- Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151300233
感想・レビュー・書評
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事件はなかなか起きないのに飽きずに読める。
流石です。
一人の大富豪の死によって狼狽する一族の人間模様や彼らと関わりのある人物の描写が丁寧に書かれている。
関係性が整理しやすく、物語の構成としても面白い。
設定自体は地味だけれど、意外性のある展開や真相で楽しませてくれる。 -
推理小説においてワクワク出来る舞台装置は色々有るけれど、その一つとして挙げられるのは本作が扱う「大富豪の遺産を巡る殺人」だろうね
大富豪ゴードン・クロードの後ろ盾を頼りに生活してきた一族が彼の死と戦後の空気に拠って困窮していく様子はどう捉えても殺人事件の土台が整えられているとしか受け止められないもの
その一方で舞台が整えられ過ぎているとも言えるのが本作の面白いところ
ゴードン・クロードの遺産を横から掠め取るようにして手にしてしまった哀れなロザリーン。誰も彼もが彼女の死や不義を願うのは理解できる流れとして、その感情を後押しするように様々な噂が錯綜するのだから奇妙な話になってくる
事件が起きる2年も前にロザリーンの前夫が現れるとポアロの前で予言する少佐、事件直前にもクロード一族の女性が霊のお告げでロザリーンの前夫が死んでいないとポアロに教える
そして実際にロザリーンの前夫、ロバート・アンダーヘイを思わせる男性が現れるのだから本当に奇妙で面白い
舞台は非情に整っている。だからこそ、整っていない部分が引っ掛かりとなって事件をより意味不明なものとしていくわけだ
本作の特徴をもう一つ上げるなら、事件を起こす動機を持つ者が多すぎる点が挙げられるのだろうね
遺産を巡る心理的動揺がクロード一族やロザリーンの兄、デイヴィッドに巻き起こっているから誰が殺人を犯しても可怪しくないように思える
実際に私も読んでいる最中は「あの人が犯人だろうか?」と思った数分後には「いや、あっちの人が犯人なのでは…?」と迷ってしまうほど
誰も彼もが戦後の苦しさから遺産を自分の手元に呼び寄せたいとロザリーンの不幸を願ってしまう。それが誰が犯人になっても可怪しくない空気感を醸成し、ミステリドラマとして読み応えある内容となっていたよ
どのような事件だろうと、名探偵ポアロが関わるなら犯人は明らかになる。本作も例に漏れず混迷を極めた事件推移だろうと犯人は最終的に明示される
個人的には「そう来るか!」と様々な意味で思えるラストでしたよ
最高に面白いというわけではないけど、人間ドラマに絡めたミステリとしてはかなりの一品として仕上がっているね -
クリスティの長編ミステリー。ポアロシリーズ。
何よりもまず。戦争とは悲劇であり、世界中不幸であり。過去の小説などを読むと恐ろしさや怖さがとても感じられる。今作は戦争が少し落ち着いた時代のイギリスが舞台なわけだが、一体罪とは何なのだろうか、と疑問に思う。当時、今回の様な事が時と場合で許容されるのはナンセンスだと思うし、一方の事件(ネタバレにならない様に注意するが)は現代ではでは当然積みに当たるしまあ、仕方がないには絶対ならないだろう。
ある意味でポアロはよくこういう事をする訳だが、「オリエント急行」や「ナイルに死す」等は受け入れられるが、今作は違う(笑)。真実を知るのはポアロと事件の真相を打ち明けられた数名のみなので当然、彼らが打ち明けなければおもてに出ることは無いのだが。ポアロ自身、リンに対してはポアロの好きなタイプでは無いと言っており、そういった人物には今まで「ポアロおじさん」は発動しなかったのだが。少し不満の部分だ。
金持ちが空襲で亡くなり、若い未亡人とその兄が生き残る。金持ちは一族に大きな影響力を持っており、財政的な援助なども踏まえ、彼なしでは破綻してしまう様な一族だ。遺書等もなく、巨額の財産は未亡人が受け継ぎ、一族は困窮してしまう。そんなおり、とある謎の人物が一族の住む村に現れじけんに繋がっていく。
フーダニットがベースではあるが、そもそも序盤から練り込まれたトリックがあり、最後に衝撃を喰らう。再読だが、初めて読んだ時はインパクトがあり記憶に残っていたが、大人になってから読むと昔ほど印象深い作品ではなかった。
登場人物達が綿密であり、クロード一族は今後衰退していくだろう。当たり前のものが当たり前ではなくなる、自分が手に入るはずだったものが他人のものになる。そんな時に生まれる人間の嫌な部分が詰まっている作品であり、少しだけセンチメンタルになった気分だ。
トリックの面白さ、登場人物達の灰汁の強さはシリーズにおいても面白い方で、ポアロのメロドラマ的な部分も充分楽しめた作品だ。最初の数冊には勧めないが幾つか読んでからの方が味が出る作品だ。 -
ポアロもの。
大富豪ゴードン・クロードが死亡し、その莫大な財産は若き未亡人ロザリーンが相続しましたが、実質はロザリーンの“兄”・デイヴィッドのコントロール下にある状況です。
そして、ゴードンに経済的に依存しまくっていたクロード一族の人々は、“後ろ盾”がなくなってしまい、金銭的窮地に立たされてしまいます。
クロード一族と、ロザリーン&デイヴィッド兄妹の間に不穏な空気が流れる中、ある日村にロザリーンの前夫(ゴードンの前の夫)を知るという人物が現れて・・・。
解説にも本作品が「ドラマ重視」と書かれていましたが、確かに“事件”が起こるまでのヒリついた人間模様がしっかり描かれていますね。
そして、一応ヒロイン的ポジションのリンを巡る三角関係も並行していて、以前からの婚約者で朴訥な農夫・ローリィと、ロザリーンの兄で危険な魅力(?)を備えたデイヴィッドとの間で揺れるリンの心理描写にもご注目です。
(私からすれば、“どっちもどっち”という感じでしたが・・汗)
そんな人間ドラマの土台の上で展開するミステリ部分も秀逸で、ポアロ言うところの“まともでない”という表現の通り、“動機と犯行が合わない”という状況に翻弄されてしまいました。
思い返せば、あちこちにヒントが散りばめられてはいたのですけどね~。
(例えば、ポーター少佐の“あの台詞”に、“ん?”となったのは、私だけではないはず・・)
このように、人間ドラマとしてもミステリとしてもグイっと読ませる本作品。
ちょいと登場人物達のキャラが弱いかな・・と思わんでもないですが、個人的にはフランセスとケイシイが何気にいい味出していたかも。と思いました。 -
クリスティはお金持ち一族のいざこざを書くのが上手いように思う(実際にあったことがないので厳密には何とも言えないが)。トリックより登場人物のドラマに重きが置かれている作品だった。
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物語自体は地味な印象。
だが、いつも通り仕掛けられた二重三重に仕掛けられた罠の方向性が、通常の作品と少し異なるベクトルを向いていて、意外性があってよかった。
クリスティのこの頃の作品らしく、人の心情を描くことに注力しているようで、物語の中盤まで殺人が起きないし、ポアロも出てこない。 -
ポアロシリーズではこれと「カーテン」を最後に残しておいたのは、タイトルがなんか惹かれなかったから。
でもこんなに面白い本、意図してないとはいえあとに残しといてよかった!
どんな予想も全て裏切られた。
オススメを聞かれたら間違いなくBEST5に入れます。