- Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309025971
感想・レビュー・書評
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時空を超えて存在する「銀河通信社」の日曜版に〈賢治さんの百話〉という記事が連載されており、そこからの抜粋という形をとっている。
銀河通信社では「故人の意識をとらえる通信システム」を擁しており、賢治さんにゆかりのある、あるいは賢治さんの作品世界の中に住む人たちにお話を伺うという形で、取材を行ったのが〈賢治さんの百話〉である。
その中で、作品・心象スケッチが書かれた背景などを探る。
賢治の時代の東北地方の歴史、また、彼が予言した未来…つまり戦後や現代の事情なども合わせて描かれる。
賢治さんというのは、宮沢賢治のこと。
長野まゆみ氏の、賢治に対する愛情と、考察と薀蓄、深い理解と妄想にあふれた本作である。
なんだかよく分らないところも多いのが、賢治作品と似ているような。
とにかく素晴らしい労作だ。
趣味で賢治の研究をしていたという文学者の北原百秋(“白秋”ではない)氏、乗り鉄で有名、小説家の内田白閒(“百閒”ではない)氏には賢治と鉄道の話なども伺う。
なお、多くの記事の聞き手となった、銀河通信社速記取材班の児手川清治氏は、現在の河出書房新社の前身である成美堂にお勤めだったということだ。
故人である。
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賢治作品、童話は読んでいるが、詩集は少し敷居が高く、未読だ。
でもこんな風に紹介されると、美しい言葉で編まれているのだな、と思う。
がんばって読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『光は粒、そして波……』好きな歌の歌詞に出てくる言葉です。この響きが素敵で、つい口ずさんでしまいます。とてもロマンティックな響きだと思うんです。科学と歌や詩、絵画のような芸術には見えない絆があるんだと。
そんなときに、ある人物を語る上でこの言葉に出会いました。
その名は宮沢賢治。
彼は電波にとても興味を持っていました。賢治の時代にはアインシュタインの仮説をふまえて「光は粒子である」との方向へ傾きつつありました。それでも彼は「光は粒子であり、波である」ということを心象でとらえていました。賢治にとってことばの一文字を粒子とするなら、その集合系である詩は波だったようです。『春と修羅』の詩の一部には視覚的な波がつくりだされていました。
また画家ゴッホも光に対する感受性は飛び抜けており波打つ糸杉もうずまく日輪も絵の具という粒子によって描いた光の波のようです。
この2人には何だか交差する運命のようなものを感じてとても興味深いです。
賢治ゆかりのひとびとが語ってくれるのは、彼の描く世界を形作ったものたちについて。今宵銀河の果てから届いてきますよ。 -
宮沢賢治の周りの人物などにインタビューをして書いた(という体の)お話。よう書いたわ。
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宮沢賢治ゆかりの人物へのインタビュー記事の連載という設定が楽しい。出版元の河出書房新社をめぐるエピソードといい、読み進めていくとフィクションとノンフィクションの境目がわからなくなる感じ。
残念なのは、私に宮沢賢治についての知識が乏しかったこと。人と作品に詳しい人なら、もっと楽しめたはず。