黒パン俘虜記 (文春文庫 く 3-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167402013

作品紹介・あらすじ

敗戦と同時に送りこまれたウランバートルの収容所は、厳寒と飢餓と暴力の坩堝だった。帰国を待たず異国の空に空しく散った戦友たちへの鎮魂の祈りをこめた直木賞受賞作。(尾崎秀樹)

感想・レビュー・書評

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  • 1983年の直木賞受賞作品。作者自身のモンゴルでの捕虜体験記。戦争、敗戦、極寒、飢餓、暴力、政治、ヤクザ‥‥サバイブするという言葉の意味を初めてちゃんと理解できた気がする。

  • 凄く面白かった。浅学なもので「シベリア抑留」の中にまさかモンゴルへの抑留が含まれているとはこの本を読むまで知りもしなかった(モンゴルへの抑留をシベリア抑留としてくくるのは違和感がある)。ソ連とモンゴルの密約によって労働力として2万人が提供されたということ。ウランバートルでは今でも俘虜たちが建設した建物が現役で使われてるとも知り、色々驚いた。しかもモンゴルでの抑留生活はシベリアよりも過酷で、それも支配側の俘虜から非支配側の俘虜への過酷な労働の強制や懲罰などによって2割もの死者が出たらしい。なんでこんなことを今まで知らなかったんだろう。

    それにしても著者の記憶力には舌を巻く。映画の筋書きを何百本も空で言えるという点もそうだし、すべてのメモ類を帰還寸前に破棄されたにも関わらず、この克明な内容を記している。陰鬱な内容になりそうなところを、どうもなんだか軽妙に書き上げてるところにも魅力を感じる。数々の挿話もいちいち面白かった。傑作。

  • 終戦直後、中国に取り残された日本人は敵国の強制収容所で俘虜として労働させられた。学生だった著者はモンゴルの収容所で2年間を過ごす。

    収容所生活では寒さと栄養不足から2万人の入所者の内、4千人が死亡した。この高い死亡率は日本人収容者同士で格差が生じ、格差の高いものが低いものに労働を課し、処罰したことも理由の一つだ。

    そんな劣悪なモンゴル収容所だが、本書には暗くジメジメした印象はない。それは主人公が学生であったために収容者同士の格差に取り込まれず、そのうえモンゴル語を知っていたためモンゴル側から重宝され、主人公が第3者の立場で虐げられた人を傍観することが多かったためだ。さらに著者がもともとユーモア小説家だったこともあり、生死が伴うシーンにもちょっとした笑いを加えている。

    例えば、主人公は凍傷で腐った足を麻酔なしで切断する手術に立ち会うよう命じられる場面。主人公に与えられた役割は、患者の痛みを和らげるために紙芝居を朗読することだった。骨がむき出しになり、痛みで狂ったように絶叫する患者の前で同じく狂ったように紙芝居を朗読し続ける主人公。痛いけど笑える名場面だ

    過酷だったはずの自らの戦争体験にあえて笑いのエッセンスを注入して、娯楽性豊かな戦争小説を創作した著者のプロ根性に感動。ちなみに本小説は1983年、直木賞受賞。

  • 以前読んで、手元に本がないのでくわしい感想は書けない。多少、記憶ちがいがあるかもしれない。
    しかし、これまで読んだ小説(むしろ体験談とよぶべきか)で、とりわけ印象がつよい。
    主人公はモンゴルの収容所で捕虜になる。捕虜の中には赤尾のヤクザもいる。かれらが、収容所で支配的なちからを築いていく課程は、やくざ者とはいえ見事である。
    まず、階級が上の軍人をめった打ちにして、その権威をうしなわせる。捕虜のおのおのに配給されるべき食べ物(黒パン)を、自分たちで何割かとって、残りを一般の捕虜に渡す。これによって、一般の捕虜は生きているのが精一杯という状態になる。あるていど日にちがたつと、余分に食べる事のできる赤穂ヤクザと、一般の捕虜のあいだには、体力的にも大きな差がうまれてしまう。
    なんでもいいから食べ物がほしいという一般の捕虜の弱みにつけこんで、彼らの所持物を食べ物と交換に取りあげてしまう。とりあげた所持物は、看守へのワイロとして使って、このヤクザ連中は特権的な地位を得てしまうのである。

  • この作家は初めて読んだが、誤解覚悟で書けば「面白かった」。
    改めて感じるのだが、戦争を体験した作家の作品は人間の生臭さ、生きることへの執着をひしひしと感じさせ、自分の置かれた環境の大事さを思い知らされる。
    平和が一番だし、それと比較するのは酷なのかもしれないが、戦争を経験していない世代(よしもとばななあたりがその典型)が語る死を扱った作品はいかにも薄く生温い。

  • 戦後のシベリア抑留での著者の体験もとにした直木賞受賞作品。
    かなり過酷で残虐な記録にもかかわらず、そういったものが苦手なわたしも淡々と読むことができた。
    本当の意味での戦争は、敵は相手国ではなく、人間の愚かさ、醜いこころから生まれてくるものなのかもしれない。
    かなり重いテーマではあるが、読後感は悲愴ではないのに救われた。

  • ー「私は故郷に帰ってこれを食うまでは、決して死にませんよ」
    老人の目はその一点に止まってもう三十分も動かない。明日も生き抜く執念をチャージしているのだ。-

    満州引き揚げから発展してシベリア抑留の本に手を出したがこちらも壮絶。カツ丼の夢想で性的興奮とかまじで凄すぎます、胡桃沢先生!
    直木賞受賞。ぜひノンフィクションが好きな人には読んで欲しいが、絶版のはず。古本屋さんで見かけたら是非に。友人・知人なら喜んで貸します。☆5つ!

    (『流れる星は生きている』で、ゾンビのように凍死していたシベリヤからの帰還組みは、あれは脱走してきたひとらだったんだなあ。)

  • ・・・・・書きかけ・・・・・


    存命なら85歳、1925年4月26日に東京都墨田区生まれて、16年前の1994年3月22日に68歳で亡くなった小説家。作家の中には、普通の人より何倍も数奇な人生を生きた人がいますが、こと胡桃沢耕史に関しては、誰にも負けないとびきり波乱万丈の人生を送った人で、ひょっとしたら彼の書いた小説より興味深く面白いかも知れません。

  • 政治としての戦争でなく、人としての戦争を考えさせる本。

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