本の運命 (文春文庫 い 3-20)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167111205

感想・レビュー・書評

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  • 読了 20220224

  • 井上ひさしさんと本との繋がりについて書かれたエッセイ。
    本は、ゆっくり読むと速く読める。なるほど。
    1990年代に書かれているので、今読むと電子書籍についての意見はやはり古いかな。私も紙の本が好きだけど、それが全てではない。

    本を大切にする=本を読む。
    切る、書き込む、というのは私にはできないけれど、愛情をもったり読む機会を増やしたりしていると考えれば、そういうやり方もあるか。

  • 蔵書が大量になってしまい、ついに故郷に
    寄贈で図書館を作ってしまった。

    新刊でもない限り、発売日を過ぎてしまうと
    手に入らなくなってしまうかもしれない本。
    しかもそれが昔のものだったら、更に手に入れにくい。
    とはいえ、手持ちがなければ悩むのは確かです。
    そこを買ってしまう一択にしてしまうのが
    うらやましいような…。

    届けなければいけない本を、先に読んでしまう暴挙。
    この時代でなければ、怒られる、だけでは
    済まされない話です。

    しかし13万冊は…なかなかにすごい数字です。

  • 十三万冊の本をいかに集め、どう読み、なぜ大図書館をつくるに至ったか? 井上ひさしさんと本が繰り広げる波瀾万丈の運命の物語(アマゾン紹介文)。

    著者が『紙の本について』を語る一冊。
    自身との関りや、経由する本屋古本屋図書館、子どもと本など、とても広範囲をカバーしている。「読書感想文を廃止し、概要をまとめましょう」といった提案など、強くなるほどと思わせる。
    …んだけど、自分には、語られている著者の過去の所業がとてもひどく感じ、それ以降はどんよりとしてしまった。

  • 「本はゆっくりと読むと、速く読める」
     つまり、どんな本でも最初は、丁寧に丁寧に読んでいくんです。最初の10ページくらいはとくに丁寧に、登場人物の名前、関係などをしっかり押さえながら読んでいく。そうすると、自然に早くなるんですね。最初いいかげんに読んでると、いつまで経ってもわからないし、速くはならない。でも、本の基本的なことが頭に入ってくると、もう自然に、えっというぐらいに早く読めるようになるんです。(p.64)

     司馬さんが、「こういう本はないか」とおっしゃると、神田じゅうの本屋さんがみんなで協力して集めて、段ボールに詰めて大阪へ送る。それをぱっと見て、これは要る、これは要らないと分けていって、残ったものを送り返されていたそうです。ほんとに本が動いているという感じがしました。(p.120)

    この文章を使って今、私たちは恋も語るし、商売もできる。科学的なことも記述できる。今の日本の散文の基本が、写生文にあったというのは、大事なことだと思うんです。
    外国でも言語教育というものを大切にしています。
    たとえばフランスでは、数学の時間には、台数や幾何を学ぶけれど、それは本当はフランス語を勉強する時間だと考えている。小学校の授業を見たことがありますけど、「1+1=2」を文章で書きなさい、といった問題が出る。みんな一所懸命考えて、「同質のものと同質のものを一個ずつ足すとその集まりは二になる」といった答えを出す。(p.136)

     私たちは、「切れ目のない連続体=混沌とした無秩序」の中に、「ことば=基礎色彩語」を持ち込むことで、自分の周りを整理し、生きていきやすいように世界を手馴づけるわけですね。(p.138)

     おじいさん、おばあさんたちが一生かかって得た自分の知識、知恵を、書物の記述を介しながら子供たちに伝えられればいい、という発送です。先ほどの昔話を同じように、そうやって大切なものが子孫たちに伝えられていくんですね。(p.145)

     自分の悩みや苦しむを、ひとつの物語として捕まえる、物語の力を借りてそれを理解し、自分の手の内に入れる。それが精神分析ではとても大きな役割を果たしているようです。(p.150)

     僕自身、思い返していちばんよかったなと思うのは、高校時代に半分投げ出しながらも、とにかく日本文学全集や世界文学全集を片っ端から読んだことですね。後になって、この読書体験はとても役に立っています。図書館の中には、人間が遭遇する物語のパターンがすべて揃っていたわけです。それを手掛かりにして、大学へ行き社会に出たということが、どれだけ僕を助けてくれたことか。(p.151)

     生活の質を高めるということを考えると、いちばん確実で、手っとり早い方法は、本を読むことなんですね。本を読み始めると、どうしても音楽とか絵とか、彫刻とか演劇とか、人間がこれまで作り上げてきた文化のひろがり、蓄積に触れざるを得ない。人間は、自然の中で行きながらも、人間だけのものをつくってきた。それが本であり、音楽であり、演劇や美術である。いい悪いは別にして、人間の歴史総体が真心をこめてつくってきたもの、その最大のものが本なんです。
     重ねて言えば、言語は人間に与えられた最上で最良の贈り物であって、その贈り物の大部分は本を媒介として人間に示されているんですね。本にまさる媒介物は将来も現れないでしょう。ですから、本の運命は厳しいなんてことを言う人もいますが、僕はそうは思わない。断言してもいいんですけど、本は絶対になくならない。本がなくなる時は、書記言語のなくなる時です。その時、人間はたぶん別の生き物になっているでしょうね。(pp.177-178)

  • 月の本代50万円、本の重みで家を潰し、ついには蔵書13万冊を故郷に寄贈し図書館を建てた著者が語る、本へのラブレター。
    「ツンドクにも効用がある」「栞は一本とは限らない」などの井上流本の読み方10箇条はこんな楽しみ方があったんだ!と目から鱗。
    「本を読むことは精神分析と似ている」「無秩序な世の中を整理してくれるもの」「言語は人間に与えられた最上で最良の贈り物」の名言の数々に、なぜ人は本を読むのか?という問いに明快な答えを示してくれる。 読書家もあまり読まない人もすぐ読める量なのでおススメ。
    本、読みましょう。

  • 本をこよなく愛する作者の人柄が偲ばれる好エッセイ。
    図書館とのバトルは笑った。

    悩みや苦しみを一つの物語として捕まえる、
    本と精神分析の対比や
    言葉、書物で現実世界に“切れ目”を入れる話など
    深い洞察も多数。

  • * 読了日20111024
    * 再読了日20191109
    * 入手日20111023

  •  本が増えすぎて床が抜けるなんて漫画の世界かと思ってたけど現実にあるんですね。その数なんと、13万冊。そこらの図書館よりも多くの本が、一人の邸宅に収まることにびっくり。そして月に400〜500万円もの本を買えること(買えるとしても買うこと)にびっくり。

     ここまでの本好き(本中毒?本依存症?)に至るまでの経緯がまた面白い。戦後の本のない時代(質の悪い紙でつくられた本、96冊しかない!図書館)。本を手にいれるための東京遠征。大学の図書館司書との熱い攻防。作家というだけでお堅い人間を想像してしまうけど、破天荒で不真面目で人間らしい姿が眼に浮かぶ。
     欲しい情報はネットで簡単に手に入り、アマゾンでポチっとすれば1日で手元に欲しい本が届く現代には、井上ひさし的人間は生まれ得ないだろう。

     本の読み方十箇条は独特すぎて真似できないところもあったけど(栞を20本つけるとか!笑)、速く読むにはゆっくり読めとか、目次を睨めとか、なるほどと唸らざるを得ない。本をそれだけ読んだ人間の語る方法論、説得力がないわけがない。

     本書の中で、話は教育、街づくりにまで及ぶ。興味深いのが海外の図書館に対する考察。オーストラリアでは、子供が病気で入院すると、友だちが図書館の司書のおばさんと「どの本を病院に届けるか」を相談するそうだ。シアトルの図書館では、大人と子供の背の高さが同じになるような設計、貸出の窓口は子供が大人を見下ろすような形になっているそう。他にも、退職した年金生活者が、ボランティアで子供の相談に乗る係員を務め、物を調べるときにはどうするかという知恵を教えていく、図書館の一角に「ロビンソン・クルーソー」コーナーを設け、子どもたちが自由にその本について語っていく、などなど。本当に素敵なアイデアばかりで、拾い集めて自分も社会のために何かしたくなる。日本にも国立国際子ども図書館というのがあるらしく、ホームページを覗いたが、うーん、やっぱり日本らしい作り、デザインが残念(なんで子ども向けやのに漢字にルビもふらないの?)。

     もっと芸術が生活に溶け込む都市・国になってほしい、という著者の意見には全面的に同意(こうして自分の思っていたことをぴったりとことばにしてくれるんだから、やはり本は偉大である!)。本を読む人を増やそうと、本屋、出版社、あらゆる人が努力をしているけれど、もっと大きな、暮らし方の転換のようなものが必要なのかもしれない。

  • 本を生業としている人の読み方でなかなか真似はできない。
    ただ、赤鉛筆の代わりに写メを撮ったり、ツイッターに投稿したりしている。
    本で床が抜けた話しはPDF化やKindleで対応できる。
    この点については情緒的な反論があるが、気持ちはわかる。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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