僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう (文春新書)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166611188

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  • 京大名誉教授でありかつ詩人の永田和宏氏と山中伸弥氏、羽生善治氏、是枝裕和氏、山極壽一氏という超一流の人たちの講演とその後の永田さんとの対談を収録したのが本書である。

    山中さんとの対談では、大学はそれまでと違い答えがある問題の正解を探すのではなく、誰も答えを知らない、もしくは答えがあるかどうかもわからないが、大切な「問い」を自分で見つけるという態度を学んでほしい、というところが心に残る。大学に入ったときにまず第一に欲しい言葉だ。自分はこれがわかっていなかった。

    羽生さんとの対談では、ミスをした直後には後悔して過去に引きずられることなく「自分の将棋は次の一手からはじまる」とその場に集中する、というところが心に残る。それはすでにもう起こったことなのだ。

    是枝監督が、名作『そして父になる』でのリリー・フランキーの深い演技に触れるところは印象的。ぜひ読んでほしい。

    山極教授が、他の霊長類と比べて人間の一番重要な能力は「諦めない」というところという視点は面白い。

    それだけの人からは、やはりとても素敵な話を聞くことができるのだと思う。
    本として、軽く読める分量。対談本としては、コンセプトも理解できるし、よくできている方だと思う。

  • みなさん本当によくものを考えていらっしゃる。永田さんが聞き上手。iPSのiが小文字なのって…

  • どの人もさすが第一線で活躍されている方。こんな風に歳をとりたい。

    山中伸弥…20代はなんでもいいから失敗してでも打ち込めるものを見つけて貰いたい。それと体力は裏切らない。

    羽生善治…失敗を挽回できないほど重ねないこと。ミスを重ねないためには「その時点から見る」という視点が大事。「次の一手から始まる」とその場に集中していく。様々な物差しを持つと何かに挑戦する時に必要以上に不安にならないし考えすぎない。結果だけを求めると上手くいかず苦しくなることもあるが、プロセスの中で「面白い!やって良かった」という感動を見つけられることが挑戦を続けることの支えになる。挑戦をスムーズに続けるにはどこまでアクセルを踏んでどこでブレーキを踏むか適切な判断ができるかにかかってる。相手の立場で考える難しさ。相手の立場に立って自分の価値観で考えてしまう。

    是枝裕和…読者は目に見えない存在。うなづいているかどうか殆ど自信が持てない。だがみんなに分かってもらおうとすると最大公約数になってしまい、何も面白くない。もっともらしい言葉がないのがいい。
    世界はいつも自分の文脈の中で認識される。文脈を外れてそれ以外の見方で接することは中々難しい。悪を排除して解決できることなんて、実は大した問題ではない。真っ白と真っ黒を放棄したグレーゾーンの中で物語を作り続けたい。

    山極壽一…勝つ論理と負けない論理。どちらも共存するためのルール。勝とうと思ったら相手を屈服させなければならないから、恨みを買ったり、相手が自分を避けたりする。しかし負けない論理のゴールは相手を押しのけることではなく友好的に共存することだから相手を失わない。自分にしかできないことは何だろう、自分だからこそできることを探す。それが自分の知識をまとめることにも繋がるし、他人が考えたのではないことを自分が考えることにも繋がる。動物は諦めが早いが、人間はしつこい。

  • 「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」 山中伸弥 羽生善治、是枝裕和、山極壽一、永田和宏
    ------------------------------------------------------------
    京都産業大学での講演・対談シリーズ「マイ・チャレンジ一歩踏み出せば、何かが始まる!」。どんな偉大な人にも、悩み、失敗を重ねた挫折の時があった。彼らの背中を押してチャレンジさせたものは何だったのか。
    「BOOK」データベースより
    ------------------------------------------------------------
    すごい人たちの講演と対談をまとめたものです。
    山中伸弥さんと羽生善治さんが何となく好きなので買ってみました。

    この講演・対談は大学で行われたものだそうです。
    講演・対談の趣旨としては、
    『最近の大学生たちは「あの人と自分は最初から違う人種」とか「あの人は特別だから」というある種の線引きを最初にしている。
    なので「あの人のようになりたい」とか憧れをもつこと自体少なくなっているように感じられるけど、実は一流の人たちも自分たちと同じような人間で自分らとそんなに違わないんだよということを、若者にも知ってもらいたい』
    みたいな感じです。

    最近の若者が、っていうわけでもないと思うけどね。。
    最近の若者をうみ出してきた最近の中高年がこういうおまじないを唱えて生きてきた結果、最近の若者がそれを受け継いでるだけで。。。
    年齢問わず、今を生きる多くの人がある程度は当たり前に持ってる考え方なんじゃないかしら。

    「あの人と自分は最初から違う」っていうのは真実でもあるのだが、都合よく線引きするにとても便利な言葉だと思う。
    「あの人と自分は最初から違うから、自分には無理」という思考をいろんな場面で使うようになっちゃうと、あんまりよろしくはなさそう。

    あと、相手が芸能人だと「芸能人なんだからこれくらい言われるの当然」みたいに、芸能人特別枠でバッシングすることもよくある気がする。
    けど、私はこれも個人的にあんまり好きじゃない。
    なんか、自分と違う枠で都合よく扱って、大事なことが色々見えなくなったり気づけなくなってく気がして。。
    こないだワイドなショーで髭男爵の人が、一般人から浴びせられる辛口評価にたいして
    「その厳しい目、自分自身の人生に向ける勇気ある? あるんやったらいいんですけど」 
    って言ってたんだけど、それよね。
    なんか、他人を別枠扱いにして、自分自身のいたらなさや努力不足から逃げてんのはあんまりかっこよくないなぁと思うのよね。
    まぁかといってストイックに生きるのはしんどいし、適度に活用するくらいならアリだと思うけどさ~。私だって時々「あの人は最初から違うわ」とか言うし。
    ただ、使いすぎには気を付けたい。


    話は戻りますが、本の内容について。
    講演や対談を本におこしたものなので読みやすいです。
    すぐ読めます。
    そんで、グッとくる一言も多いです。
    経験値をたくさん積んでる人は、経験値を集約して、極めてシンプルな理論を確立させてるなぁ、というのを全体を通して感じました。
    またこのシンプル理論がなんともいい具合に響くのだ。
    こういうシンプル理論は、40年近く生きてきた普通レベルの私でも多少あるんだけど、バラバラしてたいろんな経験とか知識の集合の中から共通項を発見するってなかなか面白いのよね。
    世の理を発見した気になる、みたいな?
    学者さんに将棋の名人、映画監督などジャンルは違うけど、その道を極めた人の話は面白い。
    世界に名を成すような人だけでなく、近所のママ友とか、別の職種の友達とか、普通の人たちでも、話してみるとその人なりの仕事論とか、その人が見つけた真理とか垣間見えるときがあってすごく面白いなぁと思う。
    偉人じゃなくてもさ、人の生きざまを知るってのはそれだけで面白いもんですよね。
    家族も同じで、親の生きざまも意外と知らないから、年取ってから若い頃の話を聞いて新発見することもあるし。
    うちのじいさんに至っては、亡くなってから実はバツイチだったって聞いて家族一同びっくりだもんね(笑)
    この本のなかではそこまで各自の人生を掘り下げてるわけでもないので、「こんなすごい人も実は若い頃は普通だったんだ」と思うにはちょっと物足りない感はあるんだけど、でもやっばその人の人となりを知れるので面白いです。

  • 山中先生の話が一番印象的でした。
    それ以外の方は昔からそれなりに天才なのかな。
    特に羽生さんは子供の頃から少し違いますね。
    ミスが起きたら引きずらず、そこから勝負開始と切り替えるという考え方はとても参考になりました。
    この本の素晴らしい点は、この本に登場するスターと自分の差が少しだけ近く見えることです。
    これまでは何周遅れているのか、はたまた同じ競技をやっているのかすらわかりませんでしたが、そんな方々が少し身近に感じることができる良書でした。

  • 是枝監督のファンなので読みました。
    天才5人がみんなと同じ人間だということを実感してもらうための書籍とのことでしたが、やはり5人とも若くから頭角を現しているように思う。

    以下、備忘録。
    山中伸弥
    ・iPS細胞のiはiPhoneをパクって小文字にした
    ・アメリカではみんな「素晴らしい研究だから頑張れ」と励ましてくれた。
    日本では「こういうやり方ではダメだ」と忠告の方が多い。ディスカッションで大事なのは、身分の上下があっては絶対にいけない。
    ・学生時代に海外に行って欲しい。
    ・20代の失敗は宝物。財産。失敗してでも夢中になれることを見つけて欲しい

    羽生善治
    ・様々な物差しを身につける。3年かかって英語を身につけたら3年の物差し、1週間で竹馬をマスターしたら1週間の物差し。
    ・棋士になって、コマを動かす楽しさは捨てなければいけなかった。

    是枝裕和
    ・講演が苦手。1人で喋るのが苦手。
    ・1960年代のテレビドキュメンタリーに権力の抑圧を受けて歪められた姿がみえる
    ・英語が苦手
    ・小説家になりたい
    ・学生時代、サークルは入らなかった
    ・大学在学中から映画を撮りたいと思っていた。映画を見まくっていた。
    ・協調性がなかった。大人を信用していなかった。
    ・クイズ番組、旅番組、情報番組を1年目にやらされてくだらないとしか思えなかった。
    ・自分は全く役に立たないと悩んでいた。初めてディレクターとして「地球ZIGZAG」という体験型ドキュメンタリーを作った。
    ・1本目でやらせをした。演出というものに自覚的になった。
    ・先入観が崩れることが面白い。面白いことが起きてると感じる反射神経が最も求められること。
    ・映画は自己表現じゃない。
    何かをじっと見ている表情を、見ている先を映さずに撮ると、何を見ているのかを含めて観客はフレームの外を想像し、人物の内面に寄り添う。
    ・映画を観てる人が、分かってくれるだろうという信頼感がないと説明に走ってしまう。テレビはながら見でも分かるように作るが、地球ZIG ZAGのプロデューサーからは「誰か一人に向けて作れ」と言われた。彼女でも母親でも。それが今も役に立ってる。
    ・自分の映画で取り上げたものが日常に戻った時にちょっと違って見えるようになるよう意識している
    ・普段自分たちは全然物事をみていない。カメラは世界を発見する道具と子供たちにも教えている。
    ・巡るというのが好き。楕円時間。1年経って桜が咲いているが去年のものとは違う。少し成長、進んでいる。
    登場する人物にも変化が生まれる。
    ・悪を排除して解決出来ることなんて大して問題じゃない。
    神もいないと思ってるので、グレーゾーンの中で物語を作り続けたい。


  • 二十代。何をやったら正解というものはない。でも何もしないのだけはやめてほしい。どんなことでもいいから、何かに夢中になっていたら、自分の成長につながっていく。なんでもいいんだ。


    一つでもいいけど、もう一つ何か力を尽くしてるものがあると、one of them で楽になれるかも。

    自分にしかできないことは何だ。

  • 素敵な企画だなぁ

  • 立花隆『青春漂流』『二十歳のころ』にしろ、仮に美化されたものだとしても、誰かが己の青年期を回顧し、そこから人生訓を抽象化してくれるなら耳を傾けない手はない。そもそも正解がなく、比べられない人生。与えられるのではなく、掴み取ること。

  •  それぞれの分野で著名な「あの人」は、どんなことに悩み、どんな失敗をし、自分のやりたいことにどう向き合ってきたのか?
     京都産業大学創立50周年の記念事業、講演・対談シリーズ『マイ・チャレンジ』を書籍化したもの。

     講演してくれるのはiPS細胞の第一人者山中先生、将棋の羽生名人、映画の是枝監督、そして東大総長の山極先生、インタビューの聞き手は短歌の永田先生という豪華さ。
     山中先生が外科医になろうとしたものの手術をうまくこなせずに「ジャマナカ」と呼ばれたことや羽生名人が勝負に美しさを求めること、是枝監督のこだわり、そして山極先生のゴリラ研究の話など、どれをとっても興味深いものでした。若い方に是非読んでほしいものです。

著者プロフィール

山中伸弥 1962年、大阪市生まれ。神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科修了(博士)。米国グラッドストーン研究所博士研究員、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年4月から京都大学iPS細胞研究所所長。2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞。2020年4月から公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の理事長を兼務。

「2021年 『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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