美しい距離 (文春文庫 や 51-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167914264

感想・レビュー・書評

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  • 結婚に対するネガティブな感情(女としての役割を押し付けられる、自分の負担が増えるだけ等)を少し改めた。
    お互いを社会人として尊重し合う、2人の関係はとても素敵だ。
    愛する妻のために働き方を工夫しながら看病する主人公は、献身的とも言えるが多分違う。彼は好きな人と一緒にいたくて、少しでも力になりたい一心だけど、自分が属する社会、妻が属する社会両方を大事にしている。
    私もそんな人生のパートナーがいたらいいなと思った。

    妻の死の場面では号泣した。段々と呼吸の間隔が大きくなり、息をしなくなる描写がとてもリアルだった。
    死んだ途端に向こう側の住人として、神様のように扱われることに主人公は違和感を抱いていたけど、遺族がその先の人生を生きるために必要な儀式なんだと感じた。

  • 帯を見て、反射的に
    切ない感じを想像していたけど
    そうじゃなかった。

    がん患者と家族の心のうち、
    医師をはじめ、そこに関わってくる人たちとのやりとりで感じるさまざまな思いや葛藤、
    どう社会と関わっていけるのか…

    登場人物に名前がないぶん、
    彼らが着ている服の色や仕草を
    何度も描写しているのが印象的だった。
    それが、淡々と物語が進んでいくように感じた
    理由の1つかも。

    主人公が、
    がんを患った妻の入院先へ向かうところから
    物語は始まる。
    がん患者が考える仕事への思いと距離感。
    がん患者家族とそれ以外の人たちとの距離感。
    逝ってしまった大事な人との距離感。
    とても冷静に綴られているなぁ
    何度も思った。

    がんに対して明るいイメージを持てた、と
    主人公は言う。
    あたしは、正直そこまでの変化はなかったし
    最期の瞬間もあたしには大事なものだった。

    だけど、
    抱きがちながんへの悲観的なものは
    なんか違うんじゃないかって思う。
    がん患者だって可能な限り、
    社会と関わっていたい。
    仕事だってしたい。
    延命治療をしないからといって、
    全てを諦めているわけじゃない。

    病室のロッカー、テレビカード、
    横長の白いテーブル、
    仕切りのカーテン…
    自分もがんで父を亡くしているから
    ものすごくリアルでに感じられ、
    まるで自分の記録、のような一冊だった。

  • とてもリアリティがあり、
    悲しいしやるせないけれどどこか光も感じる。

    お義母さんがあまり好きではないというか
    けして嫌いではなく恐らく良い人なのに
    ちょっともやっとするところがある。

    そういった日常にありふれたことが、奥さんの闘病生活を支える中でもそこかしこに在る。
    会社の人が奥さんの余命を訊いてくるのも可笑しいし
    忌引きじゃなくて死ぬ前に休みが欲しいというのも
    本当は当たり前の感情だと思う。
    余命という物語を使わず納得してもらいたい
    という表現の仕方に共感する。

    主人公に対しても、「して『あげる』」という言い方を
    しなくても良いのになと思った。

    小林農園の人は良い人で、本人の前では泣かなかったのだろう。
    しかし泣くのを我慢して看病してる人の前でお前が泣くのかよという気もするというのも
    それはそうだろうなと思ってしまった。

    痛くても並行して幸せだと思うこともあるというのも
    分かる気がした。
    うつる病気ではないのに治療に専念して表舞台には出るなというのはおかしい。
    元気がないまま人に会ってもいいんじゃないか。
    そういう考え方と、それを言葉にしているところが
    素敵だなと思う。

    考え方が合わない、相手が思い込みで話している
    というようなことを
    ストーリーが始まるという表現の仕方をしているのが
    悪気のなさ、通じ合わなさなども感じられて
    興味深い。

    黄色一色にして欲しいと言ったのに
    いろんな色で飾られた葬儀場。

    「死ぬならがんが良い」
    自分には到底言えそうにない言葉ではあるが
    亡くなった奥さんも看取った旦那さんも
    精一杯日々を過ごせたことだけは間違いないと思えた。

  • 良かった

  • がんで余命わずかの妻との最後の半年あまりの日々が夫の視点で淡々と描かれる。

    病の家族を見送った経験を思い起こすと、体調の異常に気がついて検査を受けるところから、入院して亡くなるまで、さらに葬儀とか含めると、家族はジェットコースターみたいに感情が揺さぶられっぱなしだった。

    しかし、この小説では「看病もの」と呼ぶには終始カロリーが低い。冒頭からすでに妻の病は相当進行していて、夫は病室に通い、顔を洗ったり、髪を編んだり、爪を切ったり、妻の世話をし、何気ない会話をする。それは「好きな人」のための幸せな行為と感じている。

    義父母や病室を訪れるケアマネージャー、見舞い客に気をつかい、時々違和感を覚えたり、でも妻の人生を尊重する姿勢は変わらない。この夫婦はお互いを深く思いやり、だからこそ相手の心に踏み込まず、弱音を吐かず、むしろ互いに遠慮しあっているようにさえ見える。

    妻が亡くなり、一気に妻が遠くに感じられる悲しさ、さらに日々が経過すると、また次第に思いは変わっていく。最後まで読んで、タイトルの意味が深く腑に落ちる。

  • 身近な人だけじゃなく、様々な人との距離に着目している点が面白かった
    恋人や近しい友人、心的距離や身体的距離を求めてしまいがちだけどそうではない、
    見えているもの感じる距離が全てではない

  • サンドイッチ屋さんを経営していた40代女性が、がんになり、その夫が主人公という小説。

    病気の進行など、リアルな部分もあったが、この主人公の夫の心が狭すぎると感じて、あまり共感できなかった。
    人が病気のこと訪ねたがるのは当然だし、隠すよりも包み隠さず話すべきと個人的には思う。不幸なことだけど悪いことしたわけではないのだし。

    心に響く場面もなく、低評価。

  • 圧倒的だった。何度も泣きそうになった

    がん終末期の妻との、近いようで遠い距離
    そして亡くなった妻との、遠いようで近い距離

    「死ぬなら、がんがいいな」

    実はこれは医療者の実感だったりする。

  • 今の日本で生きる多くの人は「全ての人が平等なのだから平均寿命まで生きられる権利を持っている。しかし特別な人はその権利を失い、早めにカウントダウンが始まる。」そして、「罪深い人、人間ドッグを受けなかったから、食事に気をつけなかったから、煙草を吸ったから」と何かしらの理由をつけたがる。カウントダウンが始まった人にだけ余命という言葉を当てはめ、始まっていない人と線を引きたがる。

    こちらの感受性の問題。

  • 家族だから、夫だから、妻だから
    ではなくひとりの人として、尊厳を尊重することの大切さが伝わる本だと思いました。

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著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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