助けてと言えない 孤立する三十代 (文春文庫 編 19-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167838638

感想・レビュー・書評

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  • 私の身近にも「助けて」と言えない30代がいるので、他人事ではないと思いながら読んだ。
    なぜ「助けて」と言えないのか。だって「助けて」なんて言ったら「甘えるんじゃない」と突き飛ばされるに決まっているから。あるいは決まってると思い込んでいるから。
    なんとかする、自分の責任だから自分でなんとかする。必ずそういうのだ。
    でもなあ。基本的なスキルが欠落している人も多いし、本書では触れられていないけれども、発達障害などがあって根本的にコミュニケーション能力が欠けていたりする場合もあるのだ。そうなると、本人がどれだけ真剣で真面目であろうとも、表に出てくる現象としては遅刻だとか、態度の悪さだとか、そういうマイナス面ばかりになってしまうことが往々にしてある。
    他人のことだと実に簡単に「ちゃんと探せば仕事なんていくらでもあるよ」などと言ってしまうけれども、面接に行っても落とされてばかりだったり、やっと見つけた仕事が犯罪スレスレ(ブラック企業にはありがち)だったり、どうしてもできないような職種しかなかったりすると、やっぱり仕事にありつけない状態になってしまうこともあるのだ。
    そういうものをすべてひっくるめて「自己責任」にしてしまい、ダメな奴は救ってはもらえないのだ、という雰囲気が形成されているのが今の世の中の一面なのである。
    親にも言えない、という感覚は、わからなくもない。ずっと「人に迷惑をかけてはいけない」と教えられて育ってきたのだから、親にだって迷惑はかけられないと思うだろう。そうして負のスパイラルに巻き込まれて、最後は死ぬところまで追い詰められてしまうのだ。
    どうすればいいのかは私にはわからない。でも、決して見捨てない、何かあったら手を貸すよ、という気持ちだけはずっと持っていたいと思っている。
    少しでも「助けて」と言える人が増えるといいと思う。そしてそれを「自己責任」という言葉で切り捨てることがなくなるといいと思う。

    • kwosaさん
      片山るんさん

      リフォローありがとうございます。

      時々タイムラインにあがってくるレビューを拝読しておりました。
      普段はフィクションばかりの...
      片山るんさん

      リフォローありがとうございます。

      時々タイムラインにあがってくるレビューを拝読しておりました。
      普段はフィクションばかりの僕の読書生活ですが、片山さんの本棚のセレクションと素晴らしいレビューには魅かれるものがあります。
      普段はみないふりをしてきた何かに、不意にスポットライトを当てられどうしても目が離せなくなる。
      片山さんのレビューにはそう言う磁力があります。
      思い切ってフォローさせて頂きましたが、リフォローが本当に嬉しいです。
      これからもよろしくお願いします。
      2013/07/01
    • 片山るんさん
      kwosaさん
      フォローとコメント、ありがとうございます。
      気ままに、気の向くまま読んでいる本と、言いたい放題書いているレビューに目をとめて...
      kwosaさん
      フォローとコメント、ありがとうございます。
      気ままに、気の向くまま読んでいる本と、言いたい放題書いているレビューに目をとめていただいてほんとに嬉しいです。
      これからもよろしくお願いします。
      2013/07/01
  • 読中に思い出していたのは、大学時代の友人のこと。

    自分が新卒で入社した会社は割と名の知れたブラック企業で、何年かは必死でぶら下がっていたものの耐えきれなくなって、退職を考え始めた時期があった。
    でも、じゃあ辞めてどうするの? 地元は最寄りの電車駅まで自家用車で30分くらいかかるようなド田舎で、帰ったところでやりたい仕事もない。再就活も難しい。というよりも、実家に帰ったら家族に甘えてしまって、ずぶずぶと沼にはまってしまう気がするので帰ろうとは思えなかった。

    その頃友人は独り暮らしをしていて、自分の住む2DKのアパートの1部屋が物置状態になっているから、そこにしばらく住めばいいと言ってくれた。そのお陰で会社を辞める踏ん切りがついて、フリーターをしつつ再就活を進めて、間もなく正社員として職に就くことができた。短い間だったけれど、大学時代から仲が良く、人間的にも尊敬できる友人とのルームシェア生活は楽しいものであったし、社会人生活を経て改めて自分を見つめ直すのに充分な時間を与えてもらえたと本当に感謝している。

    その後、その友人が体を壊して入院してしまうことがあった。彼自身、実家とは疎遠になっていて、先立つものを用意するのに頼る当てがないという。困ったときはお互い様だ、俺自身お前に助けられたんだから、と工面してやって、友人は無事に手術を受けることができた。ヘルニアの。

    その友人が行方を晦まして久しい。昔から不安定なところがあったのだけれど、体を壊してから何年か後にメンタルの不調で仕事を辞めることになり、横浜の実家に連れ戻されたというところまでは聞いている。それ以来、何度か理由を付けてメールを送ってみたりもしたけれどいつも返事はなくて、最近ではそれすらしなくなってしまった。けれど大学時代の共通の友人に会うたびに、なんとなく「彼はどうしているだろうか」という話をいつも持ち出してしまう。やっぱり少しでも、彼の消息に関わる情報を知りたいと願っているのだ。

    どうか、無事であって欲しい。元気で、とは言わない。せめて生きていてほしい。
    それから、「助けて」と言える相手が、どうか、彼のそばにいますように。
    もしそうでないのならば、ぼくに何かできないだろうか。彼の助けになれないだろうか。どうか「助けて」と言って欲しい。

  • 出張先から戻る途中の新幹線ホームのキオスクで購入。
    キオスクで本を買うのは初めてだったけど、ビキナーズラック的大ヒット。

    団塊ジュニア世代で、就職難の時期に社会に出なければいけなかった現在の30代後半の方々。
    親が実現していた生活に手も届かない、周りは仕事も家庭も充実しているが自分は仕事がない、それは『自分が悪い』。そう考えて『助けて』がなかなか言えず負のループにはまっていく。

    きりきり胸が痛む内容だった。
    確かに私の会社も30代後半の人間ってかなり少ない。
    現在の30代が受けてきた教育環境や、親の世代の特徴まで踏み込んで取材して書き込んであるところはさすが。

    締めくくりの言葉を引用。
    『助けて』と言える人は、人の『助けて』という声にも耳を傾けられる。『助けての言葉に耳を傾けあえる社会』が、いつか生まれることを願っている。

    このテーマに限らず、自分を責め、助けを求める道を自ら閉ざす事って沢山ある。

    どうしたらそんな社会ができるか?
    それ以前に、どうしたら『助けて』と言える?
    それを考えたい。

  • 自己責任論社会が生んだ心の歪みを題材にしたドキュメンタリー。
    初版から10年経った2023年でも、この「自己責任論」や助けを求められない状況は解決できていない。
    こういう社会問題に真摯に向き合った取材に基づいた良書が増えるといいな。

NHK「クローズアップ現代」取材班の作品

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