街場の現代思想 (文春文庫 う 19-3)

著者 :
  • 文藝春秋
3.92
  • (112)
  • (180)
  • (121)
  • (10)
  • (1)
本棚登録 : 1402
感想 : 133
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167717735

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「「教養」とは「自分の無知についての知識」」、「文化資本の差からくるゆとり」、「「敬する」というのは自分が傷つかないために「身をよじらせて」攻撃を避けること。自分の「本音」や「素顔」をさらすことは自己防衛上最低の選択である」、「お金は交換(コミュニケーション)のためにある」、「知性というのは「自分の愚かさ」に他人に指摘されるより先に気づく能力のこと」、「決定的局面で二者択一となっている時点で手遅れ、そうならないように常にリスクを最小化しておく」、「喪主がいなくなる世界での祟りへの恐れ」、「人類が再生産を維持するために必要な資質は「不快に耐え、不快を快楽に読み替えてしまう自己詐術の能力」」、「目的地にたどりつくまでの道順を繰り返し想像し、その道を当たり前のように歩んでゆく自分の姿をはっきりと想像できる人間は、かなり高い確立でその目的地にたどりつくことができる」、「デジタル・コミュニケーションは「あらかじめ検索するキーワードが分かっている情報」の検索には有効だが、「自分が何を検索しているのか分からない」人間にとってはほとんど使い物にならない」、「「大衆を嫌う」という感覚が大衆的に共有されている時代。ニーチェ以後の大衆はニーチェが思っているより「もっとバカ」だった」、「自分に課すべき倫理的規範とは、社会の全員が「自分みたいな人間」に「なっても生きていけるような人間になること」、「人間は死ねるから幸福」、「今の若い人たちに欠けているのは「生きる意欲」ではなく「死への覚悟」。「自分を殺す」のと「死ぬ」のは違う」

  • 街場というだけあって現代人の身の回りの悩みごとをテーマとした話が多く、刺激的な内容だった
    主張が現代思想に基づくものであるというには筆者独自の考えや価値観が多く見られていると感じる(筆者はフランス現代思想をバックグラウンドとしているのである意味タイトル通りだが)
    非常に小気味の良い文章なので普段あまり本を読まない人にもオススメ出来る

  • 文化資本は後天的に身につけられない理由

    なぜ実力主義が根付かないのか
    →幻想の中にいたいから

    新人ドライバーが中古車に乗ってはいけないわけとは?

    学歴で人を判断する人の心理とは?

  • 給料に関するテーマのところが一番面白かったです。

  • 「結婚という終わりなき不快について」や、
    「他者としての配偶者について」が、面白い。

    この詳細な解題は「寝ながら学べる構造主義」を読めば、
    分かるはず!

    というとこで、内田センセイの「仕掛け」が
    だんだんと判ってきましたよ。

    現代思想は、役に立つ!!

  • 実に刺激的だった。

    わかりやすさのためにあるていど厳密性を犠牲にしているような気もするが、断定的な口調が小気味よい。皮肉っぽさや諧謔的な言い回しのスパイスもほどよく効いていて読みやすい。
    時代は「フロー」から「ストック」へという流れだそうであるが、ここにきて「文化資本」という概念に出会えたことは、私にとって無上の喜びであった。

    もう一度「豊かさ」を見つめ直してみようと思う。
    百円回転寿司より近所の居酒屋の方が、予算的には2割増しでも満足度が2倍ならお得ではないか。…というようなことではないかと思うのだ、たぶん。

    著者の内田先生はきっと優しい人なんだと思う。どこがどうというわけではないのだが、この本全体をぽわんと包んでいるオーラから「優しさ」があふれている。

    昨年私が読んだ本のうち、ベストの一冊です。
    _____

    以下、例のごとく印象的なセンテンスを拾い書き。

    ○「教養」というのは、「生」の知識や情報のことではない。そうではなくて、知識や情報を整序したり、統御したり、操作したりする「仕方」のことである。

    ○「クール」というのは、私的な定義によれば、自分の立ち位置をかなり「上空」から見下ろせる知性のあり方である。

    ○『勝ち組になりたい』とか『負け組にはなりたくない』というようなワーディングでビジネスを語る人間とはビジネスをやらない。だって使い物にならないから。

    ○95%の妻は夫に飽きているか失望しているか憎んでいるか忘れているかのいずれかである。

    ○育児とは、はっきり言って「エンドレスの不快」である。

    ○「親御さんがリッチ」という条件は、いきなり子どもたちから「労働することの誇り」を奪ってしまうのである。

    ○人生の達成目標を高く掲げ、そこに至らない自分を「許さない」という生き方は(ごく少数の例外的にタフな人間を除いては)、人をあまり幸福にはしてくれない。

    ○完全に公正な能力査定に基づく完全な能力主義社会というのは、ありえないし、あってはならないものだと私は思う。

    ○質の高い仕事をする人間にはいくつかの種類がある。
    「面白そうだったから」とか「暇だったから」とか「頼まれたから」とか「人生意気に感じたから」というような、どうでもいいような理由で仕事をする人間、ふつうこういう人たちがいちばん「質のよい仕事」をする。

    ○決定的局面で「正しい判断」をする人とは、これまでつねに「正しい判断」をしてきた人ではない。そうではなくて、「正しい判断」をしないと生き延びられないようなリスクを最小化することに、これまでつねに心砕いてきた人のことを言うのである。

    ○人口の再生産が必要とされる一番大きな理由は、スキルもキャリアも年金も妻も子もなく孤独な死を迎えたフリーターにはその死を弔う「喪主」がいなくなってしまうからである。

    ○おそらくは、「戻ってこないように重しを載せる」というのが墓の本義なのだ。

    ○結婚とは「この人が何を考えているのか、私には分からないし、この人も私が何を考えているのか、分かっていない。でも、私はこの人にことばを贈り、この人のことばを聴き、この人の身体に触れ、この人に触れられることができる」という逆説的事況を生き抜くことである。

    ○人が離婚するのは、無意識的にではあれ、離婚することを前提にして結婚生活を営んでいるからである。

    ○目的地にたどりつくまでの道順を繰り返し想像し、その道を当たり前のように歩んでゆく自分の姿をはっきりと想像できる人間は、かなり高い確率でその目的地にたどりつくことができる。「夢を実現する」というのは、そういうことなのである。

    ○「私にはこの人がよく分からない(でも好き)」という涼しい諦念のうちに踏みとどまることのできる人だけが愛の主体になりうるのである。

    ○英会話学校に授業を「外注」したり、英語圏在住経験のある人間には英語の授業を免除するということは、「英会話スキルの習得」という短期的な教育目標に限って言えば合理的な判断かも知れない。だが、「知的センターとしての大学」の幻想性を取り返しのつかない仕方で毀損するという点では、きわめて不利な経営判断である。

    ○本は「斜め読み」や「飛ばし読み」ができる。CD-ROMではそれができない。
     この例があきらかにするように、デジタル・コミュニケーションは「あらかじめ検索するキーワードが分かっている情報」の検索には有利だが、「自分が何を検索しているのか分からない」人間にとってはほとんど使い物にならない。

    ○想像力を発揮するというのは、「奔放な空想を享受すること」ではなく、「自分が『奔放な空想』だと思っているものの貧しさと限界を気づかうこと」である。

    ○フロイトが教えているとおり、「自分はいい人だ」と思っている人の場合は、邪悪な思念は無意識的に「抑圧」されているから、結果的に必ず表層に露出する。だから「自分はいい人だ」と思っている人が何を考えているのかは、たいがい、まるっと筒抜けである。

    ○倫理的でない人間というのは、「全員が自分みたいな人間ばかりになった社会」の風景を想像できない人間のことである。

  • 現代思想というタイトルになっていますが、中身は著者流の物事の見方・考え方を解説した本で、とても分かりやすくて面白かった。
    教養は他人との情報の共有に不可欠のものですが、最近の学校では、教養が不足しているために共通の話題の基盤が持てないという事象が起きているらしい。ひとつには大学の教養課程が廃止されたことにも原因があるそうです。現在の教育に危機感を持っているのは、以前教養課程を辿って学んだ人達ですが、そもそも教養課程の必要性を感じていない、或いは知らない世代の人達は危機感は感じていないと思う。
    この本を読むと、自分に何が足りないのかを知ることができる。

  • 面白くて
    外では読めない
    笑いをこらえるのが難しい箇所があった

  • 読みやすかったが今ひとつ印象に残らなかった。

  • 街場シリーズの第一弾。2004年発行。

    第一章「文化資本主義の時代」、第二章「勝った負けたと騒ぐんじゃないよ」、第三章「街場の常識」(敬語やお金、転職、結婚、離婚など15のお題に人生相談形式で答える形式)。

    本書で特に印象的だったのは、文化資本に関する鋭くも身も蓋もない言説(文化資本の逆説)、そして婚姻制度の根源的意味についての達観。でも異論ありだなぁ。

    すなわち、著者は「文化資本を獲得して社会的上昇を遂げようと望む人間が、どれほど禁欲的な努力によって教養やマナーを身につけても、「努力して身につけた」という一点において、その文化資本にははじめから「二流品」というタグが付いてしまっており」、その屈辱を解消するためにこうした「「成り上がり文化貴族」は必ずや勤勉な差別主義者となる」と言う。裏返せば、大人になってからはまった芸事や教養であっても、欲得ずくでなく本当に好きで身につけた教養なら、嫌らしさがないからいいんでしょ!

    また、「自分を理解してくれる人間や共感できる人間と愉しく暮らすことを求めるなら、結婚をする必要はない。結婚はそのことのための制度ではない。そうではなくて、理解も共感もできなくても、なお人間は他者と共生できるということを教えるための制度なのである。」と言い切っている。確かに一昔前までの家同士の結婚ならそう言えるのかも知れないけれど、結婚が、理解も共感もできない他人と共生する修行の場だとはなあ!

全133件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内田樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×