- Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152035530
感想・レビュー・書評
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1993年 441ページ
第109回直木賞受賞作です。
高村薫さんの作品初読みです。
高村薫さんは改稿が多い作家さんのようで、『マークスの山』も文庫版ではかなり改稿されているとのことです。私が読んだのは単行本で改稿前の作品です。
長いお話でした。難解な表現が多く、重厚な物語でしたが、面白かったです。レビューでよく言われるところの硬質な文章に、最初、作者は男性かと勘違いしてしまいました。
警察内部の人間や事件の捜査の描写は緻密に描かれていて、リアリティと迫力がありました。同じ捜査班でも真っ先に手柄を上げようと相手を出し抜こうするところ、喧嘩腰のやり取り、上層部からの圧力、そしてここでも出てくるマスコミ関係者のあしらいなど、きれいごとでは済まない人間ドラマがあります。
一昔前の作品で、今では使われていない精神分裂病という言葉が出てきます。現在は統合失調症に変更されています。
マークスは子供の頃に両親が車内でガスによる無理心中をはかり、1人脱出して辛くも生き延びた。母親の精神疾患の遺伝とガス中毒による後遺症により重度の精神疾患を患う。3年ごとに躁状態と鬱状態を繰り返している。マークスが入院中、献身的に看護した真知子とは、再開して恋人同士の関係となる。その頃、連続して殺人事件が発生していたが、被害者は何の関係性もないような人物たちだった。しかし、凶器が同じものである可能性が高く、同一犯による犯行ではないかと推測された。警視庁の合田雄一郎、他捜査員たちは犯人の手掛かりを追って奔走するが、謎の犯人にはなかなか辿り着けない。そして、第3の殺人が発生する。
この物語は、犯人の手口が情け容赦なく凶悪です。また、被害者サイドが周辺を嗅ぎ回られたくないようで、捜査に対する隠蔽工作を行っています。結末にはどんなエピソードがあるのだろうか、といろいろ考えながら読みました。
謎が明らかになった後は、哀切感とやるせないような気持ちになりました。完全な悪人はいなくて、全ての登場人物に対する不快感がなくなりました。
テーマは山。山を愛する男たち。明るい山と暗い山を行き来していたマークス。最後は、壮絶な山の厳しさ、壮大な山の美しさが全てを浄化するような描写でした。
山へ登るという行為について登場人物の印象的なセリフがありました。
「現実的であると同時に厭世的で、自己陶酔的で、限りなく献身的で利己的で、且つ……繊細なところが」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
合田がかっこいいのと最後のシーンがはまりまふ。
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合田雄一郎シリーズの第1作品、レディージョーカーから照柿と読んできた。
ミステリー色が強いように感じたがミステリー作品として読むと何か消化不良のように感じる、遡って読んできて第1作のこの時点で合田はすでに陰鬱な雰囲気を出しているしシリーズといっても謎解きのヒーローでもないし。
警察組織の内部の問題、外部からの圧力などを描きながら真実に辿り着く様、面白かった。
でも最後林原どうなるのかー、気になる…と言ったらダメなんだな。
三つ読んだ中では照柿が一番好き。 -
気合が必要な本だ。
内容も量も、ずっしりと重い。
けれど、時折現れる驚くぐらいに美しい場面。ここを読むと、また印象が変わってくる。
基本、容赦がない本。でも面白いです。
合田と加納さんの、何とも言葉に表せない雰囲気。好き。 -
高村薫さんといえば、あの「酒鬼薔薇」事件を思い出す。
彼女は、だれもが「黒いゴミ袋を提げた中年の男」を犯人と疑わずにいたときに、タンク山に実際に登ってみて「ここは大人が死体を隠すような場所ではない」という意味の論説を新聞に発表していた。
その後、すぐに犯人が中学生だと判明し、そのあまりの慧眼に大いに恐れ入ったものである。
高村薫という作家の作品は、緻密かつ心理描写の巧みさが売り。
そのかわり非常に取っ付きが悪い。(この小説も、50ページ読み進むのに何日かかったことか)
最後まで読めたのは、ひとえに主人公の合田刑事のキャラクターによる。
わたしは惚れました。(ぽっ)
この人に共感できるかどうかが、評価の分かれ目かもしれない。
最近、高村さん本人による推敲文庫版が出たそうだが、こんなに完璧に見えるのに、どこがどう気に入らなかったのだろうか。
頭のいい人が考えることはわからない。 -
日本アルプスと精神の山。
どちらにも暗い謎が隠されている。
水沢におぼれるマチコに涙です。 -
暗い山に魂を囚われた連続殺人犯マークスを追う合田刑事たちと警察組織内の軋轢やパワーゲームが描かれた重厚な警察小説。登場人物こんなに要る?ってくらい多いので把握するのにちょっと一苦労。映像化にあたって人員削減されたのもさもありなん。
合田たちが被害者の小さな点と点を緻密に繋いでいき巨大な山の全貌を詳らかにしていく展開が圧巻。読者にはマークスの為人が序盤から明らかにされているので合田の脳裏でたびたび起こるニアミスにもどかしさを覚えつつも繋がった瞬間キター!となること請け合い。
文庫版は全面改稿されて特にマークスの人物描写がかなり違うらしいのでそちらもいずれ読んでみたい。 -
凄い。出版当初も、評判の一冊だっただろう。合田さんの若き日の中間管理職の悲哀と仲間の微妙な距離感やチームワークが事件を突き詰めていく。合田シリーズは、自分のマイブームです。
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緻密で重厚。
探偵がトリックをあばくようなミステリーではない。
刑事が真実にたどり着くまでを描く警察小説。
凶器の確定方法が「え、そうやるの?」と疑問。
犯人の動機わかりずらい。ただ単に不正が許せなかっただけなのか?
終盤のホテルの一室でのやりとりはヒリヒリとした緊迫感がある。
シリーズ化や続編への布石なのかもしれないが、
主人公の元妻や義兄の存在は蛇足ではなかろうか。
ブックオフで200円、とても良い買い物だった。