お勝手太平記

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163900971

感想・レビュー・書評

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  • 「手紙の吸血鬼」と化したアキコさんが日々書き続ける手紙たちで構成された小説。お手伝いさん、お友達、お友達の旦那さんなど相手は違えど内容はほとんど映画や小説、新聞の投書欄について、昔話などの雑談。あまり書くとネタバレになるけれど、結末は、あ、やっぱりそうだったんだっていう感じだった。でもそれをさみしいとかは思わなくて、年を取るってなんだかすごいなあと妙な感想を持ってしまった。タイトルから谷崎の「台所太平記」、著者の「恋愛太平記」を思いつくんだけど、たぶん「台所~」に近い感じ、で、「恋愛~」は四姉妹の長編小説だし「細雪」を彷彿とさせる。
    作中で何回か「瘋癲老人日記」のエピソードが出てきた。読み返したくなったけど私は「鍵」のほうが好きだ。

  • 日本経済新聞社


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    お勝手太平記 金井美恵子著 書簡体小説 人生と世相辛辣に
    2014/11/9付日本経済新聞 朝刊

     手紙というものが世の中から消えつつある。無論みんな電子メールで済ませているのである。私も書かないし、受け取ることも稀(まれ)だ。もし届いたら、返事を書くのに困ってしまうだろう。せいぜい葉書まで、と思う。







     本書はそんな時世に出現した書簡体小説である。読書と手紙書きが趣味という六〇代の女性「アキコ」が、中学以来の親友たちに宛てた手紙が並ぶ。手書きで縦書き、何日もかけて書かれたものである。相手は同級生の仲良しグループだった三人と、憧れていた先輩の女性が主だ。文面からそれぞれの多事多難を経た人生が浮かび上がる。くも膜下出血から回復したかと思うと、再婚した夫がアルツハイマー病を発症した「マリコ」。役場を退職し、郷里の要介護の母親を心配する皮肉屋の「みどり」。会社を経営する夫を早くに亡くし仕事を継いでいる映画好きの「弥生」。そして上級生の「絵真」も未亡人だが、娘婿が有名な大学教師で、アキコは彼の書評のファンだ。


     一方、長いあいだ独身だったアキコは、五九歳で弁護士と結婚し、今は幸せそうだ。口さがない毒舌少女のまま歳(とし)を取った自称「偏屈さん」の彼女の手紙は、脱線に次ぐ脱線の四方山(よもやま)話で、終始世の中の「おかしなことを批判的に笑うユーモア」に満ちている。その辛辣さは、時には筆が滑って友人の機嫌を損ねる「筆禍事件」も起こす。女学校時代の回想に耽り、映画や小説の薀蓄(うんちく)に耽り、新聞の滑稽な投書を読み合って盛大に笑いものにする。しばしば著者自身のエッセイと区別がつかなくなるが、金井美恵子の名前も文中に登場して「どちらかといえば好き」と書かれているのはご愛嬌(あいきょう)である。


     しかし本書はたんなる書簡体に擬されたエッセイ集ではない。一人の厖大(ぼうだい)な手紙から、差出人と受取人双方の人生を描き出し、五十年にわたる世相の歴史が紡がれていく。このアキコの手紙は、全てコピーに取って保存されているという。読み進むにつれて、一文字も本人の文章は登場しないのに、友人たちの面影が体温を帯びて立ち上がってくる手応えは、まさに手の込んだ小説である。そして最後に、「書く楽しみのために図々(ずうずう)しくも勝手に凄く理想的な読者を設定して書いた」ことが明かされるのだ。最後の最後まで考え抜かれた「小説」である。「私たちの人生って、なんて平凡で平板なんだろうって、満足のためいきと共に」というアキコの言葉が、脳裏から離れない。書き続けることの「満足」を惜しみなく発揮した痛快作である。




    (文芸春秋・2000円)


     かない・みえこ 47年群馬県生まれ。作家。著書に『プラトン的恋愛』『タマや』など。




    《評》文芸評論家 清水 良典


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  • 面白かった。

    余裕のある暮らしを垣間見させていただきました。

    本の作りが老眼に優しいと思いました。

  • インテリ・無知・有名・無名・金持ち・貧乏人・悪人・善人に関わらず、愚かさに対して、まったく平等に容赦ない。それが小気味よい。スッとする。

    「読み聞かせ」「気づき」という言葉に、「なんて、いやな言葉なの?」と…まったくね、なんでこんな気持ちわるい言葉がうようよしてるのか、と思っていたのでスッとする。

  • 退屈で能弁な主婦が学生時代の友人にあてて片っ端から出しまくる手紙のカタチをした文明批評。金井節の健在ぶりに胸のすく思い。

  • 【金井ファン待望、痛快痛烈な最新小説】アキコさんの趣味は手紙を書くこと。料理、裁縫、映画、イヤな男、「お勝手」の話題を毒気たっぷりに認める著者真骨頂の書簡小説。

  • 何と!「快適生活研究」で笑わせてくれたアキコさん再登場。あの手紙は抱腹絶倒だったものね。今度はどんな毒をまき散らしていることか、大いに楽しみにして読み出したのだが…。

    あれ?アキコさんの毒ってこんなにマイルドだったかな? 前と同じく、ご本人はいたって悪気なく(と思うけど)、人の気に障ることを次から次へと書き連ねる手紙のスタイルなんだけど、そんなにイヤな感じがしないんだよなあ。慣れたせいかな。手紙の送り先の友人たちとかと、(ちょっと揉めたりしながらも)結構仲良くやってる感じが伝わってくるせいかもしれない。とにかく、「快適生活研究」とはちょっと違った印象を持った。

    今回面白かったのは、アキコさんが無意識にまき散らす毒よりも、手紙で彼女がしばしば書く「悪口」だ。映画や本について、友人知人の言動について、容赦なく繰り出される悪口が実に楽しい。ああ、ほんと、悪口って楽しいねえ。自分の日常生活では、言うのも聞くのも大嫌いだけど、それはセンスのある笑える悪口を言える人が(自分も含めて)ほとんどいないからだ。まったく悪口を言うのには度量がいるのであるよ。金井さんの鋭い舌鋒を恐れつつ愛するファンとしては、これこれ!これが金井美恵子だよと満足した。

    また、アキコさんの手紙はどこまでも脱線して横滑りしていくのだけど、言及される事柄のディテールがいかにも作者のもので、これまた楽しい。細部にこそものの命は宿るのだなあとあらためて思ったことだった。

  • アキコさんの嫌なおばさんっぷりがさすが。

  • 饒舌すぎるほど饒舌な、ということは非常に『金井美恵子らしい』書簡体小説。
    延々とお喋りが続いているような手紙の文章に圧倒される。金井美恵子はこういう文章を書かせると本当に上手い。

  • 金井久美子の挿画も楽しみ!
    文藝春秋|雑誌|別册文藝春秋_120901
    http://www.bunshun.co.jp/mag/bessatsu/bessatsu301.htm

    文藝春秋のPR(版元ドットコム)
    http://www.hanmoto.com/jpokinkan/bd/9784163900971.html

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著者プロフィール

金井美恵子
小説家。一九四七年、群馬県高崎市生まれ。六七年、「愛の生活」でデビュー、同作品で現代詩手帖賞受賞。著書に『岸辺のない海』、『プラトン的恋愛』(泉鏡花賞)、『文章教室』、『タマや』(女流文学賞)、『カストロの尻』(芸術選奨文部大臣賞)、『映画、柔らかい肌』、『愉しみはTVの彼方に』、『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパーティーへようこそ』(共著)など多数。

「2023年 『迷い猫あずかってます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

金井美恵子の作品

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