昭和天皇伝 (文春文庫 い 90-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (589ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167900649

感想・レビュー・書評

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  • 25歳で即位し、日本史上最長の在位期間にして、史上、最も困難な時代を生きた。ボクは支那事変から太平洋戦争に至る昭和天皇陛下の戦争責任を否定しない立場なので、本書は若干甘い歴史観で昭和天皇を捉えているような気がする。それでも、陛下がおかれた激動の時代への同情を禁じえない。大正デモクラシーの影響を受けた十代から太平洋戦争終結にいたるまでの明仁殿下のナイーブさには心を撃たれる。

  • 国家の象徴に生まれるとか想像できますか?昭和天皇の生涯を綿密にまとめた一冊。同時に昭和の戦争の時代を総覧できる。


     象徴。シンボル。前に司馬遼太郎の本でシンボルの語源はギリシア語の「割符」から来ているとあった。象徴とは半分なのである。とあるものの本質の一般共通項という半分だけを表すものがシンボルなのである。
     天皇は日本の象徴。日本人の精神性の一般共通項が天皇にはあるってことかな。
     日本国民にはこれほどの奥ゆかしさはまだあるのだろうか。

  • 膨大な犠牲者を出した泥沼の戦争・・・
    そして焼け野原からの復興と繁栄・・・
    日本の歴史上、昭和の激動っぷりはハンパない・・・
    ハンパない激動期の日本を現人神として、そして象徴天皇として歩まれた昭和天皇・・・
    その昭和天皇の伝記、評伝・・・

    昭和天皇には歴代「最高の天皇」という評価がある一方で、戦争責任を逃れた「率直ならざる人物」であるという評価もある・・・
    いったい、どうなの?
    2001年にピューリッツァー賞を受賞したハーバード・ビックスら昭和天皇を批判する側の意見としては・・・
    天皇は戦前において立憲君主じゃなくて、絶大な政治権力を持った君主として戦争責任があったのに、側近と共謀してそれを隠した「率直ならざる人物」だ、と論じる・・・
    政治関与ができて影響を及ぼせたなら、戦争を防げなかったことに対して、あるいは早く戦争を終結させず犠牲を増加させたことについて、責任がある、というもの・・・
    ふむ・・・
    確かに・・・
    そういえば・・・
    明治憲法で天皇は神聖にして侵すべからず、というのがありましたね・・・
    そうそう、現人神でしょ?
    みんな天皇の言うこと思うことには従ったんだよね?
    っつーことは何だって好き勝手にできたわけだよね?
    そうだとしたら、確かに責任あったよね?
    と、思っちゃうところだけど・・・
    明治以降の天皇制について詳しい著者によるこの本を読むと・・・
    実はそんなことはなかったということが分かる・・・

    戦前において、現人神と、神聖にして侵すべからずと、されていた昭和天皇・・・
    絶大な政治権力を持ち、何の制約もなく自由に様々な意思決定や行動ができた・・・
    わけではない!
    さっきの神聖にして侵すべからずにしたって、これは天皇が法律上や政治上の責任を問われないというものであって、自由に何でもできますよ、ってものではない・・・
    明治天皇以来の日本なりの立憲君主制がしっかり昭和天皇に受け継がれていた・・・
    明治憲法で・・・
    天皇は帝国議会の協賛によって立法を行う・・・
    すべての法律は帝国議会の協賛を経なくてはならない・・・
    毎年の予算は帝国議会の協賛を経ることが必要・・・
    帝国議会は毎年召集する等、議会が天皇の行為を制約したし、同じように国務大臣も天皇の行為を制約していた・・・
    司法に関しても、恣意的に介入する余地はほとんどなかったそう・・・
    その上、というか特に天皇の意思決定に制約をかけたのが軍部大臣現役武官制だったみたい・・・
    何故かと言うと・・・
    天皇は首相や閣僚を辞任させることができる・・・
    けど、その後任を埋めることができる保証がなかったので、最重要の陸海軍大臣の後任者が得られないと内閣が成立したり、存続できない・・・
    結果、軍関係閣僚を罷免した天皇の政治責任が言外に問われることになり、たちまち窮地に陥ってしまう・・・
    昭和天皇には秩父宮や高松宮といった弟もいたし、他の皇族もいた・・・
    昭和天皇の権威が失墜し、この天皇は(軍部や右翼など)自分たちにとって不都合である、ということになれば、廃位して都合のイイ他の皇族を天皇に、という恐れがあった・・・
    天皇にとって不満な政策であっても、その政策をOKしないために内閣が倒れる恐れがある場合、事実上拒否できなくなってしまう・・・
    これですね・・・
    これが天皇へ大幅な制約をかけた・・・
    これが英米との戦争を何としても避けたかった昭和天皇を非常に苦しめ悩ませたことがわかる・・・
    『天皇が人脈形成に失敗して各集団(主に軍部や右翼)からの信頼が弱い場合、天皇の政治権力は限定的となる。それに加え天皇の意向と同様の考えを持って国家をリードする有力政治家もいないと、天皇は、倒閣や明治憲法運用上の慣行を破ることを恐れるあまり、意に反した事態の展開を事実上傍観うすることにもなる。』
    若くして即位した昭和天皇は、張作霖爆殺事件の処理や、ロンドン海軍軍縮条約問題、満州事変での朝鮮軍の独断越境への対応を誤り、軍部への威信を確立することができなかった・・・
    元老も(高齢の西園寺公望を残して)いなくなり、宮中側近として頼れたのは経験値が不足気味の牧野伸顕や木戸幸一くらい・・・
    結果、満州事変から太平洋戦争開戦まで意に反していながら軍部の強硬姿勢を止められず、ズルズルと行ってしまった・・・
    こういう背景があったことを批判派は語っていない、というか見逃している・・・
    ボクもこういう事情があったとは、そんなに知らなかったです・・・
    今回この本で学べました・・・
    著者も言っておりますけど・・・
    『歴史の中で生きる人々は、その時代その時代の課題を抱えている。現代に生きる私たちが歴史から学ぶことができるとすれば、過去の人々がその時代の課題とどのように取り組んできたのかということを、その時代の制約に配慮しながら考えることを通してである。』
    この観点がホントに大事ですね・・・

    昭和天皇の生涯について・・・
    なぜ日本が無謀な戦争に突入していったのか・・・
    昭和天皇は望んでいなかったと言われていたのに何故その流れを止められなかったのか・・・
    非常に面白かったし、ボクには新鮮でした・・・
    参考文献も豊富で、ちゃんと結構な一次資料に寄っているようなので信頼性が高いかなぁと思うし・・・
    これはオススメ・・・

  • 昭和天皇を身近に感じることが出来た。昭和天皇の周囲にあまりに人がいなかったことが、悲劇を生んだような気がする。

著者プロフィール

1952年 福井県に生まれる
1981年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学
    名古屋大学文学部助教授、京都大学大学院法学研究科教授などを経て
現 在 京都大学名誉教授、博士(文学)

著 書
『大正デモクラシーと政党政治』(山川出版社、1987年)
『立憲国家の確立と伊藤博文』(吉川弘文館、1999年)
『政党政治と天皇』(講談社、2002年、講談社学術文庫、2010年)
『昭和天皇と立憲君主制の崩壊』(名古屋大学出版会、2005年)
『明治天皇』(ミネルヴァ書房、2006年)
『山県有朋』(文春新書、2009年)
『伊藤博文』(講談社、2009年、講談社学術文庫、2015年)
『昭和天皇伝』(文藝春秋、2011年、文春文庫、2014年、司馬遼太郎賞)
『原敬』上・下巻(講談社、2014年)
『元老』(中公新書、2016年)
『「大京都」の誕生』(ミネルヴァ書房、2018年)
『大隈重信』上・下巻(中公新書、2019年)
『最も期待された皇族東久邇宮』(千倉書房、2021年)
『東久邇宮の太平洋戦争と戦後』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2023年 『維新の政治と明治天皇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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