神の棘 2 (ハヤカワ・ミステリワールド)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 306
感想 : 64
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091512

感想・レビュー・書評

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  • そこひっくり返してきましたか
    いやいやとても完成度の高い作品でした

    しかしながらやはり読んでいて気になったのは
    果たして須賀しのぶさんは宗教に対して肯定的なのか否定的なのかあるいは中立なのかというところでした
    自分が感じたのはその3方向それぞれに揺れ動いているような感じです
    ちなみに中立というのは肯定と否定の間にあるわけではなくあくまで三角形のそれぞれの頂点というイメージです

    そしてあの暗黒の時代に宗教(カソリックと限定してもいい)が果した役割とは何だっのか考えさせられます
    そしてそれこそがこの作品の主題であることは『神の棘』という題名からも明らかなのではないでしょうか

    自分自身は父親の葬式はお寺であげ、新年には神社に初詣に行き、クリスマスに浮かれる典型的な日本人で
    神様の存在は自分にお願いごとがある時だけ湧いてくる人間です

    なのであまり「神」という存在を真剣に考えたことはありませんが
    もしあのユダヤ人の虐殺が『神の棘』だとしたら
    そして命令されあるいはそれが正しいと信じさせられ虐殺に手を染めたことが『神の棘』だとしたら
    そしてそれが「赦される」ためのものだとしたら
    そりゃあないだろうと
    それを納得できる精神構造こそ理解出来ません

    また作中で宗教は常に敵役を求めているという記述があり
    恐ろしいことですが少しだけなるほどと思うところがありました
    悪魔がいなければ神も必要とされないということです
    これは神が神として存在しうるために悪魔を生み出しているあるいは悪魔が生まれるのを歓迎しているともとれます

    ならば今現実の世界で行われている悪魔の所業も神が用意した棘なのでしょうか
    止められない私たちに刺さった棘も一緒にいつか赦されるのでしょうか

  • 歴史に詳しいわけではなかったですが、ユダヤ人はなぜ虐げられてきたのか?ナチスに傾倒していったのはなぜなのか?一端が少しわかった気がします。戦争が始まるきっかけや終焉までにはもちろん詳細な事実があり、それぞれ立場が違えは見方も変わると思います。革命前夜、また桜の国で、の2作品を先に読みました。それぞれ時代、立場が違う作品を読んで、この作家さんは歴史の検証をしながら本当にその場にいたかのように登場人物の目を通して書かれているので引き込まれてしまうなぁと思います。
    人ひとりひとりは家族や友人をを愛したり護りたい。それぞれのささやかな幸せを守りたいだけなのだなと思いました。しかし世情への不満、その時の限られた選択で間違った道へも突き進んでしまう。それの行き過ぎた形が戦争、戦争中の差別、虐殺へと繋がってしまう。人間の思考はそんなに変わるものではないと思われるので歴史から学び間違った選択をできるだけしないことが大切だと思いました。神を信じることについても作品の中で登場人物が葛藤するのをみながら自分の宗教観についても考えさせられました。
    この作品はミステリーと名のつく通り、ここで繋がってるのか!と夢中に読み進めました。アルベルトの潔よい人生はかっこいいですが、ならこそ救われて欲しかったと涙が止まりませんでした。

  • 須賀さんの小説は、歴史に疎い私でも理解できるよう背景や宗教観をしっかり描きながら物語が進むので、ずっしり重たく、読み進めるのに時間がかかりました。

    ただ、読み終わったあとに残るのは物寂しい切なさというか。良い意味であっさりというか静かに浸れるような読後感でした。

    上巻の後半辺りからずっとアルベルトの人となりがよくわからなくて。善人、悪人というカテゴリに当てはめるのは無理なんだなと思いながら読んでいました。

    ナチスがどれだけひどい迫害を行ったのか、事実としては知っていますが、ナチス、ドイツ側からたとえフィクションであっても描かれたものを読んだのは初めてだったので色々と考えさせられる部分がありました。
    戦時中の悲惨な様子。結局、米軍の占領下におかれることは、ナチスにとって変わっただけだと言う一般市民たち。ユダヤ人亡命には手を貸さなかったのに、ナチス幹部の逃亡には手を貸すヴァチカンの枢機卿…。

    イルゼの告白以降からは、どうにかアルベルトが絞首刑を逃れて、罪を償い終えた暁に穏やかな人生が待っていればいいのにと願わずにいられない、そんな人物を描く須賀さんの手腕に毎度毎度はまってしまうというか。

    マティアス、アルベルトという、時代に翻弄され、利用し利用され(アルベルトが一方的に利用していたような気もしますが)、憎みあっていたふたりが、あのようなラストを迎えられたこと。
    いろんなものに涙が止まらない一冊でした。

    • chie0305さん
      「神の棘」「革命前夜」どちらもとてもいい本でしたよね。「また、桜の国で」も、もうすこし時間が経ったら読みたいと思っています。(須賀さんの本を...
      「神の棘」「革命前夜」どちらもとてもいい本でしたよね。「また、桜の国で」も、もうすこし時間が経ったら読みたいと思っています。(須賀さんの本を続けて読むのはパワーが要るので…)本棚を拝見させていただいて何冊か気になる本があったので、フォローさせて下さい。
      2017/02/04
  • 1947年9月以降、涙止まらず・・・
    1巻の途中、イルゼが出奔したあたりから、アルベルトの真意というか、この人いつレギメント側になるのかしら?と思いながら読んでた。なるはずはないけど、と思いながらも。

    他人からしてみたら、過酷なことだったのかもしれない。
    でも、アルベルトは自分の信念に従い、最後まで生きた。ナチにありながらも、恐怖と脅しによって上層部からの命令に従うわけでもなく、脅迫と暴力をもって部下に当たるわけもなく。あの時代において、自分の目で見て頭で考えて、なにに流されることなく。
    とはいえ、イルゼのことその1点にかけては、ナチの力に屈してしまったが。

    結局、アルベルトが何を考えどうしたかったのか、は誰にも本心がわからないまま。でも、終章でのイルザの告白によって、アルベルトの本当の強さがわかる。

  • アルベルトは淡々と読者を欺いた。

  • 戦争の恐怖や愚かさが淡々と綴られている中で登場人物たちがどう考え、行動していったかが繊細に描かれていた。
    是非最後のシーンは自分で読むべきものだと思う。

  • 私はプロテスタントにしか関わらなかったので、カトリックの決まりごとに特に惹かれた。死ぬ間際人々は言葉より物質的なものにすがりたくなる、なんとなくわかるような気がする。
    終わっちまった!
    重かったな~。
    アルベルト、いい人物だった。
    10年後に再読したい。

  • 2人が最後に会話をするシーンが印象的。
    すべてがここにつまっている気がした。

  • 戦中の話なので読んでる間ずっと気鬱になっていたけど読んでよかった。終章ですべての印象が変わり、でもアルベルトはずっとアルベルトだったし、精神力は並外れて強いけど、ただ人間だったんだなあと思う。
    長いしつらくてしんどいお話だけど終章まで読んでほしい。

  • ナチスドイツの支配下で、ナチスとして働いていたが失脚した青年と、彼の幼馴染の修道士のそれぞれの人生の交差。
    終章がもう痛くて痛くて……戦争が終わればどうなるのか、こんな展開が待っているとは……それぞれに信じるものがあって、信じるものの名のもとになら、何をしてもいいのか。今自分がしていることはどういうことなのか。それを一人一人、考えていくことが必要なんだなあと思いました。国のため、宗教のため、思うことは大事かもしれませんが、それと行動とは、そんなにも、惑いがなく、やってもいいことなのか。昨今の国際関係を思っても、あらためて考えさせられます。
    ライトノベルらしさはなく、戦時中のドイツ国内の様子から、こんなことを考えさせてくれた物語でした。私が今まで読んできたような「ナチスがやってきたこと」を描いたのではなく、違う角度から描かれているところが新しかった。
    隠されていた事実はあぜんとしましたが、それもまた彼らしいのでしょう。彼は最後にあんなことを言っていましたが、選択の機会を与えられても、決してそうしないと思います。それが彼だから。言い訳をしない、妥協を許さない、その姿は美しくもかなしい。そこまでする理由が、彼の人生のどこにあったんだろう。

著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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