- Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167110123
感想・レビュー・書評
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1.著者;東野氏は小説家。「放課後」で江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビュー。氏のエッセイによれば小中生の頃、成績はオール3で読書少年でもなかったと。高校入学後に「アルキメデスは手を汚さない」を読み、推理小説に嵌り、松本清張作品を読み漁ったそうです。「容疑者Xの献身」で直木賞と本格ミステリー大賞、「祈りの幕が下りる時」で吉川英治文学賞等、多数受賞。文学賞に15回も落選し、厳しい時代を経験した苦労人だけに、幅広い読者層があるのも頷けます。
2.本書;数学者としての才能はあるが、不遇な生活を送っていた高校教師の石神。隣人の母娘が前夫を殺害した事を知り、完全犯罪を計画。実行したものの、曽ての親友の物理学者、湯川に見破られる。石神が、母(靖子)娘の殺人を隠蔽する為に、別の殺人を犯していたという結末に驚愕。19項の構成。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『第6項』より、「ある新設の大学で助手を探しているという話を教授が(石神に)教えてくれた。・・その話に乗る事にした。結局それが彼の人生を狂わせる事になった。その大学では研究らしい事は何一つ出来なかった。教授達は権力争いと保身の事しか考えておらず・・。他の大学での再就職を望んだが、希望は叶いそうになかった。・・彼は学生時代に取得していた教員資格を生活の糧とする道を選んだ。同時に、数学者として身を立てる道を諦めた」
●感想⇒これは石神(完全犯罪を計画)が目指す道を諦めた最大のポイントです。世の中には、大学を卒業する事を目的としている人が多いと思います。私も入学前はそう考え、受験勉強に励みました。しかし、入学後は自分なりに学問の意味を考えました。幾つかの講義を聞いて、優れた思想を持った教授に出会い、学問の役割は社会貢献、則ち人間生活に役立つ事だと考えたのです。本書にあるように、優れた学者を育てるよりも権力争いという学校もあるでしょう。それが嫌で、石神は目標を失い、望まぬ生活をしたと思います。しかし、偉人には、刻苦勉励骨身を惜しまぬ努力をした人もいます。ヘレン・ケラーの言葉です。「私達にとって最も恐ろしい敵は不遇ではなく、私達自身の躊躇です。自分でこんな人間だと思っているとそれだけの人間にしかなれません」。私はこの言葉に深い共感を覚えます。
(2)『第15項』より、「僕(湯川)や君が時計から解放される事は不可能だ。お互い、社会という時計の歯車に成り下がっている。歯車がなくなれば時計は狂いだす。どんなに自分一人で勝手に回っていたいと思っても、周りがそれを許さない。その事で同時に安定というものを得ているわけだが、不自由だというのも事実だ。ホームレスの中には、元の生活には戻りたくないと思っている人間も結構いるらしい」
●感想⇒「社会という時計の歯車に成り下がっている」というのは、受け入れ難い言葉です。私は、学生時代には会社の歯車になりたくない、個性を生かせる創造的な仕事をしたいと願っていました。しかし、誰もがそんな都合の良い職に就ける訳ではありません。そこで、考え方を修正しました。何かしら社会に係わり、人に幸せを与えられる仕事で貢献したいと思ったのです。物づくりの企業に入り、自分なりに考えました。“社員にやりがいある仕事をしてもらう⇒会社の安定⇒社会貢献”と考え、業務に取り組みました。結果は分かりませんが、“歯車的生き方”ではなく、“主体的に生きてきた”つもりです。フィクションとは言うものの、自己否定的な人生観は好きになれません。少し熱くなりました。
(3)『第19項』より、「指示(石神→靖子)の最後に、次の文章が付け足してあった。工藤邦明氏(靖子の元職の常連)は誠実で信用できる人物だと思われます。彼と結ばれる事は、貴女(靖子)と美里さん(靖子の娘)が幸せになる確率を高めるでしょう。私の事はすべて忘れて下さい。決して罪悪感など持ってはいけません。貴女が幸せにならなければ、私の行為はすべて無駄になるのですから。読み返してみて、また涙が出た。(靖子)これほど深い愛情に、これまで出会った事がなかった」
●感想⇒愛には様々な形があります。異性愛、親子愛、友情・・、石神はこれまで異性をこれほどまでに愛した経験がなかったのでしょう。“一目見て異性が好きになる”というのは一般的に若い頃に経験するものです。寝ても覚めても彼女を思うという心境は分からなくもありません。しかし、その為に殺人まで犯すのは尋常ではありません。学問にすべてをかけたのに、好まない環境に置かれた事が影響したのか、始めて理想的な女性に出会ったからか、知る由もありません。人を愛するという事は大変貴重な行為と思うものの、法を犯してまで恋焦がれるのは理解できません。当事者のみが抱く感情は他人には永遠に理解出来ないでしょう。そうした熱意を他に向ければ、違う人生もあっただろうに、と思うのです。
4.まとめ;本書はミステリー大賞を受賞しているが、様々な事を内包した作品。石神は靖子に対する無償の愛ゆえに、殺人を犯した母娘を命がけで守ろうとする純粋さ(金の無心の為に母娘に付きまとう男を殺した事には一定の同情をするが・・)、湯川との複雑な友情・・、読み応えが十分です。読み終えて、やっと題名の意味が理解出来ました。『献身とは自己の利益を顧みないで力を尽くす事』。法を犯すのは決して許されない行為だと分かっていても、数学者を目指しながら道を外し殺人者となった、石神の孤独は如何ばかりかと深く心を動かされます。ミステリーの中に人間を描く東野氏の手腕に脱帽。(以上) -
何を今更、ガリレオ湯山教授。作品の活躍が華々しいので、どうせ面白いんでしょ、と避けていたような気がしてます。
不遇な天才数学者が、秘かに想いを寄せるアパートの隣人の女性。彼女の犯した罪を遮蔽するため、彼の人生を懸けて構築したトリック。そしてもう一つの犯罪。
天才物理学者湯山は、かつての同僚のこの男の悲しき嘘を見破りながら、彼の本心を看破っていく。
トリックや人物像も読ませますが、数学者が全てを尽くさんとした、そのきっかけの場面は、渾身の献身を納得できる物にしています。
評判通りの、直木賞。
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おおっ!
実はずいぶんまえに古本屋に売ってしまって持ってないんですよ。
下さい。読み返したいんで。
あと、こたつも下さい(笑)
寒いんです⊙...おおっ!
実はずいぶんまえに古本屋に売ってしまって持ってないんですよ。
下さい。読み返したいんで。
あと、こたつも下さい(笑)
寒いんです⊙﹏⊙2023/01/11 -
2023/01/12
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2023/01/12
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無償の愛・・・という言葉がある。
はたして石神の花岡母娘に対する行為は無償の愛だったのだろうか。
もちろん、石神は花岡に対して特別な思いは持っていたと思う。
でも、それだけで犯行におよんだとは考えにくい。
もっと強烈な、石神自身の問題だったように感じた。
何も悪いことはしていないのに大学を追われ、教師としての情熱も持てずに、毎日を暮らしているだけの毎日。
花岡母娘に起きた不幸な出来事は、表現は悪いが石神にとっては「またとない機会」だったのでは?と思う。
誰かのために自分の知識を総動員して対応を練る。
頼られているという実感、自分の存在意義をはっきりと意識させてくれる日々。
死んだように過ぎていた時間が、再び動き出したような喜び。
石神の中にはそんな思いがあったようにも感じた。
湯川と石神の攻防が読み応え十分だった。
先の先を読み、事件のシナリオを書いていく石神。
そして湯川が解きほぐしていく石神のトリック。
どうやら「純愛」というのが物語のキーワードとして宣伝媒体に使われていたようだが、個人的にはちょっとした違和感があった。
石神の完璧な犯罪計画は、花岡母娘のためでもあったが、無意識だったとしても石神自身の存在価値というのが大きかったと思う。
石神が沈黙することで得られるもの。
それは、花岡母娘の脳裏から絶対に消えない自分の記憶・・・だった気がするから。
穿った見方だな、と思う。
もっと素直に「純愛」ってすごい!!という感想でもいいじゃないかと思う気持ちもあるけれど。
「ガリレオ」シリーズの傑作は、いろいろな受け取り方ができる奥の深い作品だった。 -
湯川学"探偵ガリレオ"シリーズ
Twitterの読書アカウントの方のおすすめ本
ドラマをチラ見、映画版は見たけども
前半は覚えていて、後半忘れている状態で読み始める。
やはり湯川さん=福山雅治というイメージは引きづり、想像する時も演じてもらうのですが、文章だと良い感じにクセが抜けて好印象でした。
隣人が殺人を犯してしまい、それを天才数学者であり湯川の同期である石神が知能を駆使して守ろうとする。
そして、奇しくも湯川と対決する形に…
犯人は分かっている時点で、倒叙ミステリーなんですが、肝心のトリックを隠しているので、ちょっと違和感
発表時に賛否両論あったと聞いていたのですが、どうやらこのあたりで議論が起きたようです。議論が巻き起こったと聞いた時、その造りの部分ではなく石神が下した決断に対しての賛否が分かれたのだと思っていました。
(私としても、計算し尽くしているのに何故本当の意味で助けることができると思ってしまったのかが疑問…愛してしまったが故と言うことでしょうか…)
あぁ感動した…というよりモヤモヤが残ってしまいました。
肝心のトリックについても…途中で映画版を思い出してしまい…うーむ
ちょっと良い読み方が出来なかったのがなんだかおすすめしていただいたのに申し訳ない。
東野圭吾さんの作品は、面白く読みやすさが水の如しなので、家事の合間での読書ではありますがほぼ一日で読み終えてしまいました…流石です。
「実にお…読みやすい…」
今度は、触れたことのない作品
「聖女の救済」「真夏の方程式」あたりを読もうかな。
余談:帯にガッツリ福山雅治さんと柴咲コウさんの写真があったので、てっきり内海さんが出てくると思って楽しみにしてましたが……空振り…
追記:石神の決断についても賛否両論だったようです。 -
こりゃ名作だわなといった当たり前の感想しかパッと出てこなかった。
初めては小学生ぐらいの時にみた映画であった。その時はただのミステリーぐらいで見ていたし、ドラマも女性の刑事と湯川との恋愛の様なのが混じり要素が渋滞していたのもあって面白くはあったが、感動といった所までではなかった。
しかし改めて小説で読んでみて、東野圭吾本人の文から描きだされるのは映画とは違った物であり、人々の思い、躍動、錯綜がより鮮明に詳細に描き出されている。本の良さを改めて実感。 -
献身ってそこまでするのかって言う感じ。東野氏のミステリー作家としてのセンスを余すところなく感じさせる一冊。常軌を逸した愛の形が切ない。読み終わってからAmazonプライムで映画まで見てしまった。湯川の「誰も幸せになれない」のセリフが印象に残った。
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恥ずかしながら、東野圭吾さんの作品を初めて読みました。容疑者Xの献身というタイトルは知ってはいましたが、内容もなにも知らない中、読み始め、深い愛情に包まれながら読み終えました。
容疑者の計画は完璧だった。ただそれに関わる人の心まではわからなかったのかもしれない。子供の心は素直だ。
何かを犠牲してまでも愛する人の幸せを願いたい気持ちはよくわかる。今、自分がこうして愛する家族と一緒にいれることを、幸せにいれることを、特別だと思わなければいけない。 -
最初から犯人がわかっているということは、そのトリックや手法、動機に謎解きの鍵があるわけだが。その中でも盲点をついていると思う。伏線のはり方がさり気ない日常の中にあるので、それもまたハッとさせられる要因であった。
一度映画で見ているはずなのに、文字で見るとまた印象も展開も違って見える。また映画も改めて観たくなった。 -
評判高い一冊でしたので読破。
最後のトリックの解説は、なるほどと唸る仕上がりでした。 -
コロナwith?afterコロナで
運動再開、気持ちよく太りすぎたので
ハードなトレーニング再開。
達磨がお気に入りのキャラのため、
そろそろ、出所させ、償いキャラして復活望む。
酸欠、心拍数あげるトレーニングをすると
思い出す。2023.5
現在のブクログの担当者は、この10年間、私がどれほどブクログの普及に貢献してきたか知らないらしいです。
まあ、makopapa77で検索すれば、私の真の姿が半分ほど分かりますが。
初めまして。koshoujiと申します。
亀レスになりますが、私のレビューに対して“いいね”ありがとうございました。
フォローもさせて頂きました。
私は数年前、ひたすらブクログにレビューを書き続ける毎日を送り、300本ほどレビューを書いたのですが、仕事が忙しくなり、最近は殆ど本も読めず、レビューも書いていません。そのうち、また面白いレビューを書くつもりですので、今後ともよろしくお願いいたします。