この父ありて 娘たちの歳月

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916095

作品紹介・あらすじ

石牟礼道子、茨木のり子、島尾ミホ、田辺聖子、辺見じゅん……。
不朽の名作を生んだ9人の女性作家たち。
唯一無二の父娘(おやこ)関係が生んだ、彼女たちの強く、しなやかな生涯。

『狂うひと』『原民喜』『サガレン』など、話題作を発表し続けるノンフィクション作家が紡ぐ、豊穣たる父娘の物語(ナイン・ストーリーズ)。



目次

・渡辺和子
  目の前で父を惨殺された娘はなぜ、「あの場にいられてよかった」と語ったのか?

・齋藤 史
  二・二六事件で父は投獄された。その死後、天皇と対面した娘が抱いた感慨とは――。

・島尾ミホ
  慈愛に満ちた父を捨て、娘は幸薄い結婚を選んでしまい、それを悔い続けた……。

・石垣りん
  四人目の妻に甘えて暮らす、老いた父。嫌悪の中で、それでも娘は家族を養い続けた。

・茨木のり子
  時代に先駆けて「女の自立」を説いた父の教えを、娘は生涯貫いた。

・田辺聖子
  終戦後の混乱と窮乏のなかで病み衰えた父の弱さを、娘は受け入れられなかった。

・辺見じゅん
  父の望む人生を捨てた娘は、父の時代――戦争の物語を語り継ぐことを仕事とした。

・萩原葉子
  私は、父・朔太郎の犠牲者だった――。書かずには死ねないとの一念が、娘を作家にした。

・石牟礼道子
  貧しく苦しい生活の中でも自前の哲学を生きた父を、娘は生涯の範とした。 


・「書く女」とその父 あとがきにかえて

感想・レビュー・書評

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  • 筆者の梯久美子は、本書のあとがきに「"書く女"とその父」という題名をつけている。その題名の通り、本書は、9名の、比較的活動時期の古い、従って、既に亡くなられている女性作家とその父親との物語を描いたものである。執筆の動機について、筆者は「女性がものを書くとはどういうことか、ということに、私は長く関心をもってきた」と書いている。これら9人の女性作家たちが、ものを書くようになったこと、あるいは、書いている中身、に父親がどのように影響を与えているかを考える、すなわち、「娘と父の関係を通して、新たな側面からこのテーマについて考える」ことが狙いであったということだ。
    それぞれの女性作家たちの経験は強烈だ。
    例えば、渡辺和子は、2.26事件で青年将校に襲撃・殺害された父親が、自宅で実際に殺害される場面を9歳の時に目撃している。萩原朔太郎の娘、萩原葉子は、「私はまさしく父親の犠牲者としてこの世に生まれた」という父親・親族との関係を持っていた。それらは、もちろん、彼女たちの作家として書くものに、そして、その背景となる人生そのものに大きな影響を与えているのだ。

    本書は、日本経済新聞の、土曜日朝刊に連載されていた。書評欄の裏のページに書かれていたように記憶している。新聞連載の1回分に書ける分量は限られており、どうしても、話が断片的になってしまう。今回、単行本で読むことが出来て良かったと思う。筆者は、ノンフィクション作家であるだけに、本書の取材や調査も行き届いていると感じた。

  • <書評>『この父ありて娘たちの歳月』梯久美子 著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/219126?rct=shohyo

    (書評)『この父ありて 娘たちの歳月』 梯久美子〈著〉:朝日新聞デジタル(有料記事)
    https://www.asahi.com/articles/DA3S15498439.html

    『この父ありて 娘たちの歳月』梯久美子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163916095

  • 「人はたまたま遭遇した時代に人生を左右されるのだ」
    当たり前だけれど、人は誰も親はもちろんのこといつ生まれるか、自分のはじまりを選ぶことはできない。けれど、どんな環境においても、その父の娘として生まれてきたからには「そのように生きるしかなかった人間」がいたのだと、九人九様それぞれが悩み苦しみながらも必死に手を伸ばして生きる姿に心を揺さぶられた。特に心に残った萩原葉子さんと茨木のり子さんは作品も読んでみよう。

  • いい本を読んだ。
    梯久美子さんが選んだ9人がまず、いい。
    著者が、この人たち、と選んだ9人は、父との距離が程よく遠く、家父長的でなく、それでいて愛情がある。

    距離が程よく、関係性がウエットにならずにすんだのは、おそらく彼女たちが「書く人」になったからだろう。
    作られたと感じる泣かせる話は何一つない。
    どの親子のエピソードも覚えておきたくなるが、いかんせん、新聞連載なら覚えられたかもしれないが、こんなに面白い書籍になっては、覚える暇もなく読み終わってしまう。

    目の前で父を惨殺された渡辺和子
    投獄された父を「おかしな男です」と天皇に話した斎藤史
    娘は幸せな結婚をしたと信じて死んだ島尾ミホの父
    4人目の妻に甘えて暮らす父への嫌悪を抱えた石垣りん
    父という存在があったからこそ、夫や異性の友人に恵まれた茨木のり子
    口ばっかりで弱かった田辺聖子の父
    家に帰ってこない父を「好きだったから」という母が愛した男と捉える辺見じゅん
    母に浮気をするよう仕掛けた父、自分を顧みなかった父を描き続けて家族を最後まで面倒を見た萩原葉子
    辛苦の中で自前の哲学を生み出した市井の人であった石牟礼道子の父

    どの父も、父より大きい娘の慈愛の目によってその生き方が肯定される。
    この娘たちが、本当にすばらしい。

    梯さんの著作を読んでみたくなった。この人が書くなら間違いなさそうだ。

  • 父親との関係で娘を見る、というのを思いついた時点で、おもしろさが決まったようなものだ。
    あとは人選。

    石牟礼道子さんのお父さんが忘れ難い。
    時代を考えると江戸と地続きの人。
    古きよき日本人像というフィクションでしかありえないような人柄を、娘がものを書く人であったが故に今に伝えている。

    そして茨木のり子さんと石垣りんさん。
    特に石垣さんは、まさに今読まれるべき人だ。なんて胸に刺さるんだ。その人生を知ると尚更。
    ふたりの父親は対照的。
    けれど二人の詩は。

    またこの二人が仲がいいというのが、もうなんていっていいのか…柚木麻子さん辺りに小説にしてほしい。
    朝ドラでもいいよ。

  • 渡辺和子さんの話の印象が強い。ここまで愛して愛されたからこそ、晩年の感情に繋がったのだろう。あとは大人は親はきちんとしないといけないなと思った。とても印象に残った。書ける人は自分を救えるんだろうな。羨ましい。

  •  文学者の娘からの視点で父を見つめる。とてもいい作品である。どうやらこの程度の長さの文章の方がじっくり読める。

  • 日経新聞土曜版に連載されていたときから注目して読んできましたが、改めて一冊となり、じっくりと時間をかけて読みました。梯久美子の文章には、なんとも言えない説得力があり、時間をかけての咀嚼にふさわしい。
    「この父ありて」この娘あり、なのでしょうが、渡辺和子、齋藤史、島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、辺見じゅん、萩原葉子、石牟礼道子と、「書いた」娘たちの生涯に光を当てる著者の視線は実にあたたかい。
    いずれも素晴らしいですが、最初の渡辺和子、そして、最後の石牟礼道子がやはり圧巻でした。

    渡辺和子といえば、吉行あぐりさん(吉行淳之介、吉行和子の母)のエッセイ「梅桃が実るとき」に、二・二六事件のことが出てきていて、当時も世間が狭かったんだなと思ったのを思い出しました。

  •  最初何の気なしに読み始めましたが、娘から見た父や、それぞれに濃い父娘関係に引き込まれて、一気に読んでしまいました。あとがきにもありましたが、書くことができるまでに長い歳月が必要で、書くことで徐々に父娘関係を俯瞰で見られ、書くことに苦しみつつも、真摯に家族と向き合い、一種のセラピーのようでもありました。
     最初の渡辺和子さんと2・26事件で青年将校に殺害された父の場面から始まり、晩年、渡辺さんが加害者遺族と出会って、加害者遺族が自分以上に辛い年月を過ごして来たと分かり、ようやく恨みから開放されたという記述に、想像を超える人生のあり様を垣間見た気持ちがしました。

  • 日経新聞に連載された9人の女性作家たちの父との関係についてまとめた本。綿密な取材で、彼女らが父をどうとらえたか、深掘りしながら鋭く推察している。
    厳しい時代に生きた父への尊敬、愛情の念もあれば、憤り、悔恨、葛藤といった負の感情もある。それらを通して感じたのは、「書く女」たちのしなやかさと強さだ。それに対比して、男たちの身勝手さ、浅はかさも伝わってきた。
    修道女として生きた渡辺和子は、二・二六事件で、父親が射殺される瞬間を目前で見たが、泣かなかった。軍人の子として凛とした姿勢を貫いた。
    石垣りんは、半身不随となり4人目の妻に甘えて暮らす父親への嫌悪の中、窮乏した一家6人を養うため、定年まで働き続けた。          辺見じゅんの父は角川書店創業者。「収容所から来た遺書」などの名作は、戦争に翻弄された父の世代の悲哀が根底にある。
    夫の裏切りで精神を病んだ島尾ミホは奄美の父を捨て、孤独の中で死なせてしまったという悔恨を生涯抱えていた。
    軍国少女だった田辺聖子は芸術家肌で温厚だが弱々しかった父親を受け入れられず、優しい言葉をかけないまま、死なせてしまったことを悔いる。
    詩人・萩原朔太郎の娘、葉子は両親の不仲や母の出奔、障害者の妹の世話、祖母に疎まれた生活など苦難の人生を「私はまさしく父親の犠牲者としてこの世に生まれた」と表現した。
    水俣病闘争に関わった石牟礼道子は、貧しく苦しい生活の中でも自らの哲学を持っていた父の背中を見て育った。     名作が生み出されるバックボーンとして、父親との間の壮絶な人間物語があったのだと、強く認識した。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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