- Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151300172
感想・レビュー・書評
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記録。
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ポアロシリーズ17巻目。1939年の作品。
少し順番が飛びますが季節的にこちらにしてみました。
(このシリーズは再読も多いので、なるべく新訳で読もうと思っているのですが、2023年11月に川副智子による新訳版が出ていることにあとから気がつきました。)
章のタイトルが「第一部 十二月二十二日」、「第二部 十二月二十三日」となっている時点でもうワクワク。
クリスマスに一族が集まることでそれまでは隠されていた感情が表面化し、引き起こされる人間模様というクリスティーお得意のストーリー展開。
今回は若くて美しい娘さんより、美人ではないけれど上品で賢くて根性のある奥様方が素敵でした。
そして紳士たちは食堂でポートワイン、婦人たちは客間に移ってコーヒー、というのがいいよね。このわざわざ部屋を移動するという感じ。
残念ながらクリスマスは殺人が起こるのでクリスマスディナーは出てきません。
「あたしが本で読んだイギリスのクリスマスはとても陽気で楽しげなんですもの。焼いた干しブドウを食べたり、すばらしいプラム・プティングをつくったり、それからユール・ロックなんてものもあって……」
今回も犯人はまったくわかりませんでしたが(そもそもわかるように書かれていない)、登場人物たちがそれぞれの葛藤を胸に秘めながら交わす会話というのがもうおもしろくて一気読みしてしまいました。
『クリスマス・プティングの冒険』も読みたいなあ。
以下、引用。
あの年寄りが、あんなにたくさんの血をもっていたと、誰が考えただろう?
──マクベス
52
「もしわたしたちが過去を生かしておこうとすると、その結果はどうしてもそれをゆがめることになると思いますわ。なぜって、わたしたちは誇張した言葉で──まちがった遠近法でそれを見るからですわ」
「あなたは、大人の節度ある眼でそれを回想するかわりに、子供の判断でそれを見ようとなさるからですわ」
90
「ピラール──おぼえているんだよ──献身ほど退屈なものはないってことを」
136
ミドルシャー州の警察本部長のジョンスン大佐は、薪の火を打ち負かすものはないとの意見らしかったが、エルキュール・ポアロはセントラルヒーティングこそそれを打ち負かすものだと、信じていた。
200
エルキュール・ポアロの眼は(彼女の見るところによると)ずっと鑑賞的であったが、それは彼女の美しさに対してだけでなく、その美しさを彼女が効果的に利用していることに対する鑑賞でもあった。
233
「いいえ、くれなかったわ。でも、たぶんいつかはくれるだろう、と思いましたわ──もしあたしが親切にして、たびたびそばにいてあげれば。なぜって、年とった紳士は若い娘が大好きですもの」
343
「失礼しました、奥さん。身だしなみ(ラ・トワレフト)を心得ているイギリス婦人は、じつに少ないですよ。」
345
ポアロはため息をついた。
「あなたはそんな月並みの返事を、わたしになさらなければならないのですか?」
リディアは言った。
「わたくし、月並みな女でございますもの」
393
「世の中は女にはとても無情なものよ。だから、女は──若いうちに自分のためにできることをやっておかなければならないわ。女が年とって醜くなったら、誰も面倒をみてくれるものなんか、ありませんもの」
395
「あたしが本で読んだイギリスのクリスマスはとても陽気で楽しげなんですもの。焼いた干しブドウを食べたり、すばらしいプラム・プティングをつくったり、それからユール・ロックなんてものもあって……」
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クリスティの長編ミステリ。ポアロシリーズ。クリスティが傑作を発表し続けていたあぶらののっていた時代の作品らしく、フーダニットの傑作だ。
昔からポアロシリーズは沢山読んだが、改めてクリスティの作品を読み進めていくと様々な発見がある。
いずれも人物描写について、クリスティ程作中の人物達が生き生きとしているミステリは少ない。美少女や美青年の表現描写は勿論、嫌な人物までありありと目に浮かぶ。今作はリーという一族の中で発生する事件であるが、正しく人物描写力が光り、作品の面白さを何段階も上げている。
イギリスのクリスマスはおそらく日本人がとらえるよりも重要なイベントであり、今作以外にもクリスマスに事件に巻き込まれるポアロには同情するが、クリスマスに向けて強欲な大金持ちの老人が、自身の息子夫婦や孫達を集め、トラブルを仕掛けて行く。息子達もクセがあり、それぞれの関係性もあまりない中で、老人の遺言や資産の分配を巡り騒動が起こる。そんな中、老人の部屋から物が崩れて壊れるような争いの音があり、続いてこの世のものとは思えないような魂の叫びが聞こえる。ドアをこじ開け室内を確認すれば、おびただしい程の血が溢れ富豪はナイフで殺害されている。
久しぶりに正当なフーダニットを読んだつもりだが、やはりクリスティ、犯人を読者に掴ませないやり方は一流だ。あいつが犯人か、こいつが怪しいか、などというのはミステリを読みながら当然感じる思考であるが、今回は「そのパターン」を僕が忘れていたため、とても新鮮に楽しむ事が出来た。
作中で紹介されているクリスマスのおもちゃについて、昔は全くわからなかったが、大人になり十分理解できた。今の時代に置き換えは難しいが、こういった不思議な装置として現代では様々な機械などが事件の擬装として使用されているのだろう。 -
2023/08/08
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クリスマス・イヴの夜、意地の悪い大富豪シメオンが密室で殺害される。
館にいたのはシメオンの家族と使用人。
跡継ぎとして父親に振り回されてきた長男、犯罪歴のある次男、金に困っている三男、執事や世話係……
犯人は誰か? -
クリスマスにはクリスティーを。張り巡らされた伏線。そして暴かれる意外な人物。まさしくクリスティー黄金時代の一冊。
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ポアロもの。密室殺人の話で、クリスティにしては珍しい気がする。
もちろん犯人は当てられるわけものなく、最後はええーという感じ。 -
「アガサ・クリスティ」の長篇ミステリー『ポアロのクリスマス(原題:Hercule Poirot's Christmas{アメリカ:Murder for christmas})』を読みました。
『終りなき夜に生れつく』、『なぜ、エヴァンスに頼まなかったのか?』、『NかMか』に続き「アガサ・クリスティ」作品です。
-----story-------------
聖夜に惨劇は起きた!
一族が再会した富豪の屋敷で、偏屈な老当主「リー」の血みどろの死体が発見される。
部屋のドアは中から施錠され、窓も閉ざされているのに、犯人はどうやって侵入したのか?
休暇返上で捜査にあたる「ポアロ」は被害者の性格に事件の鍵が隠されていると考えるが…クリスマス的趣向に満ちた注目作。
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1939年に発表された「エルキュール・ポアロ」シリーズの長篇24作目となる作品です。
■第一部 十二月二十二日
■第二部 十二月二十三日
■第三部 十二月二十四日
■第四部 十二月二十五日
■第五部 十二月二十六日
■第六部 十二月二十七日
■第七部 十二月二十八日
■解説 霞流一
大富豪だが偏屈者の老人「シメオン・リー」がクリスマスに離れ離れの息子家族を、彼の住む「ゴーストン館」に呼び寄せるところから物語は始まります、、、
元々、ほとんど交流がなく、信頼関係のない四人の息子とその妻たち(三人)、そして初めて「ゴーストン館」を訪れた孫娘(亡くなった娘の子ども)と南アフリカから訪ねてきた「シメオン」の旧友の息子を自室に集め、「シメオン」は遺言状の変更を考えていることを仄めかし、息子たちへ挑発的な言葉を吐き掛け、一族が反目し合うように仕掛けます… その夜、「シメオン」が部屋の金庫に隠していたダイヤの原石が盗まれ、地元警察の「サグデン警視」が調査にやって来たクリスマスイヴの夜、「シメオン」は密室状態の自室で血まみれの惨殺死体で発見されます。
その殺人は密室にする必然性がないうえに、必要以上の出血があり、身体の弱った老人を殺害したにも関わらず激しい乱闘の形跡が残っており、謎のゴム片と木釘が残されているという、不合理な謎が残されていた、、、
息子やその妻、孫娘、旧友の息子、従僕等には、それぞれ動機や機会があるように思えた… 「ポアロ」は地元警察の警視「サグデン」や警察部長「ジョンスン」とともに真相を探ります。
誰が犯人でもおかしくない展開の中、孫娘「ピラール・エストラバドス」や旧友の息子「スティーブン・ファー」が偽者であることが判明し、疑いは二人に集中しますが、、、
これまた、まさかまさかの展開で、犯人とは思えない人物が真犯人でしたねぇ… 容貌がわかれば、ある程度、推理しやすかったかも。
もう一人、家族(「シメオン」の息子)が存在していたとは… しかも、その人物が捜査側にいたとは… 「アガサ・クリスティ」は、家族の愛憎を描くのが巧いですね。
登場人物が多く、序盤は少し入り込み難い面がありましたが、一人ひとりの特徴や性格が把握できた中盤以降は抵抗感なく読めました。
仲違いしていた息子たちや、偽者だった二人も幸せな未来が築けそうな明るいエンディングも良かったですね。
なかなか面白かったです。
以下、主な登場人物です。
「シメオン・リー」
ゴーストン館の当主
「アルフレッド・リー」
シメオンの長男
「リディア・リー」
アルフレッドの妻
「ジョージ・リー」
アルフレッドの弟、国会議員
「マグダーリン・リー」
ジョージの妻
「デヴィッド・リー」
アルフレッドの弟、画家
「ヒルダ・リー」
デヴィッドの妻
「ハリー・リー」
アルフレッドの弟
「ピラール・エストラバドス」
シメオンの孫娘、ジェニファーの娘
「スティーブン・ファー」
シメオンの旧友の息子
「エドワード・トレッシリアン 」
ゴーストン館の執事
「シドニー・ホーベリー」
シメオンの従僕
「サグデン」
アドルスフィールド警察署警視
「ジョンスン」
ミドルシャー州の警察部長
「エルキュール・ポアロ」
探偵 -
もうまったく犯人に気が付かなかった。