冤罪と人類: 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか (ハヤカワ文庫NF)

著者 :
  • 早川書房
3.11
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本棚登録 : 507
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (688ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150505745

作品紹介・あらすじ

拷問、捏造、自白の強要……検事総長賞を受けた名刑事・紅林麻雄はなぜ冤罪を続発させたのか? 圧倒的筆力で人間の業を抉る怪著

感想・レビュー・書評

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  • 『冤罪と人類』精密な世界模型たる迷宮(ラビリンス) - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/45975

    冤罪と人類──道徳感情はなぜ人を誤らせるのか | 種類,ハヤカワ文庫NF | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000014836

  • 管賀江留郎『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』ハヤカワ文庫。

    全く掴み所の無い奇妙なノンフィクション。値段の割りには686ページとページ数が多いのにはそれなりの理由がある。

    浜松事件や二俣事件を中核に戦後の静岡で起きた冤罪事件の裏側を描いているが、同じことが様々な角度から繰り返し描かれているだけで、何を訴えたいのか全く掴めない。

    本体価格1,240円
    ★★

  • 『冤罪と人類』というタイトルと西洋画の表紙から、かなり大きな内容なんだろうと思って読むと、紅林麻雄を中心とした〈二俣事件〉などの冤罪事件に関する経緯が前半〜中盤を占め。

    それらを昇華した時に、サイコパスと恐怖心の欠如、自己欺瞞と間接互恵性と認知バイアスでこうした殺人事件や冤罪事件が起こるカラクリを理論化したのが後半少しといった所か。

    正直、前半中盤にこれだけページ数を割く必要があったのかしら。

    個人的には理論部が面白かったけれど、そもそもサイコパスが起こした殺人事件と、自らの名誉欲や保身のためにでっち上げた冤罪事件を、評判のための罪としてまとめることは可能か?と思う。

    鬱病の人は、自己欺瞞の能力が低いと書いてある。
    自分や世界のありのままの姿を直視するしか出来ないことは、どんなにか精神的に傷つけられることなのだろう。
    知らず知らずに、自分は目や耳を逸らし、生きていくのに都合の良い現実を生み出している。

    そうした都合の良さが、より権威的に、正義を象徴するまでになったのが冤罪ということか。
    自分が見えなくした現実は、誰かを傷つけ貶めている。その可能性に、果たして自分は気付いているのだろうか、と考えると、堂々巡りしてしまうなぁ。

    道徳的正しさを追求し過ぎることで、社会のバランスを崩し、恐慌を起こしてしまうという流れも考えさせられる。(果たして、正しさだけが純粋に原因たりえるかという検証は必要だが)

  • 18歳の少年が死刑判決を受けたのち逆転無罪となった〈二俣事件〉をはじめ、戦後の静岡で続発した冤罪事件。その元凶が、“拷問王"紅林麻雄である。検事総長賞に輝いた名刑事はなぜ、証拠の捏造や自白の強要を繰り返したのか? アダム・スミスからベイズ統計学、進化心理学まで走査し辿りついたのは、〈道徳感情〉の恐るべき逆説だった! 事実を凝視することで昭和史=人類史を書き換え、人間本性を抉る怪著。

    ものすごい熱量は感じられたが、結局、何がいいたいのかよくわからなかった。

  • 2021-05-09
    力作。人を殴り殺せるほど厚い文庫本だが、読み出したら止まらない。一見関係のなさそうな寄り道ばかりに見えて、それが1つに集約していくのには感動すら覚える。
    そしてその集約先が、そのように読んでしまうことこそが問題であるという、冷徹な事実。考えさせられる。
    あとがきにある、「読者たれ消費者になるな」という提言もなかなかに重い。

    戦後の、国警と自治警の指揮系統の違いははじめて知ったし、司法省と内務省のせめぎあいもあらためて知ることが出来た。
    そしてそれが今現在も明らかに影響を残していることにも思い至る。(本書では現在への影響についてはほぼ触れていない)

    進化の無目的性を強調しつつも、より公正にという目的を志向した合議を提案するなど、自家中毒に陥っている部分もないことはないが、少なくともそこに自覚的な分信頼がおける。

    いや、そのような読み方こそ、物語の形でしか理解ができない人間の特性に引きずられているのかもしれない。

    暗いニュースに心を痛める善意の人々、身勝手な犯罪に怒りを覚える人々、世の中の出来事に実感を覚えられない人々、必読の書である。

  • 冤罪がなぜ発生するのか、その原因は道徳感情にあったというのが本書の結論である。人間は進化の過程で互恵性に基づく集団を組成することで生き延びてきた。その過程では、互恵性のルールから逸脱する者が排除される。結果、逸脱者を排除するために人間の思考には、”我々の社会とはこうあるべき”という道徳感情が次第に形成され、排除されるものへの敵視とつながる。この道徳感情が暴走した結果、”あいつが犯罪を起こしたに違いない”というイメージが肥大化し、冤罪が生まれるーこれが本書で著者が主張する冤罪発生のメカニズムである。

    とはいいながら、本書の面白さはこの結論の妥当性にあるのではなく、冤罪の原因を巡る過程において、日本の近現代史の掘り起こしとも言うべき、膨大な知の大海を読者は目の当たりにさせられる。

    本書の起点は、1950年に静岡県で発生した二俣事件という連続殺人事件が実は冤罪であった、という話からスタートする。実は、この冤罪を生み出した刑事は、同じように他3つの冤罪に関与しており、一時期は難事件を解決したスターとして取り上げられるも、暴力と自白強要によって冤罪を生み出した点が断罪され、最後は自主退職を余儀なくされ、その2ヶ月後に死去する。

    なぜ4つの冤罪事件が1人の刑事によって生み出されたのか、という謎を解くために、著者は膨大な一次情報を丹念に拾っていく。その過程で、戦前の内務省の強大すぎる権力への他省庁との闘争、ベイズ統計学を鑑識に持ち込んだことによる不確実な捜査など、様々なイシューが展開される。

    この多様なイシューの展開は、異様な魅力に溢れており、”怪著”と言うにふさわしい出来栄え。こんな不思議な本にはなかなか出会えないと思ったし、冤罪を巡ってここまで話を広げられる著者の発想力には感嘆させられた。

  • 単行本のタイトルは「道徳感情はなぜ人を謝らせるのか?」だったような

  • 知らない言葉や事実を調べ、メモしつつ読み進めたら、ボールペン芯を一本換えることになった。冤罪に関する本であり、アダム・スミスの『道徳感情論』の解釈展開書であり、内務省の歴史書であり、捜査・裁判に関わる人間のプロファイリングファイルでもあり、一人或いは複数の警察官の人生を綴った記録でもある。「読書とは物事を構築していく作業であって、そこになにかしら継ぎ足すことができないのであれば、それは読者ではなくたんなる消費者にしか過ぎない」との指摘を前に書き足す努力をしたいが安易な物語による図式的理解に陥りそうで怖い。この恐怖心も、人からの評判を気にするという人間の本性に基づくものであり、間接互恵のシステムの一部に自分が組み込まれていることを自覚できる。しかし、神ならぬ人は認知バイアスや自己欺瞞により、自信過剰となって事実を捻じ曲げてみ、間違いを犯すものであるからこそ、事実を網羅的に保存し、分析し、関係者のプロファイリングを行った上で多様な見方を提示することで、少しずつ歪みを矯正し、後世の人々にまで続く長い期間をかけて誤りを修正していくしかない。その理論として、ベイズ確率や道徳感情論が提示されている。もっとも、本書は、これ等の理論から演繹的に具体的冤罪事件を語るものではなく、逆に、具体的冤罪事件に関わった人々の行動や思考様式を分析し積み上げることで帰納的にこれ等の理論で説明がつくのではないか、という形式を取る点が最も重要だ。美しい理論を提示してそれで全てを解決できると思い込むことこそ、システムの人による破滅に向かうのだから。このような帰納法を可能にするために新聞をはじめとする種々の資料のの保存や書籍の引用の誤りを幾度となく指摘する点も本書の重要な意義であり、本書を読んだ読者の責任は重い。

    一読者の多様な視点の提示という点で言えば、時代の産物ではあるだろうが、ジェンダーに関する配慮のない一説がどうしても気になる。特に、後書きではあるが、女性は話がなくても普通だが、男性だと奇異の目で見られただろうという推測は、森氏発言を思い出されてしまって、本書と関係のない部分だけに、かつ、認知バイアスの例にも見え、残念。

  • 正直な感想としてはやや冗長で難しかった
    でも、冤罪だけでなく人が起こす犯罪も戦争も「道徳感情」に起因するという考えは、すぐ炎上しちゃう現代の社会やコロナ禍の自粛警察などにも通じるんだと思う

  • 2022/04/24 amazon 825

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