- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163916682
作品紹介・あらすじ
時は文化5(1822)年。本屋の“私”は月に1回、城下の店から在へ行商に出て、20余りの村の寺や手習所、名主の家を回る。上得意のひとり、小曾根村の名主・惣兵衛は近ごろ孫ほどの年齢の少女を後添えにもらったという。妻に何か見せてやってほしいと言われたので画譜――絵画の教本で、絵画を多数収録している――を披露するが、目を離したすきに2冊の画譜が無くなっていた。間違いなく、彼女が盗み取ったに違いない。当惑する私に、惣兵衛は法外な代金を払って買い取ろうとし、妻への想いを語るが……。
江戸期の富の源泉は農にあり――。江戸期のあらゆる変化は村に根ざしており、変化の担い手は名主を筆頭とした在の人びとである、と考える著者。その変化の担い手たちの生活、人生を、本を行商する本屋を語り部にすることで生き生きと伝える“青山流時代小説”。
感想・レビュー・書評
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江戸時代、地方の村の名主や庄屋、医者などに学術書を行商して歩く本屋さんの物語。三つの中編からなる話は、始めは出てくる本の題名がさっぱり理解出来ないが、その本を必要としている人々のことが分かると、物語をスイスイ読み進められるようになった。ほかの読書家さんたちも言っているように、三話目の『初めての開板』がとても良かった。村医者・佐野淇一先生の「人となり」に、ものすごく感動した。
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本の雑誌8月号ベスト4位に選ばれていたので気になって購入。
やはり印象に残ったのは最終話。
なぞの医者がなぜ名医として生まれ変わったのか、それを紐解いていく本屋さん。
本屋さんの葛藤にこちらも心を揺さぶられながら読み進めていくと、最後は心暖まるお話。良かったね!本屋さん。 -
流れる一冊。
三篇からなる江戸時代の本の行商人の物語。
時代を商いを矜持を…と、全てがバランスよく心に流れゆく至福のひとときを過ごせた。
本を通じての交流、白昼夢のような出来事、ちょっとした不可解な謎を絡めながら人々の在り様、心が浮き彫りにされていく筆運びは時に小石が滞るような苦しみ、せつなさがありながらも、矜持なるものによってその小石が自然と退けられすっと清らかな水が流れる感覚を味わえた。
中でも医者の矜持が導く松月堂の夢への清々しい流れが心地よい。
財だけではない、心満たされてこその真の豊かさも伝わる読後感。 -
オール讀物2021年9,10月号本売る日々、2022年9,10月号鬼に喰われた女、3,4月号初めての開板、の3つの連作短編を2023年3月文藝春秋から刊行。江戸時代の農村を廻る本屋さんの連作短編。農村に暮らす人々の本にまつわる話だが、深く潔い独自の世界観が秀逸。人情や不可思議というテーマの機微のある自在な展開に驚きを覚えた。江戸時代の農村でなければ、表現できない話かも知れない。青山さん凄い。大久保明子さんの装丁も良い。
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本当に凄い本だった。私が書店員だったら本屋大賞にこの本を投票したい。
時代ものは苦手意識があったけれど、本を売る話が3遍で非常に読みやすかったし書物がいかに重要であったかも書かれていて共感できるところも多かった。
何より「初めての開板」のラストは圧巻。
本好きにはたまらない時代小説だと思う。 -
初読み作家さん。
本好きにはたまらない感じかも。
主人公の本に対する知識や情熱がすごい。
不思議な感じの作品もあり、全体的にバランスが良く読みやすかった。
他の作品も読んでみたい。 -
江戸時代の本屋さんが主人公。意表を突く設定に引き込まれる。その博学ぶりにも。庶民の暮らしぶりが鮮やかに目に浮かぶ。「立ち位置を踏み外さない事が肝要」「医は一人では前へ進めません。みんなが技を高めて、全体の水準が上がって、初めてその先ヘ踏み出す者が出る。一人で成果を抱え込むのではなく、みんなで自慢し合わなければダメ」
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時は江戸時代。
城下に店を構える私は毎月二回、在へ行商に回る。
そこで出会う人々との関わりと、本への想い、人の情。
謎解きあり、怪異あり、当時の生活と文化ありの3つの連作。
・本を売る日々・・・71歳の名主、弥兵衛が17歳の娘を嫁に?
里になる山葡萄は自由に摘める森の山葡萄とは違う。
あなたが変われたように、彼女を変えるのは、あなただ。
・鬼に喰われた女・・・東隣の国の八百比丘尼伝説を尋ねようと、
向かう途中で出会った怪異。伝説を知る名主が語る
真実は、50年の恨みか?それとも。
・初めての開板・・・隣国の姪が治療を受ける町医者は良医らしい。
が、過去の人物像との違いは?名医と名高い村医者と
交流することで、町医者の変化の境界を知る。
借財があり、自分は一介の業者で、これは商いだと嘯く私。
だが、物之本に対する想い、本に関する知識、
客のために何年も掛けて京・大坂で探し出す情の深さは、
本屋としての矜持をも感じさせられます。
そんな彼が出会う人々との「知」の交流と、本屋ならではの
視線で探る、謎や人の想い、怪異の物語。
独特の間の取り方や淡々とした語りは、当時の生活や文化に
添うようでした。在野や村にも「知」を求め、本を贖う人々が
いること、彼らに本を運び、本談義の相手となる本屋。
そのお互いの息遣いが感じられる作品になっています。
特に「初めての開板」は、佐野淇一先生の言葉に思わず涙。
これは私と、西島晴順への口訣なのかもしれない。