- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784255006956
作品紹介・あらすじ
歌う動物、言葉をもったヒト。媚びを売るメス鳥?言葉をまねるゾウ?小鳥も赤ちゃんも、「文法の種」をもっている。高校生と考える、コミュニケーションの起源とこれから。
感想・レビュー・書評
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東京大学教授で動物行動学や言語起源論を専門とされている岡ノ谷一夫先生が、16名の高校生に講義をした心やコミュニケーションのお話をまとめた1冊。
4日間の講義では、動物の話から心や感情の話、そして他者とのつながりについての話へと、幅広く進んでいきます。
入門書なのだと思いますが、かなり踏み込んだ内容や現在岡ノ谷先生が考え中のことまで話題にのぼっていて、読みごたえがありました。
他者がいるから、自分は他者の心を予想するようになる。
そしてその流れで自分にも心があるのだと考えるようになる。
つまり、他者が心の起源である、という説にぐいぐい引き込まれました。
また、自分の心が意識されると自分とのつながりも生まれてきます。
人間が「一人になりたい」と思うことは、生物学的には心の中の自分と語り合う時間がほしいということなのですね。
高校生たちの質問が鋭くてびっくりしました。
身近な動物の様子や自分が本で読んだことを踏まえた発言が飛び交っていて、活発な授業だった様子がうかがえました。
それに答える岡ノ谷先生がまたすてきです。
教えるという立場よりも、一緒に語らっているような雰囲気で、自分が高校生だったらその場にいたかったなぁと、ちょっとうらやましい気持ちになりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『日本語を作ってきた僕たちの文化は、もともと、個人を主張するよりも全体としての輪を重んじることが、すべての土台になっていたのだ』
という言葉からはじまるのだけれど、これが今わたしがいちば興味を引いてることで、最近の国際情勢の各国のリーダーの姿と、彼らを担ぎだす各国の“国民性”と“時代性”の存在とそのルーツ。だったことにはビックリした。
実はこの本はこの始まりのこの投げかけに対してはちょっと逸れて、この本のタイトルに向けた深い問いをどんどん読者に投げかけるように進んでいくのだ。
形式は池谷裕二教授の課外授業同様、実際の高校生との特別授業をもとに編集された本の体裁。(わたしの夢であるNHKの「ようこそ先輩」がイメージされる)
もう、一気に岡ノ谷一夫教授のファンになってしまいました。
何故だろう。世の中には私にダイレクトに利益をもたらしてくれる人も、楽しさを伝えてくれる人もたくさんいるのに、ただ淡々と私の眺めている世の中のカタチを少しズラしてくれたり、張り巡らさせているパズルのピースのひとつを変えてくれる人に惹かれてしまうのは。
これが、この手の本を読んだときに漂う余韻であり、これを追求してみようと思わせてくれる新たな課題になった。
でも、これではあまりに個人的なことにとどまってしまうので、もう少しこの本を読んでもらう人を増やすために、幾つか具体的な強い印象となったことを箇条書きにします。
○ 【科学は、「仮説」と「現実」をくらべていく作業】
○ 【進化生物学における「コミュニケーション」とは、送り手から受け手へ測定可能な信号が発され、受け手の反応によって、結果的には送り手がなんらかの利益を得ること】
★【未来をつくっているものは何?】
ある時点でN+1を新たなNとして利用できるようになると、どんな足し算でも掛け算でもできるようになる。これができるようになることを、再帰的な演算能力といいます。
再帰的な演算ができると、今日の次の明日が、新しい今日になるとわかる。その結果、明日がどこまでも続くことがわかり、その明日には「自分が存在しない明日」もあることがわかります。こうして死が発見されるのです。
まだまだ、あるけど、やはり授業風景を想像しながら、まとまった塊としての言葉を味わって欲しいからこのくらいにしておきます。
是非読んでね。高校生にはまだ着眼点に曇りがないこともよく伝わってくる良書。 -
面白かった!議論が整理されていてそのレベルでは疑問を最低限に抑えられるのでよい
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コミュニケーションの定義は「送り手から受け手へ信号の伝達がなされ、受け手の反応によって、長期的には送り手が利益を得るような相互作用」だそうです。と言うことは、求愛ダンスを踊る二羽の雄のうち、選ばれなかった雄はそもそもコミュニケーションをとっていないと言える......?それを人間に置き換えると......?と怖い考えを得てしまいました。未来的に利益を得れば別なのでしょうがとにかく怖い話です。
少し主張が分かりづらい印象もありましたが、言葉・コミュニケーションを深掘りして考えていける本でした。 -
「小川洋子のつくり方」で触れられていて興味を持ち読んでみた。
高校生向けの講義を本にまとめたもので、平易な言葉で分かりやすく説明されている……のは重々承知の上で、自分自身の知識不足や理解不足のために難しく感じるところも多々あった。
でもコミュニケーションとは?心とは?と普段考えない分野のことについて思いを巡らせるのはなかなか楽しかった。 -
コミュニケーションの不思議
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「私たちはどこから来て、どこへ行くのか」関連本。高校生16名への特別講義まとめ。
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初心者向けと言いながら、最新の研究成果がたっぷり詰め込まれてている。一番面白いと感じたのは「心の他者起源説」。
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研究者は自分の不得手な事をテーマにする、とよく言われる。著者の不得手な物は他者とのコミュニケーション。
わたしも、仕事は自分の不得手な物を選んだので似ているな〜と共感したのが掴みでした。
明確な正解はない。厳密に言えば科学には「これが正しい」という事はできない。科学の先端とはそういうもの。仮説をたて、それを現実や実験と比べ、信じられるかを確認していく作業。
ティンバーゲンの4つの質問
メカニズム、発達が至近要因。「いかに〜か?」機能と進化が究極要因。「なぜ〜か?」
クジラは歌う 音を学べるのはクジラ、鳥、人間のみ
発声には呼吸を制御する事が大切。息を吐くときに、空気の通り道にある声帯を振動させて音を作り、振動で出てきた音を、口の開け方によって変化させ、色んな音を出している。呼吸と喋りのタイミングを工夫している。
発声学習しない動物は皆、自分で息を止めることはできない。
人間の赤ん坊はお母さんに置いていかれないように構ってもらう為に泣く。毛がないので母親に掴まれない。泣く事で親を制御できる。母親が子を抱くのは霊長類の中でもニホンザル、チンパンジー、人間のみ。
大脳基底核→行動の分節化、音の流れを切り取る時に関わっている。吃音にも関連。
簡単に納得しなくていい。疑問を持ち続け、問い続ける事で探求が続く。
メタ認知→自分の行動や思考を客観的に把握できていること。
人間のコミュニケーションは言語と感情の2つの要素から成り立っている。 -
一応 進化生態学が専門だったので本屋で見かけて思わず手にとった書籍。高校生を相手にした短期集中講座の書籍化、とのこと。
生物のもつ様々な特徴について、至近要因から究極要因にいたる4つの質問に答えなければいけない、といういわゆるティンバーゲンの4つの質問のことが最初の方に書かれていて。。。
私も、後に自分の指導教官になる大崎先生に まだ研究室配属前の 3回生のときの「行動生態学」の講義で、これについて教えていただいたことを懐かしく思い出すなど。
高校生相手(すなわち一般向け)で、しかも講義書き起こしでそんなに分量も多くないこの本に、よくここまで多彩な話を詰め込んだな、という印象で、たいへんよい本だと思います。