三分間の空隙【くうげき】 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房
4.04
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151821592

作品紹介・あらすじ

中南米の麻薬組織で窮地に立たされた潜入捜査官。彼を救う鍵はグレーンス警部――名作『三秒間の死角』に連なるシリーズ最高傑作

感想・レビュー・書評

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  • アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三分間の空隙 上』ハヤカワ文庫。

    角川文庫の『三秒間の死角』の改題作かと思ったら、まさかの姉妹作で全く新たな邦訳作品だった。しかも、グレーンス警部シリーズ。危うくスルーするところだった。

    上巻を読む限りではグレーンス警部の見せ場は無く、パウラが主人公と言って良いだろう。

    パウラの焦りが読み手にも伝わるかのように命の危機を感じる白熱の展開が続く。正義を全うするためにはそこまで悪に成りきる必要があるのか。

    メインの舞台はコロンビア。僅か9歳の子供がたった200ドルで殺し屋になる異常な社会。米国の麻薬取締局に雇われたスウェーデン人の犯罪者パウラは麻薬犯罪ゲリラ組織PRCに潜入していた。

    ある日、麻薬犯罪壊滅のため特殊部隊を率いる米国下院議員のクラウズがPRCに拉致されるとパウラの運命は一変。PRCのメンバー共々、パウラも抹殺リストに載せられる。

    そして、パウラの運命を左右するのはストックホルム市警のグレーンス警部だった……

    本体価格1,160円
    ★★★★★

  • ☆本シリーズは三部作で『三秒間~』『三分間~』『三時間~』とのタイトルが用意されている真ん中に位置する作品である。前作を引き継ぐものなので、本作を100%楽しみたい方は『三秒間の死角』から開いて頂きたい。できれば本書のガイドもレビューも(本稿含め)何も読まずに一作目からお読み頂くことが興趣を削がぬ唯一の楽しみ方である。

     さて、アンデシュ・ルースルンドの名前が日本の読者の心に克明に記されたのは何と言っても『熊と踊れ』で、そちらは続篇含めて、登場人物のモデルとなった兄弟のうち書かれなかった実在の一人ステファン・トンべリとの共著。この後、絶版になっていたグレーンス警部シリーズが続々と再版される。こちらは服役経験のあるベリエ・ヘルストレムとの共著。

     いずれも強力な現実へのアンカー役としての助っ人を得つつ、素晴らしいリーダビリティを発揮しつつ物語るのはルースルンドの筆力そのものである。いずれの作品もページを開くなりその世界に引き込まれてしまう題材の確かさと、そのスリリングな語り口はあまりに魅力的だ。

     『三秒間の死角』は、『熊と踊れ』シリーズとハヤカワ文庫での再版の影に隠されてしまった格好で、ひっそりとこれだけが角川文庫から出版されており、『このミス』などでも決して高い評価を得ずに我々の眼の前を通り過ぎてしまった作品だったが、何を隠そう、あまりに遅くこの作品を手に取ったぼくには、『熊と踊れ』に比肩するおそらく最高級の傑作であった。

     刑務所内の著述はやはりリアリズムを担当するステファン・トンベリの面目躍如であったと思う。この作品は昨年、アメリカで映像化されたものが日本で公開され(『THE INFORMER/三秒間の死角』)ディテールはともかく、原作の持つダイナミズムは活かされ、それなりに劇場で楽しませてもらった。しかし、それにしてもこの孤高の主人公ピート・ホフマンの魅力は何だろう?

     孤高と書いたが、家族を何よりも愛し、なおかつ潜入捜査を選択し実行できる資質、国からも世界からも裏切られる暗闇のヒーローでありながら、打って出る計画の歯切れの良さ、そして読者をも騙し抜く圧巻の脱出行。どれをとっても現代の冒険小説と呼べる孤高の作品である。

     前作と異なるのはまず舞台だ。南米コロンビアの麻薬地帯、そして雇用種はアメリカ政府。北欧ミステリというよりも、ドン・ウィンズロウの『カルテル』などを読んでいる感覚に襲われる。ちなみにぼくは現代のページターナーを代表する二人(組?)の作家は、ドン・ウィンズロウとアンデシュ・ルースルンドだという体感を持っている。なので、余計にウィンズロウ世界にやってきたスウェーデン人主人公の活躍という興味をもって読めるのが本書である。

     前作を引き継いでいるので、一度使われた驚きは本書では再体験できないものの、前作にはないスケールでの大掛かりな逆転ミッションと、既に主人公の能力や特性を知っているが故の期待値に満ちたスリリングな仕掛けっぷりやアクションを楽しむことができる。そして何よりも我らがピート・ホフマンは絶対のスーパーヒーローではなく、妻と二人の子供を大切にする家族の父であり、心優しき生活者であるところが本書の肝である。

     本書ではグレーンス警部がもう一人の主役として、故国を離れての大活躍を見せる。アクション面ではなく、グレーンスならではの悩みや女々しさを帯同しつつ、それでもなお。本書の最大の見どころはむしろグレーンスの果たす役どころにあるかもしれない。ツイン・ヒーローの活躍が積み重ねられてできあがる特大スケールの物語世界は、必ずや多くの読者を引き込んでくれるに違いない。一作目『三秒間の死角』の実力に見合わぬ低評価に対し、本作はきっと大きなリベンジを見せてくれるに違いない。

  • スウェーデンの作品の翻訳である。本作はストックホルム警察のエーヴェルト・グレーンス警部が活躍するシリーズの一冊ということになる。シリーズの途中から、凄腕の潜入捜査員であるピート・ホフマンが登場している。作品はグレーンス警部が主要視点人物になる部分、ホフマンが主要視点人物になる部分、その他の作中人物達が主要視点人物になる部分が織り交じって展開する。本作もその形が踏襲されており、ホフマンの部分とグレーンス警部の部分とが織り交じるようになって行く。
    本作の上巻ではこのグレーンス警部の出番は少し少ない。
    物語はコロンビアの様子から起こる。ストリートに生きる少年の様子が描かれる序章の後に本編が始まる。エル・メスティーゾと呼ばれる、コカインを方々に売るようなことをしているゲリラ組織の幹部の傍に、ボディーガードでもある側近の欧州人の姿が在る。「スウェーデン人」という意味のエル・スエコという通り名で知られ、北欧の何処かの国の出身らしいが詳しい素性は判らない。このエル・スエコという人物の正体がピート・ホフマンだ。
    スウェーデンを出国したホフマンは、ストックホルム警察の犯罪捜査部長であるエリック・ウィルソン警視正が国際研修で知り合った米国DEA(麻薬取締局)のスー・マスターソン長官の仕事を請けることになった。コロンビアの麻薬組織の情報を潜入捜査員として伝え、大規模な麻薬取引を阻み、コカインを精製するプラントを攻撃する手引きをしているのである。
    そういう他方、米国ではティモシー・クラウズ下院議長が、麻薬撲滅作戦を推し進めていた。クラウズ下院議長は麻薬に溺れてしまった娘を喪った経過が在る。他界した時に娘は24歳で、そういう悲劇の根を絶つべく、クラウズ下院議長は麻薬対策に努力し、コロンビアに展開した対策部隊の現場視察にも積極に出掛ける程に入れ込んでいた。
    そんな或る日、「問題」は生じた。現地視察をしていたクラウズ下院議長が誘拐されてしまい、生死不明になってしまった。米国政府は、トランプの13枚のカードに見立て、コカインを方々に売るようなことをしているゲリラ組織の幹部の名を挙げ、順次彼らを抹殺すると宣言した。その13枚のカードに見立てたリストに「エル・スエコ」が入っていた。

    米国のスー・マスターソン長官から報せを受けたエリック・ウィルソン警視正は驚き、何とかしたいと思う。そんな事案に取組もうとしていた時、酔っ払いとの揉め事が拗れて拘置所に入れられてしまったグレーンス警部を、上司として貰い受けるようにという妙な話しが生じる。グレーンス警部を貰い受けたウィルソン警視正は、グレーンス警部に頼むことにした。「エル・スエコ」ことホフマンの支援をである。

  • 常に緊迫感がただよう
    下巻でまとめて

  • 展開がすごい

  • 怖い、下巻を読むのもドキドキ。

  • エーベルト・グレーンス警部シリーズ第六作。

    だから、潜入捜査ものは好きじゃないと言ったはず。
    カリブ海の浜辺でのんびりとモヒートを飲んでいる、とまではいかないが。
    華麗なる脱獄をした「バウラ」には、家族と幸せな生活をしていてほしかった。
    まさか、より危険な国でより危険な潜入捜査をしているとは。

    しかもそこへ警備に止められたにも関わらず、
    コロンビアに来たアメリカ下院議員長が麻薬犯罪ゲリラの人質になってしまい、
    アメリカからのゲリラの一員として殺害ターゲットとされてしまう。

    そこへ、ようやくこのシリーズの主人公(のはず)がグレーンス警部が登場し、
    バウラを救い出すために協力することに。
    パスポートも持っていなかったのに、コロンビアとアメリカを往復して大活躍。

    (下巻へ続く)

  • コロンビア。子どもですら200ドルのために殺し屋になりたがる社会の暗部に、麻薬取締局に雇われた男が潜入していた。任務は麻薬犯罪ゲリラPRCの情報を米国に提供すること。しかし特殊部隊を率いる米国下院議長がPRCに拉致されたとき、事態は思いもよらぬ急変を遂げる。潜入捜査員の命運はストックホルム市警のグレーンス警部に託された!

    シリーズ第7作。翻訳としては6作目。
    これはまさしく冒険小説。
    下巻に続く。

  • ページを繰る手が止まらない。感想は下巻を読んでから。

  • 帯にある「三秒間の死角に連なる」は、日本語の使い方間違ってる。

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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