スケール 下:生命、都市、経済をめぐる普遍的法則

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152099754

作品紹介・あらすじ

ヒトとほぼ同じ要素でできているのに、なぜネズミは3年しか生きられないのか。企業は死を免れることができないのに、なぜ都市は成長を続けることができるのか。TEDに登壇した経験をもつ物理学者が、生命、都市、経済を貫く普遍的な法則を解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 下巻は主に都市と企業にスケールフリー理論を適用して解説しています。都市のインフラ(水道管など)は人口規模に対して「線形未満のスケーリング」をします。つまり人口が2倍になってもインフラ量も2倍(100%増)にする必要はなく、85%増でよいというスケールメリットが生まれます(つまり15%効率性が上がる)。対して、都市内の総生産やイノベーションの規模(特許数)、そして犯罪数などは「超線形スケーリング」をしますが、どういうことかというと、人口が2倍になるとこれらの規模は2倍以上になる、もう少しいうと15%のボーナスが得られるということで、都市には15%ルールが存在していることになります。

    著者はスケールフリー性が生命体や都市だけでなく企業にも存在するのではないかという仮説のもと、企業の生存期間などの分析を行い、スケールフリー性がみられるというデータを提示しています。ただこの辺りに来ると、著者自身もまだ科学というには不十分だと認めているように、説得力はガクッと下がる印象です。私自身も、日本企業を念頭に置くと、必ずしも著者の言うようなスケールフリー性はないのでは?と感じました。

    本書は一貫して生命、都市、経済をめぐる普遍的な法則がある「だろう」ことを様々なデータから示しています。一言で言えばそれは線形関数ではなく「べき関数」の形状を取るということですが、これは社会のデジタル化が進むと、ますますはっきりしてくるのではないかと感じました。なぜならアマゾンをはじめとした「ロングテール」をもった分布こそがまさにべき関数であり、一部の富裕層に富の大半が偏在しているのもべき関数だからです。となると同じべき関数でも、その傾きを緩やかにすることこそが重要であり、そこには政策だけでなく技術も貢献できるのではないかと感じました。

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12696225007.html

  • 著者の導き出す持続可能性についての統一的な理論は、結論は凡庸であるものの、日ごろ何となく感じていることを定量的に説明してくれ、説得力のあるものだった。
    ただ、そこにたどり着くまでが如何せん長い。

  • (上巻から続く)
     第6章では、都市も生命同様に代謝ネットワーク、すなわちエネルギー、物流、そして情報の輸送システムを持っていること、さらにこれも生物同様、コスト最小化による最適性をめぐる適者生存の競争環境にさらされていることが示される。いくつかの建築家や都市計画学者が紹介されるが、中心的に扱われるのは、まさしく都市こそが経済発展の原動力であると喝破しながら、人とコミュニティを重視した都市理論家としてのみ記憶されるジェイン・ジェイコブズだ。著者はさらに、これまでの都市論を、上記の代謝ネットワークを軽視し建物やインフラのみを重点的に扱った結果、都市の成功を定性的にしか記述していないとして批判する。そして都市を科学的、定量的に扱うための理論プラットフォーム構築を志向するのだが、その際フォーカスされるのは都市の物理的な成長から生ずる有機性だと説く(僕も都市計画屋さんの著作を読む時、定性的、修辞的記述が多く美術論を読んでいるような気分になるので著者のこの指摘には大いに溜飲を下げた)。

     続く第7章からが、いよいよ科学的・定量的な「都市科学」「都市物理学」の実践編だ。まず示されるのは、世界主要都市で共通して見られる、ガソリンスタンドや道路、電線の総延長などのインフラは人口に対して線形未満(指数0.85)でスケールする一方、賃金や特許数、犯罪などの社会経済的な量は超線形(同1.15)でスケールするという傾向だ。生物同様、どの都市でも極めて明瞭に非線形スケーリング則が現れることには慄然としてしまうが、都市を人間間の相互作用とコミュニケーションから生ずる有機的な自己組織的現象とみれば特に驚くに値しない。言語の発明と情報交換ネットワークによる「正のフィードバック」が富とイノベーションの原動力となり、この人種や国家に依存しない共通性をもたらしたのだ。生物代謝の非線形スケーリングは空間充填性、端末ユニット不変性、ネットワーク最適性によりもたらされていたが、これは都市にもそのまま当てはまる。これが生物と都市の同調性を生んでいるのだが、ここで著者が、都市最適化の原動力として個人と集団の「貪欲性」を挙げているのは慧眼だと思う。他の生物と共通する貪欲さゆえに富とイノベーションが希求されるのだ。このことを訳者が理解していないのは全く意外という他ない(訳者解説では、訳者は「GDPも人口も頭打ちだからイノベーションの加速は不要では」と主張するが、これは本末を転倒させていると思う。富の増加を欲するという人間の生物的本質があるからこそ、イノベーションによりGDPは増大〈しなくてはならない〉のだ──少なくともこの資本主義というゲーム内では。無論ここから資本主義の限界云々を論ずることは可能だが、それは明らかに本書で扱われる範疇を超えており、立場上訳者が持ち出していい類の話ではないだろう)。
     さらに、都市交通ネットワークや社会構成人員間ネットワークのモジュール構造により、都市が生物同様のフラクタル性・自己相似性を具備していることが指摘される。フラクタル性は、ある特性を最適化しようとする進化論的淘汰により生ずるが、ここでは都市で最適化が志向されているのは社会経済的相互作用であるとの前提で論が進む。この相互作用は住民が相互に繋がるリンクの数と同一視でき、これは人々の物理的距離により規定されている。すると物理的距離を縮めるインフラの効率が良ければ(=線形未満でスケールすればするほど)、相互作用の効率が良化する(=超線形でスケールする)ことになる。これが前述のインフラと社会経済量のスケーリング指数の対称性に表れていたのであり、換言すれば都市の物理的側面は社会経済的相互作用の非線形的逆比例に他ならず、つまり「都市とは人々ある」と言えることになる。
     ここで重要なのは、物理インフラは生体内ネットワーク同様、中枢から末端に進むにつれ流量が減少する(=規模大となるにつれ費用逓減→線形未満)のに対し、社会経済ネットワークは末端での流れが最も強く、グループ階層が上昇するにつれ系統的に弱まる(=規模大となるにつれ収穫逓増→超線形)ということだ。

     第8章では前章の理論が実地的なデータと照合され、都市や国家の成長に見られる加速性の起源とその持続可能性が検討される。前章末での議論によれば、社会経済相互作用は超線形でスケールし、そのスピードは規模とともにますます加速する。この加速を維持するために必要とされるのがイノベーションとパラダイムシフトだというのが著者の主張であり、本著の中核を成している。実証性あるデータによれば、交通インフラの発達も人々の歩行速度増加も、そして携帯コミュニケーションツールの普及も、空間と時間を圧縮することで社会経済相互作用の加速に対応すべく生じており、このインフラの整備が更なる接続性増大により加速を促している。これはまさに「正のフィードバック」であり、都市が人口に対する線形スケールではなく非線形な「複雑適応系」であることを裏付ける。これは都市に本質的に備わった性質であり、従って都市のパフォーマンスは人口の線形スケーリングに対しどれだけ非線形に逸脱しているかを指標とすべき、という著者の主張には説得力がある。
     またこのスケール則は都市の多様性にも影響を及ぼす。どの都市でも、都市内の事業所の事業内容ごとのランキングは、書物内に現れる単語のランキングに見られる「ジップの法則」という奇妙な法則に従う。この法則自体が複雑適応性(要素が独立でなく相互に影響し合うこと)の産物だが、その事業のスケーリングが人口サイズに対して線形以下(農業などの第一、二次産業)か、超線形(サービス業などの第三次産業)かが都市内の事業所数のランキングを決定しているというのだ。
     さらに生物同様、都市の成長もスケーリング則から類推できるという。生物のような単なる物理エネルギー代謝のみならず、情報やアイデアなどの人文的・社会経済的産物までを考慮すれば、なんと都市の社会代謝においては、規模に対しエネルギー供給は規模維持に必要な量よりも速く増大する。都市は、成長すればするほどその成長に利用可能なエネルギーが増大するという超線形的、超指数関数的成長曲線を持つのだ。生物とは逆に、都市は無限に成長し、そのライフペースは加速する、というのが本章の驚くべき結論だ。

     第9章は都市から企業へとその検討対象が移される。狙いは都市同様、スケーリング則計測に基づく「企業科学」の定立により、何が企業の成功と失敗につながるかを定量的・科学的に探究しようというもの。企業の個別性を視野に収める「エージェント・ベース・モデリング」をもとに、企業に共通するスケーリング則を調べると、売上、総利益、総資産等の指標は規模とともに線形未満でスケーリングしている。これは生物と共通しており、生物同様企業にも成長の限界と寿命があることが示唆される。しかし利潤だけを見ると、売上・費用ともに規模に対し線形であるため、その差である利潤も線形、すなわち指数関数的にスケールする。一見重畳ではあるが、逆に言えば企業が競争に勝つにはその市場平均をアウトパフォームせねばならず、困難な課題となる。実際に成熟した大企業ほどこの市場に対する超過ができず停滞し、また常に市場平均という臨界点近くにいるため環境変動に対する適応力が落ちることから、企業の死亡(倒産)曲線も生物と似た形状を描くことが示される。この過酷な生存競争を勝ち抜くには、例の如くイノベーション(もしくはニッチな市場への閉じこもり)を要するが、多くの成熟企業がイノベーションを犠牲にして内部統制を強めることを選択することに加え、カニバリズム忌避と既存顧客維持に腐心し保守的傾向を強めてしまうことは、先日他界したクリステンセンが「イノベーションのジレンマ」で明らかにした通りだ。

     最終章では、社会経済の成長持続性に関する統一理論が模索される。生物と企業では成長が非線形にスケールするが、都市のそれは超線形、すなわち超指数関数的だとすると、都市の成長は有限時間内で無限大に増加する「有限時間シンギュラリティ」という臨界を迎えることになるという。無限の成長は無限のエネルギー供給を要し実現不可能なので、これを回避するには超線形スケーリングをもたらす重要なパラメータをリセットできるような新しいイノベーションを、しかも加速させつつ起こす必要があるというのだ。考えるだに忙しないが、著者はこれを諦めるならば、成長をギブアップした線形未満スケーリング的構造を持つ世界に退行する他ないという。あとがきでは、因果関係と相関性を混同するかのような昨今のビッグ・データを絶対視する風潮を批判する。やや既視感があるが、洗練されたアルゴリズムの定立があってこそのデータであるとの指摘は、本書の随所で描かれる著者の研究者としての経歴を考量すると極めて重いものがある。

     以上、上・下二巻構成、本文トータル500ページ超と結構な物量だが、最近の人文翻訳物にありがちなクドイほどの繰り返しがなく、議論の流れに集中してスムーズに読み進めることができる好著。スケーリング則自体は結構ポピュラーな本でも取り上げられておりそれ自体真新しいものではないが、これが生物というミクロから経済というマクロに一貫して適用でき、それが全て綿密に調整されたデータにより裏付けられていることを定量的に例証している点が何より特筆に値する。微小と極大を行き来するうちに遠近感がぼやけてきて、目眩のような読書体験が得られること請け合いだと思う。

  • 下巻は都市、企業で前者は規模と、コストが同じようなスケールで動くため成長が長い。企業はトップラインを支える体制及びコストが組織の肥大化によって増大し、生物と同様永久的な成長は難しい。

  • 生物のネットワークの空間充填,普遍端末ユニット,最適化が都市にも共通しており,都市にもスケーリング則があるらしい。
    企業にも適用されるらしい。線形未満のスケーリング。データが完全ではないから仮説的っぽいけど。

    最後の有時間シンギュラリティのところは,今のままの成長を続けることは無理でこのままいくと崩壊するということか。成長に使えるエネルギー,資源,食料がなくなって,崩壊。それを回避するにはイノベーションのサイクルを短くする必要があるけど,できるのかどうか。。。

    上下巻通して,わかりにくいところが何ヵ所もあったが,示唆的であったように思う。

  • 星は3と4の間か。非常に良い本だが、ちょっと難しい。学際の面白さがあるが、一方で研究の最終形は見えなかったので消化不良。しかし、大変面白い本なのは変わりない。特に最後の翻訳者の感想が良かった。それで自分が何が分からなかったかが、分かった。

  • 各都市の分析で意外だったのはニューヨークで、ごくごく平均的、かつ少しだけ裕福で、大して創造的でもないが、驚くほど安全だという。
    傑出した都市は、むしろサイズが小さめなことが多い。
    ただ、この都市の優れた業績の一つであまり評価されてないのは上水道システムで、「その品質と味は他の市政機関の水のみならず、高級なボトル詰めされた水を上回るとも言われており、次にニューヨークに行ったら、ボトルを蛇口の水で満たすだけで、数ドルを節約すると同時にずっと優れた製品が得られる」というのだから、知らなかった。

  • 副題は「生命、都市、経済をめぐる普遍的法則」とあるが、まさにこのような壮大な内容を扱っており、読みごたえがある。研究成果に基づくものであり説得力がある。いろいろと参考になる。キーワードは、複雑系、べき乗則、スケーリング則、ネットワーク、イノベーションなどである。人間、都市、企業などの成長、死について深く考察している。これらを統一理論でもって解明しようというわけで野心的である。著者は、理論とモデルの構築、検証、改善という科学的取り組みを基本としており信頼できる。とはいっても、訳者も言及しているけれど、ところどころ引っかかるところはあった。2011年福島地震のマグニチュード6.6とはなんだろう。

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