ダンシング・マザー

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909332

感想・レビュー・書評

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  • 過去作品の「ファザーファッカー」と対をなす位置の今作。
    春菊さんの少女時代の悲劇というのは、「ファザーファッカー」や他の漫画著作にもいろいろと書かれてきてはいたのですが、おそらく自分が母になり、子供達がある程度の年齢に成長した今このタイミングで、あのときの母の心情を思い出し、ときには推察しながら書き上げてくのは結構辛い作業だったのか、それとも「書かねば残しておかねば」という作家の業なのか…うーん…。

    ここ最近の春菊さん個人としては、昔結構ストーリー漫画好きで読んでたんですけど、ここ何年かは完全に育児(それももうここ最近は子育ても終わりつつあり終焉に近い)とかエッセイマンガばかりで、内容もちょっとグチグチした感じで作画もちょっとアレな感じで遠ざかってはいたのですが、この作品に関しては、なかなか面白く読めました。
    辛口で申し訳ないのですが、桐野夏生さんとか最近書かれた山田詠美さんの「つみびと」(この作品も幼児虐待というか放置母を描いた作品)あたりをちょっとライトにしたような感じです。

    で。母と娘、まるで若い娘の美しさを妬んだ白雪姫の母のように、やはり親子でも女同士というのは、何かあるのかどうなのか。まぁ、この小説の母逸子は娘の静子の才能、若さに多少は嫉妬していたのかもしれないです。
    元夫の数々の暴力に耐え、次に出来た恋人は妻帯者で自分は妾の立場。いつ破綻するかわからないこの危うい男女関係がないと自分は生きていけない、しかし年齢とともに自分の容色はどんどん衰えていく…やがて成長した娘を夫(といっていいものか、籍は入ってないので。ただしこの作品では一応家族関係でもあるので本当は愛人と言ったほうが正しいのかもしれない)に差し出せるかというと…うーん、まぁこの母は愚鈍でも素直にある程度自分の言うなりになる妹は可愛くて、自分の思い通りにならない姉の静子の存在は煙たかったんだろうなぁと思います。
    もしかしたら、娘静子の存在は、かつて若い頃自分がなりたかった女性像と重なるがゆえの嫉妬で、それを壊してしまう破壊の気持ちよさもあったのかもしれません。

    まぁ今だったら児相案件ですけど、この時代ってまだそれほど情報や知識が行き渡ってない頃だし(昭和の中頃ぐらい?)、社会組織の最小単位の「家族」というのが世界の全てである、と思わされてしまったら、女子供は何も出来ない時代でもあったのかなぁと感じました。

    まぁ、この母逸子は典型的なダメンズメーカーだな、と。
    自分の人生の節目節目の決定事項を考えるのをやめて男に決めさせて、で、あとからブーブー言ってもしょうがないのでは? と今の時代のワタシは思ってしまいますが、うーん、昔はこういう女性、結構いたんだろうなぁ…

    まぁこの内縁の夫もおかしいというか、キチガイだけど(キツイ言い方でスミマセン)、おそらく娘の静子にとっては、この悪魔の所業を行った内縁の父よりも、考えることをやめて娘をこの男に差し出した母の方にずっとずっと嫌悪感を抱いて人生を送ることになるんでしょうね。

    この本を読んで、傑作、とまでは思いませんでしたが、なんとなく自分の心に教訓として残ったのが、子供の父親は選ぼうよ、ということでしょうか。
    なんか適当な相手と適当にセックスして、適当な避妊しててうっかり子供作っちゃって…というのは、その子供にもし母性を感じず愛情が注げなかったときの言い訳になってしまうような気がします。
    セックスというか、それ以前の恋愛において、やはり多少なりとも相手の見極めというか、尊敬できる部分があるかそのあたりを流されないでやっていたら、もしかしたらこんな不幸な娘は出来なかったかもしれません。(直接的な言い方でスミマセン)

    何でもかんでも母性神話というものに繋げるつもりはありませんが(母性神話という単語もちょっと懐疑的なワタシです)、ただ、自分の母親が敵側に寝返ったときのショックは娘としていかばかりだったか、想像するだに恐ろしいです。

    小説では、娘静子が家出をしたところで終わっていますが、このあと負の連鎖が彼女にあったのか、それとも克服して母とは全く違う人生を送ったのか、そのあたりは読者の想像に任せる、といった多少尻切れトンボ感はありますが、春菊さんの自伝的小説で多少なりとも今のリアルライフに繋がる部分もあるので、こういう終わり方にしているのかなと感じました。(まぁ、娘である春菊さんも3回結婚して離婚して現在は恋愛卒業宣言されている事実はあるので)

  • 母の目線で語られる娘の書く小説。
    無意識に見え隠れする母である感情と
    娘に対抗心を燃やす女である感情。
    その不安定で保守的な感情が家を蝕んでいるようにも思える。

  • 昭和初期、九州に生まれ敗戦後混乱時期に学卒。洋裁学校、ダンス講師資格、ダンスパートナーと結婚、パチンコホール勤めからホステスへ。何回かの中絶後に自分で産んで自分で育てる。賢い長女と可愛い二女。不倫相手と暮らす。資格をとって経理の仕事へ。

    ファザーファッカーの関連で読みましたが、知らずに読むとだいぶ違って見えたと思います。一人一人の心の中の世界って大きいです。

  • すごいな、、、春菊さん。
    自分をひどい環境の下に引きずり込んだ張本人、
    いわば加害者側である母親の視点から
    被害者である自分の物語を書いているのである。
    母親を単なる愚かで非道な人間に描くのであれば
    まだ少しは楽なのかもしれないが
    春菊さんは冷静に、母の心理を理解しようとさえしているように思えるのだ。
    許してなどいないんだろうな・・・今でも。
    でも母の心理描写を読んでいると、過去を真正面から受け止めている春菊さんの姿が浮かんでくるのでした。

  • 読みが浅いとか、考えが浅いとか、目を背けていると言われたとしても、こういう小説は(たとえ事実をモチーフとしていても)好きじゃない。

  • 男に依存してそれを尽くすことと勘違いしている母親,頭が悪いわけでもなく能力がないわけでもない,虐待されて育ったわけでもないのに,やりきれないまでの負の連鎖,逸子,ダンシングマザーに係わっていく者全てが歪な形になっていく.静子が負の連鎖から逃れられたことを祈る.

  • 「ファザーファッカー」が義父に性的虐待されている娘の話だったが、こちらは虐待する夫を持つ妻の方のお話。もちろん実際に虐待している父親が一番悪く、黙認している母親も悪いのだが、母親の人生を見ていると、この人も孤独でさみしかったのだなあ、と思ったりした。

  • 内田春菊の自伝的小説。

    『ファザー・ファッカー』は未読だが、義父に犯される娘とそれを見てる母親という実に難しい話だった。

  • 現実の話のようですが、そうだったら、よく自殺しないで生きてきたな、と思った。
    この母、信じられない。

  • 優秀な我が子に対して親が「私の遺伝子のおかげで頭が良いのに、なぜこの子だけが良い思いをするのか」と嫉妬する地獄。
    親の気持ちがよくわかった。この本が読めて本当によかった。

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著者プロフィール

1959年長崎県生まれ。漫画家、小説家、俳優、歌手。1984年に漫画家デビュー。1994年『私たちは繁殖している』『ファザーファッカー』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。その他の作品に『南くんの恋人』『あなたも奔放な女と呼ばれよう』など。私生活では4人の子どもの母親(夫はいない)。

「2017年 『エッチなお仕事なぜいけないの?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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