新装版 菜の花の沖 (1) (文春文庫) (文春文庫 し 1-86)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167105860

作品紹介・あらすじ

江戸後期、淡路島の貧家に生れた高田屋嘉兵衛は、悲惨な境遇から海の男として身を起し、ついには北辺の蝦夷・千島の海で活躍する偉大な商人に成長してゆく…。沸騰する商品経済を内包しつつも頑なに国をとざし続ける日本と、南下する大国ロシアとのはざまで数奇な運命を生き抜いた快男児の生涯を雄大な構想で描く。

感想・レビュー・書評

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  • 高田屋嘉兵衛の生涯です。
    貧しい漁村から身を起こした嘉兵衛が、海運を生かした商品経済のなかで大きく成長していきます。
    決められた大きさの船以外は建造が許されず、世界基準からいくとかなりの小舟で海運に従事することしかできません。江戸時代とはつまり進歩をとめることで統治を安定させる時代であったとあり、うわーすごい勉強になる!と司馬遼太郎の慧眼に心酔しました。ニシン脂に綿糸の流通、江戸時代の活気が漲ってる作品です。そして、後半のロシア来航では、敵対しそうになるも、ついには人と人としてわかりあっていくさまが感動的です。
    時代の魅力がぎっしりと詰まっている作品です。

  •  普段,ほとんど小説を読まない私が,あるラジオ番組(武田鉄矢の今朝の三枚下ろし)に触発されて手に取ってみた司馬遼太郎の作品。わたしが読んでいるのは,文藝春秋社から出ていた昔の単行本(昭和56年発行)である。
     本の最後に作者の「あとがき」があったのには,ビックリ。この作品は,小説と言っても,その内容がほとんどノンフィクションっぽいからこそ,作者自らがこういう解説をつけるんだろうな。
     文章の中にも,小説の流れの一部ではなくて,わたしたちの学習のために…というような知識の解説が随所にあり,物語を意味が分からないまま,時代背景が分からないまま読んでいくよりもとても分かりやすい。でも,こういう解説もまた,わたしがこれまで読んできた小説にはなかったことなので,司馬遼太郎の作品の特徴なのかもしれない。こうして作品中でいろいろ解説されると,歴史的な知識も増えるだろう。おそらくそういう意味でも,歴史好きな人は司馬さんの作品が好きなのかもなと思った。間違っていたらすんません。

     たとえば,本文中に苗字についてのこんな件がある。

     苗字という習慣は、平安中期ごろにおこったのであろう。その前に、氏があった。古代の氏族の氏はさておき、平安期になると、京の貴族グループの血縁的なわけ方として源、平、藤原、橘という四つの姓が氏の代表的なものになった。
     おなじ藤原氏でも幾つかの本流から多くの分流にわかれたために、その住まいの所在地を呼称することでまぎれないようにした。一條に屋敷をもつ家を一條家というふうにである。近衛、九條、三條、三條西というように呼称された。氏は藤原氏で苗字が近衛というかたちになる。
     やがてそれでも分類しきれなくなると、官職の一文字をとって呼称したりする。たとえば藤原氏本流からみると遠い分流の者で加賀介という地方官をつとめた者が一家をたてたとき加藤という苗字がおこり、似たような遠い系譜を称する者が伊勢に住むと伊藤とよばれたりして、その苗字が興る。(単行本のp.230~231)

     もうこうなると,小説なのか,歴史解説書なのか分からない。とても勉強になる小説だわ。

     あ,小説の内容については,みなさんのレビューをご覧下さいな。

  • レビューは最終巻の予定

  • ▼司馬遼太郎さんの<実在人物主人公>な長編小説の中で、唯一未読なものでした。恐らく15年くらい前、30代だったころに一度読もうとしたんです。文庫本で全6冊だったか。1巻の途中でやめちゃった。その時はなんだか「舟や商売の雑学が多すぎて、ドラマチックさに欠ける」という不満がありました。

    ▼それから、自分が経年変化していくにつけて、司馬遼太郎作品の楽しみ方が窯変?してきた感があり、「ドラマチックさに欠ける」感じも物凄く滋味深く感じるようになり。今ならこれ、面白いんじゃないか?ということで。

    ▼面白かった。江戸中期(後期の序盤と言うか)、1790年代くらいだったかの話。高田屋嘉兵衛のお話。淡路の国の貧農の子で(微妙に身分としては士分の痕跡が残っている的な)、とにかく貧しい。いろいろ訳アリで隣村で青年期を迎える。この隣村の青年団?に、激しく苛められる。陰湿。このあたりに作者はのちの軍隊や現代の学校いじめや部活のにおいを嗅いでいます。

    ▼嘉兵衛は、ふるさとを捨てて船乗りになる。そんな物語に、その時代の経済や運輸の情報がちりばめられて。一種、「街道をゆく」的な小説です。それが、今の自分には実におもしれえ…。

  • 司馬作品にもっと触れていこうという決意は「司馬遼太郎の世界」と題した弔問文集に出会ってから新たになった。そこには氏の没後、各界の著名人が氏に対する敬慕の念を綴った文章が集積されており、その中に次々と出現する氏の著作群にうなずけない自分が面はゆくなったが故に次の作品を手に取るペースを速めてきた。

    その中の一編に高峰秀子氏の文章が含まれており、ちょうど近隣の映画館で彼女の追悼公演を観たばかりであった自分にとっては宝物でも見つけたかのように喜んで読み進めた。「菜の花」と題された司馬氏に対する慈しみにあふれたその文章は印象深く、その中に司馬氏がハワイに来訪された際のエピソードがひとつ含まれていた。ハワイにそぐわない司馬氏をどこにお連れしようかと高峰氏が悩んだ際、高峰氏ご主人の勧めもあって浜にビーチチェアを出してゆっくりしてもらうことにしたそうな。その時間を過ごしての司馬氏のお言葉。

    「よかったよ。一人にしておいてくれて。おかげで次ぎの仕事の構想がぜんぶできた」

    それが本作品となる。

    司馬氏のお通夜は菜の花に囲まれていたとのこと。「黄色い花を見ると元気がでます。」とは司馬氏が高峰氏に宛てた手紙の中に含まれていた言葉。

    満を持して第一巻読了。確かに元気が出てきたような気がする。

  • 前回、同じ司馬遼太郎さんの城塞を読んだ後だけに明るい本を読みたいと思い高田屋嘉兵衛さんを主人公にしたこの本を読んだ。本の紹介で快男児という言葉に惹かれた。
    一巻は苦しい淡路島時代から兵庫に出て行くまでの話。今後の展開が楽しみです。

  • 近世史 トータルなイメージをつかむなら (谷沢)

  • 江戸後期の商人・船乗りの話。人間とはどうあるべきか勉強になった。蝦夷地で当時膨張していたロシアとの接触の話が佳境であり、今まで具体的にはつかめなかった歴史が実感出来た気がする。
    うちの家系が商人なので庶民の歴史に興味がある。江戸時代は庶民が顔を持ちはじめる時代で、自分の先祖もその一人だったと思うと感慨深い。

  • さすがに名作
     「飛びあがった」など、機微は根底が俗に通じてゐるが、比喩の巧みさと語感の選択のうまさが内容を高らしめて、俗を俗たらしめてゐない。総じて名文といへるところが多い。

     展開もうまい。まさか歴史小説で嘉兵衛とおふさの恋愛に惹きつけられるとは思はなかった。

     初心者向けに用語を説明しようといふ気配りも大きい。

     至る所、感心しづくしであって、小説を書かうといふ作家は、歴史小説・純文学・ミステリ・SFの垣根なく、おしなべて読むべし。日本史の勉強にも小説の勉強にもなる。

  • 司馬遼太郎の最高傑作、大好き❤

    話に出てきたゴロウニンの日本幽囚記がまた面白い。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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