- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198632281
作品紹介・あらすじ
古き都の南、楼門の袂で男は笛を吹いていた。門は朽ち果て、誰も近づくものなどいなかった。ある日、いつものように笛を吹いていると、黒い大きな影が木立の中に立っていた。鬼だ。だが男は動じず、己を恐れない男に鬼はいつしか心を開き…(『鬼の笛』)。いにしえの都に伝わるあやかしたちを泉鏡花文学賞作家が紡ぐ最新作品集。
感想・レビュー・書評
-
タイトル通り、あやかしと人にまつわる物語。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『あやかし草子』 千早 茜 徳間書店
これは文庫では無いので、
まるで陽光に晒した茜色の和紙のような表紙で、「みやこのおはなし」
と言う副題が付いています。
人と、あやかしの不思議な交流を描いた六つの物語。
こんなにも美しいあやかしの物語を初めて読んだ、と思いました。
異界の物が潜む暗闇が、禍々しい物では無くて、美しい笛の音や、
木々のざわめき、衣擦れの音が聞こえて来る様です。
蛍がひかり、赤いぼんぼりが遠くに灯り、月の冷たい光が緑色に染まる様な、
夢の中をたゆたう様な気持ちにさせられました。
幼い頃、昔話や地域の伝説で聞いた話が、美酒に漬け込まれてえもいわれぬ
香りを放ちながら、再び現れた様な錯覚を覚えました。
読み終わって、あやかしも、人間も、何かに強く執着する時、その境界は
危うくなるのだと感じました。
「天つ姫」と「機尋」と言うお話が特に気に入りました。 -
人を狂わせる笛の音を奏でる一人の男。夜中に誰もいない朽ち果てた門の前で笛を吹いていると、そこに異形の鬼がやって来て・・・「鬼の笛」
流れに背いた狐の死を見て、古ムジナは人を知ろうとし・・・「ムジナ和尚」
この世でいちばん強いものに連れ去られようとした姫と、天狗の頭目・梁星の恋物語・・・「天つ姫」
見たものしか彫れないと、龍神の住むという淵に向かった彫り師の男。そこで出会った美しい女の正体は・・・「真向きの龍」
盗人集団に裏切られ、けがを負いつつ逃げる吉弥。彼を竹林に導いた女・・・「青竹に庵る」
染屋の柳は紅と共に織屋の宮津屋に向かうが、そこには幼子が消えるといううわさがあり・・・「機尋」
京都に伝わる民話・伝説をベースに、泉鏡花賞受賞作家が繊細な筆致で紡ぐ摩訶不思議な物語、とのこと。
「鬼の笛」がちょーっと凡庸で、「あれ?これ千早さんらしくないなぁ」と思っていましたが、次の「ムジナ和尚」からはぐいぐい引き込まれました。
あやかしと出会う者たちはみなどこか人界からはぐれそうな、そんなあやうい存在のものばかりで、彼らがあやかしと触れあい知っていく哀しみは素直に胸を打ちます。
人の世は常にむなしく哀しい。
あやかしたちは強く美しく、ある意味無邪気で、そんな彼らに惹かれるのも無理はないと思います。
それでも彼らの手を振り切り、むなしく哀しいこの世に留まり、自らの生を生きようとする主人公たちの姿に思わず涙ぐんでしまいました。
「奪うことしか知らなかった。飴なんて、くれなければよかったのに。そしたら、こんな気持ちを知らなくて済んだ。これから先も返せなかったものを抱えたままなのは辛い」
「あの飴があんなに甘かったのは、外の世界が辛かったからなのか。おれは何も感じてないと思っていたのに」
「ここに来るのはもう少し後にする。誰かにあの甘さを与えることができるまで」
吉弥をこの世に引きとめた、たった一つの飴の優しさが、ほんのり胸に残りました。 -
あやかしが魅せる、人間の悲しく美しい姿。
千早茜はささやかな心の変化を切り取って
その心理描写を情景へ落とし込むのが本当にうまい。
あやかしであれ、人であれ、
誰かとつながりたいと思っている。-
文庫になった「魚神」をやっと購入。近々読む予定。その後は「おとぎのかけら」か「あやかし草子」が文庫にならないかと思っています。。。
「情景へ...文庫になった「魚神」をやっと購入。近々読む予定。その後は「おとぎのかけら」か「あやかし草子」が文庫にならないかと思っています。。。
「情景へ落とし込むのが」
そうなんだ、読むのが愉しみ!2012/08/27
-
-
美しい、心に染み通る良い短編集だった。たまたま手にとってみたけれど、大正解だったな。一つ一つの表現が本当に綺麗。
なんだけど、たまに読みづらい箇所がポツポツあった。字数の問題かもしれない。「機尋」はもうちょっと長く読みたかった。柳のことももう少し知りたいし。
人と人ならざるものの心の交流六編。そして人は、人の世界に飽いている者ばかり。でも、人の世をまだかすかに信じている者も何人か。それが少し救い。
「鬼の笛」「真向きの龍」「機尋」は「何かを生み出すこと」を真摯に描いていてとても良い。
どれも好きだけど「ムジナ和尚」と「天つ姫」が特に好き。
ただ天つ姫で砂糖菓子がひょいと出てきたのが少しだけ気になった。何時代なのかな。牛若丸の後だから鎌倉室町? -
人とあやかしが混とんとしていた時代の、まさに御伽草紙。
『ムジナ和尚』は、『まんが日本昔はなし』にしてもいいようなお話。
ふと気づいたのだが、≪昔話≫は平安・室町を時代背景にしているものが多いように思った。
何故だろうと思っていると、京都出身の友人が言った。
「もののけは京(みやこ)にしかいないから」 -
まるで和綴じの説話を読んだような印象を受けた。一見地味な語りなので、人によってはいささか退屈してしまうかもしれないが、いずれも静かに寄せるさざ波の下で熱い願いがふつふつと泡立っているようで、個人的にはわりと好みの短編集だった。
-
妖怪と人間とは一緒にいるのが難しいんでしょうか。
-
人間のぬしには、俺の真実の姿など、見定めることはできまいよ-。いにしえの都に伝わるあやかしたちの6つの物語。
『わるい食べもの』に続いての千早茜san。
鬼、狐、天狗、龍、機尋(はたひろ)等といったあやかしから見た人間たち。お気に入りは、2話目の「ムジナ和尚」。人に化け、街に降りた古ムジナが、先輩?のイタチ男と、人間の「好き、故に」という感情や、「目から落ちる水」の意味が分からないと話すところが新鮮でした。
人になってしまった白狐、人間の屍を食べる獣たち、古ムジナの腕の中で息絶える娘、最後の涙。
人間は余裕があるから余計なことをするのではないのか。苛めとか、踊りとか、快楽とか。そこから好きとかという言葉が生まれてくるのだろう という感覚。そして、涙が零れた途端、古ムジナの胸にぽっと宿った「何か」。
この「何か」が、生きるものすべてに、一番大切なものなのではないかと感じました。6話すべてが妖しくて、美しくて、切ない物語。笛や琴の音の描写も素敵でした。