も女も全力で走り続けなければならない。誘惑と不貞の戦略をもって、互いに優位に立つべくしのぎを削りながら。少子化が叫ばれる今、待望の文庫化である。長谷川眞理子訳。


    (竹内薫)


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  • 仮定「人間に普遍的に見られるものは、いっさい遺伝子の影響を受けていない」

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