十二世紀のアニメーション: 国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198609719

作品紹介・あらすじ

いまや世界中でもてはやされる日本のアニメ。その隆盛のわけは?「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」の高畑勲監督は、平安時代の絵巻物に最大のルーツを求める。アニメーション監督の眼が明かす「信貴山縁起絵巻」「伴大納言絵詞」などの驚くべき"動きの魔術"の実態。

感想・レビュー・書評

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  • 現在岡山市で開かれている「高畑勲展」の図録で紹介していたので紐解いた(展覧会も図録も大変面白いのだが、いかんせん紹介できない)。本書はたいへんな労作。絵巻物に、マンガ・アニメの源流があると説いたものである。なんだ、そんなことは良く言われていることじゃないか、と思った貴方、違います。こんな風にキチンと分析した書物は、それまで出版されなかった。実物を見せながら話を展開しないと、話が始まらないからである。本書は横開き多色刷りの豪華本であるが、著者が有名なために3600円の安価で出版できた。

    日本のマンガとアニメを高畑勲はとりあえずこのように定義する。
    「おもに輪郭線と色面で描かれた
    さまざまな絵を並べ(平明な絵で描かれ)
    それに言葉をそえて
    時間とともに(コマ割やフィルムの流れとともに)
    お話をありありと語ったもの」
    これはまさに中世からの絵巻物や絵とき、江戸時代の草双紙や浮世絵、覗きからくり、からくり幻灯芝居に共通する特徴である。しかも、日本には、子供から大人まで、庶民の生活や立ち振る舞いを好奇心いっぱいに活写した絵が多く、そういう絵は、ちょうどマンガを読むときのように、描かれた内容を追いつつ、画面に眼を近づけて細部の「絵を読」んではじめて面白さがわかるように描かれた、という。

    もちろん、日本で花開いたマンガやアニメは、このような文化伝統を学んで作られたのではない。(←ここをはっきりさせているのは高畑勲の立派な所)海外から多くを学んで出発したものだ。ただ、日本において、何故こんなにもマンガやアニメが盛んになったのか、「その源泉をたどれば、やはり絵と言葉で語るという、私たちの文化的な好みと欲求の伝統に行き着くことになります」。

    日本人は何故こんな文化的嗜好が発達してきたのか?本当のルーツは、日本語の独特の言語体系だという。漢字と訓読み、カタカナとひらがな、漢字かな混じり文を発明したのが日本語である。それによって、日本人は文字を視覚的な「絵」として認識してきた、と高畑勲はいう。13ヶ所に渡りその証拠を挙げているが、例えば、日本人は読みは分からなくても意味がわかる漢字をいくつも「絵」として知っている、名前を漢字の選択によって視覚的なイメージで多様化した(征子、雅子、麻紗子、まさ子。漫画、まんが、マンガ)、オノマトペの豊富さ、語り絵は文盲に対する絵とき用ではなく識字層の楽しみのためにまず制作された、等々。

    そうして、高畑勲は「信貴山縁起絵巻」「伴大納言絵詞」について、そのアニメ的手法を解説する。その緻密さは、正に一つのアニメ映画を監督するくらいである。「シークエンス」「シーン」「クローズアップ」「フェイドアウト」「ズームイン、パン」などの用語を多用して、十二世紀に絵巻物が一挙に世界に例を見ない「時間の表現」「視覚効果」を自覚的に狙ったすごい映像作品である事を見せる。

    この2つの絵巻物と「彦火々出見尊絵巻」「鳥獣人物戯画」は、全編を縮小版であるが解説している。有名場面を知っている人は多いが、全編をカラー絵を見ながら解説されたのを読んだのは初めて。それだけでも価値がある。

    高畑勲は、1人の絵師の仕事じゃない。脚本家やプロデューサーに似た集団的な作業の賜物だと喝破する。その他、ここで書いている独創的な意見は多い。

    彼の指摘の一つ一つが美術史的に大発見だと思うのだが、素人発言としてあまり注目されてきていないのではないか?とさえ思った。

    • kuma0504さん
      そうなんです。正確に言えば、Amazonで扱っていない図録です。何故か出雲歴史博物館の図録はAmazonで扱っている。けれども、多くの図録は...
      そうなんです。正確に言えば、Amazonで扱っていない図録です。何故か出雲歴史博物館の図録はAmazonで扱っている。けれども、多くの図録は、学芸員が心血注いで作ったものであり、傑作が多いのです。
      2020/08/13
    • kuma0504さん
      コメントくれたので、マイブログにアップした高畑勲展の記事をコピペします。写真は載せられませんがまぁこんな雰囲気です。

      開催が延びていた高畑...
      コメントくれたので、マイブログにアップした高畑勲展の記事をコピペします。写真は載せられませんがまぁこんな雰囲気です。

      開催が延びていた高畑勲展に行ってきた。アニメ制作に興味ある人だけでなく、アニメ映画が好きな人は必見の展覧会だったと思う。セル動画や絵コンテを展示して、昔のアニメを懐かしむ構成ではなく、60年代に高畑勲の演出が、如何に画期的で革新的だったかを明らかにするものであった。その革新性は、「アルプスの少女ハイジ」でも、「赤毛のアン」でも「火垂るの墓」「おもいでぽろぽろ」そして「かぐや姫の物語」でも、常に塗り替えられていったのである。「日本のアニメーション」を知るためには、この展示会は多くのことを教えてくれるのに違いない。

      1968年「太陽の王子 ホルスの大冒険」で、高畑勲は初めて演出を任される。複雑なヒロイン造形、大群衆シーンの躍動感、アイヌの民俗叙事詩をモチーフに描く壮大な物語、スタッフの集団創作を可能にした緻密な企画意図の膨大な説明書などを見てもうもう圧倒された。いくつもの表や図を使って集団認識の共有を図っている。しかし時代が早すぎたのか、この映画はこけてしまう。高畑勲と宮崎駿は東映動画を去って、テレビの名作シリーズで新境地をつくる。

      1973年、高畑勲、宮崎駿、小田部羊一は「ハイジ」のロケハンでスイスやドイツを訪れている。名作を生活感溢れる演出で一年かけてじっくりと作ったテレビシリーズの始まりである。原作のさまざまな改変を行なって、高畑・宮崎コンビはハイジの物語を「発見と解放の喜び」をファンタジーとしてまとめることに成功する。実際私は、社会人になった後に、DVDでずっとこれを見て辛い時期を文字通り救われた思い出がある。因みに冒頭、高原に着いた途端ハイジが着膨れの服を脱ぎ捨て下着姿で坂道を駆け上るシーンは、高畑勲が付け足した。

      展示の中では、ここだけ写真撮影OKで、ハイジの世界を正確にジオラマにした部屋があった。おそらく、何処かの展覧会で作られたジオラマの流用なのだろうが、力作だった。汽車が動いていた。

      「赤毛のアン」では、高畑勲は「痩せてギョロ目でソバカスだらけで赤毛」の少女を、登場時に可愛く描くことをさせず、やがて次第と美しくなってゆくという難しい課題を作画の近藤喜文に課した。しかも原作のアンのお喋りは、一切削らなかった。そういう演出によって、個性的な思春期の少女と育ての親を、「ユーモア」として描くことに成功させた。高畑勲によるシリーズ構成のためのメモの何という緻密さか。

      高畑勲は絵コンテを描かない演出家として有名らしい。絶対書かないわけではなく、いくつか展示されている。確かにうまくはない。マルとして頭を描いていることも多々ある。宮崎駿は動画を描ける。しかし、設定と企画意図のノートは、おそらく高畑勲が圧倒していただろう。そうやって2人は切磋琢磨したのだ。

      高畑勲は「ジャリン子チエ」(1981)から、日本を舞台にアニメを作り出す。「ゼロ弾きのゴーシュ」(1982)「柳川堀割物語」(1987)を経て、1988年「火垂るの墓」が作られる。原作を何処まで読み込むか。提示されたノートなどの資料は、我々に多くのことを教えるかもしれない。詳細なロケハンと共にリアルな作品が美術の山本二三、作画監督の近藤喜文・百瀬義行らと作り込み、永遠の夏の平和アニメのアイコンとなった。この作品では、色彩設定を場面場面で替えていった。「おもいでぽろぽろ」(1991)では、「山形編」でリアルさを出すために唇の動きさえアニメでリアルに再現した。一転「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994)では、もう溢れかえるような設定画にお目にかかる。百瀬義行と大塚伸治による大量のイメージボードは、狸の生態や、化ける方法とそのレパートリーに関して、一生懸命にやっても人間にはほとんど効果がない「しょぼい感じ」を出すことを目指したらしい。なるほど!そうだったのか!

      そしてセルアニメを否定して、線で人物と風景を同時に描いて動かした「かぐや姫の物語」(2013)を遺して監督は逝ってしまった。

      2020/08/13
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      ありがとうございます!
      岡山まで行きたい、、、
      kuma0504さん
      ありがとうございます!
      岡山まで行きたい、、、
      2020/08/13
  • これは、今度の展示会のネタ探しに読んでみた。しかし、十二世紀の文化すごいな。ここで円熟したものが、今また日本文化の強みとして生き直している感じ。そして高畑勲さん、すごいです。ちゃんとものを作る人の研究の深さにはいつも尊敬の念を覚えます。これをなんとか読み解いて、咀嚼したい。

  • 日本文化
    ジャパニメーションの原点

    巻物といえば古いというイメージであるが
    保存状態が良いと感心した
    また描写や内容はすばらしい
    絵巻物の見方がわかると
    より一層楽しめる

    発想はすごい!
    人物の表情も多彩だ!!
    なかでも火炎はド迫力!!
    臨場感に唖然とするばかり!

  • ジブリの監督、高畑勲さんの本。

    現在日本ほど多くの漫画やアニメが生産されて受け入れられている国はないそうですが、そんなアニメのルーツが12世紀の絵巻物にまでさかのぼれることを「鳥獣人物戯画」「信貴山縁起絵巻」などを題材に解説。
    豊富かつきれいな絵巻物の写真がたっぷりで、とても贅沢なつくりの本です。

    教科書で見たときは大して面白くもなかった絵巻物が、この本を見ていると途端に面白くなってくるから不思議です。

    高畑さん、実はとっても教養豊かで、ツボを抑えてるから、あんなに売れるものを量産できたのだろうか?などと思いながら読みました。
    この本1冊で1年間大学の講義が持ちそうな、とても内容の濃い本です。

  •  俎上に上げられるのは、『信貴山縁起絵巻』、『伴大納言絵巻』、『彦火火出見尊絵巻』、そして『鳥獣人物戯画』の4巻。絵巻の写真の下に、如何にもアニメ監督らしい絵解きが。こんな具合だ。『信貴山縁起絵巻』「飛倉の巻」の一部、「霞のなかにロングショットの深山が姿をあらわすと、ズームインしつつオーヴァラップ、その奥にある(はず)の右面構図の住房を(見出す)」。撮影現場にいるような不思議な臨場感がある。「あとがき」にこうある。「私の夢は、(中略)『あそびをせんとや―日本伝統絵画のなかの子どもたち―』といった大判画集を編むことである」。生前にそうした本は出していない。ただ、アニメ『かぐや姫の物語』がある。ひょっとすると高畑はアニメの形で夢を実現していたのかもしれない。

  •  あの高畑勲が,日本の12世紀に書かれた絵巻物を詳細に分析して,それらがアニメーションとしての先見性を持っていることをわかりやすく教えてくれます。
     これだけジックリと絵巻物を見たことはなかったので,とても楽しい時間を過ごさせてもらいました。「なるほど,そういうふうに見ると,確かに,そう感じるな」と思うことばかりです。絵巻物の特徴として,〈右端の方から少しずつ開いて絵を見ていく〉ということになります。そこで,描き方次第では,映画を見ているような気分にもなるわけです。
     〈原因から結果が見える〉という当たり前の展開はもちろんのこと,〈先に結果が見えていてだんだんと原因につながっていく〉という展開もあります。左に行くに従って,どうしてそうなったのかが見えてくるというわけです。
     また,絵巻の中の「異時同図」というテクニックについても,結構いろんなパターンがあることも教えてくれました。
     異時同図とは,次のようなことです(ネットより転載)

    …これら画面形式,画態はしだいに混じり合い,多様な絵巻表現を生み出してゆく。また絵巻にしばしばみられる構図法としては,屋根や天井を取り去って室内を俯瞰するいわゆる吹抜屋台や,同一画面上に次々と変化する事象を円環的に描くといった異時同図法があげられる。
    (「絵巻」『世界大百科事典』より)

     もう一度読みたいな。でも図書館から借りたので,返さないとな。

  • アニメ監督の目から見た絵巻物の読み方。絵巻物の解説で「シークエンス」なんて言葉が出てくるのが面白い。横長の装丁で図版も見やすい。本棚には入りにくいけど…。

  • 大阪樟蔭女子大学図書館へのリンク
    https://library.osaka-shoin.ac.jp/opac/volume/214272

  • ちくま新書『まんが訳 酒呑童子絵巻』参考文献。次は『日本の絵巻』だ!

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著者プロフィール

アニメーション映画監督。1935年、三重県生まれ。作品にTVシリーズ「アルプスの少女ハイジ」「赤毛のアン」など、劇場用長編「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「ホーホケキョとなりの山田くん」「かぐや姫の物語」など。

「2014年 『かぐや姫の物語 徳間アニメ絵本34』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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