ジブリの教科書10 もののけ姫 (文春ジブリ文庫 1-10 ジブリの教科書 10)
- 文藝春秋 (2015年7月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784168120091
作品紹介・あらすじ
スタジオジブリを代表する国民的人気作品、満を持して登場!生物学者の福岡伸一さんをナビゲーターに迎え、宮崎駿監督が構想16年、制作に3年をかけた超大作の魅力を読み解く!
感想・レビュー・書評
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冒頭「『もののけ姫』を観てあらためて思い出したことがある。」
末尾「宮崎駿は多分、戻ってくる。」
映画館で上演していて(コロナの余波?)、久しぶりに見たから積読から読んだ。
23年前に初めて見た時は単なる自然保護、エコロジーの映画なんていう受け止め方しかできなかった。でも全然違う。人間は自然と対立し、自然を犠牲にしながら生きていること。自然は人間に優しいなんてことはなく、人間とは無関係に存在し、時に人間に対して凶暴になること。人間が生きるということは、自然と仲良く手と手を取り合っていくなんていうことはありえないという、人間の業の深さ。
アシタカの行動に表されるように映画で解決策は示されないけれど、人間の業の深さを認識した上で生きていくということは、それを認識せずに生きていくこととは雲泥の差があるように思える。
そして、人間が生きていくということは、他者に悪影響を与えてしまったり悩みがあったりするけれども、それでも生きていて良かったと思える瞬間がある、美しいと思える瞬間がある。人生を生きる価値がある。
宮崎駿のメッセージはこういうところにあるんだろうなと、いくつか関連する本を読んできた今は思う。
本書については、もちろん全般的に興味深かった。最後の大塚英志による「『もののけ姫』解題」は相当手厳しいけど、それもまた面白い。
もうちょっと世界観を理解するために、積読になっている『栽培植物と農耕の起源』や『日本の歴史をよみなおす』を読みたい。そうすれば大塚英志氏も少しは満足してくれるかな。 -
ブログに掲載しました。
http://boketen.seesaa.net/article/423286226.html
ジブリ作品を、学者、作家、製作にかかわったアニメーター・声優など、あらゆる角度から語るシリーズ第10作。
なんといっても、萩原規子(作家)の「二人の女の板ばさみ」に意表をつかれた。
アシタカは、サンとエボシ御前のあいだにたち、「タタラ場で働いて、サンにも会いに行く」と言い、サンも素直にうなずく。
萩原はこのエンディングに怒る。なにを寝ぼけたことを言ってるんだ!
「もしも私がサンだったら、アシタカを殴り倒して二度と会わないと思います。」
参りました。
そうか。アシタカのやってることはいい気な2枚目の二股かけか。
目が覚めるような新鮮な指摘でした。 -
2015.10.9
もののけ姫は映画のラストでアシタカとサンが手を取らずに平行線のままっていうのが好きなんです。こういうのを読むと宮崎映画は本当ディテールが細かいと思う。 -
このジブリの教科書シリーズでは、いつも楽しみにしているのが冒頭のエッセイ、プロデューサー鈴木さんの無茶話、久石譲のイメージをふくらませ方、そして最後の大塚英志の批評。
前半はいつものように楽しみながらワクワクよんだけど、後半は少し雲行きが怪しくなってきた。
読んでいる私の気分が、3週間ほどの中断をはさんでトーンダウンしてしまったせいもあるけれど、大きいのは他の著者たちの高い評価と乖離している批評家たちの低い評価。こちらの方に共感してしまったから。特に大塚英志と宇野常寛。
二人に共通しているのは、オウム後、阪神淡路大震災後という時代の閉塞感に「生きろ」という映画のメッセージが届いていない、という批判。
難しい。
20年たった今から当時を振り返れば、映画の言うとおり、たくさんの死と生(再生)を経て今日も太陽がのぼり、私は生きている。東日本大震災も超えて。だけど、それでよいのか。『希望は戦争』に応えられるのか。
難しい。
だけど、こういう批判が載るのもこのシリーズのよいところ。絶賛だらけでなく、前後左右上下斜め、東西、過去現在、歴史学に文芸評論に生物学、などなど、いろんな方面から賞賛と励ましと悪口ではない批判が読めるのがこのシリーズのよいところ。
それだけ多くの「私にも一言いわせろ」を刺激するジブリの映画がどれだけ素晴らしいか。 -
(01)
映画「もののけ姫」にまつわる証言,インタビュー,論考などがまとめられている.特に大塚英志の「『もののけ姫』解題」が特筆(*02)される.製作にたずさわった鈴木敏夫氏の証言が示すように,この作品は(日本の)映画史としても画期にもなっており,また技術面でも,アニメに変革をもたらしたプロジェクトでもあっただろう.
21世紀の現在から見たとき,「もののけ姫」は,宇野常寛氏がいうように「生きろ。」のウザさをいまだ持ち得ているだろうか.映画内の人物が動き回り,映画内の彼女ら彼らを動かすために映画づくりの仕事として動き回り,アニメーションが持ち得たそうした熱量は,ウザい感覚も誘発しつつ,本書から伝わるところもあるだろう.
(02)
この映画と同時代的なオウム真理教や村上春樹に対する距離感は,大塚が指摘するように気に掛かるところでもある.果たして,この作品は,歴史や社会と向き合ったものであっただろうか.ファンタジーやアニメーションにそれを求めるのは酷であろうか.そうした問題も大塚の解題には示されている. -
肩透かしを食らうようなものもちらほらあったけれど、小松和彦さん、永田紅さん、網野善彦さんの評がとても興味深かった。
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制作陣のインタビューは見る価値あり。考察も中々興味深いです。
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一番好きなジブリ作品の裏話が書かれていて面白かった。何回も見てきたけれど、この本を読んだ後にもう一度観るとまた変わった見方ができると思った。
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『もののけ姫』を見た大衆が受け取ったメッセージと象徴として物語に潜む主人公たちの影に秘められた歴史修正主義としての思想の可能性あるいはバブル崩壊後の日本の指標という漠然としたテーマへの挑戦という意味でのメッセージは大きな軋轢を生んでいるように思われる。私たちがこの物語を見るならば大体は現代社会が持つ利潤追求による環境破壊への警鐘と捉えるだろう。だが、それだけではなくモデルとしての蝦夷、非人など時代の表舞台には現れなかった人々の現実の現出など、実際に他にも色んな解釈のしようがある。この物語の複雑さは社会の複雑さをある程度投影しているからである。なるほど、子どもの時は何度見ても訳が分からなかったわけだと思った。