わたしの名は赤〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200663

作品紹介・あらすじ

1591年冬。オスマン帝国の首都イスタンブルで、細密画師が殺された。その死をもたらしたのは、皇帝の命により秘密裡に製作されている装飾写本なのか…?同じころ、カラは12年ぶりにイスタンブルへ帰ってきた。彼は件の装飾写本の作業を監督する叔父の手助けをするうちに、寡婦である美貌の従妹シェキュレへの恋心を募らせていく-東西の文明が交錯する大都市を舞台にくりひろげられる、ノーベル文学賞作家の代表作。国際IMPACダブリン文学賞(アイルランド)、最優秀海外文学賞(フランス)、グリンザーネ・カヴール賞(イタリア)受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 先に積んであった旧訳を読み始めたが、これが聞きしに勝る迷訳で100Pほどでこれ以上読み続けるのは困難と見切る。しかし抗い難い魅惑を嗅ぎ取ってしまったのは確かなので、すぐに新訳を入手して読み始めたらなんと面白いことよ。16世紀末のイスタンブルの世情とイスラムの教義、押し寄せる西洋文明との確執に、ミステリーと恋愛を絡めて読み手の関心を捉えて離さない。それぞれ語り手の思惟と思惑、重なりとズレが好奇心を刺激して一気に読ませる。犯人はダレ?(私はまだ見当もつかない)カラとシェキュレの恋の顛末は?ああ下巻が楽しみだ。

  • 『藪の中』in イスタンブール。
    そこに芸術論と文明論が差し込まれている。モザイク画を見ているような印象を受けるのは、語り手が章ごとに異なるから。
    もしかしたら登場人物全員、実は挿絵の中に描かれた絵で、写本の読み手に話しかけている、という趣向の小説なのかも。

    この作品が成功しているのは、作中で語られる「一人称視点」の問題が構成とストーリーの両方に深く関係しているからだと思う。
    小説において「三人称」は「神の視点」、「一人称」は「個人の視点」というのは論を待たないだろう。この小説では一つの出来事が「一人称」で語られるために、いつまで経っても真実が明らかにならない。それぞれの人物に、それぞれの真実が存在するように書かれているからだ。まさに絵画で言う「遠近法」の技法が、この作品のミステリーを多層構造に仕立てている。しかも、その「遠近法」は、魅惑的であると同時にイスラム世界の絵画観を破滅に追いやる禁術だとして語られ、その禁術をめぐって殺人が繰り返されていく。

    とストーリーや仕掛け、文明観や芸術論と読みどころは満載なのだけれど、いかんせん、登場人物たちの興味関心がシモすぎて食傷気味。なので、⭐︎4つ。『千一夜物語』が最初に西洋に紹介された時はほぼポルノ扱いだったって何かで読んだ気がするけど、わざとそういう印象になるようにしてるのかなぁ?西側(西欧近代小説を聖典と崇める近代作家の作品をお手本として読まされている、大多数の現代日本人含む)の価値観で読むとそうなるでしょ?的な問いかけ??
    下巻を読んでもうちょっと考えてみよう。

  • とにかく文字が多くて執拗だ。登場人物もいいやつが1人もいない。女は面倒くさい。男も面倒くさい。読むのが億劫になるけど、半分超えると、段々途中で諦めるのがもったいなくなる。でも、下巻読むのはもう少しあいだを空けよう。。

  • 旅行中読もうと思ってリュックから取り出したら下巻が2冊あって呆然。せめて上巻なら読めたのに・・・閑話休題。
    早川書房の新訳を大歓迎。パムクは悪訳すぎて放り出したこともある。トルコ語翻訳者が少ないからって訳者を選んでほしい。本作は非常に読みやすかった。
    舞台はオスマン朝のイスタンブール、主人公は今は滅びた芸術である細密画の絵師。それだけでわくわくする。絵師の殺害と犯人捜し、カラとシュキレの恋物語という強いエンタメ要素を置きながらも、物語は非常に多層的に積み重ねられる。語り手が入れ代わり立ち代わり、主要人物に加え、動物、モノ、時として「赤」という色そのもの(!)が言葉を持ち、語る。これは圧巻。
    そして「絵画」が物語を貫くテーマである。繰り返される絵、色彩、形、タッチへの言及。細密画そのもののように緻密に描写される。美術好きにとってはこの細部が魅力だ。西洋と東洋の文化の相克、西洋の肖像画という新しい概念は余りに強く、東洋美術を侵食するが、新たな融合への希望もある・・・イスタンブールという街、オスマン朝という歴史そのものがそうであるるように。

  • 細密画に絡む殺人事件と関係者の恋愛模様が、さまざまな登場人物(犬や金貨も!)によって順番に語られる。どうやら殺人事件が「かかれたもの」にまつわるタブーが原因らしい点でエーコの『薔薇の名前』を思い出したけれど、あちらほど語り口がシリアスではなくて、カラフルでのびのび。16世紀のオスマン帝国とイスラム教を知らなくてもそれなりに読めてしまうところが、さすがノーベル文学賞作家だ。

    殺人事件の謎ときは下巻までお預けということで、カラとシェキュレの恋のゆくえについて。初めは真面目一徹のカラを女子力の高いシェキュレがばんばん翻弄するのかとわくわくしていたら、あっさり両想いになってしまって拍子抜け(まあ下巻の紹介文に書いてあるしね)。でもそのあとのカラのふるまいがほんとにありえなくて、びっくりして部屋の中をうろうろしてしまった。それでもシェキュレがそんなカラを可愛いと思ってしまうところに少し共感した。真面目で素直ならのびしろに期待できるわけですしね。

    結婚を決めて式を挙げるまでのくだりでも、シェキュレの実行力が高くて惚れた。シェキュレほんとイケメンすぎ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「「かかれたもの」にまつわるタブー」
      どうなるんだろう?と思いながら読んだら、アっと言う間でした(レビューが書けないので読書中になってます)...
      「「かかれたもの」にまつわるタブー」
      どうなるんだろう?と思いながら読んだら、アっと言う間でした(レビューが書けないので読書中になってます)。この面白さって何所から来るものなのか?それが判らない。
      2012/09/18
    • なつめさん
      nyancomaruさん
      ブクログのおかげで、自分が何を思ったのか探索するのも読書の楽しみになりました。わたしにとっては、好きか嫌いかより、...
      nyancomaruさん
      ブクログのおかげで、自分が何を思ったのか探索するのも読書の楽しみになりました。わたしにとっては、好きか嫌いかより、いろいろ言いたくなる本が良い本かもしれません。
      2012/09/18
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「いろいろ言いたくなる本が良い本かも」
      ナルホド、、、
      「いろいろ言いたくなる本が良い本かも」
      ナルホド、、、
      2012/09/24
  • (感想は下巻の方に記しました)

  • トルコ作家は初めて読んだ。ノーベル賞作家だけど、ミステリーとして読めて面白かった。読み返したら、伏線とかあるのかも。
    細密画を語るにもイスラム教の価値観は避けられず、知らなかった世界も垣間見れて新鮮。絵画やイスラム文化に全く興味がないと、しんどいかも。

  • 一人称で、人が入れ替わり立ち替わり語るという形式で、オスマン帝国の歴史に疎いこともあり、最初はなかなか頭に入ってこない。語り手は死人だったり、金貨だったりもする。

    絵師を殺したのは誰なのか?という謎解きもあり、カラとシェキュレの恋物語もある。

    上の真ん中くらいまで読むと、キリスト教世界の写実画とオスマンの細密画の対比が浮かび上がってくる。昔の名人の画を忠実に写すこと、人物の個性を出さずに描く細密画の理念はイスラム教の反偶像主義に裏書されており、個人の人生を一枚の絵に描き出そうとするキリスト教の画とは相容れない考え方であることがわかってくる。

    細密画に描かれた人物やモノに順番に焦点を当て、それぞれが語ることに耳を傾けている、そんな印象を受けた。

  • ー 「絵や挿絵、美麗な書物に耽溺するあらゆるハーンや王、皇帝たちの関心には三つの季節があるのだよ。はじめの季節には、物おじせず夢中になって、心惹かれる。そして、他人に見せるためや、名声のために絵を求める。

    最初の季節で絵についての見識を深めたなら、第二の季節には自分好みの絵を描かせるようになる。 絵を眺めるという真摯な喜びを学び、名声もおのずと高まり、死してのちも語り継がれるような事績をこの世に残そうと、それに見合った書物を集めはじめるのだ。

    しかし人生の秋が訪れる。もはや、いかなる皇帝もこの世における不死には興味を示さなくなる。この場合の不死とは、続く世代や子孫たちの記憶に留まるという意味合いだ。しかしな、細密画を愛する君主たちはわしら絵師に自らの名を記させ、あるいはその事績を綴らせた書物によって、もとよりこの世における不死を獲得しているのだよ。だというのに老齢を迎えると、此岸ではなく彼岸での不死まで望むようになり、そのためには細密画が邪魔だと考えるようになる。

    わしを悲しませ、苛立たせるのはまさにこのことよ。サファヴィー朝のタフマースブ王は自らも名人絵師として、若い時分には細密画工房で過ごしたというのに、死期が近づくや工房を閉鎖し端倪すべからざる腕前の絵師たちをタブリーズから遠ざけた。作らせた写本は散逸し、後悔の念に苛まれたという。なぜ人々は、絵画が天国の門への妨げとなるなどと考えるのだろうか?」 ー

    読んだことのないタイプの新感覚な作風。
    面白いけど、ミステリなのかな?第二の事件も起きたからミステリなんだろうけど、いったいどうなるんだ…。

    続きが気になる。

  • うーん。。。性描写が多過ぎる。読んでいけない気がしている。他の作品も読み進められなくて、こっちならどうかなと思ったのだが。
    イスラム文化での絵の考え方の違いと言う点で見れば興味深いのだけど、不要な性表現(に思える)に出くわすたびにまたかってなって興醒めしてしまう。

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著者プロフィール

オルハン・パムク(Orhan Pamuk, 1952-)1952年イスタンブール生。3年間のニューヨーク滞在を除いてイスタンブールに住む。処女作『ジェヴデット氏と息子たち』(1982)でトルコで最も権威のあるオルハン・ケマル小説賞を受賞。以後,『静かな家』(1983)『白い城』(1985,邦訳藤原書店)『黒い本』(1990,本書)『新しい人生』(1994,邦訳藤原書店)等の話題作を発表し,国内外で高い評価を獲得する。1998年刊の『わたしの名は紅(あか)』(邦訳藤原書店)は,国際IMPACダブリン文学賞,フランスの最優秀海外文学賞,イタリアのグリンザーネ・カヴール市外国語文学賞等を受賞,世界32か国で版権が取得され,すでに23か国で出版された。2002年刊の『雪』(邦訳藤原書店)は「9.11」事件後のイスラームをめぐる状況を予見した作品として世界的ベストセラーとなっている。また,自身の記憶と歴史とを織り合わせて描いた2003年刊『イスタンブール』(邦訳藤原書店)は都市論としても文学作品としても高い評価を得ている。2006年度ノーベル文学賞受賞。ノーベル文学賞としては何十年ぶりかという

「2016年 『黒い本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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