センセイの鞄 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.85
  • (1232)
  • (1272)
  • (1372)
  • (168)
  • (47)
本棚登録 : 10569
感想 : 1340
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167631031

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 長らくブクログを休んでいたこともあり、
    今一度、自分の原点を探ろう企画の第1弾(笑)


    僕が川上弘美を知り、ハマっていくきっかけとなった
    今だに何度となく読み返してしまう小説です。
    (けれど、川上作品のマイベストはまた違う作品です笑)


    初読みは15年ほど前だったかな。
    しかし、読み返しても読み返しても
    終わってしまうのが惜しくて、
    一字一句を味わうようにお酒とアテを食べながら
    少しずつ少しずつ読んでいました(笑) 


    強烈にあとを引く余韻と、
    それでいて
    不思議とあたたかな読後感。

    亀のように遅々として進む、
    こういう恋もあるのだと改めて勉強になったし、
    大人だからこそできる
    新しい恋の魅力に
    当時まだ若かった僕は気づかされました。
    (川上作品を何度も読み返したくなるのは、馴染みの店にまた呑みに行きたくなるのと同じ感覚の気がします)



    37歳独身のOL、
    大町月子。

    月子とは30と少し歳が離れた、
    高校で国語を教わった
    松本春綱先生。


    ふたりは駅前の一杯飲み屋で
    隣りあわせて以来
    20年ぶりに言葉を交わし
    飲み友達となり、

    やがて月子は
    先生をセンセイと呼び慕い、
    センセイへの
    ほのかな想いに気付き始めます。



    まぁ簡単に言えば、
    70に近い老人と
    30代後半の大人の女性の恋物語です。


    文章で書いてしまえば、
    なんだか陳腐な設定だなぁ〜って
    思う人もいるかもだけど(笑)


    決していやらしい話ではなく
    中学生の淡い初恋を読んでるかのような
    微笑ましさと、

    毎回酒を交わしながら
    二人がどう惹かれ合っていくかが
    本当に絶妙な塩梅で
    丁寧に丁寧に描かれていて
    妙に心地良い小説なのです。


    月子は、いつからか
    恋人とぬきさしならぬ関係になることを、
    いつも怖れていました。 

    林檎を剥きながら
    終わった恋に思いを馳せ、
    ふいに涙を流すシーンは
    なんとも切なく胸を焦がしたし、

    夜のバス停で
    帰り道が分からなくて途方に暮れている月子と、
    センセイがばったり出くわすシーンは 
    センセイが無性にカッコ良く見えてならなかった(笑) 


    川上さんの独壇場と呼べる、
    文章の端々から漂う
    濃密な夜の匂い。

    いつも酔っ払った
    月子とセンセイを見守る
    月の存在。

    月を見上げることや
    夜風が酔った頬を刺す感覚が好きな僕は
    夜の匂いのする川上さんの文体、
    それだけで、強く惹かれてしまいます。


    それにしても
    なんて抑制のきいた、
    それでいて官能的な文体なのだろう。 

    夜の花見の後
    幼なじみの小島孝と月子の大人なキスには
    本当にドキドキさせてもらったし、 

    センセイとの初めての
    島への旅行の話は
    月子さんが可愛いくて
    本当に微笑ましかったなぁ~♪


    川上さんの小説は官能的だと書いたけれど、
    そこには粋という言葉が似合う
    『品』があるんですよね。

    和服の女性の素足や手首が
    何かの瞬間に時折ちらっと見えるみたいに。

    肌を直接見せなくとも、
    性行為を描写せずとも、
    そこはかと漂う色気や官能。


    だから読むたびに
    胸がときめくのだけれど、

    川上さんが紡ぐ文章は、
    しとやかで
    でしゃばり過ぎない、
    引き際を解った大人な女性って感じなのです。


    また粋な大人の物語だけに、
    たくさんのお酒と
    お酒に合う季節ごとのおつまみやアテが
    これでもかと出てきます(嬉)

    まぐろ納豆、 蓮根のきんぴら、湯豆腐、焼き茄子、たこわさ、おでんなどなど。

    読んでいる僕らも登場人物たちと
    一緒に呑み屋に居合わせたような、
    心地いい錯覚に浸れる点も
    僕がこの作品に惹かれる理由です(笑)


    酌を受けることを好まない
    センセイ。 

    次に会う約束も交わさず、
    通いつけの飲み屋で会える日を
    ひたすら待つ二人の距離感。 

    誰も縛らず、
    一人で立ち、一人で自足する
    二人の生き方。 


    こんな、プラトニックで、
    修行僧のような恋は(笑)
    誰でもができることではないけれど、
    できないからこそ、憧れるし、

    もしかすると、
    こういう恋をしているからこそ、
    二人でいる時は
    誰よりも相手を尊重し、
    いたわれるのかなってちょっと思ったりなんかして。



    食べ物が好きで、
    お酒が好きで、
    一人が好きで、

    でも心から分かり合える誰かが欲しくて、 

    おじさま好きで(笑)、 

    身体だけの関係には
    もう飽きたという人に

    オススメします。


    もしかすると、人生観変わるかもしれませんよ♪

    • yamatamiさん
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、...
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、古い本のようで偶然に古本屋で見つけたのですが、円軌道の外さんの手元にも現れますようで・・・!文房具ってほんとにわくわくします。付箋とか、どこに貼るんや!っていうくらい買ってしまいます(笑)

      お忙しい日々をお過ごしだったんですね。
      ボクシングを教える側・・・!きっと、する側とはまた違った大変さがあるのでしょうね。でもお元気そうでなによりです(^^)

      私のほうも仕事が目まぐるしく、ブクログをお休みしていました(>_<)

      自分の原点を探ろう!企画、よいですね(^^)
      「センセイの鞄」、懐かしいです。
      高校の現代文の問題集で読んでから、勉強をほったらかして、図書室で借りて読んだ思い出があります。笑
      円軌道の外さんのレビューを読んでまた読みたくなりました(^^♪
      以前のように小説、漫画、それにジャンルを問わずにたくさん読まれているようで、なんだか読書欲が湧いてきましたよ・・・!

      円軌道の外さんのレビュー、これからも楽しみにしています♪

      読書スイッチを押していただき、ありがとうございます(*^^*)

      これからもよろしくお願いしますね!
      2018/03/06
  • 平凡なアラフォーOLの月子さんが、かつての高校のセンセイと時を経て再会し、ゆっくりと、そして深い愛を育む、心地良~い純愛物語。
    月子と70も超えるセンセイとの素敵な恋がいつまでも続きますように、と祈らずにはいられない。

  • なんでもっと早く読まなかったんだろう。
    何が起こる訳じゃないけど、ツキコさんとセンセイの世界に、恋愛に、もっともっと浸っていたかった。ラストは胸が締め付けられた。出会えて良かった一冊。

    もう一つの物語「パレード」をこの流れで読んでみる。

  • 歳の離れたセンセイとツキコさんが居酒屋で再会してからゆっくり淡々と過ごして恋愛と変化していくお話
    ツキコさんの優柔不断というか、恋愛の駆け引きができないのにしようと試みる姿に苛々させられたけど、なぜか応援したくなる
    ラストは直接的な文章ではない一文にぐっと胸を掴まれた
    いくつになっても人間を愛していられるのは幸せだなあ
    センセイはきっと幸せな人生を送れましたね
    と言いたい

  •  月子は高校時代国語教師だったセンセイと居酒屋で再会します。センセイ自身も、居酒屋で交わされる会話も穏やかで心地がいいのにセンセイには近づけそうで親密になれない‥ 。月子はある梅雨入りの日、わたしセンセイが好きなんだもの と告白します。 若くないからこそのスローで丁寧な恋愛のお話です。

    「たとえば、身の丈ちょうどの服を何枚もあつらえたはずなのに、いざ実際に着てみると、あるものはつんつるてんだったり、あるものを裾を長く引きずってしまったりする。驚いて服を脱ぎ体にただ当ててみれば、やはりどれもちょうど身の丈の長さである。」
    それでいいはずなのに断言していいと言い切れず自分を疑うようなこの感覚。絶妙に文章にされていて手にとるように共感しました。

    「わたしがセンセイのことを思って悶々としていた間、センセイは蛸のことなぞで悶々としていたのである。」
    傍目にはくすっとしますが、当人の月子なら恨みがましくセンセイを見つめてしまいそうです。そんなもんなんだなあ、なんて気が抜けつつ自分の悶々とした時間すら後で愛おしく感じられそうなシーンです。

     この小説では恋愛のいちばんおいしいところ、出会って、仲良くなって、ヤキモキして、もっとこういうことが起きて欲しいと願うようなところが多く描かれています。このままなのかな?と思いきや、読者にとってもご褒美のような甘い結末に向かいます。ラストは‥。 月子と一緒に楽しい時間を過ごせてほっこりしましました。

  • センセイとツキコさんの距離感が何とも心地よい小説だった
    偶然居酒屋で出会って、たまに顔を見るくらいの間柄だったのが、なんだか一緒に飲むようになり、そしてじんわりと恋に発展していく
    燃えたぎるような圧倒的な熱量の恋ではないけれど、心がゆっくりと温かくなるようなちょうどいい温度の恋だった
    センセイとツキコさんの年齢もあってだいぶ大人な恋です
    何となく分かっていた結末とはいえ、最終章で泣いてしまった
    とても好きな本です

  • 今回もまた、まだ読み終えたくないと感じつつ読了です。
    静かにたゆたう物語、ゆったり…

  • 読み終わって、思ったこと。
    中学生の自分が読んだら、きっと?で終わってたかなぁーっと思った。
    今の自分が読んで、なんかなんとなくわかった感じ。
    そして、30代になったら、すごく気持ちがわかるんだろうなぁーって
    なんか思った。

    ゆっくりとゆっくりと進んでいく恋の物語です。
    38歳のツキコさんと70代のセンセイ
    二人は、同じ居酒屋で何度も居合わせてた仲でもあり、
    センセイは、ツキコさんの高校時代の国語の先生でもありました。
    普段は、お互い1人で居酒屋にたたずんでたのに、
    ある日を堺に、二人は一緒にお酒を飲む中になり、一緒に過ごしていく時間も多くなるのです。

    この二人を見てて、すごくおもしろかったです。
    あまりにも、ゆっくりゆっくり変化もなしに時が進むから、
    えっ?やっぱり本当は好きじゃないの?って思って、
    この二人の先が見えそうだけど、
    その二人がペースを崩さないから、どうなのかわからなくなってしまいます。

    私がすきな場面があります。
    登場人物ではないけど、センセイの奥さんの話がおもしろかったです。
    家族だった大事な犬が亡くなったとき。
    なんとセンセイの奥さんは、
    犬は生き返るのよ。私に、生き返るのよ。
    っと訳のわからないことを言い始めたのだ。
    そしたら、次の日の食卓で、妻は、いきなり『わん』と言い出したのだ。
    息子さんも、悲しくて悲しくてたまらないのに、
    そんなふざけたようなお母さんを怒る。

    そんな昔話をセンセイがツキコさんに話してたのがおもしろかった。
    でも、センセイは、この話しをする前に、
    ツキコさんに『生き物は生まれ変わるのですよ』って言ってたから、
    なんだかんだ言って、この言葉は奥さんのあのときのエピソードのことを思い出してたのかなぁ?
    と思いました。

    そうえいば、恋愛小説なんて、久しぶりに読んだ気がしたけど、
    そうじゃなかったかぁー?
    でも、感じたこと。
    年に応じて、恋愛経験も相応していくとは絶対限らないんだなぁーって思ったし、
    やっぱり恋愛に年齢なんて関係ないのよっ!
    でも、やっぱり年齢的に考えたら、たくさん年が離れた人と一緒になったら、
    あまり生涯を一緒に生きれないんだなぁーって切なさも感じました。
    でも、それをどう感じるのかも、二人しだいで、二人の世界におまかせなのです。

    あと、この本で不思議に思ったのは、
    かぎかっこが全ての会話に用いれてないのです。
    かぎかっこの意味を調べると、『会話,引用,強調』
    とあったから、
    会話と自分の中での1人ごとの空間地点の言葉には、
    かぎかっこを使わなかったのかなぁ?
    それとも、こんなに考えんでいいんやろうかー?

    とにかく、また30代になって読みたい本です。

    やっとお互いの気持ちが通じ合えたからかなぁ?
    センセイ、すき
    って何度も言ってるツキコさんが、すごくかわいらしかったです。

  • お気に入りの本になった。
    センセイの言葉遣いや、ツキコさんという呼び方が、なんだか好き。二人の大人の、真面目で誠実でちょっと不器用な付き合い方が読んでいて好きだなと思った。いつの間にか大人になって、色々なことを色々な角度から見られるようになって、人に甘えたり自分の気持ちを曝け出したりすることが簡単に出来なくなるような気がする。ツキコさんは、いい大人で、自分をちゃんと飼い慣らして生きている。大抵のことは一人でできるし、弱音だって泣き言だって自分の心の中でちゃんと処理できてしまう。でも、文中には、一人で現実を飲み込む時のちょっとした痛みや、諦めや、一人で乗り越える孤独の寂しさもちゃんと描かれている。大人だって、子どものように泣いたり怒ったりしたい時もあるし、誰かと一緒にいたい時だってあるよと、ツキコさんを見ていると思う。ツキコもうまく言葉に出来ないような自分の気持ちを、とても上手に描写してくれていて、読んでいてほおお、とため息が出る。

  • センセイとツキコさんは歳が離れていて共にいられる時間は長くないのかもしれないけれど、小説の中での2人で過ごす日々は、時間がゆったり流れているように感じるところが良い。
    キノコ刈りの場面が特に好きです。
    お酒や肴など四季を感じるたくさんの食べ物が出てきて、どれもとても美味しそう。

著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上弘美の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×