三日間の隔絶 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMル 6-13)

  • 早川書房
4.10
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151821639

作品紹介・あらすじ

17年前に起きた一家惨殺事件と、ピート・ホフマンの元へ届いた謎の脅迫状とのつながりとは。グレーンス警部が事件を解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • アンデシュ・ルースルンド『三日間の隔絶 上』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第9作。そして、シリーズ内シリーズのグレーンス警部&潜入捜査官ピート・ホフマン・シリーズ、『三秒間の死角』『三秒間の空隙』『三時間の導線』に続く第4作。2017年にコンビを組んでいたベリエ・ヘルストレムの急逝により、前作に続き、アンデシュ・ルースルンドの単独名義で書かれた作品。

    タイトルが三秒間、三時間、三日間と次第に時間軸が長くなっている。次は三年間かな。

    警察組織の何者かが、17年前にグレーンス警部が関わった事件を目覚めさせ、やはり警察組織の深部にいると思われる謎の人物が引退した潜入捜査官のピート・ホフマンを再び火中に飛び込ませようとする。二人を動かすのは同一人物なのか……

    非常にリーダビリティが高い北欧ミステリー小説。

    衝撃の場面から物語は始まる。5歳になったばかりの少女を残し、一家4人全員が銃殺された事件。少女を保護したのはグレーンス警部。

    それから17年後。一家惨殺の起きた家に何者かが侵入する事件が発生し、グレーンス警部が現場に赴くと家の床に奇妙な穴が開いていて何かを持ち去った形跡を発見する。グレーンス警部が17年前の事件の捜査資料を確認すると何故か少女に関する資料が消えていた。そして、17年前と同じ銃殺事件が発生し、事件は新たな展開を見せる。

    一方、潜入捜査官を引退し、家族と平穏な暮らしを送っていたピート・ホフマンに彼の正体を知るという謎の人物から脅迫状が届き、ホフマンに市場に出回っていない武器を使ってギャングを襲撃しろという命令が下る。家族の命を守るため、再び火中に飛び込むホフマンだったが……

    この先、グレーンス警部とピート・ホフマンがどのように関係していくのか。

    上巻の終盤の驚愕と怒濤の展開に下巻へと誘われる。徹夜してでも読みたいと思うのだが……

    本体価格1,400円
    ★★★★★

  •  グレーンス警部と潜入捜査員ピートとのW主人公シリーズは当初三部作のはずだった、と思う。三秒間、三分間、三時間で終了するはずだったこのシリーズは、さらに三日間、三年間と続くようで、今回は四作目の「三日間」の物語だ。何はともあれ、作者も多くの読者同様、このダブル主人公シリーズを終えるに忍びない状況となっているに違いない。

     迷惑なのは、長年潜入捜査を強いられているピート・ホフマンとその家族だろう。これまでいくつもの死地を潜り抜け、その都度、肉体的・精神的な負担を異常にかけられてきたピートと、そのとばっちりを受けっぱなしの家族に、いい加減平和と幸福をもたらしてほしい気持ちは読者心理の中でも上昇を続けんばかりなのである。

     しかし、やはり飛びついてしまう。やはり続編が有難いのだ。ホフマン家には申し訳ないが、またしても息を飲むようなピンチとそこからの脱出を試みて頂きたいのだ。本当に申し訳ないことなのだが。

     それはそれとしてグレーンス警部はそもそもが単独シリーズ主人公でもある。この極めて個性的で癖のある、全然格好良くない上、私邸にも帰らず警察署の私室で寝泊まりしているというワーカホリック。頑固で変化を拒まず、年下の上司にも扱いづらく思われている我らがヒーロー。そのグレーンス警部も定年退職まで残すところ一年を切っている状況。

     さらに今回の事件はグレーンス警部の心に巣食っている未解決事件の一つに端を発する。17年前、4人の家族が銃殺され、5歳の誕生日を迎えたばかりの少女が死体の遺された部屋で三日間取り残されていた。異常かつ過酷すぎる事件である。当初、ぼくはこの過去の三日間が、タイトルのそれなのかと思っていたが、タイトルの三日間はしっかりと現在のホフマンに対し約束通り与えられることになるのでご安心を。分刻みの時計がネジを巻かれる例の場面はこのシリーズの最大の楽しみである。それでも少女の三日間にも何らかの意味があるかどうか。それはそれで読んでみてのお楽しみ。

     犯罪組織の標的となった者たち。彼らが守られる、あるいは彼ら自身で自分たちを守る手段とは、一体何なのだろう。潜入捜査官であるピートは、職務の都度、別の人間になり替わって、犯罪組織の壊滅に貢献してきた人間である。絶対にその正体を知られてはいけない存在。

     本書では犯罪者側にピート・ホフマンの正体と家族の情報が漏洩してしまう。家族を隠そうと翻弄するピートばかりか家族情報までが、まるで彼らを翻弄するかのように洩れてゆく。これまでになかった絶体絶命の危機を招いている原因は何なのだろうか? 警察機関内部の敵を疑わざるを得ないという、これ以上ない緊迫した状況のなかで本書は進行する。絶え間ない緊張と、その重圧。

     グレーンスの過去の事件の上に、ホフマン一家が現在捉えられている危機とがどう交錯するのかわからないまま、物語はそれぞれに二つの重戦車の如く進んでゆき、思いがけぬラストに繋がる。いつものストーリーテリングが何よりも素晴らしく、その語り口が凝りに凝った仕掛けを支え続けている。タイムリミット型エンターテインメントであると同時に、17年前の家族斬殺事件の意味も明らかになってゆくだろう。

     しかし、どのように?

     この終始クリフハンガー的状況を、けれん味たっぷりに描く唯一無二の語り口。是非とも手に取って味わって頂きたいと思う。

  • 一家惨殺事件の生き残りの少女はグレーンス警部の手により保護された。17年後、その事件の資料が警察署内から盗まれていることが判明する。さらに17年前と同じ手口で当時の容疑者が殺される事件が起こり……。一方、潜入捜査官を引退し家族とともに暮らしていたピート・ホフマンの元に、彼の正体を知る謎の人物から脅迫状が届く。ホフマンは警察の人間が裏切ったのだと考えるが――。

    シリーズ第9作。内なる敵とも闘いながらのグレーンス警部の必死の捜査。下巻に続く。

  • 実際にスウェーデンを含む欧州諸国で問題になっている事柄に題材を求めながら、(スウェーデンの首都である)ストックホルムで執念の捜査を展開する大ベテランの警部と、息詰まる現場の闘いを勝ち抜く腕利きの工作員的な潜入捜査員との「ダブル主人公」というような体裁は、なかなかに読み応えが在る。本作は、その「ダブル主人公」の双方が、互いに助け合うべく各々の活動を展開して行くというようなことになって行く。
    上巻の冒頭は「過去」という短い纏まりから起こる。
    5歳の誕生日を祝ってもらったばかりであるという女児が「ハッピーバースデー」の歌を歌ってはしゃぎ、アパートの室内で飛び跳ねている。アパートの中には兄、姉、父母が在るのだが、彼らは一様に全く動かない。そういう中で女児は飛び跳ねてはしゃいでいる。
    アパートの前に人が集まっている。子どもが騒ぐ声がして、妙な臭いが漂い、何やら異様であると近隣住民が通報し、警察が駆け付けていた。警察関係者の先頭に立っていたのはエーヴェルト・グレーンス警部だった。とりあえずアパートに踏み込むことを決したグレーンス警部は、その室内で父母と兄、姉が殺害された状態で、遺体が在るアパートで飛び跳ねてはしゃぐ女児を発見した。「一家惨殺事件」として、グレーンス警部を始めとする警察関係者は捜査に着手するのだが、グレーンス警部は発見された5歳の女児を保護し、里親に託すことが叶うように奔走した。
    そして「現在」という本編が始まる。
    グレーンス警部を訪ねて来た捜査員が古い書類を持って話をする。住居不法侵入と見受けられる事案で通報を受けて捜査をしていたが、嘗て事件が在った現場に相当し、古い書類に「何か在れば伝えられたい」とグレーンス警部の名を添えたメモが在ったのだという。グレーンス警部は、一課が殺害されてしまった中に取り残された5歳の女児を保護した17年前の件を思い出した。
    グレーンス警部は、その17年前の一件を振り返ろうと、そして女児のその後に纏わることを知ろうと古い書類を閲覧しようとするのだが、異変に気付く。旧い書類が如何いう訳か無い。何者かが持ち去った、盗んだとしか考えられない状況だ。そうなると益々この件が気になってしまう。
    グレーンス警部がこの女児の件、一家惨殺の件を調べ始めて、動き回ろうとしていた時、考え事をしていた何時ものカフェにエリック・ウィルソン部長が「やはりここに居ましたね」と現れる。そして発生した殺人事件の捜査を是非担当して欲しいと言い出した。グレーンス警部は断ろうとするが、ウィルソン部長は是非にと強く言う。一家惨殺の時と同じような具合に銃で撃たれていて、死亡したのは一家惨殺事件で被疑者として捜査線上に浮かんで、結局逮捕に至らなかった人物だったのだ。グレーンス警部はこの件に取組み始める。
    他方、ピート・ホフマンである。潜入捜査員として様々な活動に従事した経過が在るホフマンだが、ストックホルムで落ち着き、妻、2人の息子、生まれた娘と家族で平穏に暮らしていた。警備会社を営み、順調に業務を進めてもいた。そのホフマンは謎の脅迫者に悩まされ始めた。ホフマンを潜入捜査員として最初に運用したウィルソン部長が当時綴った極秘書類が盗まれたか、勝手に写し取られたと見受けられ、ホフマンの正体を方々に明らかにしてしまう、また家族に危害を加えると脅し、要求する行動を取らせようとする。その行動とは、武器密売組織が新しい武器を売り出す宣伝のために、組織犯罪に殴り込んで壊滅的打撃を与えるということを求めるものであった。
    警察の機密が漏洩しているらしいという状況下、ホフマンはグレーンス警部に接触する。そして2人の共闘が始まるのだ。

  • 下巻でまとめて。

    作品の気温が33度で暑さを強調していますが、日本の夏はもっと暑いですよ。39度の2023年7月…。

  • 面白くなくはないのだが、いかんせんこの「ピート・ホフマン・シリーズ」はワンパターンに過ぎる。プロ潜入者ピート・ホフマンが超人的な「俺tue----!!!」を見せつけ、「捜査官」とはとても呼べない人間(なかんずく、「表」の)不信を臆面もなく見せつけて省みない彼をひたすら信じ待って耐える妻は「おしん」のよう、本来主人公だったはずのグレーンス警部以下警察官はすっかり脇役の引き立て役に。いかに面白い筋書きを伴っていようとも、だんだんひどくなるおっさんドリーム炸裂のこの設定が、4作目ともなるとさすがに鼻についてきた。

    さらに今作はクオリティ面でも明白な問題があって、オチが個人的に言うところの「ラストにダーッと」系。クライマックスだけ突如倒叙になって、重要人物が「実は私の正体は○○であって、できないと思われていたあーんなことやこーんなことをこっそり首尾よくやりとげていたのです!(ドヤッ」と立て板に水でまくしたてるアレである。
    それをキャラたちの掛け合いで暴いていくのがミステリだろう、と言いたい。「名探偵、みなを集めてさてと言い」も大概だがドラマ仕立てになっているだけマシで、「ラストにダーッと」はもはや小説ではなく単なるネタ帳である。短編なら紙幅の都合である程度やむをえないが、長編でこれをやられると萎えるなんてもんじゃない。

    ホフマンの息子たちとか、彼らとグレーンスの絡みには興味がなくもないのだが…それらとて「絶対ヒーロー ピート・ホフマン様へのご奉仕」を大前提として成り立っているからなあ。夫や父からあんなことやこんなことさせられたら、普通は切れるか壊れるだろ。すべての苦しみをぐっと飲みこんで、ただただ「ピートの癒し」であり続ける妻子像の気持ち悪いこと…警察小説の魅力のひとつにキャラクター群像があると思うのだが、その点がエーレンデュル警部シリーズと雲泥の差。ヘルマンソンも、ルーマニア語能力(と彼女自身の背景)を発揮した「地下道の少女」あたりではキラリと光る存在感があったのに、最近ではすっかり爺さんの精神的オナペットに成り下がっているし、あげく今作では別の男の…。
    やれやれ、だ。

    2022/6/4読了

  • 2024/4/21読了。

  • 2023.05.23
    下巻でまとめて簡潔にレビュー

  • 感想は下巻で。

  • もうピート・ホフマン開放してやれよ(笑)

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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