- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163272504
感想・レビュー・書評
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幕末の動乱を背景に、変化朝顔にまっすぐな情熱を傾ける同心・興三郎の話。とても面白く読みました。
同心というと、べらんめえの定町廻りがすぐに思い浮かぶのですが、興三郎は名簿係とでも言うべき閑職で性格も元々ひっそりとした控えめな存在。
たまたま変化朝顔をモチーフとする田牧大和「花合わせ」を読んだばかりだったので、またか、と思ってしまったのですが、(「花合わせ」では変化自体にあまりいい印象を持たなかったし)興三郎の日々の真摯な姿勢がとても好ましく、たびたび出てくる朝顔交配の試行錯誤の話も面白くて、素直に変化を望むことができました。
興三郎本人の話もよかったのですが、奉公人の藤吉、読者や傍の者にだけにはわかる恋のお相手里恵とその子ども小太郎、義弟であり職場では上司である惣左衛門、朝顔の師匠である植木屋の留次郎、そして、謎の大物・宗観など、脇に配置された人々の人物描写も巧みでね。
興三郎の背が六尺近くもあるものの痩身で長い手足を持て余している、という設定が物語の大事なところで一度だけ活かされたのが切ないながらもよかったし。
同じように、地味だと思っていた仕事が物語の進行の謎を解く一つの鍵にもなるあたり、梶よう子という作家の構成力の確かさを感じ、嬉しくなりました。
ネタばれです。
ただ、里恵と興三郎は幸せで穏やかな夫婦になると思っていたのに、尊皇攘夷の怒涛の流れの中で犠牲となってしまうのが可哀相すぎたのでは、と。また、宗観の正体が実は井伊直弼というのも、あまりに話が広がりすぎて、私はもっと市井の小さな話でよかったのになぁ、とも。
これは好みの問題なんでしょうけどね。
ネタばれ終わり
とはいえ、とても上手な作家さんに巡りあえたことはラッキーでした。他の作品も追いかけてみたいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
幕末、井伊直弼の頃の話。主人公は朝顔栽培だけが生き甲斐の同心。それが宗観という武家と知り合って、思わぬ事件に巻き込まれてゆく。哀しい話であった。書評で見たんだか、新聞広告で見たんだか(多分、後者。宮部みゆきが推薦文書いていた気がする)。何だかどんどん大きい話になっちゃって、ちょっときれいにまとめきれなかった感も。面白かったのですが。最後はよくわからなかった。第15回松本清張賞受賞作。
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時は幕末、奉行所同心、中根興三郎は武芸の才もなく、役所では名簿作りの閑職を与えられ、趣味は朝顔作りという冴えない独り身。朝顔作りへの情熱だけはどこの誰にも負けない彼は、朝顔に認められた者に、一生に一度だけその姿を見せるという黄色い朝顔作りの夢を追い続ける。そんな興三郎は朝顔の縁から、宗観と名乗る大物武家らと純粋な友好を結ぶが、そこから桜田門外の事変に連なる幕末の奔流に巻き込まれる。不器用だが、真面目でまっすぐな中根同心がなかなか良い味を出してる。
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雰囲気的に「のぼうの城」を思い出しますが、朝顔の儚さと幕末の緊張感があいまってよかった。
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朝顔の奥深さ!!