三年間の陥穽 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMル 6-16)

  • 早川書房
4.24
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151821660

感想・レビュー・書評

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  • アンデシュ・ルースルンド『三年間の陥穽 下』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第10作。グレーンス警部&ピート・ホフマン物の第5作。スウェーデンの社会派警察ミステリー小説。

    下巻も上巻に劣らずスピーディーな展開が続き、一気読みだった。小児性愛者グループが一網打尽にされ、これでこの悲惨な物語は終わりかと思ったら、まだまだ続きがあり、驚愕の事実が次々と明らかになる。

    久し振りの快作。

    サンフランシスコに到着したピート・ホフマンは小児性愛者の一人、カール・ハンセンに変装し、小児性愛者サークルの謎のリーダーとその仲間と接触する。

    しかし、リーダーに疑われたピートは薬を盛られ、身体の自由を奪われる。絶体絶命のピート……

    危険を察知して現場から逃走したリーダーは、パソコンに保存されたおぞましい犯罪の証拠の隠滅を図る。

    果たして、世界各国に散らばる小児性愛者グループを壊滅することが出来るのか……

    青い蝶の髪飾りの女児は……

    本体価格1,500円
    ★★★★★

  • こういうテーマの方が本領発揮してると思う。めちゃ読みやすくなってきてるし。

    (分冊する必要性を全く感じない、改行と余白が鬼畜すぎる)

  • 下巻はピート・ホフマンの息詰まる潜入捜査で幕を開ける。極論を言うなら、扱い難いグレーンス警部よりリアリストのピートの活躍に胸を踊らされていたので今回はとても辛かった。今回のテーマも暗澹たるやりきれない社会の一面を取り上げてあり、最後の一文に救いを見た気がした。

  •  グレーンス警部シリーズはついに終章を迎えつつあるのだろうか? そんな心配が胸を駆け巡る。それほど、しっかりと主人公の現在の日々、そして彼が過去に残した禍根から響いてくる痛みが、のっけから描かれてゆくからだ。亡き妻と、彼女が胎内に抱きかかえていた生まれなかった娘。グレーンス警部が毎夜、警察署の個室のコーデュロイのソファの上に身を横たえながら心に彷徨わせる孤独。帰って来ない家族への想い。

     本書では、傷つけられる子供たちというテーマが描かれる。聞いたこともないほど残酷な性被害を受ける、少年少女たちの存在が浮き彫りにされる。子供たちを犠牲にして自らの歓びや商売に結びつける鬼畜の如き親たち。彼らを結びつける悪魔のネットワークの存在。グレーンスが亡き妻の墓参りの後で出会ったのは、行方不明のままの娘のための空っぽの墓に花を捧げる女性だった。

     そしてその出会いにシンクロするかのように、行方不明の娘を三年間待ったという夫婦が、娘の捜索を諦め、その死を認め葬儀を行うことになったという報道を、グレーンス警部は耳にした。何故? 何故? 何故? グレーンスの頭の中で鳴り響く疑問が、その行方不明の娘の葬儀に、執拗に待ったをかける。行方不明の娘の双子の少年もまた、グレーンスに、彼女は生きていると思うと告げる。双子特有の直感のようなもの?

     この物語の導入部は、警察が認めてしまう捜査終了に抗い、個の力で子供たちを性の奴隷として商品化する悪のネットワークを暴こうと決意するグレーンスのある意味、心の物語だ。相変わらずテーマは重く、そして世界レベルでもある。

     もう金輪際潜入捜査はやらないはずのピート・ホフマンは、またもグレーンスの訪問を受ける。否、ピート個人ではなく、ホフマン一家がである。敢えて家族をも巻き込んでのグレーンスの説得に、ピートは暴力の形で激しい怒りをぶつけるが、何と妻がピートを説き伏せる。許し難い犯罪ネットワークをぶっ潰すよう要請するグレーンスのためではなく、失踪した娘とその母たちのために。

     前半は、この状況の構築だけで、ぐいぐい読まされる。後半は、お馴染みのダブル主人公のうち、ピートの潜入シーンが例によって核心部となるが、彼自体の命も脅かされるほどの敵方の慎重さと疑い深さに、我らが主人公は、シリーズ最大の危機を迎える。

     いつも思うのは、この作者の現代的なテーマの確かさと重さ、そして構図のしたたかさである。本書も、スピード感のある描写と共に、心の揺らぎや、状況の不安定感が全編を包むことで、全編、絶え間ない緊張が走り続けるものである。読者側の感情に訴えかけてくる人間性という救いが作品の中に見え隠れしなければ、あまりに過酷な物語として生理的にも受け付けられないテーマですらある。

     それでもグレーンス警部に関わる深い人間描写と、ピート・ホフマンという人間の運命性とを梃子のように使い分け、作品全体に強烈な力学を加えてゆくその小説作法は、いつもどの作品でも極めて素晴らしい上に、現代的な情報小説の側面も持ち、なおかつ時代と世界への警鐘を忘れない骨太の作品ともなっている。それがこのシリーズのいつもながらの特徴なのである。

     構成はこの上なく素晴らしく、プロローグで偶然に出会う忘れ難き名無しの女性との出会いのシーンが、ラストシーンに置いてグレーンス警部の心の中の状況として奇妙な響きを持つようなエンディングとなってゆく。一種不思議な感覚で終わるこのラストシーンもまた、この手練の作家の持つ魅力なのだ、と言って良い気がする。

     一気読み必須の語り口と、作者の健在ぶりを間近に見てしまうと、この先のグレーンス警部やピート・ホフマンとの再会がますます楽しみになる。そんな興奮冷めやらぬ読後を、ぼくはいま、多少の微熱とともに持て余しているのだと思う。

  • 小児性愛者の会合に潜入するためホフマンはアメリカへ向かう。グレーンス警部は世界8カ国の警察と共に、ホフマンからの連絡を待っていた。だが、犯罪組織リーダーの狡猾な罠にはまり素性を暴かれてしまった。ホフマンは薬をもられ、身体の自由を奪われてしまう。果たしてホフマンは、一斉逮捕の時間までに、リーダーの正体を暴くことができるのか。そして、最後にグレーンスがたどり着いた驚愕の真実とは。

    テーマがテーマなだけに、えぐい描写があるかと覚悟していたが、節度が保たれていて一安心。

    しかし、この分量で上下巻合わせて3,000円プラス消費税。10年前の2倍ぐらいか。お財布には優しくない。いろいろな要因があると思うが、購入する本をよく選ばないと。

    • ことぶきジローさん
      購入したものの、まだ本棚に寝かせている本です。海外翻訳物の文庫本が1,500円を超える時代になりました。日本の作家の文庫本も900円は覚悟し...
      購入したものの、まだ本棚に寝かせている本です。海外翻訳物の文庫本が1,500円を超える時代になりました。日本の作家の文庫本も900円は覚悟しないとならないし。本好きには厳しい時代です。
      2023/06/04
  • 〈グレーンス警部〉シリーズ。毎回のことではあるけれど、このシリーズで描かれる犯罪やその奥にある人間の欲の重苦しさに疲れてしまう。今作は小児性愛がテーマとしてあって、そこにいる犯罪者たちの言動、行動に強い嫌悪感を感じながら読みすめることになる。小児性愛者たちのなかに潜入するピート・ホフマンの葛藤、子を奪われた親たちの絶望感と救いが見つけられない展開が続き、ラストまで一気読み。

  • このシリーズは、現実に起きている問題、社会の暗部を取材した成果を織り込んだ内容であると同時に、「意外な展開」を見せて、なかなかに面白い物語に仕上がっている。シリーズ作品を読んだのは、何時の間にか随分と以前になってしまったが、その間も作品は発表され続けていて、未読作品が少し多くなった。それはそれとして、本作でシリーズに改めて出遭えて善かった。
    グレーンス警部は、デンマークの女性捜査員やその他の人達の協力も得ながら活動を続ける。
    暗号化したネット上のやりとりで、幼い子どもを弄んで虐待をしている写真等をやりとりしているグループのリーダーと目される人物と、他のメンバーが会うという相談になっているらしいと判明した。そこに、デンマーク人のメンバーになりすました潜入要員を送り込み、何とか取押え、同時進行で各国の警察によって各メンバーを逮捕するという計画が立てられた。
    下巻ではグレーンス警部の依頼を受け、逡巡しながらも「心の傷の故に何とか問題の解決に力を尽くして欲しい」とする妻の願いも受け、問題のグループの会合が行われる米国のサンフランシスコに乗込むホフマンの闘いが大きな位置を占める。
    ホフマンの闘いの行方と、デンマーク警察が各国警察の協力で進めた作戦の行方、そして「意外な展開」が観られる。“続き”が気になって、ドンドン読み進めて素早く読了に至ってしまった。
    墓地での奇妙な出会いでグレーンス警部が知った事案は3年前の出来事だった。そしてその3年前から、多くの人達が陥穽(=落とし穴)に落ちてしまっていたということになる。それが明らかにされる。
    卑劣な犯罪への憤りを静かに燃やしながら考えを巡らせるグレーンス警部の部分と、腕利きな工作員というように冷徹に任務に取組んで悪辣な者達を倒すホフマンの部分との、底流が通じていながらも、少し対照的な感じの部分が組み合わさって構成される物語が凄く面白かった。「静」と「動」とが組み合わさって、力強く物語を推し進めているというような様子だ。
    上下巻を通して一気に読める。御薦め!!

  • シリーズ当初はとっつき難いキャラで、何て感情移入しづらい主人公なんだろう…と思ってたグレーンスが、シリーズを重ねていく度毎に人間味を帯び、ピートとその家族との関わりを通じて頑なな心を少しずつ開いていく様子が何だか他人事とは思えず、次作もあるらしいのだが今からもう心配です。

  • 久々に超弩級の胸糞で、度々瞬間的に手を止めたくなりますが、それでもやはり読ませる筆致には流石という言葉しか出てきません。
    グレーンスとホフマンのブロマンスものとして読まないと心が持たない面も。そのくらい過去に例がないくらいの胸糞です。心して読んで下さい。

    でも電話の声を聞いただけで状態を察する感じ等、ブロマンスものとしても拍車がかかってきましたよ!
    本作は今までのレギュラーメンバーの登場が少ない分より一層な感じがしますね。
    いやはやこりゃあどちらかが死ぬまでシリーズ続いちゃうでしょうね。
    タイトルの三シリーズは邦訳で続いてるだけですが、ここは訳者の腕の見せ所ですね。そこも楽しみ!!

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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