- Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152098627
作品紹介・あらすじ
ソーシャルメディアは21世紀の戦争をいかに変容させたか? パレスチナの戦禍をツイッターで発信し「現代のアンネ・フランク」と呼ばれた少女、スカイプを通じてイスラム国に勧誘されラッカに渡ったフランス人女性などに取材し、情報戦の知られざる実像に迫る
感想・レビュー・書評
-
本書はソーシャルメディアにより各種紛争がどのように変化していったのかを詳細なインタビューや取材からあぶり出している。
本書で焦点とされたのは
・ガザ地区でのイスラエルとハマスとの紛争
・クリミア併合におけるロシアとウクライナの紛争
・マレーシア航空17便撃墜事件の真相
・IS(イスラム国)の紛争
・テロとの戦い―ISとアメリカによるサイバー空間でのせめぎ合い
などだ。
現代の戦争はどのナラティブ(物語)が国際的な世論や人々の共感を得ることができるかが最も重要となっている。そのナラティブを発信する最も重要な武器がソーシャルメディアだ。
例えば、イスラエル軍によるガザ地区への空爆の状況を現地に住むパレスチナの少女がTwitterで実況し国際的な世論を親イスラエルから反イスラエルへと変えた。
少女はイスラエル軍の攻撃に対して、写真とメッセージで戦ったのだ。
「生まれてから、三度の戦争を生き抜いてきました。もうたくさんです」
「これはうちの玄関の前で爆撃された車です」
「子どもを空爆してはいけないとただ世界に伝えて」
このようなソーシャルメディアのメッセージによりイスラエル軍は圧倒的な戦力によりガザの戦場では「勝利」したが、国際的な世論では「負けた」のだ。
イスラエル軍もソーシャルメディアの圧倒的な影響力を理解し、軍の中にソーシャルメディア担当者を置きイスラエル軍の正当性を発信した。
「ハマスはガザ地区の住民を人間の盾にしている」
「ハマスは世界中から得た支援金をテロを起こすための地下トンネルの構築の為に使っている」
「ハマスはテロの拠点をわざと病院や学校の近くに設置している」
イスラエル軍はこのようなメッセージを発信するも、担当者は言う「我々がいかにイスラエル軍の正当性を主張しようと、爆撃で殺害された子供の写真にはかないません」。
ソーシャルメディアにより戦争は新たな戦いに突入した。強力な兵器を有する国家が必ず勝つという時代はもう終わってしまい、今はナラティブ(物語)で戦う時代になった。その戦場では、国家同士が戦うのではない。個人同士が戦うのだ、しかも一個人が銃を持って戦うのではない、スマートフォンを持って戦う時代へと変貌しているのだ。
この本で描かれているのはガザ地区やクリミアやシリアと日本人から見れば遠い場所でのできごとかもしれない、ニュースで見るくらいしか名前を聞くことすらないだろう。
しかし、僕たちにとっても決して他人事ではないし、ある意味においては、もうすでに経験しているのだ。
2016年2月に投稿された匿名ブロガーによる「保育園落ちた日本死ね」のブログが国会で取り上げられるほど話題になったのはたったの3年前のことだ。
もちろん、このブログは当時の日本の児童保育環境の悪さを訴えたもので戦争とはなんの関係もないが、このブログのように国民の共感を得られれば、一個人がこれほどの影響を与えることができることが明らかとなった瞬間だった。
しかし、ちょっと想像して欲しい、もし日本が現在戦時下でこのような民衆の声を代弁するような非常に巧妙に作られた偽のメッセージが悪意を持って流布されたとしたら。
この状況が、現在イスラエルやパレスチナ、ロシアやシリアなどでごく当たり前に行われている。
ロシア政府は、偽情報、それこそ『フェイクニュース』をブロガーや一般人を大量に雇って親ロシアなナラティブを大量に生み出しネット上に溢れさせ、イスラム国は心に不安を持つ若者に対して、計算し尽くされた方法でネット上から忍び寄る。
僕たちが何気なく毎日使っているソーシャルメディアが世界を誰も想像ができなかった未来へと変えていっている。
それが僕たちのいるこの世界の現実なのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
借りたもの。
現在進行形で、SNSの世論への影響の深さとそれが戦争にどのような影響を与えるのかをまとめた一冊。
ジョン・キーガン『情報と戦争』( https://booklog.jp/item/1/4120051285 )は戦争の勝敗を左右する情報収集・情報戦の話が主体だったが、こちらはプロパガンダに関連する内容だった。
パレスチナ、ウクライナ、IS問題を通し、SNSが人々を繋げるだけでなく、分断することを指摘する。
著者が‘ホモ・デジタリス’と定義する、インターネットを介して世界的なネットワークを築き上げ、影響力を発揮する現代人。
報道と異なる、リアルタイムでその危機を中継・訴える。その臨場感。
それらは感情に訴えてくる――死の恐怖、子供の死――。それは誘発する、怒りを。
‘中央集権化した国家権力に対峙するのは、分散化した市民の力である(p.214)’
それが大きな大きなうねりとなり、窮状の改善を訴え、反対運動などが起る……
しかし、それらは必ずしも良い方向に転ばない。
興味深かったのは、ロシアによる情報戦に関する検証。
外交にも内政にも“情報戦”の扱い方を心得ていることを感じさせる。
トロール(荒らし)工場と言える、ウェブメディアのフェイクニュース生成会社の存在を紹介。
2014年7月17日のマレーシア航空17便撃墜事件のロシア側の嘘を、一般人がネットを用いて暴いた等……
SNSの二面性、両刃の剣である事例が挙げられてゆく。
著者はこれを新たな力、新たな脅威として捉えていることが伝わってくる。それは市民、国家権力双方に。
どちらも言えることは、「正しい情報を、ありのまま伝えよ」という所か。
プロパガンダがSNSによって大きく変わる可能性があるのは事実だろう。
しかし……SNSがもたらしたこれら世論が、どれだけ世界情勢、戦争の結果を左右する影響を与えたのだろうか?ロシアは結局クリミアを併合したし、パレスチナとイスラエルの問題は解決しない。
状況が固定されると、既成事実を覆すことはできなかった。
そうなる前に事を改善できないという事実があった、という事だろうか。
過去の事例の検証に関しては、非常に興味深い話だった。未来に関しては、この本からは何もわからない……
戦争の仕方が、これで変わるとは思えない……
そこから疑問を持つ。
「“戦争”とは何か?」と……
短絡的に“武力衝突”が「戦争」というイメージもあるが、こうした情報戦による既成事実の生成、主導権争いそのものが“戦争”ではないか、と。
対立・分断の空気を醸造し、S&TOUTCOMES『民間人のための戦場行動マニュアル』( https://booklog.jp/item/1/4416519354 )でもあった、戦争が始まる前の予兆そのものだった。
flier紹介。( https://www.flierinc.com/summary/2045 ) -
法律変わって、ネットの情報を安易に信じて拡散するとあっさり訴えられる時代になりましたね。
イーロン・マスクのお陰でtwitterの環境が変わってからこの本読みましたが、テロリスト・カルト信者・反政府主義者なんかは、多分この環境にも適応して信者増やそうとするのかなぁとうんざりした気分になりました。
自分だけは騙されないと考えないで用心しなきゃね。
追記
一般社団法人colaboの不正会計問題でホモ・デジタリウスな動きをする人が出てきてますね。 -
戦争でそれぞれ当自国が正当化するために、個人がSNSでそれぞれ宣伝していくかの事例である。
イスラエルとパレスチナ自治区、ロシアとウクライナまではよかったがISについてはSNSとあまり関係ない勧誘の事件まで入っていた。
どれかひとつ、例えば、ロシアとウクライナについてだけの話でも十分に1冊の本になるであろう。 -
ロシアのやってることはずっと変わっていないんだな、と思いました。
逆に今、行われているウクライナの戦争を考えると生き急いでる感じがしてなんで?と思う。 -
↓利用状況はこちらから↓
https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00550619 -
しばらく積読になっていたものを自分の休暇というタイミングで手に取り、その途中でロシアがウクライナに侵攻してしまった。なんとなく感じていたSNSの影響力、それが戦争で果たす役割についてガツンと事例で殴られながら思い知らされる感覚であった。
-
SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/765164 -
新しい戦争の正体、それは140字で語られる戦地の個人の叫びに呼応してできる見過ごせない「うねり」。冷徹な政治判断や戦地での作戦が、多くの人の感情的な「いいね」やリツイートによって曝かれるだけでなく、そもそも戦争の作戦として利用されている現実を知らずに、今の世界や平和について語ることはできないと感じた。