- Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309201818
作品紹介・あらすじ
ヨーロッパを体現した唯一の王朝が最後の輝きを見せた時代の隠れた歴史。-皇帝、貴族、芸術家の実像、そしてウィーンの市井の人びとの生態を巧みに描いたハプスブルク王朝下の生きた文化史。
感想・レビュー・書評
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2/3くらいまで。
ハプスブルク家限定ではなく、王朝時代のウィーンこぼれ話の趣。それなりに興味深くはあるが、なんといっても「日本語訳発行に寄せて」の前書きの時点で1991年。「日本人の方は我が町ウィーンでたくさんお見かけする」の一文も哀しい、まさに過ぎ去りし「古き良き時代」である。
本文も、そして――これが意外にきついのだが――訳文も古色蒼然としており、これ以降に発行された類書をたくさん読んでいる向きは、改めて手を伸ばすまでもないと思った。
2018/12/7~詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
西洋王族家系は、ちょっと思いだしただけでメディチ、ボルジア、バイエルン、ヨーク、ランカスター、ウィンザー、ブルボンなど数々あれど、どうも、私はハプスブルク贔屓のようで、ハプルブルク関連の本を見つけると喜んでしまう。
ハプスブルク王家が終焉を迎えんとする最後の華やぎや時代の終わりを予感する退廃的なムードにも惹かれるのだ。
もちろん、オーストリア世紀末芸術にもとても惹かれているのだが、、、
さて、著者、ゲオルク・マルクスはウィーン在住のジャーナリストで、ハプスブルク事実上最後の皇帝のフランツ・ヨーゼフ研究の第一人者。
彼の著作は以前にも読んだことがあり、それは『うたかたの恋と墓泥棒』という本でしたが、「実は、マリー・ヴェッツェラの骨を持っているんです」という人物が現れる興味深いものだ。
マリー・ヴェッツェラとは、フランツ・ヨーゼフ皇帝とエリザベト妃との間に生れた長男のルードルフ皇太子がマイヤーリングで心中した相手で、その遺骨を持ってるという実際にあった事件を描きつつ、マイヤーリングの夜にふたたびスポットをあててゆくというスリリングな内容の本だった。
本書の『ハプスブルク夜話』は、著者がウィーンの日刊紙「クローネ・ツァイトゥング」に書いたコラムをまとめたもので、『うたかたの恋と墓泥棒』の5年前に刊行されている。
訳者の江村洋さんは、日本のハプスブルク研究の第一人者であり、著書も訳書もとても読み易い。
アンナ・ナホフスキーという女性について詳しく書かれていたことに興味を持った。
ヨーゼフ帝がエリザベト妃を愛していたことはよく知られているが、妃はいつも何處へという状態だったから、少々浮名も流したらしく宮廷女優のカタリーナ・シュラットの仲などは知っていたが、この女性についての詳しいことは知らなかった。
ウィーンの町娘だったアンナはシェーンブルン宮殿の庭園で皇帝と運命的な出会いをする。
三十歳年下のこの女性は4人の子供を出産しているが、ヘレーネとヨーゼフは皇帝の子らしいということである。
ヘレーネは声楽を学び作曲家のアルバン・ベルクと結婚した。
弟のヨーゼフの方は幼い頃から神経障害に苦しみ多年にわたって養護施設で過ごしたという。
ヨーゼフ帝生誕百年の当日、贖罪として左手小指を切斷し、皇帝の石棺に保管を委託した。
その後、精神病院に収容され、姉のヘレーネの介護も空しく亡くなったという。
アンナと皇帝の仲は十数年続いたが、マイヤーリング事件のあと、アンナは王宮事務局に呼ばれ、宮内庁長官から皇帝との仲を終りにし、これ以後はふたりの関係に関して他言しないという念書をとられて、多額の金銭を貰った。
アンナは71歳でウィーンで亡くなるが、生前に日記を娘のヘレーネに託し、ヘレーネはその日記を国立図書館に委託した。
ヘレーネは91歳で死去したが、自分の死後三年たったら母アンナの日記を公開してもよいと遺書を残して亡くなった。
出会いからともに過ごした年月を記しているその日記の信憑性は信じ難く思われる箇所があるとはいえ、ふたりの関係が事実であったことは間違いがなかったといえるらしい。
「彼はいとしげに私をじっと見つめ、息が詰まるほど私にキスをした。私は幸福の海に漂っていた」・・・(アンナ・ナホフスキー秘密の日記から) -
列伝風の構成で面白く読めた。ただ訳文が日本語としてこなれてないのが残念。