人魚の石 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
3.63
  • (4)
  • (6)
  • (7)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 81
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198945466

作品紹介・あらすじ

自称人魚のうお太郎が
私を“黒く”侵していく。

怪談小説の異端児が放つ奇想物語

小さい刻の愉しい記憶をもう一度味わうために、私は誰もいない寺に帰ってきた。
私が池で見つけたのは、真っ白な自称人魚の男『うお太郎』。人魚にも見えないが、人間とも思えない不思議な生物だった。
うお太郎は「この寺の周辺には奇妙な石が埋っており、私にはそれを見つける力がある。石には記憶を忘れさせたり、幽霊を閉じ込めたりする力が宿っている。早く見つけろ」と言うのだが……。
書評家熱賛!
怪談小説の異端児が放つ奇想物語が待望の文庫化。
(解説・杉江松恋)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 若い僧侶、人魚、不思議な石、天狗…
    怪奇譚のファンタジー要素しかないと思っていたけど、やられた…。
    殺人、妬み、取引、欲望、絶望…不思議な石に導かれた人々の黒い部分でできた物語。
    ミステリーというよりホラー。
    なれど、僧呂のユキオは頼りないし、人魚のうお太郎は雑で若者口調だし、天狗は横柄だしで、怪奇譚ファンタジーのようにさらりと進むホラー。

    祖父の残した寺で僧侶として生きて行く道を選んだユキオ。庭の池に沈んでいた人魚とのおかしな生活が始まる。
    石にまつわる一話一話のエピソードが読み進むうちに徐々に全貌を表してゆく。
    付箋回収しても謎の部分は多く、何かが終わったのではなく、これからも続く彼らの日常を思うと気になって、想像力を残されたようで読後感はすっきりしない。
    ただ、この迷宮は悪くない。
    今年の10冊目
    2020.4.9

  • うーむ、後味の悪さがなんとも。

  • 一瞬理解できず、理解すると気持ち悪い「何か」が差し込まれ、また投げ込まれる。この「何か」を最初から詳細に言わないことで怖さが増している。
    この手の人ならざる存在が登場する作品はややもすればアニメ調の、キャラクターがうるさいだけの駄作になる。文章を読み、頭の中で絵や映像に起こす――そんな小説の楽しみが損なわれぬような、文章のテンポやキャラクターの存在感のバランスが本書にはあった。

  • かつて祖父母と共に暮らした寺に住職として帰ってきた「私」。庭掃除のついでに池の水を抜くと、そこには真っ白な体をした〈人魚〉が眠っていた。「うお太郎」と名付けた人魚は「お前にはこの山に埋まる〈石〉を見つける能力があるはずだ」と言い、幽霊が封じられた石や嫌いな人間の最期が見える石など不思議な力を持つ石を見せる。心当たりがない「私」は困惑するが、ついには天狗まで現れて「石を探しだせ」と言ってきて……。


    西洋の鉱物幻想が硬質で建築的なイメージを持つのに比べて、中国や日本の鉱物幻想はどこか有機的で柔らかさすら感じるのはなぜだろう。どんなに石が巨大になろうと、手のひらで弄ぶことのできる玩具のようなぬくもりをうっすらと感じるような気がする。この小説に出てくるさまざまな石たちも魔力を人に使役されるものとしては西洋ファンタジー的と言えるが、眼球に溶けこんだり卵を産んだりという〈肉〉と同質化する性質を持つのはアジア的なものではないかと思う。
    うお太郎によると祖父は石の力を使って寺の仕事を捌いていたというが「私」は全く記憶にない。そこでうお太郎が石の効力をいろいろと教えてくれるのだが、兄の死を先取りして体験させられたり幼少期に見たおぞましい光景を思い出させられたりするわりにぼんやりしている「私」の語り口がくせ者。こういう"見えすぎて鈍い人"とそのせいで集まってくる怪しの物たちというキャラクター造形、少女文化でよく見るものだ。今市子の『百鬼夜行抄』はもちろん、長野まゆみの『左近の桜』シリーズなども連想させる、実は常に夢とうつつの境を歩いている人の目線で書かれた〈奇妙な日常〉系ホラー。本書を漫画化するなら絵柄は漆原友紀がいいなぁ。
    などと考えながら読み進めると、うお太郎が〈姉〉の所在を思い出したところから急展開。人魚の木乃伊となってよその寺に収蔵されていた〈姉〉といっしょにうお太郎は失踪、天狗に言われて琵琶湖に向かった「私」はヤグロと名乗る別の人魚に協力してもらいながらうお太郎を探す。再会したうお太郎に祖母が遺した日記を読むように言われ、そこで「私」はついに祖父母と山と石の秘密を知ることになる。
    この怒涛の真相パートで一番面白かったのは、人魚といえば誘惑者と相場が決まっているのにも関わらず、はじめにでてくるのがうお太郎なせいでその認識をここまで忘れさせられていたこと。そのおかげで古典的な破滅の物語もこれだけ面白くなる。冒頭で徳じいが話している、弁当屋さんに移住を決めさせてしまった女も人魚なんじゃ?なんて疑うのも楽しい。(中盤まで徳じいが献身的すぎて怪しかったんだけど、やっぱり石で記憶を全部消されてるのかな?とはいえ石の恩恵もそれなりに受けた人だろう)
    そんなこんなで「私」の幼い頃の思い出は無に還り、祖父母のイメージも変貌してしまうのだけど、それを受け止めるうお太郎は案外カラッとしていて(境遇としてはうお太郎のほうがよっぽど気の毒)、ヤグロさんを含めた三人は不思議と晴れやかな気分で琵琶湖に落ちる夕日を眺める……と、ここで終わりと見せかけてからのオチの切れ味。というか、うお太郎・天狗・ヤグロさんが「私」の元に集まってくる構図に「BLだなぁ」と思っていたら、最後の最後ダメ押しで「やっぱり長命者が人間に異常執着する暗黒BLじゃん!!!」と確信させてもらい小躍りした。映画『ダークシャドウ』のオチを思い出してちょっと笑っちゃったけど。最終的に天狗の石があそこに納められたってことは天狗の狙いも祖父にありそうで、この世代の話が読みたいじゃん!となりました。よろしくお願いします。

  • これはステキな一冊。円城塔さんのパートナーの方なんですね。

    うお太郎と名付けてしまった人形との、不思議なお話。
    いろんな力を持った石、天狗、木乃伊の姉さんなど。
    うお太郎の女装には少し興味ありかな?

    図書館本。いずれは購入したい。

  • かつて預けられていた祖父母の山寺に戻ってきたユキオ。祖父の死後、跡を継ぐために彼はこの山奥の寺に戻ってきた。まずは掃除をしようと池の水全部抜きました、ら、そこから現れたのは自称人魚の怪しい男。真っ白で全裸で髪はないけどまつ毛は長い。ユキオは彼を「うお太郎」と名付け、奇妙な同居生活が始まる。亡くなった祖父母もこのうお太郎の存在は知っており、さらに祖父母は代々この辺りでとれる奇妙な石を収拾していたという。ユキオはさまざまな石にまつわるトラブルに巻き込まれ・・・。

    人魚ものが大好物なのでタイトルだけで思わず購入。タイトルや表紙の感じから、もっとおどろおどろしい民俗学系怪奇譚、もちろんシリアスな、と期待していたのだけど、いざ読み始めて感じる違和感。あれ、なんか随分ライトですね?

    突如池の中から現れた男性型二足歩行の人魚には「うお太郎」というひょうきんめの名前がつけられ、話し言葉も現代っ子の普通の標準語。ユキオくん(だいぶ後で年齢わかるが24歳)という新米住職と、外出するときは女装する変な人魚男が、身の回りの怪しい事件を解決する、凸凹バディものみたいなノリ。それでいて唐突に挿入される過去の猟奇事件の猟奇っぷりは無駄にグロく、これもやっぱり現代的。うーん。面白くないわけではないけどちょっと肩透かし。

    あと山寺の場所は京都と大阪の間あたりらしいですが、登場人物全員標準語。この手の民俗学系怪奇ものは方言使うことで雰囲気が全然変わってくると思うんだけどな。いや無論、作者が得意でもない方言を無理やり使って書いたところで不自然になるくらいなら標準語のほうが良いのかもしれないけど、じゃあもう琵琶湖とか宇治とか具体的な地名を出さなければいいのに。

    石のありかがわかる能力を持った一族や、いろんな効力のある石という設定は面白かったと思う。1話完結のオムニバス風のライトノベルならそれはそれで。ただ終盤唐突に祖父の残した日記が出てきて・・・という真相解明のしかたはやや雑に思えたし、どうも今ひとついろんなことがスッキリしない。ラストのオチも、捻ってあるようで実は安易なようにも思う。「若い青年」などの表記もちょいちょい気になった。いっそもっとライトなパッケージで若い子むけの作品として売り出したほうが受けそうですね。自分にはちょっと合わなかったです。

    ※目次
    幽霊の石/記憶の石/生魚の石/天狗の石/目玉の石/祖母の石/未来の石/夢の終わり/人魚の石

  • 毎日一話ずつ眠る前に読みました。
    ホラーではあるけれど、さらっと風が吹き抜けるような読み心地。

    一番人間臭いのは、天狗かも!?

    自分の記憶が自分のものではないと知るってどんな気持ち?
    うお太郎の口調にだんだん似てきてしまう。

    最後近く、うお太郎が
    「分かってないよ。寺だけじゃなく、あんたの頭や心まで壊れる必要なんてないからね」と言った言葉にほろっときてしまった。

    最後の最後、人魚はやはり禍を呼ぶ。

  • 祖父母の山寺を継いで引っ越してきたユキオ。

    寺の庭にある池の水を抜いたら、そこにいたのは白い人魚の男だった。

    ユキオと人魚のうお太郎の奇妙な共同生活。

    山で祖父が採掘していた不思議な力を持つ石のこと。
    幽霊を閉じ込めた石、命を引き換えに土砂崩れからユキオを助けてくれた魚の石
    天狗との駆け引き、ミイラになった姉を助けると言って瀕死の状態で戻ってきたうお太郎。

    自分自身を見失いそうになり、琵琶湖に住むうお太郎を追って、寺で起きていた本当の出来事を知ることになる。

    人魚は禍を呼ぶと警告されながらも、
    うお太郎と一緒にいることをユキオはやめることはなかった。

    祖父が残した日記を発見し、
    祖母が石に封じ込めた記憶を垣間見ることで
    幼少期の寺で過ごした楽しい思い出が、本当は残酷な記憶でいっぱいだったこと。

    怪奇的で妖怪じみた、人の理からかけ離れているそれら。
    もっとホラーかなと思ったけど、
    大丈夫だった。私でも。怖いけどねー。

    石の力を求めてやってきた女の人魚と関係を持ってしまった祖父。
    それを嫉妬して人魚を殺した祖母。
    人魚と人間の間に生まれたうお太郎。
    次々と起こる殺人事件と、隠蔽するために使われた石。

    最後、やっぱり人魚は禍を呼ぶのね、、、、

  • うお太郎は「この寺の周辺には奇妙な石が埋まっており、私にはそれを見つける力がある。石には記憶を忘れさせたり、幽霊を閉じ込めたりする力が宿っている。早く見つけろ」と言うのだが…。(e-honより)

  • 面白かったです。
    不思議で、ひんやりしてるのに生々しさがありました。
    主人公がぼんやりしすぎてる、と思いましたが、彼の記憶が彼自身のものではないということを考えるとそうなのかな…って思います。
    人魚、今まで物語で読んできたそれとはかなり違ってるような生物でしたが、うお太郎もヤグロも確かに人外の冷たさがあります。永く生きてそうなヤグロの方が闇が深そう。元人間だったらしい天狗の方がちょっとだけわかりやすい気がします。
    人ではないものの近くにいると、どうしても影響されておかしくなるのかな。石も不思議だし、薄っすら怖い。
    田辺青蛙さんの本初めて読みましたが好みの世界でした。

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家。『関西怪談』『大阪怪談』『魂追い』『あめだま』など著作多数。

「2023年 『関西の怖い街』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田辺青蛙の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×