三年間の陥穽 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMル 6-15)

  • 早川書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151821653

作品紹介・あらすじ

三年前、同じ日に失踪した二人の少女。グレーンス警部は児童買春の証拠を手に、相棒ホフマンと最も危険な潜入捜査を行うが……。

感想・レビュー・書評

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  • アンデシュ・ルースルンド『三年間の陥穽 上』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第10作。グレーンス警部&ピート・ホフマン物の第5作。スウェーデンの社会派警察ミステリー小説。

    如何なる犯罪をも許さないグレーンス警部の献身的な捜査の描写と無駄の無いスピーディーな展開がリーダビリティを高めている。

    過去に家族もろとも幾多の危険な目に遭って来た憐れなピート・ホフマンはグレーンス警部の懇願により再び危険な潜入捜査を実行することに。

    ある日、10年前に亡くなった妻のアンニの墓を訪れたエーヴェルト・グレーンスは、墓地のベンチで1人の女性に話し掛けられる。女性は空の棺が埋められた娘の墓を訪れたのだと言う。女性の話によると、3年前に目の前で拐われた4歳の娘は警察の懸命の捜査でも発見されずに、既に亡くなったものとして諦めたと言うのだ。

    署に戻ったグレーンスが女性が語っていた事件について調べると、同じ日にやはり4歳の女児が失踪していたことを知り、愕然とする。

    さらに調べると行方不明となった女児たちはダークウェブサイトを使った小児性愛者の毒牙に掛かった疑いが出て来た。子供の人身売買防止団体に届いた全裸で首に犬のリードを付けられた女児の写真からデンマークの家具会社の従業員が関係していることを掴んだグレーンスはデンマークへと向かう。

    デンマークで明らかになったのはダークネットを使って取引する世界数ヶ国にも及ぶ多くの女児性愛者グループの存在だった。女児性愛者たちを一斉逮捕のためにグレーンス警部は小児性愛者を装い、ダークネット上でリーダーと接触し、再びピート・ホフマンを小児性愛者グループに潜入させることになった。

    そして、ピートは小児性愛者グループのリーダーと接触するためにアメリカへ飛ぶ。

    いざ下巻へ。

    本体価格1,500円
    ★★★★★

  •  グレーンス警部シリーズはついに終章を迎えつつあるのだろうか? そんな心配が胸を駆け巡る。それほど、しっかりと主人公の現在の日々、そして彼が過去に残した禍根から響いてくる痛みが、のっけから描かれてゆくからだ。亡き妻と、彼女が胎内に抱きかかえていた生まれなかった娘。グレーンス警部が毎夜、警察署の個室のコーデュロイのソファの上に身を横たえながら心に彷徨わせる孤独。帰って来ない家族への想い。

     本書では、傷つけられる子供たちというテーマが描かれる。聞いたこともないほど残酷な性被害を受ける、少年少女たちの存在が浮き彫りにされる。子供たちを犠牲にして自らの歓びや商売に結びつける鬼畜の如き親たち。彼らを結びつける悪魔のネットワークの存在。グレーンスが亡き妻の墓参りの後で出会ったのは、行方不明のままの娘のための空っぽの墓に花を捧げる女性だった。

     そしてその出会いにシンクロするかのように、行方不明の娘を三年間待ったという夫婦が、娘の捜索を諦め、その死を認め葬儀を行うことになったという報道を、グレーンス警部は耳にした。何故? 何故? 何故? グレーンスの頭の中で鳴り響く疑問が、その行方不明の娘の葬儀に、執拗に待ったをかける。行方不明の娘の双子の少年もまた、グレーンスに、彼女は生きていると思うと告げる。双子特有の直感のようなもの?

     この物語の導入部は、警察が認めてしまう捜査終了に抗い、個の力で子供たちを性の奴隷として商品化する悪のネットワークを暴こうと決意するグレーンスのある意味、心の物語だ。相変わらずテーマは重く、そして世界レベルでもある。

     もう金輪際潜入捜査はやらないはずのピート・ホフマンは、またもグレーンスの訪問を受ける。否、ピート個人ではなく、ホフマン一家がである。敢えて家族をも巻き込んでのグレーンスの説得に、ピートは暴力の形で激しい怒りをぶつけるが、何と妻がピートを説き伏せる。許し難い犯罪ネットワークをぶっ潰すよう要請するグレーンスのためではなく、失踪した娘とその母たちのために。

     前半は、この状況の構築だけで、ぐいぐい読まされる。後半は、お馴染みのダブル主人公のうち、ピートの潜入シーンが例によって核心部となるが、彼自体の命も脅かされるほどの敵方の慎重さと疑い深さに、我らが主人公は、シリーズ最大の危機を迎える。

     いつも思うのは、この作者の現代的なテーマの確かさと重さ、そして構図のしたたかさである。本書も、スピード感のある描写と共に、心の揺らぎや、状況の不安定感が全編を包むことで、全編、絶え間ない緊張が走り続けるものである。読者側の感情に訴えかけてくる人間性という救いが作品の中に見え隠れしなければ、あまりに過酷な物語として生理的にも受け付けられないテーマですらある。

     それでもグレーンス警部に関わる深い人間描写と、ピート・ホフマンという人間の運命性とを梃子のように使い分け、作品全体に強烈な力学を加えてゆくその小説作法は、いつもどの作品でも極めて素晴らしい上に、現代的な情報小説の側面も持ち、なおかつ時代と世界への警鐘を忘れない骨太の作品ともなっている。それがこのシリーズのいつもながらの特徴なのである。

     構成はこの上なく素晴らしく、プロローグで偶然に出会う忘れ難き名無しの女性との出会いのシーンが、ラストシーンに置いてグレーンス警部の心の中の状況として奇妙な響きを持つようなエンディングとなってゆく。一種不思議な感覚で終わるこのラストシーンもまた、この手練の作家の持つ魅力なのだ、と言って良い気がする。

     一気読み必須の語り口と、作者の健在ぶりを間近に見てしまうと、この先のグレーンス警部やピート・ホフマンとの再会がますます楽しみになる。そんな興奮冷めやらぬ読後を、ぼくはいま、多少の微熱とともに持て余しているのだと思う。

  • 子どもの人身売買を防止する団体に届いたのは、全裸で犬のリードを巻かれた少女の写真だった。グレーンス警部は、写真の手がかりを元にデンマークへ向かう。そこで明らかになったのは、ダークネットを通じた世界8カ国、21人にのぼる小児性愛者の存在だった。一斉逮捕のためには、グレーンス警部が小児性愛者を装い、ネット上でリーダーと接触する必要があった。残されたのは24時間。

    グレーンス警部シリーズ第10作。今回は身内からの支援がほぼなく、ピート・ホフマンの協力もなかなか得られないのだが。

    下巻に続く。

  • グレーンス警部シリーズ。重くて暗くて、頑固で孤独な老警部、むしろ私は、ピートが心配。

  • 「何やら面白そう…」という小説に出くわし、以前に愉しんでいたシリーズの最近作であることが判れば「是非!」と手にしてみたくなる。
    スウェーデンの小説の翻訳だ。ストックホルム警察のグレーンス警部が活躍するシリーズである。
    本作は、個人的な色々な事情を抱えながらも、過ぎる程に熱心に仕事に入り込んでいる頑固な老警部―本作では60歳代に入っていて、ストックホルム警察本部の最年長グループのようになっている…―のエーヴェルト・グレーンスが事件に向き合うのだが、グレーンスが頼みにしている、現場潜入要員のピート・ホフマンの活躍も痛快だ。物語は大まかに、グレーンスの視点で綴られる部分とホフマンの視点で綴られる部分から成っている。
    物語の冒頭、グレーンス警部は墓地に在る。他界した妻の墓参りで、色々と想い巡らせている。
    シリーズを通してこの妻の件が出て来る。事故で頭を負傷して、意識が無い状態で長く生きていたが、終に心停止で死亡ということになって埋葬されたという経過だった。
    墓地の何時も腰を下ろしているベンチで、グレーンス警部は不思議な女性に出くわした。女性は幼い娘を失ったと言う。娘は駐車場で車から連れ去られ、行方不明となり、3年経った頃に“死亡認定”したのだということだった。墓地には「空の棺桶」を埋葬したのだと語った。
    グレーンス警部はこの出来事が引っ掛かり、出くわした女性の娘が行方不明になったという日に、別な4歳の幼い少女がショッピングモールで姿を消して行方不明になったという件が在ることを知った。少女が何処かで存命なら7歳になっている筈だ。
    やがてグレーンス警部は3年前の事件を担当している警部補に事情を訪ね、娘が行方不明になったという一家を訪ね、間もなく“死亡認定”をするということ、未だ妹が居ると信じ続ける双子の兄のためにもそうして区切りとしたいとする両親の話しを聴く。それでも探すべきではないかと、グレーンス警部は両親と揉める。
    こうした一連の様子の中、グレーンス警部の様子が少しおかしいと感じた警部補は上司の部長に進言し、結果として部長はグレーンス警部に長期休暇取得を厳命した。
    暫く休暇の日々を過ごすグレース警部だが、オフィスに忍び込んで、帰らずに眠ってしまうことも多いオフィスのソファ―シリーズでは、深夜や早朝にこのオフィスに据えたソファに在るグレーンス警部という場面が多く在る…―で考え事をしていれば、他部署の知り合いの捜査員から情報が寄せられた。行方不明から“死亡認定”となった幼女の件でグレーンス警部が揉めた経過を知っていた捜査員が寄せたのは、ネット上に出ていた、幼女が身に着けていたという「青い蝶の着いた髪留め」が写った写真だった。これは母親の手作りということで、本人の所持品である可能性が非常に高いと見受けられた。行方不明の少女の足跡とも言える。
    こうしてグレース警部は、幼い子どもを弄ぶ、虐待をするというような小児性愛という傾向の者達が在って、色々な国々に在る「同好」の者達のグループが色々と在るということを知る。
    やがて「青い蝶の着いた髪留め」が写った写真の出処を辿り、グレーンス警部は隣国デンマークのコペンハーゲン近郊に在る警察署に至る。小児性愛グループの問題に懸命に取組む、IT関係担当の女性捜査員が仕事をしている場所を訪ねたのである。
    上巻ではグレーンス警部が事案に出くわし、大変な事件で、許されざる罪を犯している者を逮捕してグループを壊滅させなければならないと挑戦を始める。他方で、永年の疲労や、個人的な悩みを余りにも長く抱えて精神状態が好くないかもしれないと、心配する職場関係者に仕事の現場から遠ざけられてしまっている。それでも動かずには居られない訳だ。

  • 2023/10/6読了。

  • 北欧ミステリだから暗くないと! という方、どうぞ。
    北欧ミステリだから重くないと! という方、どうぞ。
    どーんと重い、暗い物語がここにある。

    スウェーデン発の、シリーズものである。
    面白いのは間違いない。
    途切れたシリーズが、読者の熱い要望で、復活したという歴史を持つくらいだ。
    そんな人気シリーズ8作目、最新刊である。

    シリーズものだから、ついていけるか心配?
    大丈夫。
    話は一話ごとに完結しているし、過去作について必要なことは、作者がプロの手腕でうまくわかりやすく書いている。

    主人公はエーヴェルト・グレーンス、ストックホルム市警警部だ。
    頑固で、協調性がなく、マイペースな、困ったおっさんである。
    もう一人の主人公が、ピート・ホフマン・コズロウ、元潜入捜査員だ。
    エーヴェルトが世界一だと保証する捜査員である。

    シリーズ読者は知っている。
    初めての読者もわかる。
    この二人が悪を滅ぼすのだなと。
    この二人がそろえば無敵だと。
    よし、戦え、エーヴェルト&ピート!
    この悪をぎったんぎったんに倒してしまえ!

    それがなあ、なかなか揃わないのだ。
    その理由も頷けるのだ。
    だよねえ、そうだよねえ、まずいよねえ、でもねえ・・・・・・

    はじまりが墓地だ。
    テーマは児童売春だ。
    二人はなかなか揃わない。
    エーヴェルトは孤軍奮闘だ。
    そして、その体調が心配だ。

    あらすじを見もせずに、出先に持っていったのだが、読むなり、ズーンと暗くなってしまった。
    呼ばれて顔をあげた時、現実世界に戻るのに、ギクシャクしてしまったくらいだ。
    私がだんまりと読んでいるばかりで、本の話を一切しないので、家族は困惑していた。

    北欧ミステリだから暗くないと! 
    北欧ミステリだから重くないと!
    そういう方には特にお勧めである。

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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