忘れられた巨人

  • 早川書房
3.60
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本棚登録 : 1680
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095367

感想・レビュー・書評

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  • カズオ・イシグロがファンタジーを!という点で話題になっているようだが、確かに竜や鬼や妖精などが出てくるものの、さほどファンタジー色は強くなく、やっぱり純文学の印象。
    6世紀頃のイングランドが舞台で、ブリトン人とサクソン人の争い、とかあんまりピンとこないのだが、荒涼とした自然を舞台にした冒険旅行記である。
    といいつつも、旅をする主人公は老夫婦であり、その他老騎士なども登場して、アクションシーンはあるものの全体としての流れはゆったりとしている。
    夫が妻を「お姫様」と呼ぶ、老夫婦の純愛が全編に通底し、『日の名残り』にも通じるような気品が漂っているのだが、その一方、霧が晴れたときにあらゆることが覆されて惨禍へと陥る予感に満ち溢れる不穏さが常につきまとう。
    その妙味に身を委ねるのがこの小説を読む醍醐味だろう。
    けっして「面白い」小説ではないが。

  • 前作の「わたしを離さないで」があまりにもよかったので、迷わずに購入。通勤電車で切れ切れに読むのもどうかと思っていたので、このお盆休みに集中して読んだ。「わたしを離さないで」ほどストーリーそのものに引き込まれるわけではないけれど、いろんなことを考えさせられる。民族としての、あるいは個人としての記憶とはどういうものなのか。読んでいるときは、ちょうど広島長崎、戦後70年の時期だったわけで、「日本人は歴史を忘れやすい」ということも言われたりするんだけど、それは本当に悪いことなのか。忘れることと赦すことはどう違うのか。
    でも、アクセルとベアトリスという老夫婦のように、僕らはちゃんと記憶と向き合って、そのうえで自らの意志で赦したり赦されたりしていくことが必要なんだろう。

    ストーリーとしては、老夫婦のラブストーリーがいい。(たとえ物忘れが激しくなっても)こんなふうに二人で年を取りたいものだと思う。


    それにしても、日本のメディアに出ているイシグロのインタビューの写真をみると、どうしても(元)切込隊長を思い起こしてしまうのだけど、ネットを検索するとそれは僕だけではないようだ(笑)。

    ちなみに、久しぶりに読んだ紙の本だった(仕事関係を除く)。もう文庫は読めないけど、これくらいの字ならあまり苦労しないですむ。

  • 伝説のアーサー王の直後の時代、6世紀初めの英国。遠い地に住む息子を訪ねて老夫婦アクセルとベアトリスが旅に出る。アーサー王の甥の老騎士ガウェイン、また戦士ウィスタン、子供エドゥインたちと出会いながら麗しい思いやりに包まれて旅を続ける2人。竜、鬼、なぞの怪物などが登場するファンタジーの世界は子供心に戻ったような懐かしい思いを感じさせてくれる。このまま「指輪物語」「ナルニア国物語」になりそうなお話。そして終章で夫妻の隠された驚きの過去が明らかに…。舟渡しの船頭が必ず発する質問が二人の絆を試す!ファンタジーの世界ながら、言葉の奥底に潜む人間性を表す表現が深い!

  • なんか、『わたしを離さないで』をイメージしていたから、読んでいると『???』と思ってしまう。翻訳者が私と合わないのかな?
    もう、読了しなくてもいいかな…。

  • 図書館
    予約中

  • 2017年ノーベル文学賞受賞カズオ・イシグロ著

  • 読んでる最中はハラハラしながらすごく引き込まれてあっという間に読み終えたのだけれど、終わってみれば霧の中、結局何が言いたかったんだ?と、呆然、立ち尽くす、そんな読後感。
    鬼、霧、赤い髪の女、夢、蝋燭、黒後家、兎、船頭、島、雌竜、戦士、山査子、全てが記号?でも一体何の?
    もう、置いてかれ過ぎて、考えてもわからないから、ネット上の色々な方の書評や考察、また、作者ご本人のインタビュー内容で答え合わせ。
    結果、全っ然違うこと考えて読んでたわ、自分。何故だろう、冒頭から一つの仮説に囚われ過ぎて、結局、物語終盤までその疑念が拭えなかった。
    その仮説というのも、実はこの物語に登場する人物全員、本当は「霧」になんて全然影響されてなくて、皆んな忘れたフリをしてるだけ。都合の悪いことを作為的に忘れ、自分自身も騙してるんじゃないかとか、そんなこと。
    だって、皆んな忘れているようで本質的なことは忘れてないように見えたし、「霧」の影響がすごく限定的に思えたから。アクセルも、ベアトリスも、お互い、ずっと何かを隠しているみたいな風に思えたから。息子について語る二人の会話が妙に白々しく思えたから。そして極め付けは、船頭とアクセルとの会話の中で明かされる息子の死が、突然でありながら、静かでさりげな過ぎたから。(でも読み返してみると…”爺さんはおれの足音を聞いて 、夢から覚めたような顔で振り向く 。夕方の光を浴びた顔には 、もう疑り深さはなく 、代わりに深い悲しみがある 。目には小さな涙もある 。”と、ここで思い出したのかなと読みとれますね。)
    ていうか、その仮説でいくと、雌竜クエリグのくだりから辻褄合わなくなってくるんだけどね。うむ。ウスウスは矛盾に気づいてはいたんだけどね、ホントは、ね…いやはや、解釈はむつかし。
    ポストアーサー王の時代設定プラス、ファンタジー要素により、作者のメッセージが見えにくくて、他の方のレビュー見ても、評価が二分してる。物語にメッセージ性を強く求める人たちには不評みたいだけど、イシグロ氏はアクティビストではなく文学者。敢えてこの設定にする事で、物語に普遍性を持たせようとしたのかな。時代を経ても語り継がれるアーサー王の伝説みたいに。

  • 物を忘れてしまう。
    つい最近の事なのに、、、と、アクセルとベアトリスの老夫婦。
    そして、同族の集まる集落に居るのに、いつからなのか、村八分のように、蝋燭も取り上げられて、暗い夜を明かさねばならない日々。


    時は、6世紀の物語なのであろうか?
    伝説のアーサー王が、姿を消したブリテン島である。
    騎士、魔法、妖精、が、登場する島。

    物語が、わかるためには、この地に、サクソン人のサクソン系と、ブリトン人のケルト系が、登場して、勝手、どちらもが、敵同士で戦った者たちである。

    そして、奇妙な霧のおかげで、昔の争った出来事など、忘却の隅に追いやらて、平和の世界で、安寧している。

    主人公の老夫婦が、居なくなった息子を探しに、旅へと出発。
    そして、竜の吐く息で、記憶がなくなることで、戦士や、胸に傷をつけられた少年と道ずれに、物語が、進んで行く。


    少しづつ、記憶が戻って来るような主人公の夫婦が、語る物語。

    人間は、忘れていた方が良い、憎しみ、妬みなどの部分と、覚えておきたい、幾つしみ、愛情、楽しさ、嬉しさなどが、全て霧の中に巨大なものとなって、封印されていたら、、、、
    それが、全て、全土に散らばって、記憶が戻った時に、どう感じて、何をするのだろう。

    作者 カズオ・イシグロは、この本はラブストーリと、言っていたのだが、最後の第17章で、妻をお姫様と、言っていたアクセルは、昔の事 妻の不貞と、息子の死も思い出してしまう。

    最後まで、2人は、抱き合い別れを惜しんだのに、、、、一人づつの船に乗ることで、アクセルは、船頭が、戻った時に、その場にいるのだろうか?

    記憶とは、、、思い出しても、憎しみを水に流せるようなものであれば、時の流れが風化してくれるかもしれないが、、、突然に、記憶が、鮮明に戻って来たら、どうだろうか?と、、、

    年を重ねると、昔のことは、よく覚えているけど、最近の事を忘れてしまう事が多い。
    沢山の思い出の山から、嫌な物だけを除外して、良い思い出の山だけを残して置きたいと、思った。

  • 記憶を忘れた不安に揺さぶられながら物語がどう進むのかを這いながら読み進んで行ったのに、煙に巻かれて終わったような...私にカズオイシグロ作品は難しいのかも。

  • ファンタジーもの

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

カズオ・イシグロの作品

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