ストーカーとの七〇〇日戦争

著者 :
  • 文藝春秋
3.52
  • (38)
  • (75)
  • (62)
  • (21)
  • (11)
本棚登録 : 697
感想 : 101
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910284

作品紹介・あらすじ

ネットで知り合った男性との交際から8カ月。ありふれた別れ話から、恋人は突然ストーカーに豹変した――執拗なメール、ネットでの誹謗中傷……「週刊文春」連載時に大反響を呼んだ、戦慄のリアルドキュメント。誰にでも起こり得る、SNS時代特有のストーカー犯罪の実体験がここに。【本文より】Aは「俺をストーカー呼ばわりしたことは許せない」と言い募り、失うものはなにもないから、知り合いのライターに頼んでこれまでの交際を曝露してやると言いはじめた。さらにフェイスブックの中の友人にいいね!をつけていることから私がその男性と浮気をしていると決めつけた。(中略)鬱病になったのも私から暗い愚痴ばかり聞かされたからであり、損害賠償で訴えてやるとも。どうしよう。完全に正気じゃなくなってしまった。――「1 別れ話」【ストーカー規制法が定める「つきまとい等」の行為】・あなたを尾行し、つきまとう。・あなたの行動先(通勤途中、外出先等)で待ち伏せする。・面会や交際、復縁等義務のないことをあなたに求める。・あなたが拒否しているにもかかわらず、携帯電話や会社、自宅に何度も電話をかけてくる…etc別れ話がこじれて元恋人が「ストーカー化」した分かれ道とはストーカー被害にあったらまずどこに相談に行けばいいのかまだ傷害事件にはなっていない場合、警察はどこまで動いてくれるのか警察に被害届を出したらその後どういうプロセスを踏むのか示談交渉に持ち込まれたさいの様々な落とし穴ネットでの誹謗中傷の書き込みは消せるのか加害者の起訴・逮捕後に被害者がしなければならないことストーカー行為は医学的な治療でやめさせることができるのか?ストーカー対策の海外での先進的な実例知らないことだらけのストーカー被害の全容と問題の本質が理解できる、かつてない異色のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【感想】
    本書は、ストーカー被害者が受ける理不尽さ、加害者への抑止の難しさ、加えて法律の適用範囲の限界を浮き彫りにする。

    ストーカー加害者と示談を行う際、接触禁止条項によって行動を制限することはできる。今回のケースでは「小豆島に立ち入った場合には違約金を払う」という条項を設け、加害者が二度と被害者の周辺を歩かないように釘をさしている。

    ただ、加害者の怒りや恨みの感情が収束するかどうかは全く別の話だ。
    もし加害者を許したくないなら、示談せずに脅迫罪で起訴すればいい。しかし、懲役を食らわせても不起訴にして示談しても、結局のところ「加害者の反省意識」を変えることはできない。加害者本人が有罪判決や罰金をどう捉えるか。それを「自らの過ち」と受け止めて反省するか、「不当な仕打ち」として怒りをさらに募らせるかは、本人が被害者との関係をどう受け止めるかにかかっている。事は加害者が反省し尽くしてはじめて終息したと言えるのであり、自らの行動への認識がおぼつかなければ、またストーカーが繰り返される。

    本件が最悪だったのは、相手が完全に精神疾患(ストーカー病)で、自分がしたことの反省ができない人間だったことだ。民法刑法の効力も分かっておらず、「誓約書を書いたところで口約束だろ?」程度にしか考えていない。罰金や刑罰がまるで抑止力になっていないのだ。こういう輩を相手にしてしまっては、「示談」そのものが意味をなさない。

    筆者は自身に付いたI弁護士に対し、「私の恐怖や不安に対応できるかたちでの『起訴』を提案してくれればよかったのに」と述べている。これは「とにかく復讐されるのではないか」という懸念が第一にあるからだ。筆者はずっと「相手に『自分が悪かった』と思わせなければ、きっとストーカーが繰り返される」という考えであり、それを相手に分からせるため、「Aに直接手紙を書く」という、常識ではタブーとされている行為で成功を収めた。非常に危険な賭けだが、もはやストーカー被害はここまでやらないと止まらないとも言えるだろう。
    気が狂った病人と対話しなければならない。しかも当の被害者が、一人で。想像しただけで身の毛がよだつ。本当に上手くいってよかった。

    ――犯罪事件で、被害者の要請もあって不起訴になる事件が数多く報道される。復讐を恐れてというのが、一番の理由だろう。それから、大事にしたくないというのもあるだろう。怖くて警察に駆け込んでおいてそれかよ、と言われればそれまでなのだが、駆け込むときには何にも考えていないのだ、被害者は。とにかく怖くて怖くて、何とかしてもらおうとして、相談に行く。けれどもいざ加害者が呼び出されるなり逮捕されるなりして少し安心してみると、今度は加害者による復讐が、猛烈に怖くなる。そして世間体も。被害者自身も警察に何度も足を運ばねばならないし、検察の取調べにも応じなければならない。そしてその先には、刑事裁判。ストーカー事件に関しては、個別の事情によるとはいえ、大筋では私は起訴に向け行動・発言することを薦めたい。逮捕の時点で、すでに加害者は怒っているので、それを恐れて被害届を取り下げたところで、怒りが静まるわけではない。(略)残された火種は小さいけれど、しっかりとした熱量で、丸腰となった私を脅かす。
    ―――――――――――――――――――――――――――――――

    【「ストーカー病」についてのまとめ】
    誰かを恨み、付け回したり嫌がらせをしたりするストーカーのうちの大半は、途中で自制するか、警察などの警告を受ければ我に返り、おとなしくストーカー行為をやめるという。彼らもストーカーではあるが、治療が必要なレベルではない。警察から注意を受けてもまったく反省もせず、自制が利かず、むしろ逆上して違法行為に踏み込んでいってしまう者に対しては、精神疾患とみなし、治療が必要となる。ただし、ストーカーが依存性の精神疾患となること、そして治療も可能であることは、まだ世間に知れ渡っているという状態とは言えない。

    小早川先生が対峙してきたストーカーたちの中で、九割はカウンセリングとセラピー(イメージ療法)によってストーカー行為を止めることができるようになったという。ところが残り一割はそれらが効かない。もしくはそれらをする時間的余裕がないほど加害衝動が強まっている。そんなときに条件反射制御法に出会い、彼らを入院治療させることによって被害者への接近衝動や拘りを消し去ることができたという。

    素人の私見であるが、認知行動療法は、理性や意志に働きかけて良くないことをしているということを言葉によって理解させ、条件反射制御法は、言葉と動作によって本能などを司る無意識領域に働きかけて衝動を消す。アプローチ方法が全く異なるのだ。加害者には、とりあえず入院して絶対にストーキングできない状態にして、条件反射制御法を受け、被害者に向かっていく衝動を消した後、社会に出てから認知行動療法のカウンセリングで「愚かなことをした。被害者には悪いことをした」と反省に導いてくだされば、理想的に思えるのだが。

    行動制御能力障害に有効な薬は、今のところない。認知行動療法にせよ条件反射制御法にせよ、効果があることが分かってからまだ日が浅く、治療体験者も少ない。それでも、被害者側の人間としては、認知行動療法も、条件反射制御法も、どちらも効果が認められているのだから、両方の治療を受けてほしいとすら思う。もし他にも画期的な治療方法や薬があるのならば、それも試してほしい。がん患者が放射線療法も切除手術も抗がん剤も免疫療法も試すようなものだと言ったら乱暴だろうか。それくらい私たちは、ストーカーの自分への恨みや執着が消えうせることを切望している。

  • いや、ちょっと本当に怖かった。

    ストーカーなんて若い人の話だろう…と思っていた。
    著者の内澤旬子さんが、被害にあったのは今の自分と同じくらいの年齢の時だ。
    ストーカー被害は、独身の人に限った話でも、恋愛関係のもつれだけに限った話ではないようだが、ネット社会の拡大によって、多くは水面下で増長しているものだろう。

    内澤さんは、お上品な見た感じと破天荒な行動のギャップ、その語り口(文章)がとても魅力的で、前作の「漂うままに島に着き」も楽しく読んだが、その裏でこんな壮絶な日々を送られていたとは…。

    雑誌連載の書籍化のためか、同じような内容が繰り返されるようなところがあり、重い内容なだけに読んでいて辛かった。星は付けられない。2020.7.29

  • ストーカー被害にあった筆者の壮絶なルポ。

    赤裸々にオープンに記載することは、とても勇気を有することで、筆者の強い意志を感じる。

    ストーカーに対応する対策は未だ整っておらず、今後も含めたリスクも消えないなか被害者は不安におびえ続けなければならない。

    ストーカー事件に対応するには、ストーカー自体と対峙するだけではなく、手続きの為に様々な専門的な組織(警察、検察、弁護士、裁判所etc)とのやりとりに時間がない中、自ら判断をしていかなくてはならない。

    あとがきにも記載があるとおり
    _______

    『いつのまにかストーカー被害者になっていた。なんの準備もなくリングに上がらされたようなものだ。きっと多くの犯罪被害者の方も気がついたら被害者になっているのだろう。しかも闘う相手は加害者ひとりだけなのかと思っていたら、そうではなかった。味方なのか敵なのか、いや敵ではないけど本当に味方なのかと疑いたくなる、なんとも、よく分からない、組織や制度や法律条文、暗黙のしきたりその他を背負った方々との辛いやりとりが、延々と続く。自らの尊厳を守るために。』

    また、筆者は最終的に事件を基礎して裁判をする。
    有罪になったストーカーもすぐに出所する。
    そこにストーカーを更正するようなものがない。
    筆者の嘆きは切実に響く

    『服役が終わってから、被害者もしくは被害者の遺族に誠心誠意向き合い続けることができる人など、ほとんどいない。事件のショックや、物理的に怪我を負わされて障害が残るなどして、生活が立ちいかなくなっている人に対して、加害者から償いがあるわけでもなく、国からの保障やケアも十分でなく、多くの人たちが苦しんでいることを知った。』

  • 別れ話から執拗なLINE、脅迫めいた言動を受け警察に連絡して逮捕されたものの不起訴に。示談をまとめたものの変わらぬ状況に筆者は対応していく。

    ストーカー被害を受けた人の恐怖感や怒り、失望が伝わってくる。被害者支援の連携がうまくいかず、被害者の方が引っ越しや負担を重ね、調書などでも苦しみを味わうのは、不条理だ。本書の中でも書かれているようにストーカー規制法も変わったり状況が変わっているところとは思えるが、どうしても被害者側の負担や苦しみは、減っているのだろうか。

    サイバーポリスがあっても海外の対応ができないなど、制度や仕組みができても追いつけないところがあったり、示談で決めたことが破られてもどうにもできなかったりと、やはりおかしな点は多い。

    その中で筆者が出会った加害者の治療による解決は可能性がありそうだし、わかる人は連携を取ろうとしてくれている部分は救いがあるだろうか。また、その中で別れ話などから我を忘れて行動して、どこかでハッと気づいて止めるというのは、誰にでもあるのではというのも考えさせられる。どこかに加害者になる要素がないとは言えないのかもと思わされる。書かれているように、例えば誰かに注意や指摘されてとなるくらいであればよいが、タガが外れると怖い。

    実際に被害に合われた方の記述で、恐怖感や苛立ちが伝わってくる。ただ、ちょっと文体が自分には合わないところがあった。でも〜だが。的な文が多くて、ちょっと気になってしまった。本人かかれているように善意で声をかけられても男性は怖くなったという状況もあるだろうが、他人の描写が気になるところもあった。

    被害に遭った方の心情が映し出されていると言えると思うが、読みにくく感じた点でもあった。

  • 週刊文春に昨年5月から12月まで連載されたもの。
    著者内澤旬子さんがネットで知り合い8か月付き合った男性にストーカーされた時のこと。

    私は、そういうのは10代20代の女の子の話であって、大阪万博の前に生まれた40代半ばをこえた人がこういう被害にあったということに、まず驚きました。

    ただそれ故に、10代の女の子ではどうすることもできないまま惨殺されてしまうストーカー事件、文筆家の内澤旬子さんが週刊文春に書いてくださったことでこの問題の解決に少しでもむかっていけると思うので、良かったと思います。

    もちろん内澤さんは大変だったでしょう。
    それに今後ストーカーAが何もしないという保証はないわけだし。
    勇気を出して書いてくださり、ありがとうございます。

    小早川明子さんの『ストーカー』『ストーカーは何を考えているか』はすでに読んでいて、けっこうストーカーには詳しい私。
    でもこの本のように当事者が書き綴ったものは初めてだし、ヤフーパートナー、2チャンネル、イマドコサーチなどのことがいろいろ詳しくわかったのも良かったです。

    ここだけの話ですが、私も一昨々年1月に初めて話した男(むこうはもっと前から私を知っていたのかも)が怖くて。
    3年以上ですね。「私に話しかけないで」と言った後やたら黙って近くにいたり視界にいたり。
    考えすぎと言われるかもしれないけど、いつ豹変するかと思うと自分の身は自分で守らなくちゃと悩んでいました。
    今年の春で終了しました(と思います)。

  • 別れ話がちょっともつれただけ。ありふれた話だ。
    相手の男が別れを受け入れられず、何度も何時間も電話をかけてくる。「これ以上しつこくするなら警察に相談…」と送った途端、逆上。
    執拗なメール、ネットでの誹謗中傷。
    男は、ストーカーと化した。

    誰にでも起こりうる。
    誰もが被害者に、そして加害者にもなりうる。
    それもある日、突然に。

    印象に残っている2点。

    まず、①ストーカーは「病気」であるということ。

    ストーカーのうちの大半は、警告を受ければ我にかえり大人しく行為をやめる。が、一部のストーカーは、自分がストーカーであるという認識がなく全く自制が利かず、警察などに注意されたことでむしろ逆上し違法行為に突き進んでいってしまう。この種の者は、行動制御能力に障害をきたす精神疾患であり、治療が必要となる。

    ストーカー治療には、認知行動療法と条件反射制御法の2つがあり、どちらも明らかな効果が証明されているにもかかわらず、世間はもちろん警察や検察、弁護士すらも、ストーカーは病気であり治療で治るのだということを誰も知らないというのが日本の現状だ。(私も知らなかった)

    処罰しかできない現行法では、被害者は一生安心して暮らせないだろう。
    なぜなら、未治療のストーカーは、出所したらまっすぐターゲットのところへ攻撃に行く可能性があるからだ。
    ーーこれが何を意味するか? 
    想像するだけで背筋が凍る。

    ②つめは、一度ストーカー被害に遭ったら、警察や検察など組織、法律、制度など全てが、場合によっては自分の安全を保証してくれるものではなくなる、ということ。

    内澤さん自身、ストーカーは殺傷事件が起きているくらいの社会問題であるから、いざ被害に遭ったとしてもそれなりの機関にたどり着けば、しかるべき解決方法がきちんと用意されているものだとぼんやり思っていたとおっしゃっている。
    が、期待はことごとく裏切られる。

    ストーカー規制法は、時代の変遷に追いつかない不備が多々あった。(内澤さんが被害に遭われた2016年にはまだ、FacebookなどのSNSは処罰の対象ではなかった)
    加害者と示談を成立させて不起訴、釈放となった後、示談を破ってまた加害者が嫌がらせをしてきた時は、助けを求めたにもかかわらず誰一人動いてくれなかった。
    この辺の記述は、著者の無念さと怒りが伝わってきて、読む進めるのもツラかった。

    ストーカー被害者は、住み慣れた町や職場を変え、家族を持つことも諦め、息を潜めて隠れるように生きている。
    加害者が住所を突き止めてやってきやしないかと毎日怯え、郵便や宅配も直接来ないようにし、友人がSNSにあげる写真に顔が映らないよう極力注意し、毎年住民票の閲覧制限の更新の煩雑な手続きをしなくてはならない。
    接触しないとしても、誰もが目にするSNS上でありもしないことを書かれ、LINEや電話で酷い言葉を浴びせられているうちに、恐怖で判断力も思考力も理性も人間としての尊厳さえも どんどん失われていく。……


    どう考えても、おかしい。
    画期的な治療方法はある。
    解決策はそこにある。
    ないのは、法だけ……。


    日本もストーカー対策先進国のイギリスの取り組みを見習い、一日も早く司法と医療が連携し加害者をスムースに治療につなげ、被害者に平穏な生活を取り戻してあげて欲しい。
    これ以上被害が増えてからでは遅すぎる。

  • ストーカー事件を扱ったノンフィクション/フィクションの多くは、第三者が取材・調査に基づいて書いたものだ。
    それに対し、本書は被害者が優れた文筆家であったという偶然――著者にとっては不幸な偶然――が生んだ、当事者の視点から書かれた稀有なノンフィクションである。

    ストーキング被害者の苦しさを生々しく伝えるノンフィクションとしても、サスペンスフルな読み物としても一級品だ。
    そして同時に、「ストーカー被害者になると、警察や弁護士とのやりとり、裁判所でこんな目に遭う!」が詳細にわかる、ある種の実用書としても優れている。

    著者の被害ケース以後にストーカー対策法が改正されたこともあり、いまの警察対応は本書とは少しく異なっている(たとえば、当時はSNS上の書き込みは対策法の対象外だったが、いまは違う)。

    そうした微妙な違いはあれど、いまも十分実用書として役立つはず。
    とくに、〝ストーカーになりそうな人間が、いま周囲にいる〟というボヤ段階に置かれている人にとっては、それを大火事にしないための対策が、本書を読むとわかるだろう。

    本書終盤の大きなテーマとなる、〝ストーカーは依存性の精神疾患であり、治療可能。犯人に治療を受けさせることが、被害者の安全を守る重要な対策になる〟という話も、広く周知されるべきだ。

    何より、著者の文章がうまい。
    そのうまさは第一に、込み入った出来事を手際よく整理して伝える〝説明力〟の高さである。

    また、ストーカーの恐怖を的確に伝えながらも、一方では軽妙なユーモアをちりばめ、リーダブルで面白い読み物に仕上げている点も、抜群のうまさだ。

    全体として、社会的意義の高い一冊。

  • この本が出版されたということは、ストーカーのことはもうすっかり解決したのかと思ったけど、読んでるうちに、ものすごい恐怖と戦いながら、生活をちょっとでも元に戻したくてこの本を書かれていることがわかった。
    ここに表現されている以上に、たくさんの理不尽な制約を受けているんだろう。
    もう相手の受け取り方を考えないで行動することはできないと思ったら、ストーカー被害に遭うのは人生を失うのと同じなのかもしれない。

    実はこの本を読み始めた翌日、タイムリーにも勤務書店に内澤さんの『カヨと私』の新刊案内(2022年6月下旬発売)がきていて、もちろんそこにはストーカーのことなんて微塵も書かれていないので、今は普通に暮らしておられるんだなぁと思ったのです。
    でも今ブログを拝見したところ、やはりその存在がゼロになることはないように思えました。

  • 書いてくださってありがとうという気持ち。
    今のところ今年読んだノンフィクションでナンバーワン。ちなみに去年のナンバーワンは角幡さんのツァンポー渓谷の本。柳広司さんの「太平洋食堂」も捨てがたいか。
    まさか自分がストーカー被害に遭うなんて。そしてそれに対して何ができるのか、どんな実害があり、絶望があり、手間と労力がかかり、失うものがあり、得るものが少ないのか。体験談でもあり、ガイドブックともなるドキュメンタリー。
    書かずに済むなら書きたくない、忘れられるなら忘れたい。一方で、黙って泣き寝入りなんてしていられない、自分だけの問題ではなく、多くの被害者のためにもなる、と筆を運んだ筆者。
    本書により、過去の被害者のほんのわずかでも救済と、未来の被害者を生み出さない結果に繋がることを願う。
    そこそこ分厚い本で、読み切れるかなと思ったけれど、一気読み。プロの文章は本当に読みやすく、文章の書き方指南としても参考になるのでは。
    自分もいつ、被害者にも加害者にもなるかもわからない。その視点を持ち、覚悟すること。それがストーカー被害を減らす、なくしていく一歩になる。
    読めてよかった。内澤旬子さん、ありがとうございました。

  • たまに見る内澤さんのツイッターには、ヤギのカヨの写真がたくさんあって楽しかった。「本の雑誌」の連載(「着せる女」というタイトルで本になった)も本当に楽しくていつも真っ先に読んでた。それと同時にこんなことが起こっていたなんて…。言葉を失ってしまう。

    私は高野秀行さんの大ファンで、高野さんが取り上げる本も良く読む。どれも面白いものばかりだ。だがしかし!この本ばかりは高野さんのように「むちゃくちゃ面白い」とはよういわん。もちろん高野さんは「つらくて深刻な内容」であることを理解した上で、「誤解をおぞれずに言えば」というまえがき付きで言っているわけだけど、どう考えても「面白い」という表現が私にはできない。

    ストーカー被害の当事者がここまで事の経緯を詳細に書いたものって他にあるのだろうか。いや、あるのかもしれないが、こんなにリアルにその恐怖や理不尽さ、自分の生活から何から根こそぎ変えられてしまう絶望感がひしひしと伝わるものは、まずないように思う。内澤さんの文章の力で、彼女の日々を(おこがましい言い方ではあるが)追体験させられて、心の底から震え上がってしまった。

    何が恐ろしいといって、この被害には「終わり」がないことだ。加害者は逮捕・収監されてもまた出てくる。被害者の方が住所を変え仕事を変えるのが当たり前という現実。今この時にも、著者の心には恐怖が居座っているだろうし、そういう人が他にもどれだけいるかと思うと、もういたたまれない気持ちになって、暴れ出したくなる。著者は冷静に加害者教育の必要性まで説いているが(ほんとに立派だと思う)、心の狭い私など、日頃の「厳罰化は犯罪抑止力になどならない」という持論をかなぐり捨てて「ストーカーは終身刑。強姦犯は○○!」と叫びたくなるのだった。

全101件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ルポライター・イラストレーター

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内澤旬子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
恩田 陸
村田 沙耶香
アンデシュ・ハン...
劉 慈欣
宮部みゆき
宇佐見りん
村田 沙耶香
ソン・ウォンピョ...
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×