- Amazon.co.jp ・本 (492ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152087393
作品紹介・あらすじ
われわれの生活に欠かすことのできない音楽。この音楽は、いつごろ、どのようにして人類の歴史に誕生したのだろう。音楽は進化の過程でことばの副産物として誕生したというのが、これまでの主要な意見であった。しかし、ミズンは、初期人類はむしろ音楽様の会話をしていたはずだとし、彼らのコミュニケーションを全体的、多様式的、操作的、音楽的、ミメシス的な「Hmmmmm」と名づけた。絶滅した人類、ネアンデルタールはじゅうぶんに発達した咽頭と大きな脳容量をもち、この「Hmmmmm」を使うのにふさわしい進化を遂げていた。20万年前の地球は、狩りをし、異性を口説き、子どもをあやす彼らの歌声に満ちていたことだろう。一方、ホモ・サピエンスではより明確に意思疎通するために言語が発達し、音楽は感情表現の手段として熟成されてきたものと考えられる。認知考古学の第一人者として、人類の心の進化を追究しつづけるスティーヴン・ミズンが、太古の地球に響きわたる歌声を再現する。
感想・レビュー・書評
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タイトル通り過ぎて意外、面白いが視野は少し狭い
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音楽によって自分の感情を表現したり、他者の感情や行動を操作することができる。音楽と言語は、どちらも発声、動作、筆記によって表現でき、身振りや体の動きがある。しかし、言語の情報伝達は構成的で、音楽の意味は全体的である。また、言語は指示的でも操作的でもあるが、音楽は感情を誘導する操作的なものである。
著者は、音楽が言語進化の副産物と考えることも、音楽から言葉が派生したとも考えにくく、音楽と言語に共通の先駆体があったと考え、それをHmmmm(全体的、多様式的、操作的、音楽的)と表記している。
乳幼児への発話(IDS)は、メロディがメッセージになっており、韻律だけで話者の意図をくみ取ることができる。
乳児の音楽単語の識別は絶対音感への依存度が高く、成長するにつれて相対音階へ変わってゆく。メロディを絶対音感でしか識別できないと、声のピッチが異なる同じ単語を認識できないため。これを進化に置き換えると、サルは絶対音感を用いているかもしれない。
アフリカ類人猿の鳴き声の大まかな音響構造は似ており、すべてグラント(うなり声)、咆哮(ほえたける)、叫び、フートの変形である。これらがヒトの言語や音楽の先駆体になったと想像できる。
人類との類縁関係が遠い霊長類には、言語的で音楽的な発声をするものがある。ベルベットモンキーは決まった捕食者に対して決まった声を発する。ゲラダヒヒは人の会話にそっくりな音を社会相互作用に用いる。発声の始まりと終わりを示すためにリズムやメロディを変化させ、IDSと類似性がある。つがいによるデュエットは、テナガザルなどの一夫一婦制の霊長類で見られ、絆固めや縄張りの主張などの協力を行っていると思われる。サルとヒトは、それぞれの感情を表現するために同じようなピッチ変化を用いる。
類人猿が他の個体に知識を説明しないのは、自分の知識と他者の知識が異なることを認知できないためではないかとの説がある。
ホモ・エルガステルは、頭蓋の真下から脊髄が通じるようになった。脊髄と口の間にある喉頭の空間が狭くなったため、喉頭はのどの下方に位置するようになり、声道が長くなり、発声できる音の幅が広がった。用いる言語は、全体的な発話だった可能性が高い。
初期人類は、動物のコールや自然界の音をまねただろう。音共感では、「イ」が小さいもの、「ウ、オ、ア」は大きいものと結びつく。鳥の名前は機敏な動きを表す高周波の分節音からなり、魚の名前はゆっくりとした魚らしさを表す低周波の分節音からなる。
感情のこもった、音楽的に豊かなHmmmmの発声を共有することで、集団同一性を作り出し、協力行動を促進した。
音声言語に欠かせない複雑な運動制御に必要な神経の多さを反映する舌下神経管の大きさ、話し言葉のために呼吸を制御する神経が通る脊柱管の直径は、いずれもネアンデルタール人と現代人とで同等だった。しかし、意図的な加工品で、実用的な使い方以外の非象徴的な解釈ができないものが見つからないことから、象徴的な意味のある発話である言葉を使っていなかったと推測される。それぞれの動物に合わせた専用の武器をデザインすることがなかったことは、博物的知能と技術的知能をひとつの思考にまとめることができなかったためと考えられる。言葉を使わなかった代わりに、音楽能力を進化させていただろう。
脳内で言語の神経回路を発達させる遺伝子を含むFOXP2遺伝子は、類人猿とヒトではアミノ酸が2つだけ異なり、この変化は20万年前以降に起きた。
10万年前に近東に移住したスフールとカフゼーのサピエンスは、制作していた石器から考えると、Hmmmmに頼ったコミュニケーションを行っていた。5万年前を過ぎた頃に近東やヨーロッパに進出した現代人は、壁画、彫刻、埋葬人骨、石の人工物、骨器などの象徴的思考の証拠から、構成的言語を使用していたと考えられる。
構成的で指示的な言語が進化した後に、Hmmmmは感情の表出と集団同一性の確立のためだけの音楽というコミュニケーション手段となった。音楽は、超自然の存在とのコミュニケーションとして、宗教的な機能を持っていたと考えられる。
Hmmmmは他に、乳幼児への発話、身振り、擬音、音声模写、音共感、あいさつなどの定型表現として残っている。 -
MS4a
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何故ヒトは音楽を楽しむのか?
音楽を聴いたり作ったりすることによって、食物が得られたり子孫が生まれたりするわけでもないのに――。
そんな問いに答えてくれるのがこの本です。
結論から言うと、本書にはこのように書かれています。
“音楽は、言語が進化したあとの「Hmmmmm」の残骸から生まれた”
“音楽作りは、言語のほうがはるにうまく情報を伝達できるおかげで、先駆体時代の本来の役割のひとつが不要になって生じた衝動が進化したものだ”
本書を未読の方からすれば、なんのことやらでしょう。「Hmmmmm」ってなんだ?
引用を含む解説をすると、「Hmmmmm」は著者が作った造語で、全体的、多様式的、操作的、音楽的、ミメシス(意図的ではあるが言語的ではない表象行為を意識的、自発的におこなう能力)的な特徴を持つ精巧なコミュニケーション体系を表わしています。
先駆体とは、ホモ・エルガステルやホモ・エレクトスといった我々の祖先のことです。
著者はまず、「構成的原型言語説」と「全体的原型言語説」というふたつの対立した説を提示しました。
「構成的原型言語説」とは、まず「俺」「熊」「殺した」などの単語が生まれて、それを恣意的に繋げることから言語が始まったという説です。
それに対して「全体的原型言語説」とは、構成的原型言語説とは逆に、先に長いフレーズが生まれ、それが“分節化”することで単語が生まれ、その後、それを組み合わせて言語が形作られていったという考え方です。たとえば「彼女にそれを渡せ」という意味の「テビマ」というフレーズと、「彼女とそれを分けろ」という意味の「クマピ」というフレーズがあった場合、そのふたつに共通する「マ」を「彼女」と定義する、というふうに単語が生成されるといった形で。
著者は、全体的原型言語説を支持して、実験心理学や考古学の研究結果を通して、理論を固めていきます。おおまかな流れとしては、
①我々の先駆体(サルと共通の祖先)が「Hmmmmm」によるコミュニケーションを取り始める。
②「Hmmmmm」から単語を抽出できる遺伝子を持った個体が生まれ、その単語を組み合わせた言語で、複雑な概念を伝達できるようになる。
③言語を獲得したことによって、認知的流動性(個々の知能の考え方や知識の蓄えをひとつにまとめ、新しい思考――たとえば、人の心を持つライオンなどの空想的生物など――を生み出す能力)が生まれる。
④情報交換の役割を言語に譲った「Hmmmmm」は、認知的流動性の持つ創造性(宗教や、複雑な楽器の誕生など)に後押しされながら音楽として発展していく。
本書の論旨は、おおよそこのように展開されます。多岐に渡る分野の事例を用いて、展開していくプロセスは非常に慎重でスリリングです。わりと分厚い本ですが、飽きずに読むことができました。
私が重要だと思うのは、いちど断絶されたように見える言語と音楽が「Hmmmmm」というひとつの根を持っているということです。定型詩の面白さは、おそらくここに起因しています。日本人が好きな七語調のリズムは、きっと劇的で普遍的な「Hmmmmm」としてかつても愛されていたのでしょう。
音楽――クラシック、ジャズ、ロック、ポップス、なんでも――を聴くとき、かつてその源流であった我々の先駆者の音楽や「Hmmmmm」に思いを馳せてみるのも良いかもしれません。 -
歌うネアンデルタール
森さん情報 -
音楽と進化論
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言語も音楽も進化の過程でヒトが手に入れたものだが、言語より音楽の方が先だったとは意外な話。題名に反して表紙がゴリラなのはなぜかしら。
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<閲覧スタッフより>
音楽は言語の副産物としてではなく、双方が備わったコミュニケーション体系をネアンデルタール人が用いていたという驚嘆する内容が述べられています。そのコミュニケーションを、認知考古学者である著者が「Hmmmmm」と名付け、人類の進化を辿りながら音楽と言語にまつわるいくつかの事例を挙げ、大胆な仮説を追究しています。
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所在番号:469.2||ミス
資料番号:20095932
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2013 8/9パワー・ブラウジング。同志社大学今出川図書館で借りた。
図書・図書館史授業用。どうしてもことばの歴史に触れざるを得まい、しかし厄介であるし深入りしたくない・・・と考えつつ、この本だけは読んでおくか、と思い手にとった。
音楽について論じるのが主な目的で書かれだしたものの、そのためには言語の話と切り分けることはできないと考えた著者が、両者ともに扱っている本。ていうか結果的に言語に関する部分が多いなやっぱりw
第1部は現在の言語と音楽に関しわかっている事実の整理、第2部が進化史的に見た両者の話。今回は第2部を中心にパワー・ブラウジング。
最終的には「まだ議論中、新発見でいくらでも覆りうる」的な注釈はいるだろうけど、今のところは一番しっくりくる言語の起源に関する説明のある本、という気はする。これに従って授業の頭はやるか。
以下、授業向けの点や気になったところのメモ
・p.13 原型言語について
「言語はきわめて複雑なコミュニケーション体系だ。現代人の祖先・親戚が使っていたコミュニケーション体系が徐々に進化して、次第に複雑なものになった結果と考えるしかない。研究者は、この現代人の祖先・親戚のコミュニケーション体系に「原型言語」という汎用的な呼び名をつけている」
・p.14 原型言語の2つの仮説・・・「構成的」or「全体的」
⇒・構成的:原型言語は単語とわずかな文法からなる
⇒・こっちがずっと優位だったが、著者はそれは誤りと考える
⇒・全体的:言語の先駆は単語ではなく「メッセージ」からなるコミュニケーション体系
⇒・個々の意味ある単語を組み合わせてメッセージを発していたのではなく、おおまかなイメージを伝えていて、それが徐々に分節化されて単語になっていく、という考え方
・p.160 サルとヒトの発声
「サルとヒトの発声の波形に見られた類似性は目をみはるものだった。それぞれの感情を表現するのに、サルとヒトは同じようなピッチ変化を用いていた。レイノネンらは、感情のこもったヒトの音声に強力な"霊長類に備わった遺伝形質"が含まれていることの反映だと考えた。彼らによれば、これは、サルの母親もヒトの母親も生まれたばかりの赤ん坊にはっきりと区別できる声でさまざまな感情を伝える必要があるからで、ヒトの成人の行動には文化の影響が強力に働くにもかかわらずこの特徴は消えないとした」
◯9章:アウストラロピテクスにおけるコール(発声によるコミュニケーション)の拡大について
・サバンナで狩り/死肉を探す生活・・・全体的・操作的身振りとコールのレパートリーを増やす圧力に(目立つサバンナで強力な外敵の目をかいくぐりつつ食糧探しをする必要がある)
・社会集団が森林生活よりも大きくなる・・・コミュニケーション圧力
⇒・初期のコールでは社会的献身等は伝えようがない
⇒・「歌」=リズム・メロディを使って一緒に歌ったりすることで互いの献身を表現したのではないか?
⇒・心の理論の発達・・・自分が持っている知識を相手が持っていないことがあることに気づけた影響の大きさ(類人猿にはこれはない可能性が指摘されている)
◯10章:ホモ・エルガステル=原人
・二足歩行の影響・・・喉頭の位置が変化⇒声道が長くなる⇒多様な音を出せるようになる
⇒・進化の偶然の産物か?
⇒・リズム・・・効率よく歩く/走る/その他二足歩行生活に欠かせないもの
⇒・特に持久走能力?・・・長距離持久走能力を持つサルはヒトだけ・・・これもサバンナの影響もあるか・・・そしてこれが歩行以上に解剖学的人体進化に影響したとの説
◯11章:初期人類の拡散
・自然環境についてなど様々なことを伝える必要性=コミュニケーション圧が高まる
・全体的メッセージにとどまっていた可能性大・・・伝えられる内容に限界/思考と行動の保守化に影響?(180万年前~25万年前の初期人類の行動様式に大きな革新がない)
◯13章:母子コミュニケーションの影響
・母親をあらわす音か、「ばっちい!」(=それに触るな/口に入れるなという母側からの警戒音)が最初の"ことば"?
⇒・「Yuk!」とか「イーヤァ」と聞こえる音は不快なものと考える傾向は言語によらず共通・・・このあたりか?(たしかに嫌(イヤ)は嫌だ)
⇒・全体的メッセージではなく単一の語
◯15章:ネアンデルタールの話
・著者はネアンデルタールも言語は持っていなかっただろうと推測
⇒・大きな脳を使って全体的メッセージを精緻化して使う=ことばのない「歌」によるコミュニケーション
⇒・象徴的な人工物=用途のないシンボルだけのものを作った形跡がネアンデルタールにはない
⇒・文化の極度固定・・・25万年前から絶滅する3万年前まで、生活変化の形跡がない
◯16章:言語の起源・・・ホモ・サピエンス登場
・言語の起源・・・20万年前
・言語能力に影響する遺伝子がある??(Natureに論文ありとのこと。授業で使うかは要検討)
・この段階で全体的なメッセージの分節化が起こる・・・なぜ?
⇒・社会変化?(よそものとよく触れ合う・・・学習対象が増える、学習者は系統だっているわけではないランダムなメッセージから、なんらかの系統性があるものと考えて誤った系統性に基づくメッセージを使い出す、それが結果的に構成言語に至る。コンピュータシミュレーション環境では実際に起こることがわかっている)
⇒・遺伝子変化の影響?