シドニー! ワラビー熱血篇 (文春文庫 む 5-6)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167502065

感想・レビュー・書評

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  • 82冊目『シドニー! ワラビー熱血篇』(村上春樹 著、2004年7月、文藝春秋)
    2000年シドニーオリンピックのルポルタージュ。文庫本全二巻のうち本書はその下巻。
    スポーツ雑誌『ナンバー』の企画だが、著者のオリンピックに対するスタンスはかなり批判的なものであり、この下巻では巨大資本を中心に動くオリンピックの問題点をズバズバと書き表している。

    〈そして、考えてみれば奇妙なことなのだけれど、僕はそのワラビーの助けを借りて、オリンピックというメタファーを今のところなんとか地べたにつなぎ止めている〉

    • 傍らに珈琲を。さん
      ムッネニークさん!
      こんなの出てるの知らなかったです!!
      そして…出た、メタファー 笑
      ムッネニークさん!
      こんなの出てるの知らなかったです!!
      そして…出た、メタファー 笑
      2023/09/25
    • ムッネニークさん
      傍らに珈琲を。さん、コメントありがとうございます♪
      ちょっと(かなり?)マイナーな作品ですが、文章は軽やかでとても読みやすいです。スポーツ雑...
      傍らに珈琲を。さん、コメントありがとうございます♪
      ちょっと(かなり?)マイナーな作品ですが、文章は軽やかでとても読みやすいです。スポーツ雑誌のオリンピック密着エッセイなのに「オリンピックは退屈」と言い切っちゃうのは村上春樹だけだと思います笑
      オーストラリアの歴史を兄弟に喩えてわかりやすく教えてくれたり、なんとも楽しくてためになる一冊です(^^)
      2023/09/27
  • 有森さんのエピソードが胸を揺さぶる
    五輪という巨大で残酷な肉挽き機の中で
    彼女は自分の尊厳を賭けて走り抜いた




  • 2000年に開催されたシドニー五輪の観戦記録。
    歯に衣着せぬ文章がとにかく心地いいです。村上流オーストラリアの歴史解説も分かりやすかったです。心なしか日を追うごとにツッコミが鋭くなっているような気がします。朝ランニングして、観戦して、ビール飲んでをルーティンに、色んな種目を紹介してくれます。テレビ観戦では伝わってこない選手の緊張感や開催地の現状も書かれいて引き込まれます。

  • 20年前のシドニーオリンピック。
    観戦記とオーストラリアについて、シドニー観光など村上さんらしいクールな視点がとっても楽しくおもしろい。
    オリンピックは退屈と言っちゃう村上さんに私も共感したりして。

    「とりあえずの闘いに敗れた二人のランナー」、男子マラソンの犬伏孝行選手と女子マラソンの有森裕子選手、を取り上げ、取材した記述はとても心に響き、オリンピックを通して伝わるものは大いにありました。

    「もちろん僕は勝利を愛する。勝利を評価する。それは文句なく心地のよいものだ。でもそれ以上に、深みというものを愛し、評価する。あるときには人は勝つ。あるときには人は負ける。でもそのあとにも、人は延々と生き続けていかなくてはならないのだ。」

  • 紀行文にお馴染みの新聞記事紹介が今回も面白い。鮫やワニについて日本では考えることなんてないのだろうけど、オーストラリアではそれを考えたくなるのだ。
    高橋尚子の記者会見に対する記述が鋭い。たしかに今思えばあの優等生的な発言しかない会見は、走っている時の力強い姿に比べると違和感がある。
    400m決勝キャシー・フリーマンの文章が素晴らしく、場面がありありと浮かんで同じ感動を共有できた気さえした。
    オリンピックの狂騒から引いた目で見てしまう気持ちはよくわかる。それでも見てしまう気持ちも。
    ふざけたようなサブタイトルも案外内容と合っていて秀逸なのも面白い。

  • 有森さんと犬伏さんのインタビューが良かった。オリンピック期間中の街の様子も面白かった。イギリスとの関係でオーストラリアは従順でアメリカは奔放な子というのはなるほどと思った。

  • 後編「ワラビー熱血篇」の山場は何と言っても400m走キャシー・フリーマンの優勝シーンでしょう。これは村上春樹にしか絶対に書けない世界だなぁと。よく“スポーツ馬◯”なんて言いますが、戦いの世界のシビアさやアスリートの孤独感がヒシヒシと伝わってきます。著者の眼差しは勝者だけでなく敗者にも注がれます。このシドニー五輪は、商業化五輪へ拍車がかかった頃でしょうか。巨大利権への著者のシニカルな視線も着目すべきです。とはいえ、全編通して旅行雑記の風味も。山火事、コアラや毒蛇etcオーストラリアの動物の話など、面白さに引き込まれてあっという間に読んでしまいます。

  • 村上春樹のシドニーオリンピック観戦記
    ランナーとしてフルマラソンを走っている村上春樹のオリンピック観戦記なので、男子マラソンの犬伏孝行とこの大会には出ていなかった有森裕子のインタビューと日々のオリンピック観戦が綴られている。

    村上春樹らしい観戦記が出来上がっています。
    僕も考えてみる。
    勝利とゆうものについて。
    それを得るために支払わなくてはならない代価について。
    正義がどこにあるということについては、僕はほとんど興味を持たない。
    何が正しいのかーーーーー結局のところすべては相対的なものに過ぎないのだ。
    僕が興味をもつのは、そこで何が支払われたかということについてだ。

  • 思い出した。全ての物事は、全ての学びは、優れた観察眼を持った人間によれば、繋がっているのだった。オリンピックはメタファーでしかなく、スポーツというものも試みでいうならば私たちであるかもしれないし、それをメタファーという言葉を使うことは心地よいんだけれども、感覚としてはやはり、繋がっているのであった、という方が正しい。きちんと物事を見てきちんと考える人間であるならば、ひとつのものからいくつもの学びを引き出せる。それらは自分の経験や過去の学びと密接に複雑に結びつくのだけれども、究極的に言えばどう生きるか、死に向かって邁進しているそれぞれの人生がどうあるのだろうかといった、永遠の、人類普遍の、命題。ああ思い出したし思い出させてくれてほんとうに感謝している。春樹はすごい、ほんとうに。それを難なくこなしているようにみえる。難なくではないのかもしれないけれども。この人の書くものにいつも大切なものを、自分にとって本当に大切なものを、思い出させられる。と同時に、すっと大きな流れに流されそうになっている私を発見させられて、再構成させられて、ひどく混乱させられる。よまなければ、といつも思う。よまなければ、もっと単純にいられたかもしれはい。よまなければ、疑問を持たずに流されたかもしれない。しかし読まずにただふわふわと生きるわたしと春樹をよんで混乱の中にいるわたしと、どちらを選ぶかといわれたら、春樹をよんで混乱の中にいるわたしかとおもって読み続けてきたけれど、最早一周まわってどちらがいいのかわからなくなった。こまった。

  • 最後に書かれている、マラソンランナーの犬伏と有森裕子の話がとても良かった。一般的な感覚からすると無謀そうなことに挑戦しようとしている人間へのエールとして読めた。単なるシドニーオリンピックのエッセイとして読み始めたが、読み終わって自分の人生についてもっと考えようと思えた。この本を読んで本当に良かった。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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