- Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166608904
作品紹介・あらすじ
説経節の名作『小栗判官』を題材に、餓鬼として甦り、土車で引かれる主人公の熊野への旅を改めて検証するとともに、貴族や高僧といった上流階級ではなく、庶民の目線から見た貧困、病、宗教、そして恋の道行き等の実態を描く。
感想・レビュー・書評
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非常に面白い。史料的なところではマイナスだが、それは自分でもとを調べればよいこと。とっかかりとして役に立った。
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第32回アワヒニビブリオバトル「お風呂」で紹介された本です。
チャンプ本
2017.12.05 -
目も見えず耳も聞こえず口も利けず、そして歩くこともできない六根片端の身となった小栗判官。その身体を癒すため熊野へと向かう長い長い道行き。小栗判官と照手姫の伝承に題材にした五大説経節のひとつ「小栗判官」から、中世の下層民の有り様を描き出す。
関東の荒れ野から始まる小栗判官の道行を順番に追いながら、原始伝承の成り立ち、説経節としての作品ができ上がる過程、そしてそれらの背景として存在する中世の下層民たちの生き様を考察するという独特な構成をとる。小栗判官の物語とそれ以外の要素は明確には区分されず、境界を曖昧にしたままに語られる。説経節の引用と伝承・その他の引用、著者が加える考察、さらなる空想、それらがとは渾然一体となり論考とも小説ともつかない特異な作品となっている。その意味では学術的な成果を一般向けに記したものとは言えない。厳密性と引き換えに、著者は想像力を目一杯広げて小栗判官の世界へ深く深く潜り込む。そうした空想によって小栗判官の背後に潜む豊穣な世界が引き出される。
「中世の貧民」という書名からは相当に逸脱した作品ではあるが、その一方でただの概説書にはない、この書籍、この著者にしか描けない世界がある。 -
(欲しい!/新書)
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日本の貧民研究といえばこの人だと思うのだが、本書は小栗判官の説経に従って、鎌倉末期の庶民の生活や思想に切りこんでいくというユニークな視点で書かれている。
小栗判官の物語は、時代考証という点では荒唐無稽なものになってしまっているようだが、当時の下層の人々が求めているものは何だったのか、という観点からの解説は非常に興味深い。
余談だが、子供の頃に見ていたNHKの新八犬伝に、小栗判官と照手姫が登場していたのを思いだす。確かに姫が、判官の乗る車を引いていたような気もするのだが、記憶は定かではないし、当時はその意味も勿論知らなかった。 -
災害や疫病や飢餓は常時中世の人々を苦しめた。ある者はその辛さに耐えられず首をくくったり、身を投げたりもしただろう。死の誘惑に負けなかった者は、何らかの形で仏教の力に縋ったのではないだろうか。庶民の仏教に対する姿勢は、解脱より俗世間での安逸を求める方に向かったのである。
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もう少し学術的な内容を期待したのですが、単なる著者のエッセイでした。説教武士が大好きなのは伝わってきますが、肝心なところで学術論著ではないからとはぐらかしながら、当時の様子をいかにも証左があるような書き方をしていて、ちょっとずるいなあと感じます。