異国のおじさんを伴う

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163298702

作品紹介・あらすじ

思わぬ幸せも、不意の落とし穴もこの道の先に待っている。どこから読んでも、何度でも、豊かに広がる10の物語。誰もが迎える、人生の特別な一瞬を、鮮やかにとらえる森絵都ワールド。

感想・レビュー・書評

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  • 本てじつに便利な代物。

    時として衝立にもなり
    シェルターにもなる。

    社会を覗く窓でもあり
    自分を映す鏡でもあり、

    有事の非常口にもなる。

    午睡を醒ます目覚しで
    もあり、

    ときに翼にさえもなる。

    無ければ無いで生きて
    いくのに一見さほどの
    支障はないけれど、

    本が無ければ私なんて
    自立できなかったし、

    とっくにこの世の中に
    幻滅していただろうな。

    標題作がベリーグッド。
    『思い出ぴろり』も
    とてもよかったです♪

  • 日常の些細な事を、ユニークな設定で綴られているお話。

    読み終わった後、自分の今を見つめ直したくなります。日々、丁寧に仕事をしているか?つまらない意地を張ってないか?最近、守りに入っていて、攻めていないのではないか?だから毎日にメリハリがなく、ピリッとしないのではないか?とか。

    笑えて、元気をもらえて、自分なりに前に進んで行こうと、改めて思える一冊です。

  • 森絵都さんらしい短編集。
    十篇とも面白かったが、敢えて順番をつけると、『桂川里香子、危機一髪』が一番切れ味鮮やかな面白さだった。大好きなのに激しく興醒めする瞬間、というのはいかにもありそう。指定席なのに新幹線のドアゲート前の行列に律儀に並ぶことの不可解さを得意げになじるエジプト人の彼氏が発車ベルギリギリに飛び乗ろうとしたとき、思わず里香子が取った行動とは?

    次いで、『ラストシーン』。キューバに帰国する学者に、着陸態勢に入ったため途中で終わってしまった映画のラストシーンを教えてあげるか否か、というテーマ。彼は、帰国後には、その映画にアクセスすることが出来ない、という状況設定。
    アガサ・クリスティの『検察側の証人』が問題の映画なのだが、読んだことも観たこともないので、この小品の綾を心底楽しめていない気がしたので、早速図書館に予約を入れた。


  • 短編集。
    世界のどこかで、焦ったり、笑ったり、しみじみしたり。
    誰かが今、何かに気づいてる‥?
    ちょっとした出来事に見える真実を、どこかユーモラスに描いてます。

    「藤巻さんの道」
    道の写真集を見せてどの道が好きかと聞いてみると、その人の個性が出る。きちんとした藤巻さんの選んだ意外な道、そのわけは?
    結末があたたかい。

    「夜の空隙を埋める」
    留学先でのあまりに局地的な停電に、原因を突き止めようと工事現場に向かうと‥

    「クリスマスイヴを三日後に控えた日曜の・・・」
    プラダの売り場で靴を選ぶ老婦人。
    そこにいた皆と一緒に、思わずにっこりしてしまいました。

    「クジラ見」
    新婚旅行でのクジラ見での大騒動。
    受難の新郎、たくましい新婦に苦笑。

    「竜宮」
    誤認した記事を書いた後悔から、今真摯に仕事に向かう。
    自分でもありえそうなことにドキッとしたり、がんばれっと思ったり。

    「思い出ぴろり」
    幽霊が見える運転手。
    ぴろりの意味がユーモラス。

    「ラストシーン」
    飛行機で乗り合わせたキューバ人が、映画のラストシーンを見損ねた。
    乗客はラストを見せてやりたいと論争になるが‥?
    あまりにも広い未知の世界への思いと‥

    「桂川里香子、危機一髪」
    理想的な結婚を目指したが‥?!
    決断はさっそうと。

    「母の北上」
    なぜか、母がどんどん部屋を移動していく。息子は‥

    「異国のおじさんを伴う」
    ドイツのひげ人形をモチーフにした作品がヒットした作家。
    ひげ人形愛好会に招かれて、ミュンヘンへ行き、おばあさん達に巨大なひげ人形を貰ってしまう。

    立場も年齢も事情もそれぞれに違う人々に、おとずれる瞬間。
    海外の短編を思い出すような鋭い切り口で、さわやかな読後感。
    一口ではいえない味わいに、作者のあたたかなまなざしを感じながら、心地よくなれます。

  • 短編美味い!

    小皿にちょこっと載った絶品料理に舌鼓を打っていたら、最後に来ました表題作。「人生とは・・・」少し重めの料理が腹と頭を掠めていきました。

    全短編いいが、一つ選ぶとすれば⑦。「検察側の証人」(映画邦題:「情婦」)僕は原作は読んでないが、映画は繰り返し見ていて飽きない・・・モノを⑦で使っているところがニクイ。

    森絵都さん、短編集は少ないようだが、この先、珠玉の一冊に出会えそうな予感がする。

    ①藤巻さんの道
    さまざまな「道」だけの写真集を明るい藤巻さんに送ったら、彼女が選んだ一番の道は・・・。
    ②夜の空隙を埋める
    作品制作に取り組んでいる最中、部屋の光源が全て消える。また停電だ・・・。
    ③クリスマスイブを三日後に控えた日曜の・・・・・・
    イヴ間近の新宿伊勢丹の人だかりの凄まじさに、来てしまった自分の過ちを悟る。
    ④クジラ見
    新婚旅行先の久米島で、俺は気の進まぬまま鯨見物に付き合わされて、乗っていた船が揺れに揺れて・・・。
    ⑤竜宮
    要領が悪いと言われようと、私が取材のテープ起こしをするのは、長崎美代子さん、噛みつき亀の一件での後悔を忘れたくないから。
    ⑥思い出ぴろり
    葬儀屋のバスの運転手にドライブに誘われた。ついて行く私も私だが・・・。
    ⑦ラストシーン
    キューバに向かう飛行機の中、僕の隣の毛深い男は映画を観始めた。
    ⑧桂川里香子、危機一髪
    昼間から新幹線車内でワンカップをぐい飲みする桂川里香子は何の「先生」かは分からないが、過去に一度だけ大恋愛に陥ちたことがあったそう。
    ⑨母の北上
    父の死後、一人暮らしの母は、リビング→北側のテーブル→その北の洋間→その北の和室に生活の中心を移す。なぜか狭苦しい空間に。
    ⑩異国のおじさんを伴う
    「ひげ人形をよくぞ」と招待状が届き、ひげ人形愛好会がある、オーストリア・リンツに向かう。

  • ここ最近、胸の中に確かにあるのだけれどうまく言葉にできない感情や思考を
    適確に掬い取って文章にしてくれて、
    1冊読むと引用候補が二桁になってしまうのが宮下奈都さん。

    そして、とりとめのない日常会話や情景の描写に、
    なんともいえないユーモアとペーソスを加味して、
    その冴えた表現を引用して残しておかねば、と思わせるのが、この森絵都さん。

    漫画家では幼い頃から萩尾望都さんを崇拝していることもあって
    私って「都」という漢字に魅入られる運命なのかしら♪と思ったりする今日この頃。

    ホエールウォッチングの案内をする日焼けした少年をチョコボール、
    船に乗り合わせた三人組のおばあさんを三色団子などとネーミングしながらも
    船が大揺れし始めるとずぶ濡れになり、吐き気と戦いながら皆を救おうとする
    『クジラ見』の毒舌男子や
    父が亡くなった後、生活の拠点を陽当たりのいい南のリビングから
    隣のダイニング→そのまた隣の洋間→そのまた隣の物置部屋と変える母の行動を
    『母の北上』と名付けて断固阻止しようとする息子の
    孤軍奮闘ぶりの中に光るコメディーセンス。

    取材でたった一度会っただけのおばあさんと交わした言葉を
    勝手に解釈したことへの懺悔の気持ちを抱えながら
    インタビューのボイスレコーダー起こしの手間を怠らない『竜宮』の
    フリーライターの姿に託された仕事への真摯な思い。

    セーターを無造作に針金ハンガーに掛けたせいでついた肩の部分の出っ張りを
    「ぴろり」と表現して、亡くなった女性の現世へのささやかな未練と重ねる
    『思い出ぴろり』での熟練の筆致。

    そして、なんといっても出色の出来栄えなのが、7篇目の『ラストシーン』!

    キューバの空港に着陸しようとする飛行機の中で
    大どんでん返しが待ち受ける映画『検察側の証人』を
    残り10分というところで打ち切られた乗客にラストシーンを見せようと
    たぶん二度と会うこともない、年齢も国籍も職業も趣味も全く違う他の乗客達が
    規則を楯に頑として譲らない乗務員と闘わせる舌戦の可笑しさが

    この先DVDやパソコンを持つことなどなく、二度と国外に出る望みもないという
    40Cに座る彼の、映画に重ねた切実な思いが溢れだす本当のラストシーンに
    いつのまにかすうっと高度を下げた飛行機のように、哀感をこめて着陸する。

    森絵都さん、やっぱり凄い!とため息をつく1冊です。

  • 重すぎず、軽すぎず、くすりと笑えるものも含んだ10編の短編集です。

    ひさびさの森絵都さん。
    やっぱり大好き。読めてよかった。
    いくつかピックアップしてみます。

    「藤巻さんの道」
    ベルンハルト・M・シュミッドの存在を、この短編で初めて知って気になって仕方がないところ。
    道の先に未来があるように、2人の恋が続くといいですね。

    「竜宮」
    まわりから見たら無駄に思えたり、不器用だったりするんだけど、苦い経験から生み出された自分の信条というのは、できる限り守っていきたいよね、と共感したお話。

    「ラストシーン」
    キャラクターがコミカルでいながら、考えさせられる1編でした。それと同時に「検察側の証人」という映画もすごく気になる。
    森絵都さんのブックレビュー的な本があったら絶対買うのに、と思わせるくらい、さり気なく出される作品がどれも気になるのです。

    「佳川里香子、危機一髪」
    とっても爽快で、思わずくすくす笑ってしまいました。
    里香子にはどうかこのままずっと、我が道を歩き続けて欲しい。

    「母の北上」
    ふっと親子の関係性が変わる瞬間って、あると思うんです。親が絶対的に頼れる存在から、守るべき存在に変わるような。
    そんな瞬間をうまく切り取った本作、心が温まります。

    「異国のおじさんを伴う」
    表題作ですね。
    ミュンヘン、って確かにいい響き。
    直感に従って行動する人が好きで、こんな不思議な縁も素敵ですね。ちょっととほほな感じもまた愛しい。

  • 各作品はショートショート程の短さではないけれど、終わり方がショートショートっぽいものが多かったです。
    期待を裏切るというか、あ、そっち?みたいな作品やクスリと笑ってしまうものや、ちょっとしんみりするものなどいろいろでした。

    個人的に一番好きなのは「ラストシーン」でした。乗客たちと乗務員の会話のテンポがよく、コミカルで・・・。最後までコミカルな感じで進むと思いきや、40Cの告白によって空気が変わります。軽く読み進めていたので、重いテーマが隠れていて、姿勢を少し正してしまいました。同じに機内にいて、隣合わせた、40のA,B,C,D、乗務員。当然ながら、境遇は違う。「僕」の感じた恥ずかしさ、なんと声を発したらいいかわからない気持ちがよくわかります。40Cの最後の言葉がとても心に残っています。

    そして、実は「検察側の証人」を観たこと、読んだことがなかったので観てみたくなりました。

    「クリスマスイブ・・・」の幸せそうな老婦人と男性、素敵です。
    「桂川里香子、危機一髪」は里香子としては苦い思い出だったと思いますが、スカッとしました。かっこいい女性だ・・・!

    「思い出ぴろり」の小池さんの優しいまなざし、「私」とのやりとりが温かかったです。

    「異国のおじさんを伴う」は、主人公の気付いているけど、気付きたくない、認めたくない喪失感、虚無、不安に共鳴してしまいます。最後は吹っ切れて、新たな一歩を踏み出す主人公の颯爽ととした主人公の姿に私もがんばろうっと思いました。

  • なんとも愛おしいお話が10話。

    人間の可愛らしさと醜さって紙一重かもしれないと思った。
    全体としては楽しく読めたけれど、チクチクと刺さる言葉もあった。

    特に「クジラ見」、「桂川里香子、危機一髪」、「母の北上」が好き。
    3つとも女性の強さが光るお話。
    私はこういう女性に憧れているんだろうな。

  • 森絵都の不思議な話が並ぶ短編集。
    ちょっと変なんだけど、「でも、案外ありそう」と思えそうな話が並ぶ。読後感がどれも独特。どういう感情になったらいいのか悩む話も。なんだろう。やっぱり好き。

    部屋の片付けができない藤巻さんが選ぶ「道」の写真、水道工事のせいで停電する地域に住む女性、クリスマスイブに若いパートナーに靴をプレゼントされる老婦人、揺れる船でクジラを見に行く夫婦、インタビューで語られた亀と少年の話、死ぬ前に葬儀屋の前に現れた女性、飛行機で途中までしか映画が見れなかった男性、エジプト人の彼と新幹線で別れた女性、家庭内で北上していく母、髭のおじさん人形の集まりに呼ばれてドイツまでいく作家。

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著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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