観察力を磨く 名画読解

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152096425

感想・レビュー・書評

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  • 物の見方が変わる本

  • よく見ることと、正しい状態を説明することとはどういうことかがわかる

  • 今までの絵の見方を変えてしまう。すぐに感情的になってしまう私ですが、一呼吸置いて客観的に見ることができるようになるのではと思わせる本です。

  • 日経新聞 書評 山本貴光 12.11.16
    烏兎の庭 第五部 書評 4.23.17
    http://www5e.biglobe.ne.jp/~utouto/bunsho/Mary.html

  • 絵画を用いて観察力を鍛える本。シャーロック・ホームズが好きな人には興味深いかもしれない。

  • 『観察力を磨く 名画読解』
     エイミー・E・ハーマン 著
     岡本 由香子 訳
     早川書房
     2016/10 368p 2,500円(税別)
     原書:VISUAL INTELLIGENCE(2016)

     1.観察
     2.分析
     3.伝達
     4.応用

    【要旨】「観察」は、思考や推測、判断、コミュニケーションの基盤となる。
    物事の特徴や特性を正確に把握することができなければ、誤った判断により
    重大な結果を招くこともある。ビジネスや日常生活のさまざまな場面で観察
    力は大きな武器になりうる。本書では、絵画をはじめとするアート作品を見
    ることで観察力を磨き、情報収集をして判断やコミュニケーションに結びつ
    ける方法を説く。先入観をもたずにアート作品に何が描かれているか、表現
    されているものは何か、などを細部にわたり時間をかけて観察するというも
    のだ。美術史家で弁護士でもある著者は、自身が開発したこのメソッドを「知
    覚の技法」と呼び、FBIやCIA、ニューヨーク市警、米軍、大手企業などでセ
    ミナーを実施。きわめて効果的な技法として高く評価されている。
      ------------------------------------------------------------

    ●アートは消えないため、観察したことを何度でも検証できる

     研ぎすまされた観察力は、事の大小を問わず、人生のあらゆる場面で役に
    立つ。偉大な発見は往々にして、すでにあるものから生まれる。山歩きが好
    きなスイス人のジョルジュ・デ・メストラルは草の実がくっついた靴下を見
    て、面ファスナーのアイデアを思いついた。レオナルド・ダ・ヴィンチが科
    学や芸術分野で数々の偉業を残したのも、観察力のおかげだ。

     私の講義には、FBIの職員や情報分析員や、フォーチュン500にリストアッ
    プされた企業の社員が大勢参加するが、みなさんにも彼らと同じことをして
    もらう。つまり、アートを学ぶのだ。アートのよさは、まさに何百年も前か
    らあることなのだ。アートは消えない。

     たとえば人間の行動を研究する際、どこか町中で人間観察をすることもで
    きるだろう。だが、通行人が視界から消えたあとはどうだ。自分の推測が正
    しかったかどうかわからずじまいになる。そこへいくとアートには答えがあ
    る。描かれているのが誰(または何)で、いつの時代の、どこで起きた出来
    事で、どうしてそういうポーズをしているのかがわかっている。アートとは
    “途方もない量の経験と情報の蓄積”だ。私たちの観察力、分析力、コミュ
    ニケーション力を鍛えるのに必要なすべてを備えている。

     アートを教材にすれば、複雑な状況はもちろん、一見すると単純だが、実
    は深い意味を持つ場面も分析できる。自由な解釈が許されるのもアートのす
    ばらしさだ。

     観察力やコミュニケーション能力を高めるのに専門知識は必要ないし、逆
    に専門知識が邪魔をして純粋に作品を見られないということもある。私のセ
    ミナーでは、画家の筆遣いや、配色や、作成年代について学ぶわけではない。
    アートはあくまで視覚教材であって、見たままを──もっといえば、自分が
    見たと思うままを語ればいい。


    ●主観で物事を歪めずに、できるだけ多くの視点で見る

     さっそく、1枚を見てみよう。見えたものをリストアップしよう。紙に書
    いてもいい。時間はたっぷりある。描かれているのはどんな場面だろう。人
    間関係は? そして部屋のなかには何があるだろう。最後に、この絵を見て、
    どんな疑問がわくだろう。

     絵のなかにはふたりの人物が描かれている。ひとりが立っていて、ひとり
    が座っていることはすぐにわかる。しかし細かい部分や、さまざまな関係性
    を読みとるには時間が必要だ。

     座っている女性の膝にオレンジ色の腰帯が垂れているのに気づいただろう
    か。彼女が右手に羽ペンを持っていることには? 画面の左側で、テーブル
    クロスがしわになっていることは? 立っている女性は召使? それとも友
    人? ひょっとして母親? 立っている女性の肌が座っている女性の肌と同
    じようにすべすべしているので、ふたりは同年代だと推測される。よって母
    娘の可能性は消える。続いて立っている女性の質素な服装に注目しよう。彼
    女は貴金属もつけていないし、髪もしゃれっ気なく、うしろでまとめてある。
    そこから、ふたりは同じ社会階層に属していないと推測できる。さらに細か
    く見ていくと、立っている女性の右手は水仕事で赤くなっていて、袖で守ら
    れている腕の肌色とはちがうことがわかる。

     知覚とは、観察によって集めた情報を解釈する働きであり、自分の内にあ
    るフィルターのようなものだ。フィルターを通すと、現実に色がついたり、
    ぼやけたり、都合よく修正されたりする。現実は、そうやって個々の見方に
    変化する。知覚フィルターは、個人の経験によって形づくられる。あなたと
    同じフィルターを持つ人はひとりとしていない。

     自分の見方が正しいかどうか疑うことをやめてしまったら、隠れた事実を
    見逃す危険性がある。自分が見たものについて、他人の知覚を確かめること
    が必要だ。他人の知覚をどうやって確かめればいいかって? それこそ身近
    にあるアートに目を向ければいい。とくに現代のアーティストが手掛けた彫
    刻やインスタレーションに対する世間の反応に、耳を傾けよう。

     忘れてならないのは、主観が“真実”を歪める場合もあるということ。同
    じ個展に出かけても、人によって見るものはちがう。さびついた鎌は、ある
    人にとっては豊穣の印だが、別の人にとっては破壊の象徴となる。どちらが
    正しいのか。どちらも正しくない。展示に明記されていないかぎり、証明で
    きない。客観的かつ正確な答えは“さびた鎌は、さびた鎌”であり、それ以
    外のどんな形容も、事実を歪めるものでしかない。

     物事を正確に理解するには、できるだけ多くの情報を集め、できるだけ多
    くの視点で見ることが大事だ。得た情報を整理し、優先順位をつけ、意味を
    解読する。まとめると、次のようになる。まず自分の目で見る→既存の情報
    や意見を参考にする→もう一度、自分の目で見る。基本は二度見ること。一
    度目は外部の情報なしに、二度目は外部の情報をとりいれたうえで、改めて
    見る。


    ●優先順位をつけて専念し、疲れたら休憩をとりながら見る

     次のふたつの説明を読んだら、どちらのほうが客観的だと思うだろう。
    (1)孤独な女性がひとり、コーヒーショップで、大理石の白い丸テーブル
       についている。
    (2)口を閉じ、視線を落とした女性が、カップを手にし、白い皿ののった、
       天板が白い丸テーブルにひとりで向かっている。

     どちらも同じ場面を表している。しかし、最初の説明は女性を孤独と決め
    つけている。これは女性の様子を主観的に憶測したものであり、事実ではな
    い。最初の説明はまた、女性がコーヒーショップにいると断言している。ふ
    たつ目は女性がカップを持っているという事実のみを述べていて、カップの
    内容物(入っているとすれば)や、女性がいる場所を特定していない。

     主観と客観の差は、たとえわずかであっても重大だ。“大理石の白い丸テー
    ブル”という説明と、“天板が白い丸テーブル”という説明の差はわずかか
    もしれない。しかしテーブルが大理石でできているかどうかはわからないの
    で、最初の説明は憶測になる。推測は早い段階で混じるほど観察結果を歪め
    るため、観察の初期においてはとくに注意しなくてはならない。

     私は細部を見るための戦略にCOBRA(コブラ)というコードネームをつけた。
    COBRAの文字はそれぞれ、紛れているもの(Camouflaged)、ひとつ(One)、
    休憩(Break)、見直し(Realign)、意見を聞く(Ask)を意味している。つ
    まり細部を見る際は、紛れているものを探し、ひとつの仕事に専念し、疲れ
    たら休憩をとって、期待を見直し、他者の意見を聞くことが大事なのである。

     自分の優先順位を把握することはとても大切だ。集めた情報すべてを追い
    かけるのは、肉体的にも精神的にも無理があって、少なくとも一度にすべて
    を処理することはできない。意識して優先順位をつけなければ、脳が、生来
    の偏りに基づいて勝手に選択することになり、それが致命的なミスにつなが
    ることもある。

     優先順位をつける際は、手に入った情報を見わたして、いちばん大事なも
    のを先頭に置く。ただし、情報に漏れがないことが前提だ。情報収集が完璧
    にできて初めて、重要度の低いものを削ることができる。

     優先順位は人によって、また状況によって変わる。リチャード・J・ホイ
    ヤーが執筆したCIAの訓練マニュアル『情報分析の心理』で紹介されている三
    面アプローチでは、集めた情報のなかから重要度の高いものを抽出するため
    に、自分に三つの質問をする。私は何を知っているか、私は何を知らないか、
    そして何を知らなければならないか、である。

    コメント: 本書で方法が紹介されている、主観をできるだけ排して物事の
    客観的事実だけを観察し、表現する力は、「人を動かす」うえできわめて重
    要なのだろう。『米軍式 人を動かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)
    では、近年米軍で取り入れられているOODAというメソッドが紹介されている
    が、その最初の「O」は「観察(Observe)」を示している。客観的事実だけ
    を示し、それをもとに思考していることが周囲に理解されれば、発言や決断
    に説得力をもたせることができる。「間違っているのでは?」「偏っている
    のでは?」といった疑念を抱かせないことが、人を動かすための基本といえ
    るのではないか。

    ===
    観察力を磨く 名画読解 エイミー・E・ハーマン著 「見ていない」ことを知る観賞
    2016/12/11付日本経済新聞 朝刊

     書名を見て「ああ、名画の見方を教える本ね」と思ったあなた、ちょっとお待ちあれ。







     ぱっと見で判断する前に、もう少しだけ見てみよう。表紙に「VISUAL INTELLIGENCE」とあるのは原題で、「見てとる情報収集」と訳せようか。副題は「知覚を磨けば人生が変わる」。あれ? 美術らしき要素がない。


     目次はどうか。全体は「観察」「分析」「伝達」「応用」の4部からなる。各章は「カモノハシと泥棒紳士」「私はなぜ、引き金を引いたのか」「ワインの値段」とミステリ小説のよう。名画はどこ? と思ってめくるとフェルメールやマグリットをはじめ多数の作品が載っている。


     はてさてなんの本か。著者は美術史家で弁護士。彼女の「知覚の技法」というセミナーは、FBI(米連邦捜査局)やCIA(米中央情報局)などの専門家をはじめ各種企業人なども受講して効果が認められているという。本書はその技法、観察力の磨き方を伝授するレクチャーなのだ。


     基本は美術作品をよく見て言葉にしてみること。なんだそんなことか。と思ったら、手近の絵で試してみよう。見てとったものを書き出せばよい。


     例えばその絵には、テーブルに向かってカップを手にした女性がおり、背後には大きな窓のようなものがある。と、こんな具合に目にとまった大まかな状況だけでは足りない。絵は細部で満ちている。例えば彼女の服装に注意が向いただろうか。見る人の観察力次第で、見てとれるものは大きく左右される。


     また、「孤独な女性がコーヒーを飲んでいる」と書きたくなるかもしれない。だが絵には彼女が「孤独」ともカップの中身が「コーヒー」とも描かれていない。それは見た人の意見だ。


     こんなふうに試してみると、私たちは存外よく見ていないことが分かる。大きなものを見落としたり、見たものに含まれていない意味をあてはめて推測したりする。とはいえ無理もない。これは周囲に危険がないかを瞬時に察知しようとする生物として当然の働きでもあるからだ。


     だが物事をよく観察して事実に迫る場合、これでは足りない。知覚の性質を弁(わきま)えて、事実と意見を区別する必要がある。著者は、美術作品の観察を通じて認知の仕組みを知り、分析や伝達の能力を磨こうと提案している。


     本書の教えは仕事や日常生活でもおおいに役立つ。日々真偽の定かならぬ大量の情報にさらされている私たちにとっては必須の技法と言ってもよい。そう、人生が変わるくらいに。




    原題=VISUAL INTELLIGENCE


    (岡本由香子訳、早川書房・2500円)


    ▼著者は美術史家、弁護士。




    《評》ゲーム作家


    山本 貴光

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