量子物理学の発見 ヒッグス粒子の先までの物語

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905235

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  • 量子力学の一層の下の話。
    「物質、質量」が発生する仕組みを、極力わかりやすく解説した一冊。たとえ話、ユーモアに富み、難しい内容が、直感的にイメージできるようになっている。読むのが楽しい。

  • 量子物理学の発見というよりヒッグス粒子とは何かを開設する。論点に的を絞って話が構成されており、変に素人に迎合するようなこともなく読みやすく面白い。

  • 青木薫さん翻訳による物理学もの、となれば何をおいても読まざるをえない。翻訳者の紹介で「理論物理学のみならず、数学、宇宙物理学、脳科学など幅広いジャンルで科学書を美しく訳す訳者としてファンは多い」と紹介される翻訳者を今まで見たことがない。

    筆頭著者のレーダーマンは、大型加速器による素粒子理論に関する実験物理学の第一人者である。このような基礎物理学のための実験設備には多額の費用がかかるが、「経済は科学への投資によって成長する」ので経済的にも充分なリターンが得られるというのが著者の主張だ。かつてアメリカの議会が超電導超大型加速器(SSC)の計画を止められたことを心の底から恨んでいるようで、本書の中でも何度も苦言を繰り返している。議会の無理解がなければ、ヒッグス粒子は十年早く発見されていただろうと残念がる。実際にはジュネーブにあるCERNのLHC実験場でヒッグス粒子は確認され、2012年7月に発表された。本書は、ヒッグス粒子/ヒッグス場により質量がどのように生まれるかを解説したものである。

    「神の素粒子」と呼ばれたヒッグス粒子は質量を産む素粒子と言われるが、果たしてその仕組みはどのようなものなのだろうか。そもそも「質量」とは何かという問いに当たる。著者は「質量(mass)とは、物質量(quantity of matter)の尺度である」という。まるでなぞかけだ。「質量は、より深く、より根本的な何かから、「生じ」ているのだ」という。そこには対称性の破れが大きな役割を果たしている。

    「宇宙が始まる前、すべてのものは無であり、質量はなかった。完全な対称性が成り立つ世界だった。その対称性が崩れる引き金を引いたもの、それが「ヒッグス粒子」だ。「ヒッグス粒子」が質量を生み出し、われわれの宇宙を生み出すことになった。」

    質量が生じる仕組みについては、たとえば次のように説明をされる。
    「真空は、弱荷を満たした壮大な溜め池のようなもので、弱荷を持たないR粒子は、真空から弱荷を吸い上げてL粒子になる。弱荷を持つL粒子は、その荷を真空に吐き出してR粒子になる。弱荷で満たされた溜め池、すなわち真空を満たすヒッグス場は、あらゆる時刻に空間の至るところを満たしており、素粒子の質量は、あらゆる時刻に空間のいたるところで生じる。弱荷の保存に関係するゲージ対称性は、やはり微視的なレベルで成り立っているのである」
    ついでに質量がない光子が静止できない理由なども解説されるのだが、わかったようで、きっとわかっていない。

    ちなみに質量がない(光速で動いている)と思われていたニュートリノに質量があるということが示されたのは、電子、ミュー、タウのあいだを「振動」することがカミオカンデの実験で確認されたからである。

    著者は大型加速器のことを、超高性能な顕微鏡だという。光学顕微鏡から電子顕微鏡になってより微細な原子構造が観察できるようになったように、より小さなものを見るためには、量子的波長を短くするためにより高いエネルギーを必要とする。そこでは今まで見ることができなかったものを見ることで新しい発見が得られるのだ。レーダーマン自身は新しい「大強度」のビームを用いた実験を新しいものを見るために今も推進中だ。

    実験家で一般向けの本を書くのは珍しいと本人はいうが、日本でも多田将氏など実験物理学者でも素敵な本を書く人はいる。 レーダーマンの他の著作を読んでみたくなった。


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    『すごい実験 ― 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』(多田将)のレビュー
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