危機の地政学 感染爆発、気候変動、テクノロジーの脅威

  • 日経BP 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784296113941

作品紹介・あらすじ

現在、我々は3つの世界危機に直面している。
 1つはパンデミックだ。世界は今も、新型コロナウイルスの経済的、政治的、社会的影響を払拭できずにいるばかりか、今後も危険なウイルスが世界を苦しめるのは間違いない。
 2つ目は気候変動で、何十億人もの人々の暮らしを一変させ、地球上の生命の持続性を脅かすだろう。
 3つ目は破壊的な新技術なのだが、これが、我々人類の未来に最も暗い影を落とし、我々の生き方、考え方、他人とのかかわり方を変え、それが思わぬ悪影響を人類におよぼし、未来を決めるだろう。
 分断が進むこの世界で、人類は果たしてこの危機を乗り越えられるのか……。

 だが、希望はある。
 歴史を見ても、人類の存亡に関わる危機、世界的な戦乱が起こりかねない断絶が起こると、それを避けるために協調の動きが起こる。逆説的だが、分断を乗り越えるために「危機の力」が必要なのである。

 地政学の第1人者である著者が、危機の背景とそれによって生じる地政学リスクをていねいに解説する。
 世界に対しての「警告の書」であると同時に、人類の新たな秩序に期待する「希望の書」でもある。

*解説は、ボストン コンサルティング グループ元日本代表の御立尚資氏

感想・レビュー・書評

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  • 安定して知的刺激を与えてくれる良書。斬新さは無いがポイントを押さえており、社会課題の復習にも有効。次の10年では、米中対立、気候変動、人間の生活を変える技術が問題になるだろう。より、深刻化していくという警鐘だ。

    アメリカの分断の話。中国に対抗する政策でも、アメリカの左派と右派の意見が一致しなくなっている。もはや、富裕国では大卒資格がなく製造業で働く人は、中産階級の生活に手が届かない。不平等は拡大する一方だ。どの国もグローバリゼーションがもたらした歴史的恩恵から排除された人々があまりに多く、結果的に世界各地で一般市民が暴動を起こし、それにつけこんでポピュリズム派の政治家たちが台頭している。

    アメリカでは1979年から2016年にかけて、所得分布の上位1%の平均所得が226%上昇する一方で労働者階級と中産階級の所得は横ばい。上位10%がアメリカの富の70%以上、上位1%の資産総額は下位50%の資産総額が上回っている。

    製造業やサービス業の仕事が低所得国へアウトソースされたため賃金が低下した。労働組合による団体交渉が機能していない。教育費が高騰し、高等教育に手が届かなくなっている。にもかかわらず高収入には大卒のステータスが必要。生まれた時から、ツンでいる。世界中、そんな感じだ。新たな奴隷の構図。構造的利権は、結局奴隷を生み、その支配者が構図を壊さない。

    更に酷い話。2010年の最高裁の判決で企業や外部団体が選挙に無制限に資金を注ぎ込めるようになり、以来10年間で選挙に流れる金額は加速度的に増えている。2020年の大統領選では2016年の政治献金から2倍以上に膨れ上がった。その資金の出所の多くは富裕な個人や企業で、彼らはその見返りを政治家たちに期待。つまり国全体に犠牲を強いてでも、自分たちの利益を優先して欲しいのだ。

    金持ちが政策を操作し、自らの子孫を再生産。高等教育を受けられない下々のポジションを固定して、支配者階級で居続ける。

    対して中国。アメリカは一隻に80機の戦闘機を搭載できる原子力空母を11隻保有している。今もなお世界各地に通常戦力を投じることができる唯一の国。一方、中国は空母を2隻保有するだけでアメリカに比べれば、はるかに小さい。またアメリカは世界40カ国に軍事基地を構えているが中国のほうはわずか3カ国。人民解放軍の活動範囲は、ほぼ東アジアと東南アジアに限られている。アメリカやロシアに対抗できるほど大規模な核兵器の開発はされていない。

    世界金融危機の震源地はアメリカ。アメリカが融資をきちんと規制しなかったために、世界各国の金融機関を巻き込んだ連鎖反応が起こり世界経済に大損害を与えた。新型コロナウィルスでは中国が震源地。

    二つの震源地。それらが持つ内部事情、課題。格差問題は日本でも危うい。社会主義は正義か。それは分からぬが、強欲は間違いなく正義ではない。

  • 米中対立、気候変動など様々な論点から世界のリスクを整理して俯瞰できる。

    アメリが最大のリスクであることを再認識した。今年の大統領の前に読んでおくとよいかもしれない。

  • 日々断続的に情報収集していたこれから起こる、あるいは既に起きている危機について纏めた本。
    米中の対立は不可避だが、協調の大切さも説いている。

  • 2022I196 319/B
    配架書架:C2

  • ー 第1章で、2つの衝突の道について詳しく説明した。一つは、アメリカ国内の共和党支持勢力と民主党支持勢力との争いで、世界唯一の超大国であるアメリカの政治生命と民主主義の高潔な精神にひどいダメージを与えている。もう一つは、既に大国として君臨しているアメリカと、新たに台頭してきた中国との対立だ。この2つのリスクによって、他の大国の政府や国際機関が、我々を待ち受ける真の課題に取り組まなくなると、それがさらに大きなリスクになってしまう。

    我々はみな衝突の道を進んでいる。再び公衆衛生危機が世界を襲うことは必至で、気候変動もあり、破壊的な新技術が猛威を振るって、我々の生活や社会を不安にするかもしれない。これらは世界共通の未来へのリスクなのだ。自国内で、あるいは紛争地域で、あらゆる時間、意見、エネルギー、財源が争いのために無駄に費やされている。このような地球規模の脅威が、私たちの手に負えないほど大きくなったとき、私たちはともに苦しむことになるのだ。

    アメリカの毒された政治が民主主義を破壊するとは思わない。 実際にアメリカの政治制度が汚されるかもしれない脅威はあるが、アメリカはこれまでにも大きな衝撃を吸収してきている。 有害なパートナーシップがアメリカ社会にもたらすダメージを過小評価しているわけではないが、民主主義が本当に脅かされたとき、アメリカは民主主義を守ろうとし、議会も文化的偏見より法律を重視すると、私は今も信じている。同様に、米中が台湾などをめぐって戦争を起こすとは思わない。そのような壊滅的衝突を起こせば、両国が失うものはあまりにも大きい。また、アメリカ政府も中国政府も、他の国々の政府が米中のいずれかに追従し、ともに不幸への道を歩むはずだなどと期待すべきではない。

    しかし….…私が本書を執筆したのは、アメリカ国内の共和党と民主党や、米中の首脳が、互いの紛争の準備にかまけて、真の「嵐」に備える作業を怠るのではないかと懸念しているからだ。 将来の危機に備えるには協力が必要だ。 何が最重要なのかを勘違いしてしまうと、協力できなくなってしまう。 ー

    米国内の動向や米中対立とそれに関連する動向、加えてロシアの動向が重なり、危機的な時代が議論されているが、彼の主張は、それも大きな課題だが「真の課題はそこじゃねぇ!」と言うもの。

    まぁ、誰でも知っていることだけれど、感染爆発、気候変動、テクノロジーの脅威、これらの課題を世界規模で一致団結して取り組まないと世界が取り返しのつかない状況に進んでしまうのに、米国内の分断とか米中のデカップリングとかロシアのウクライナの侵略とかでヒヤヒヤしていてはいけませんよね?
    と言う主張。

    危機はチャンスと言うけれども、取り返しがつかなくなる手前で危機に気が付き、大国が対処を行えるのか、それこそが一番重要で課題、今回失敗したら次は来ないよ、と言う警告。

    失敗したらジ・エンド。これが最後のチャンスDeath。みたいな事を分かりやすく解説している作品。

    まぁ〜、考える頭があればそれは分かる話だし、大国のリーダーは考える頭があるからこそリーダーをやっているはずなのに、それが実現しないのはいったいぜんたい何ででしたっけ?何で本質的に正しいであろうことが、世界のリーダーが実現できないんでしたっけ?それが問題。それが出来ない構造が問題。リーダーはバカじゃない。じゃぁ、なんで正しい事が実現されないのか?
    それこそが本質的に問う事だと思う。

    民主主義、資本主義の限界とか、独裁制、共産主義の限界とか、まぁ、そうなんだけどさ、そうは言ってもやるべき事って決まってるじゃん?イデオロギーはさておき、目の前の危機に対して、何で正しい事が出来ないんでしたっけね?って話よ。

  •  米国内及び米中の対立、パンデミック、テクノロジーという各危機の解説と共に、協調の必要性を説く。世界データ機関の創設をはじめ現実的可能性に疑問も感じるものもある。ただし著者自身も過去の国際機関の失敗を挙げるなど困難は認識しているが、なお冷笑的になるべきではないとのスタンス。

  • 2022年12月号

  • 人類共通の危機(パンデミック・気候変動・テクノロジーの脅威)を利用して国際協調の枠組みを構築できる。そのための投資とプランが綴られた内容だが、前著のような驚きと発見がない。危機の価値を再認識するというパラダイムの変換はなるほどと思わせるが、全体のトーンや結論がやや楽観的過ぎるように感じるのは、私が悲観的な人間だからか。

  • 筆者の深刻なリスク認識が伝わってきて、人類はもう滅びる直前なのではないかと思わせられる。

    米ソ冷戦と違って、米中は互いに大きく依存しているため、どちらか一方だけが生き残るという解決策はあり得ない。そのため、共存を前提に共通の深刻課題に対しては、少なくとも協調する姿勢が大事だという。
    また、米国は世界各国に軍事拠点を持ち圧倒的軍事力を誇っているが、今後の戦争の勝敗を決するのは、サイバー攻撃や経済制裁となるため、軍事的な優位性は下がっているという。このサイバー兵器を巡る脅威から、第三次世界大戦が起きる可能性もあり、今は第二次世界大戦前夜の1930年代よりも危険な状態とのこと。


    歴史を振り返っても、民主主義国家は最善の政治体制だと思うが、「待ったなし」の課題・リスクへの対応や新たな覇権争いに勝ち抜くには、民主主義は不利なのではないかとも思った。AIをはじめとする破壊的テクノロジーを発展させるには、人権や倫理に配慮しない方が早いだろうし、経済制裁によって生活用品の価格高騰がおきても、民意を気にしない権威主義の方が耐性がありそうだ。

  • 東2法経図・6F開架:304A/B72k//K

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著者プロフィール

ユーラシア・グループのプレジデント及び創業者。
スタンフォード大学にて博士号(旧ソ連研究)、フーバー研究所ナショナル・フェロー。コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所を経て、ニューヨーク大学教授。現在はコロンビア大学国際公共政策大学院にて教鞭を執る。1998年、地政学リスク・コンサルティング会社、ユーラシア・グループをニューヨークに設立。毎年発表される「世界10大リスク」でも定評がある。 主な著書に『「Gゼロ」後の世界』『対立の世紀』がある。

「2022年 『危機の地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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