八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 10-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (503ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150774516

作品紹介・あらすじ

アームストロングの店に彼女が入ってきた。キムというコールガールで、足を洗いたいので、代わりにヒモと話をつけてくれないかというのだった。わたしが会ってみると、その男は意外にも優雅な物腰の教養もある黒人で、あっさりとキムの願いを受け入れてくれた。だが、その直後、キムがめった切りにされて殺されているのが見つかった。容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが…。マンハッタンのアル中探偵マット・スカダー登場。大都会の感傷と虚無を鮮やかな筆致で浮かび上がらせ、私立探偵小説大賞を受賞した話題の大作。

感想・レビュー・書評

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  • ハードボイルド系だと思って敬遠していた作品。これが中々おもしろかった!

    主人公はアル中の探偵スカダー。しかし、酒を飲んで立ち回るような豪快な探偵ではない。
    アルコール断ちの集会に真面目に参加し、酒を飲みたいという葛藤と常に戦い続けている。


    淡々とした渇いた文章、盛り上がりの少ない展開、孤独な私立探偵が主人公…ハードボイルド三拍子が揃っているが、
    ハードボイルドの定義が、【暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する】作品であり、【感情に動かされないクールな生き方】を指すものなのだとすれば、本作はハードボイルドではないのだろう。
    スカダーはまだ、暴力と無意味な死が溢れかえる非情な現実を受け入れられずにいるからだ。彼は繊細な探偵だ。だからこそ、この世の不条理ばかりが目につく。
    彼がなぜ、知り合ったばかりの娼婦のために、身を危険に晒してまで犯人探しをするのか。これは必ずしも彼女のためだけではないだろう。新聞で眺めることしかできなかった世の中の不条理に対し、抗えるチャンスをようやく掴んだからではないだろうか。

    自分を襲ってきた辻強盗を、世の中のために殺してしまうか葛藤する場面がある。一見スカダーは、正義感が強い人間のように感じる。辻強盗の件からも分かる通り、悪に対し非常に敏感だからだ。しかし、正義感という言葉はどこか違うような気がしていた。訳者あとがきに、スカダーは罪と罰の条理性を求める人間だと書かれており、この表現が1番しっくりきた。

  • 午後のロードショーが好きだ。これを見るのは、大抵は風邪などをひいて平日の昼日中に寝床に横になりながらボンヤリと眺めている、といったような状況が多い。微熱とアスピリンに輪をかけて昼食後のボーッとした頭で、マッタリとしたアクションを眺める。何だか白昼夢を見ているような奇妙なトリップ感があって、時間軸の外にいるような麻薬的な魅力がある。

    数年前、本書を映画化した同名の作品をそこで見たことがある。内容はまるで別物だし、たぶんB級の烙印を押されているのかもしれないが幾つかのシーンは妙に印象に残ってしまっている。以来自分の中ではマットスカダーはジェフブリッジスで再生されるようになってしまった。リーアムニーソンより絶対ジェフブリッジス。Tシャツにジーンズのカジュアルなスカダー。

    慈悲深い死でも書いたけど、自分にとってマットスカダーシリーズの魅力は聞き込みのシーンだ。チャンスというヒモが抱える女たちを1人づつ訪ねて話を聞いていくという展開は本当にワクワク感しかない。自分が女たちの部屋を訪ねているような感覚に囚われる。

  • 東西ミステリー100の21位にランキングされている本書は、さすがと思わせる出来栄えです。
    ミステリーよりもハードボイルド小説であるのは間違いなく、さらに言えばプロットよりも登場人物たちの生き様や会話の方に本書の魅力が凝縮しています。
    特に、ダーキン刑事と依頼人のチャンス、情報屋のダニーの人物造形は素晴らしく、交わされる会話の内容も妙にリアリティがあります。
    後半100頁の疾走感、最後の1行でこの小説を不朽の名作たらしめたのは間違いありません。

  • <酔いどれ探偵マット・スカダー>シリーズ初読み。シリーズ五作目にして最高傑作と謳われる作品らしい。御三家の作品を読んできた所為か、やたらと弱さを曝け出す<ネオ・ハードボイルド>世代の探偵たちに慣れ親しめなかったのだが、今作は流石にグッと来るものがあった。ミステリーとしては全く評価出来ないが、ハードボイルドの神髄が人生を描き出すことならば、ラストシーンの衝撃はひとしおだろう。チャンスやダーキンといった脇役の面々も実に良い味を出している。混沌渦巻くニューヨークにおよそそぐわないマットの不器用な生き様が沁みた。

  • 「エメラルドシティには八百万の物語がある。そして八百万の死にざまがある」子どもを誤射して撃ち殺してしまった過去がある元警官でアル中の探偵マットスカダー。学生の頃に「聖なる酒場の挽歌」を読んで以来だ。足抜けをした翌日にナタで殺されたコールガールのキム。彼女の依頼でマットは前日にヒモのチャンスという男に話し、心良くOKをもらっていた。そしてキムにもチャンスにも好意を抱いていた。なのに、なぜ?誰が?田舎から出てきたキムの人生。チャンスの人生、他のコールガールたちの人生。マットが通う禁酒集会所の人たちの人生。登場人物一人ひとりの人生が、まさに八百万の生きざまとして語られていく。さらにもう一人おかまの売春婦が同じ手口で殺された。マットは自らを囮にして犯人を誘い出す。酒を断ちコーヒーを飲みながら、時に失敗を繰り返す。都会では多くの人たちの意図や願い、感情がすれ違い、交錯し、錯綜する。助け合い、求め合うも、描かれるのは埋めようのない孤独。人生は意味もなく苦い。

  • アルコール小説のようで実はコーヒー小説。読んでいると無性にコーヒーが飲みたくなる。コーヒーが象徴する高貴さと人生の苦さを味わうハードボイルド小説の傑作。

  • アメリカの作家ローレンス・ブロックの長篇ミステリ作品『八百万の死にざま(原題:Eight Million Ways to Die)』を読みました。
    『殺しのリスト』、『殺しのパレード』、『頭痛と悪夢―英米短編ミステリー名人選集〈4〉』に続き、ローレンス・ブロックの作品です。

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    〔マット・スカダー・シリーズ〕
    アームストロングの店に彼女が入ってきた。
    キムというコールガールで、足を洗いたいので、代わりにヒモと話をつけてくれないかというのだった。
    わたしが会ってみると、その男は意外にも優雅な物腰の教養もある黒人で、あっさりとキムの願いを受け入れてくれた。
    だが、その直後、キムがめった切りにされて殺されているのが見つかった。
    容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが…。

    マンハッタンのアル中探偵マット・スカダー登場。
    大都会の感傷と虚無を鮮やかな筆致で浮かび上がらせ、私立探偵小説大賞を受賞した話題の大作。
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    1982年(昭和57年)に刊行されたマット・スカダー・シリーズの第5作… アメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞作で、『東西ミステリーベスト100』で海外篇の21位にランクインしている作品です。

    足を洗った直後に惨殺されたコールガールのキム… アル中探偵スカダーはヒモのチャンスが殺したと確信したが、彼には確固たるアリバイがあった、、、

    感傷と虚無の街ニューヨークを舞台に、スカダーの執念の捜査を描く哀感漂うハードボイルド… アメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞作。

    一般的に、ハードボイルド作品って、凝ったトリックや意外性のある結末が用意されているわけじゃないので、主人公が魅力的かどうか、感情移入できるかどうかが、面白いかどうかのポイントなんですよねー そういう意味では、マット・スカダー・シリーズは大好きだし、面白ですね、、、

    ニューヨーク市警時代に武装強盗を狙った銃弾のひとつが跳弾となり8歳の少女を即死させてしまったことをきっかけに警察を辞め、アルコールに依存するようになり、現在は過去の事件に苛まれながらアルコール中毒から抜け切れず無免許探偵として日銭を稼ぐ生活… 弱いところのある主人公の方が気持ちがシンクロできるんですよね。

    本作品はやや冗長な感じがして、中盤はやや集中力を欠きそうになりましたが… 自分の価値観・掟・信念を貫きながら、真犯人を追い詰めていくスカダーの姿勢に共感しつつ、最後まで読み切りました、、、

    次もマット・スカダー・シリーズを読んでみようと思います。

  • アル中文学&ハードボイルドの名品。毎日新聞書評欄で橘玲さんが紹介していた。中島らも「今夜、すべてのバーで」とともに必読だ。

    アル中の心理を描く圧巻の描写!
    「一日二杯」が適量といっていたのに、さらに飲む「理屈」を考え出す。いつのまにか、抑制しなくていいということになっていく…。そして、「覚えているのはそこまでだった」(p108)

    無意味に人が死んでいく。くそったれの街。そして暴言を吐く警官。しかし主人公は思う。「彼はどんな相手にも同じことばを吐きかけただろう。相手がいなければ夜そのものにでも」(p189)

    襲ってきた暴漢を倒したが、震えがとまらない。止める方法は、もちろん酒だ。
    「通りの向こうから赤いネオンが私にウィンクを送っていた。バー、とそれには書かれていた」(p279)

    体に突き刺さる、身体的な文章だ。主人公が見せる「弱者に対する弱者の思いやり」(訳者あとがき)にもしびれる。くそったれの世界で、最低限のモラルを持って生きるかっこよさ。なかなかのハードボイルド体験だ。ラストが本当にいい。

  • 原題はEIGHT MILLION WAYS TO DIE
    このタイトルの意味は、作中のあるセリフによって分かる
    主人公が自分のアルコール中毒と闘っているさまがサイドストーリーとして語られる
    もちろん主人公はコールガール惨殺事件を一方で追っていくわけだが、読後の印象としては「事件捜査」と「アルコールの誘惑との闘い」が半々くらいかな
    ある登場人物の横顔がはっきり浮かんでくるのがよい
    ミステリも小説である以上、キャラクターの魅力は重要だと思う

  • 1982年出版『Eight Million Ways to Die』。1989年に発明されたWorld Wide Webのない時代、私立探偵は紙の地図を調べ、現場に地下鉄やタクシーで自ら出かけて行く。www

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著者プロフィール

ローレンス・ブロック Lawrence Block
1938年、ニューヨーク州生まれ。20代初めの頃から小説を発表し、100冊を超える書籍を出版している。
『過去からの弔鐘』より始まったマット・スカダー・シリーズでは、第9作『倒錯の舞踏』がMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀長篇賞、
第11作『死者との誓い』がPWA(アメリカ私立探偵作家クラブ)最優秀長篇賞を受賞した(邦訳はいずれも二見文庫)。
1994年には、MWAグランド・マスター賞を授与され、名実ともにミステリ界の巨匠としていまも精力的に活動している。

「2020年 『石を放つとき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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